150 :空の王な俺:2011/02/02(水) 22:58:37.48 ID:1/wCSmO90

さていくか



尖塔型ネウロイ攻略作戦まで二日と迫ったある夜。
既に夏の盛りで、基地に海から吹き寄せる風は生ぬるく湿気を含み、その内部を潮の香りで満たした。

男は基地のバルコニーで、いつかのように手すりに腰掛けて空を見ていた。
この男は暇さえあれば空を見ている。故郷を思う旅人のように、あるいは、己の領地に目を光らせる領主のように。

そこへ一つの影が現れた。ウルスラである。寝巻きの上にシーツを羽織っている。

ウルスラ「こんばんは」

以前のようにいきなり勅視で撃たれぬよう、まず声を掛ける。

余「ああ。良い夜であるな。」

男は半身を捻って振り返り、応じた。
ウルスラは男の背後に歩み寄る。




151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:59:37.57 ID:LJMIwSiK0
余っさんキタ!!
152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:01:22.20 ID:C3Unj6fU0
トマト大王!!支援!!!
153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:01:36.27 ID:zf8UgT7DO
余っさんキター!
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:02:08.84 ID:0i74cF9D0
<●><●> ……

<-><->
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:15:32.59 ID:wK8N9SNz0
よっさん!!

よっさんじゃないか!!

155 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:02:13.47 ID:1/wCSmO90


ウルスラ「眠れない?」

余「いや。月を見ていただけだ。」

ウルスラ「月?」

余「いかにも。余は天空統べる王。空の全ては余の領域で、空にある全てが余の領有物だ。いつかはあれにも行ってみたいと思ってな。」

ウルスラ「……あなたは、不安じゃないの?」

余「さすがの余も月が遥か真空の彼方にあることくらい承知しておる。確かに今のままではかの地に至ることは叶わぬが――」

ウルスラ「そうじゃない。明後日のこと」



156 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:07:17.76 ID:1/wCSmO90

余「む?」

ウルスラ「高度33,000m超は気温-70度。空気も薄く、万一魔力が尽きれば一瞬で死に至る。いくらあなたでも……」

もし、彼が帰ってこなかったら。実のところ不安なのはウルスラの方だった。

余「だとてもきゃつを放っておくわけにもいくまい。それに案ずるな、その万一はない。」

ウルスラ「それは……」

余「きゃつは数日のうちにローマを滅ぼさんとしており、また余より高い空に座している。どちらかと言うと後者の方が気に入らぬ。」

ウルスラ「……」

ウルスラは男を注意深い目で観察した。完全に普段通りに見える。尊大で、自信過剰。余裕綽々。
不安など一切感じてはいないようだ。

自分の心配は杞憂だったのだろうか?
いや。男に自信があるなら、不安による恐慌から彼がそのポテンシャルを発揮できないということはないかも知れない。
しかしそれが必ずしも作戦の成功に繋がるわけではない。自信があろうと無かろうと、魔力が足りなくなれば終わりなのだ。

そうれでもウルスラは、その場でそれ以上言い募ることは止めた。言ったところで、男の不安を煽るだけだ。(この男がその程度で不安がるか、というと疑問ではあるが。)
今さら自分に出来ることはない。

本当に何もないだろうか。何かないだろうか。ウルスラは自問する。そんな彼女の表情を見て、男が思いついたように言った。

余「そんなに気になるなら、そなたも往くか?」


157 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:10:27.62 ID:1/wCSmO90

ウルスラ「え?」

余「『玉座』は本来は王のものだ。だがそなたはいずれ余の妃となる娘。余とともに座る資格は無いではない。」

ウルスラ「二人乗りをする、ということ?」

妃云々は一旦スルーして、ウルスラが問う。

余「いかにも。」

ウルスラ「私の体重分、あなたの負荷が増すだけ。推力が足りなくなる」

余「なればそなたの分の推力はそなたの魔力で補えば良い。重量の増加分はそれで相殺できよう。」

ウルスラ「私の魔力で……?どうやって?」


161 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:16:27.92 ID:1/wCSmO90

操縦者以外の魔力をストライカーに注ぐ、そうなるとそれはもはや操縦者が二人いるのに等しい。
ウルスラは先ほど男が言った「二人乗り」とは、あくまで男が操縦者であり、彼女はある意味で“荷物”として乗り込むものだと理解していた。どうやら違うらしい。

