50.俺「ストライクウィッチーズだったっけ?」 725~743

俺がこの世界に来て三週間が経った。ペリーヌはまだまだ俺を嫌ってるみたいだ。
エイラも普段は普通に接してくれるんだが、サーニャに近付くと敵愾心むき出しになってくるんだよなァ。
でも、それ以外では上手く行っていると思う。皆と色々やってきた。
訓練サボってルッキーニと虫取りをしたし、ハルトマンと日向ぼっこしてたし(あとからバルクホルンさんにこっ酷く叱られたけど)。
こんな感じで過ごしていくうちに、皆と打ち解け合ってきた。
皆がどんな人物なのか、それがこの三週間でよく分かってきたので打ち解けているということも実感が湧く。
訓練の方は、飛行は結構苦労したけど皆が助けてくれるのでだいぶ上手く飛べるようになって、模擬戦にも出るようになった。
模擬戦ではペイント弾を使うので怪我をさせたりする心配はない。思い切り力を発揮できた。
そして、坂本さんの提案で俺も次からの戦闘に参加することになった。模擬戦であんなのを見せたから、凄く期待していた。
この三週間、皆が出撃していくところを何度か見送っていたけど、とうとう俺も見送られる側になるんだな・・・・
でも、それもその一回で終わりだ。

そして、その日が来た――

最近訓練をややサボり気味だったので、この日は見逃がしてもらえなかった。いつもより量の多い走り込みの後、飛行訓練だ。
飛行訓練は毎日ローテーションで、といっても殆どバルクホルンさんやハルトマンが手伝ってくれる。今日はその二人が手伝ってくれていた。
ハルトマンが面倒くさがりだというのはこの三週間で分かったことだけど、この飛行訓練には積極的に出てくる。なんでも、面白いからだそうだ。

エーリカ「集中力を乱すな、馬鹿者!」

俺「おわっ!? ・・・・ってなんだ、ハルトマンか」

エーリカ「へっへ~♪ トゥルーデの真似~♪」

バルクホルン「お前という奴は・・・・」

二人に横に付いてもらいながら飛んでいると、けたたましい警報音が基地中に響いた。
初めて聞いたときはとても驚いたが、三週間経った今でもこの音にはやっぱり慣れない。
耳に付けたインカムから司令室にいるミーナさんの声が聞こえる。

ミーナ『敵は大型二体、まっすぐこちらに向かってきています!』

バルクホルン「先に私とハルトマン、俺で迎撃する!」

俺の名も呼んだよな。ついに戦いに行くのか・・・・嫌だな・・・・

坂本『分かった、すぐに私と宮藤、リーネ、ペリーヌでそっちに向かう! 持ち堪えてくれ!』

バルクホルン「了解! 遅れるなよ、ハルトマン! 俺!」

エーリカ「りょ~か~い~♪」

俺「う、うん・・・・」

バルクホルン「ハルトマンは兎も角として、俺、なんだその返事は・・・・」

俺「いや、あははは・・・・」

バルクホルン「そんな調子だと先が思いやられるぞ・・・・」

エーリカ「仕方ないよ、初出撃なんだからさっ。あんまり無理しちゃ駄目だよ?」

きっと俺に期待してるんだろうなァ・・・・
でも、ごめん。その期待には応えられそうにないや。
バルクホルンさんとハルトマンは重そうな機関銃を持っている。特にバルクホルンさんは二丁の銃を両手に。
俺は訓練で銃を使うことがなくなったので、弾丸の入った革袋を腰に携えているだけだ。
入っている数は少ない。でも、問題はないな。これを使うことは多分ないから・・・・

バルクホルン「敵ネウロイと接触! 戦闘を開始する!」

エーリカ「そう簡単には終わらないかもね~」

初めて目の当たりにするこの世界の人類の敵、ネウロイ。
途轍もなく大きく、そして不気味に黒く光るそれは、俺に兄さんと戦った時以上の恐怖を与えるには十分だった。
皆、こんなヤツと毎回戦っていたんだな・・・・