ウルスラは本来技術者であり、ストライカー開発にもそれなりの知識がある。その彼女が知る限り、複座のストライカーなどというものは存在しないはずだった。
ストライカーユニットの開発には通常戦闘機の設計思想を流用することがままあるので、そういった文脈で複座というアイディアが出ること自体は考えられる。
しかし少なくとも彼女は見たことも聞いたこともなかった。

あるいは、魔力を直接ストライカーに注ぐのではなく、一度操縦者の方に渡して、間接的に注ぐという意味だろうか?しかしそれこそどうやって?

魔力の受け渡し、からの連想で彼女はとある物語を思い出した。扶桑のニンジャ・ファイターとウィッチの物語である。
その中で、主人公のニンジャ・ファイターは彼の主君であり物語のヒロインであるウィッチから、粘膜を介した魔力供給を受けて戦っていた。
「粘膜を介した」、ありていに言えば、キスである。

そこまで思い出して、心臓が飛び跳ねる。
頬を染めながら、しかしジト目で男を睨みつけた。

こいつ、ドサクサに紛れて、なんてことを企んでいるのか。
私は真面目に心配しているのに。


162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:20:04.36 ID:MpCrV0aS0
ニンジャ・ファイターwwwww

163 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:21:05.67 ID:1/wCSmO90

余「な、なんだその軽蔑に満ちた目は……。何を考えたのかは知らぬが、余にやましい心など一点も無いぞ!」

ウルスラ「……」ジトー

余「ぬう。い、いいか、『玉座』はそなたらの……宮藤理論になる飛行脚とは根本的に異なる呪物だ。あれ自体が大型の呪符なのだ。
    ゆえに特別な装置なぞ無くとも、触れてさえいれば魔力を通わせることができる。ただ――」

ウルスラ「触れてさえいれば。複座の機として乗れるということ?」

余「いかにも。魔力の流動制御と操縦は余が行うがな。」

ウルスラ「それができるなら、そうする」

というかそれ以前に。

ウルスラ「何で今まで黙ってたの」

余「二人乗りできることをか。いや、わざわざ教えるほどのことでもないかと思ってな。」

ウルスラ「だろうと思った」ハァ

余「それだけではないが……いや、試さない理由にはならんか。まぁ、いい機会だな。」

ウルスラ「?」


164 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:25:39.11 ID:1/wCSmO90

次の日、つまり作戦前日の朝、ブリーフィングルームにて。
ウルスラはミーナに昨夜の会話についてかいつまんで説明し、加えて自分が追加の攻撃人員として男と共に出撃したい旨を伝える。
ミーナは嘆息した。

ミーナ「なんでそんな急なの……」

ウルスラ「申し訳ありません」

ミーナ「はぁ……。いいのよ、あなたに言ったんじゃないわ。どうせ……」

言いながら、チラリと横目で男を見る。

ミーナ「どうせ彼が『必要ないだろう』とか言って話してなかったんでしょ」

ウルスラがこくりと頷く。男の方はそ知らぬ顔で目を逸らした。

坂本「いいんじゃないか。もともと一人を運ぶだけなら人数は余ってるくらいだし、そもそも本来ならこういった作戦は複数機で実行するのが鉄則だ。
    万一のときのためにバックアップの人員が用意できるなら、それに越したことはない」

ミーナ「まぁ、ね。事前に分かっただけ良しとしましょうか。うちの隊員ったら何の断りもなく独断専行ばっかりだし」

ウルスラ「それなら」

ミーナ「ええ、許可します。彼をサポートしてあげて」

ウルスラ「了解」ビシッ


166 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:31:15.31 ID:1/wCSmO90

その後、急きょハンガーにて『玉座』の二人乗りをテストする運びとなった。『玉座』の上で、前にウルスラ、その後ろに密着して男が立つ。
安定のため、ウルスラは男に背中を預け、男の方はウルスラの腰を抱くような形になる。
エーリカがニヤニヤしながら言った。

エーリカ「エロいダンスみたいな体勢だな」

余「べ、別に余に邪まな思惑など――」

ウルスラ「必要だから。仕方ない」

余「う、うむ。」

男は勢い込んで弁解しようとしたが、ウルスラのごく合理的な説明に阻まれた。
望み通りであるはずなのに、少し肩を落としている風でもある。

その場の乙女たちは、冷ややかな視線を送るもの、赤面するもの、ニヤニヤするものと様々である。

そんな反応を振り切るように、男が力を込めた声を出す。

余「ええい、飛ぶぞ。ウルスラ、まずは余にまかせておけ。」

ウルスラが軽く頷くと同時に、『玉座』表面に刻み込まれた呪紋が輝きだす。ハンガー内の、オイル臭を含んだ空気が渦を巻く。

坂本「明日が本番だ。軽く馴らす程度で帰って来るんだぞ」

余「承知しておる!」

具風を巻いて、二人を乗せた『玉座』は飛び出していった。


168 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:35:37.30 ID:1/wCSmO90

ミーナ「大丈夫かしら」

シャーリー「あのままノイエ・カールスラントまでぶっ飛んで行きそうな勢いだったなー」ケラケラ

ルッキーニ「よっさん、顔がエトナ火山みたいになってたよ」

ペリーヌ「いい大人があのように鼻の下を伸ばして、みっともないですわ」

サーニャ「ウルスラさんの方は、いつも通りでしたね」

エーリカ「いーや、ウーシュも案外動揺してると見たね」

芳佳「そうなんですか?」

エーリカ「うん。あんな頬が赤くなったウーシュ、実験がうまくいってるとき以外に見たの久しぶりだ」ニヒヒ

バルクホルン「……赤くなってたか?」

芳佳「私には、ちょっと……分かりません」



169 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:41:27.67 ID:1/wCSmO90

基地上空。ハンガーから飛び出した『玉座』は、大迎角を取って急上昇、30秒もかけず高度4,000mに達する。
急激な加速と機動にウルスラは息もつけない。ストライカーと違い、体の正面方向からかかる大Gは初体験だ。頭が背後の男の胸板に押し付けられる。

ようやくそこで巡航に入り、ウルスラは一息ついた。

余「どうだ、感想は。」

男の得意げな声が頭の上から降ってくる。ウルスラは振り返って、ジト目で抗議の意図を示した。

余「はっはっは。なかなかのものだろう。」

男は気にも留めずに呵呵と笑った。ハンガーでの緊張ぶりが嘘のようだ。空での今の様子こそ本来の姿なのかも知れない、とウルスラは思った。

少し余裕ができたところで、ウルスラは辺りを見回してみた。雲量1~2。快晴だ。眼下にロマーニャの大地。その緑と空の青、そしてより深い海の青の対比が美しい。
次いで、実務的な確認に移る。そもそもこんなことをしているのはデートが目的ではない。
自分はこの“機体”の福操縦者として作戦に臨むのだ。とはいえ……

ウルスラ「私には、操縦はできそうにない」

余「だろうな。そなたらのストライカーとは全く別物だ。」

ウルスラ「作戦中は、私はシールドと生命維持に注力することにする」



170 :空の王な俺:2011/02/02(水) 23:45:47.02 ID:1/wCSmO90

余「良かろう。だが、魔力の伝達効率や安定化作用が『玉座』とストライカーでは異なるかも知れぬ。今のうちに軽く試しておけ。」

ウルスラ「もうやってる」

ウルスラの頭とお尻から、彼女の使い魔であるアナグマの耳と尻尾がそれぞれ顔を出す。魔力を展開している証である。

余「どうだ?」

ウルスラ「……。……あれ?」

ウルスラがいくら頑張っても、シールドが張れない。どころか身体強化さえ覚束ない。魔力が拡散してしまう!

ウルスラ「……」グググ

余「やはり難しいか。」

ウルスラ「まって、もう一回……」

余「無理はするな。『玉座』はそれ自体巨大な呪符だ。全体を満たすだけの魔力がなければ、魔法は発動せぬ。」

ウルスラ「そんな」

余「なに、気持ちだけで十分だ。」

男は鷹揚に笑って見せた。その笑顔がむしろ自分の助けを拒否しているように感じて、ウルスラは下を向く。



171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:49:14.28 ID:lFjucKTWP
さるったしこの後予約あるし、半端だがここまでにしとく
2600時くらいに空いてたら来るかも
じゃあの

175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:55:54.53 ID:nsK8q8n20
よっさんに死相が見えるぜ…乙!



219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:36:00.15 ID:x1w3/Y+50

ウルスラ「じゃあもう――」

落胆したウルスラが戻ろう、と言いかけたのを男が遮った。

余「まぁ待て。せっかくの機会だ。そなたに一つ見せたいものがあるのだ。」

ウルスラ「……?」

余「もう少し昇るぞ。」

『玉座』に刻まれた呪紋が輝く。魔力で励起したエーテルが放つ、青白い燐光の尾を引いて上昇していく。


221 :空の王な俺:2011/02/03(木) 01:39:49.64 ID:x1w3/Y+50

高度16,000m。男が安定して水平飛行できる限界高度であり、現用の―観測用気球などを除く―いわゆる飛行機や飛行脚の限界を遥かに越えた高度でもある。

空気密度の低下に伴う光の散乱の減少により、天蓋は紫紺に覆われ、どんな夜よりくっきりと星が見える。
ギラギラと輝く太陽とそれらが同時に見えるというのは、不思議な光景だった。
彼方に見える地平線や水平線は丸みを帯び、普段意識することのない世界の姿を想起させる。

ウルスラ「……すごい」

呟く言葉が遠い。空気が音を伝達できないほど薄いのだ。かなりの速度が出ているはずなのに、風切り音すら耳に届かない。痛いほどの静寂。
雲は遥か下方に点在するのが見えるくらいで、周囲には全く何もない。
まるで世界に自分達しか存在しないかのよう。

ウルスラは、知らず背後の男の服を後ろ手に握り込んでいる。飛ぶこと自体には慣れているはずのウルスラですら、根源的な畏怖を覚えずにいられない光景だった。
一人でこんな場所に居続けていたら、精神に異常をきたしそうだ。

余「王の視点だ。」

男の言葉が、はっきりとウルスラの耳朶を打つ。静かな喋り方であるのに、空気を震わせて伝わる音よりもむしろ明瞭に聞こえた。

余「一度見せておきたかった。ここに連れてきたのはそなたが初めてだ。」

ウルスラ「……」

ウルスラは何と言えばいいのか分からない。しかし男もそもそも返答を期待していないようで、それ以降は口を開かなかった。

男は数分 (もっと短かったかも知れないが、ウルスラにはよく分からなかった) その高度を維持した後、ゆっくりと旋回しながら降下、基地へ向けて針路をとった。



222 :空の王な俺:2011/02/03(木) 01:45:07.44 ID:x1w3/Y+50

次の日、作戦開始時刻。『STRIKE WITCHES』にウルスラと男を加えた13人が基地滑走路上に集合する。男がオストマンからやって来て以来久々の、全力出動である。
隊員たちは順次発進し、基地上空で緊密な編隊を組んでいく。

最後は男である。燐光の尾を引き、滑るように発信。編隊に下方から合流する。
編隊が二つにわれ、『玉座』を中心に迎え入れる。



余「ふむ。なかなか悪くない心地だぞこれは。」

男が満足そうに言う。目標地点に向け巡航に入る段階から、男は飛行魔法を停止し、代わりにウィッチ達に4人ずつ交代で『玉座』ごと担がれて運搬されていた。
攻撃班である男の魔力消耗を抑えるためである。
まるで中世の輿に乗せられて運ばれる貴人のような様子で、男としてはご満悦らしい。

余「そうは思わないかウルスラ」

ウルスラ「思わない」

余「そ、そうか」

ぴしゃり、と否定されてしょぼくれる男の様子に、場が和む。
男の一切気負わない様子に、周囲の方がむしろ安心させられていた。

ウルスラ「……」


224 :空の王な俺:2011/02/03(木) 01:48:18.84 ID:x1w3/Y+50

坂本「そろそろ突撃開始ポイントだ。突撃、準備しろ」

バルクホルン「頼んだぞ!」

ルッキーニ「ロマーニャをお願いだよ、よっさん」

余「任せよ。軽く一捻りにしてくれる。」


隊員たちの手を離れた『玉座』が加速していく。『玉座』だけで昇れる高度までは、ブースターは点火しない。

ウルスラはもしや男は振り返るのではないかと思ったが、男の背は一切そんな様子は見せず遠ざかっていく。
そのことに理不尽な怒りのようなものを感じながらも、ウルスラは何度目か分からぬ自問をする。

このまま行かせていいのだろうか。高度33,333m。生きて帰れる保証はない。
もし、これが最後の別れになるとしたら。考えただけで息が詰まる。胸が張り裂けそうに痛い。

かと言って、いまさらついていく術はない。ついていったところで、足手まといにしかなれない。
だが、だが。思考は堂々巡りし、その間にも男は上昇していく。もう届かない、いや、まだ今なら。焦燥感に気が狂いそうになる。

唐突に昨日のことが思い出された。高高度のあの圧倒的な孤独。ヒトが立ち入るべきでない世界。
彼は今から、あれを越える空に向かうのだ。

たった独りで。


226 :空の王な俺:2011/02/03(木) 01:53:59.25 ID:x1w3/Y+50

ウルスラ「……待って」

最初の声が出れば、次のそれは勝手に喉から迸った。

ウルスラ「お願い待って!一緒に行く!私も一緒に!」

これまでこんな大声は出したことがないかも知れない。
同時に彼女のストライカー、メッサーシャルフを限界まで噴かし、編隊を飛び出す。

エーリカ「ウーシュ!?」

ミーナ「ウルスラさん、何をしてるんです!」

呆気にとられていた周囲から、今さらながら制止の声が飛ぶ。無視して加速。先行する背中に腕を伸ばす。

ウルスラ「連れて行って……お願い!」

男が振り返った。驚いたように目を見開き、やがてその顔に笑みが浮かぶ。
上昇速度が緩み、ウルスラとの距離が縮まりはじめる。
しかしウルスラのストライカーにとっては高度がほとんど限界だ。咳き込むように煙を吐き、呪符は止まりかけ、ふらふらと失速しそうになる。


227 :空の王な俺:2011/02/03(木) 01:56:51.61 ID:x1w3/Y+50

男が『玉座』を立てて急減速、一気に迫ってくるのをウルスラは見た。
エーテルの波を捉えて滑る『玉座』は、ストライカーでは想像もできないような機動をする。
一瞬で速度をほとんど変えないまま運動の方向だけを変化させる横滑り、ウルスラの視界から消える。

直後に軽い衝撃。気がつくとウルスラのストライカーを男の左腕が、背中を右腕が支えていた。
右から掻っ攫うように横抱きにされたのである。

そうやって抱き寄せられてから、ウルスラは迷った。自分は何をしているのか。重石以外の何者でもない。
今からでも、置いていってもらうべきではないのか。

ウルスラ「あの……」

余「良い。何も言うな、愛い娘よ。共に往こうぞ、空の高みへ!」

男はその逡巡を察して言葉を遮り、次いでロケットブースターに点火する。
かつて感じたことのないGが、ウルスラを男の胸に押し付ける。彼女は思わず目を閉じた。
ブースター、『玉座』、男の体を通じて伝わる噴射音。
それに混じって、男の鼓動が感じられる。深く強い鼓動。ウルスラは「すべて大丈夫だ、安心しろ」と言われているような気がした。


228 :空の王な俺:2011/02/03(木) 02:01:12.44 ID:x1w3/Y+50

二人が上昇していくのを、残った乙女たちが見上げている。

ペリーヌ「む、むちゃくちゃですわ……」

シャーリー「どっちが?」

ペリーヌ「どっちもですわ!二人分の重量を抱えて上昇するなんて、どれだけ魔力が必要になるか!そしてそうと分かっておるはずなのについていこうとなさるなんて」

坂本「しかしあれなら、少なくともやつは生きては帰ってこれるだろうな。魔力が尽きても、ウルスラが奴を守るだろう」

エーリカ「目標高度に到達できる可能性は下がったが、生きて帰れる確率は上がったってことだな」

バルクホルン「作戦自体の失敗の危険性と引き換え……か」

芳佳「でもそれじゃローマが――」

ルッキーニ「いいの、芳佳」

芳佳「ルッキーニちゃん」

ルッキーニ「あのネウロイが倒せても、よっさんが帰って来なかったら意味ないもん。
    失敗したら、私たちが頑張ればいんだよ、よっさんにばっかり任せてないでさ!」

シャーリー「よく言ったルッキーニ。そうだな、今はただ、あいつらの成功を祈ろう」


ミーナ「でも帰ってきたらオシオキね」ニコニコ

全員 (ミーナ除く) 「「……」」


229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:02:43.75 ID:hq1T2ldoO
なにこのトマト陛下かっこよすぎ

230 :空の王な俺:2011/02/03(木) 02:06:37.53 ID:x1w3/Y+50



ブースターの噴射が止まる。ウルスラはそっと目を開いた。
周囲を覆う、淡く輝く球形のシールド越しに満点の星空が見える。昨日の比ではない。
青、赤、白、橙。色も大きさも様々なそれらは、バケツいっぱいの宝玉を砕いてばら撒いたかのよう。

余 (――――。)

男が何事か呟く。ウルスラに声は届かない。口を動かしているのは分かるのだが、音は聞こえてこない。周囲はほとんど真空なのだ。

ウルスラ (……?)

余 (――――。――――、……?)

男はウルスラの怪訝顔に気づいた。彼女の額に頬を擦り寄せ、囁く。

余「かのネウロイは運が悪いと言ったのだ。今日の余は……半端ではないぞ。」

にやり、と男の口の端がつりあがる。獰猛な笑みだが、ウルスラはその奥に秘める一種の「照れ」を感じ取った。
この男は今嬉しくて仕方ないのだ。自分が追いかけてきたことが。
今の言葉は、ものすごく遠まわしで分かりにくいが、この男なりの礼だ。

自分が来たのは間違いではなかった。ウルスラの胸に暖かいものが満ちる。
二人同じ場所で、同じ目的のために、同じ気持ちでいる。なんという充実!
思わず男の胸に顔を埋め、甘えるようにこすり付ける。男もそれに応えるように、ウルスラの体を抱く腕に力を込めた。


231 :空の王な俺:2011/02/03(木) 02:10:53.11 ID:x1w3/Y+50


そうこうしているうちに、彼方に“目的”が見えてきた。対流圏を貫き、月を背景にその頂点を配す尖塔。

ウルスラにはまだ一本の線にしか見えないが、男の目は既にその頂点で赤く輝くコアを捉えていた。

ネウロイは綯い合わせた縄を解くように、あるいは花弁が開くように頂点部を5つに裂いていく。
コアの座する中心塔へ、分かたれた他の4塔がビームを放ち、中心塔はそれらを収束・集中させ、自らに近づく小さな影を蒸発せしめんと発射体勢に入っていく。

しかし男はそんなネウロイの攻撃準備を嘲笑うかのように、その射程の遥か彼方から命じた。
たった一言。


余「平伏せ。」

余「<●><●>」ギン!


対流圏内に高い断裂音が響いた。




232 :空の王な俺:2011/02/03(木) 02:14:43.52 ID:x1w3/Y+50

男の行為の簡潔さに反比例し、現れた結果は劇的であった。

天にも届こうという漆黒の尖塔、史上最大のネウロイが、中ほどで“ヘシ折れて”いた。まるで鉛筆か何かのように。
断裂から傷口の血のように噴出した破片が白く輝くのが、二人を待つ『STRIKE WITCHES』の編隊からも見えた。

コアの無い側の半分、尖塔の下半分がゆっくりと白く輝く欠片に分解されていく。
外殻を覆うハニカム構造の縁を沿うように青白い光が走り、欠片の噴出がその後に続く。

やがて新たな断裂が起こった。一つ、そして続けざまに三つ。連続する破裂音が遅れて続く。
尖塔は今や棒状の塊の連なりに過ぎず、巨人の手で上から押しつぶされるかのように重なりあいながら崩落していく。

それはまるで遥かな昔、驕れる者達の手により建設された塔が天の怒りに触れ、落雷により打ち壊されたという神話の再現のような光景だった。



233 :空の王な俺:2011/02/03(木) 02:17:15.16 ID:x1w3/Y+50

ネウロイは砕け散った。遠い空の花火のようだったそれが、だんだんと近づいてくる。
攻撃の時点ではかなりの距離があったはずだが、弾道飛行中の超高速がそれを見た目以上に縮めている。
のんびりしていては、ヴェネツィアまで到達してしまう。早く逆噴射して速度を殺さなければ。

と、そのとき男が何かを指差した。

ウルスラが見やると、その先にあるのは欧州の屋根、頂点部で万年雪が白く輝くアルプス山脈。
そしてそのふもとからは青紫色の平野が広がる。森と原野が切れ切れに続くさまは漣のよう。
少し視線を送れば、なお青く深く継ぎ目一つない玉の表面のような本物の海が見える。

ウルスラ (……カールスラント……)

今やネウロイの手にある、彼女の故郷である。

男は穏やかに笑っている。昨日は本当はこれを見せたかったのだ、とウルスラは直感した。

昨日飛んだ高度16,000mの空は、ウルスラにとって“ヒトが居るべきでない場所”という畏怖を感じさせるものだった。
しかし、今は少しも怖くない。
二人でいれば、もう何も怖くない。



234 :空の王な俺:2011/02/03(木) 02:19:57.82 ID:x1w3/Y+50

男を真似て、ウルスラも右手を伸ばす。

ウルスラ「……手が届きそう」

余「行ってみるか?」

また顔を寄せてきた男が、冗談めかして言う。

ウルスラ「……ありがとう。でもいい。今の私たちには、帰るところが――」

余「よし、行くか。」

ウルスラ「え?」

余「噴かすぞ、掴まっておれ。一緒に往こう、どこまでも!わーはははははは!」

ウルスラ「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待きゃああああああああああああ!!」

再びロケットブースターが吼える。

ウルスラは全力で後悔した。浮かれすぎた。浮かれさせすぎた。



235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:20:26.92 ID:JNdgKE5b0
バーン!ネウロイは砕け散った。よっさん()

……いや、すんません。マジで
236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:20:42.26 ID:k5AtHqL10
よっさんtueeee

237 :空の王な俺:2011/02/03(木) 02:24:41.26 ID:x1w3/Y+50

サーニャ「あれ?」

エイラ「どうしたンダー?サーニャ」

サーニャ「二人が加速しています。高度も35,000mを突破……今38,000mに達しました」

ミーナ「何ですって」

坂本「どこに行くつもりだ!?」

サーニャ「40,000mを突破。電離層に入ったみたいです。もう追いきれません。直前の進路はほぼ真北……」

バルクホルン「北というと……」

エーリカ「カールスラント?」

バルクホルン「敵地のど真ん中だぞ……」

シャーリー「早めのハネムーンにしては物騒だよなぁ」


238 :空の王な俺:2011/02/03(木) 02:27:12.62 ID:x1w3/Y+50

ミーナ「『ブースターは大量の魔力を消費する』とか『魔力が尽きれば生命維持もできない』とか、なんだったのかしら」

エイラ「私たちを心配させないためーとカ、強がりーとカじゃなくて、ガチで余裕綽々だったんダナ……」

エーリカ「ウーシュ一人くらい最初から担いでいけたね」

坂本「頼もしいのは頼もしいのだが……」

芳佳「なんでしょう、なんというか、なんといったら良いんでしょうか。私の言いたい事、なんとなく雰囲気でわかってほしいんです」

バルクホルン「ああ、よく分かる」


全員「「「台無し(だ)(です)(ダナ)……」」」


結局二人は一週間後、ブリタニア経由で帰ってきた。さすがに魔力を使い果たしていたらしく、帰りは船旅だった。
げっそりした顔でウルスラが語るには、二人は (というか男は) 結局カールスラント上空を弾道飛行で航過し、北海を越え、スオムスにまで達したという。


239 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:30:27.39 ID:9eLMtYjYO
芳佳www


240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:30:47.23 ID:x1w3/Y+50
ここまで


やっと6話パート終わった

そしていつの間にかテキスト量が停滞中のやつ越えてた
手慰みではじめたはずだったのに
中篇程度で終わる予定だったのに
残りはキンクリしてしまうか

まぁいいや
オナニー気持ちいいです(^q^)

じゃあの

241 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:31:34.92 ID:k5AtHqL10
おっつおっつ
242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:33:27.83 ID:9eLMtYjYO
乙!
壁の砕ける音がしたけど気のせいダナ
243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:36:04.72 ID:ywSbE5zA0
乙!
全く流石ですな陛下は
244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:41:16.89 ID:UPBDD//E0
おっつおっつ こういうの書いてみたいなあ




最終更新:2013年02月02日 13:45