バルクホルン「いいか、俺、敵からの攻撃が来たら訓練で教えた通りにシールドで防御するんだ。
お前は後ろから援護攻撃をしてくれ」

俺「わかった・・・・」

二人がネウロイに近付くと、突然ネウロイは四つの小型のネウロイに分裂した。合わせて八体か。
ネウロイってのは策をめぐらしたりもするのか。

エーリカ「分裂した・・・・!?」

バルクホルン「どうやら最初から八体だったみたいだな。だが、こんなもので撹乱などされるものか!」

それでも二人はネウロイに接近していく。
俺は――

俺「にっ・・・・逃げる時は軽さ軽さ~!」

一度も対峙することなく、腰の革袋を投げ捨てて逃げた。

バルクホルン「なっ!? おい、待て!!」

エーリカ「・・・・」


◇  ◇  ◇


基地に辿り着いて着陸すると、仰向けで寝そべって荒くなった呼吸を整えていた。
逃げてる途中で坂本さんたちとすれ違い、声を掛けられたが構わずに我武者羅に基地に向かって飛び続けた。
耳に付けたインカムから聞こえる怒鳴り声にも耳を傾けずに。
だいぶ時間が経ったな、もう敵は全部倒したのかもしれないな。

俺「あ・・・・」

エンジンの音が聞こえたので前を見ると、皆が帰ってきた。
どうやら無事だったみたいだ、良かった・・・・
芳佳とかは俺に笑顔で手を振ってくれているのでそれに答えるように笑顔で手を振った。
そんな中、バルクホルンさんはストライカーユニットを履いたままこちらに近付く。

俺「あ、おかえ――」

言い切る前に、鋭い痛みが頬に走った。乾いた音が大きく響いたので皆の視線がこちらに集まった。
何が起こったのか分かっている。引っ叩かれたんだ、バルクホルンさんに。

エーリカ「トゥ、トゥルーデ、少し手加減してやらないと――」

バルクホルン「なんだあの無様な逃げっぷりは。負傷や弾切れで戦線離脱をするのならば兎も角、あれではただの敵前逃亡だ。
 ・・・・敵前逃亡は立派な軍規違反、重罪だ」

エーリカ「え、それってまさか死刑とか・・・・」

芳佳「そんな! 流石にそれは酷すぎます!」

バルクホルン「ここは軍隊だ! そんな甘い考えが通用するわけではない!」

ミーナ「そうね、宮藤さんの言うとおり流石にそういうわけにもいかないかしら」

バルクホルン「ミーナ?」

いつの間にか司令室にいるはずのミーナさんがいた。
その表情は物凄く険しい。ブリーフィングの時に見せたあの顔よりも・・・・

ミーナ「かといって敵前逃亡は重大な軍規違反。それなりの罰は受けてもらいます。
俺伍長、あなたには当分の間飛行停止及び、食事などやむを得ない場合を除いて十日間の自室禁錮を命じます。異論は?」

俺「・・・・ないです」


◇  ◇  ◇


バルクホルン「いいな、俺伍長。必要な時以外の外出は禁止だ」

バルクホルンさんが感情の無い冷静な声で告げながら、外から施錠をする。

俺「バルクホルンさん・・・・ごめん・・・・」

扉を隔てて謝ったが、返ってきたのはその場から遠ざかっていく足音だけ。
当然だ、俺のやったことがたった一言の謝罪で許されるなんて思っちゃいない。皆、俺のために訓練を手伝ってくれたりしてたんだ。
坂本さんやミーナさんだって俺に期待をしていた。俺はそれを裏切ってしまった。
特に、バルクホルンさんからはあんな過去の話を聞いておきながら、戦いたくなかったとはいえ本人を前にしてあんな様を見せ付けたんだ。
踏みにじっちまったんだ・・・・最低だよな・・・・

――なんだあの無様な逃げっぷりは。負傷や弾切れで戦線離脱をするのならば兎も角、あれではただの敵前逃亡だ。
 ・・・・敵前逃亡は立派な軍規違反、重罪だ。

頬を叩かれた時の光景を思い出す。
言ってることは軍人そのものとしてのことだったけど、本当はそんなことで怒ってたわけじゃないんだよな・・・・
折角仲良くなれたと思ったのに、あっさりと仲違いしちまったか。
後からハルトマンたちから聞いたけど、俺に対する処罰は軽い方だったらしい。
普通どんなに軽くても収容所行きだったそうだけど、ミーナさんの裁量で飛行停止と自室禁錮で済んだそうだ。
自室禁錮は窮屈な気もするけど特に苦ではないし、飛行停止も俺にとっては好都合なことだ。
もう戦うために飛ばなくてもいいってことなんだから。
ただ、本当にこれで良かったのかな・・・・
でも、あそこで俺も戦っていれば、兄さんと死合った時に出現しかけた修羅の感覚が再び起こりそうだった。
それじゃあこの世界に来た意味がなくなってしまう。俺がこの世界に来たのはそんなことを忘れたかったからだ。

俺「あれこれ考えてても仕方ないか・・・・」

ベッドにどっさりと寝転がり、晩飯の時間が来るまで寝ることにした。


◇  ◇  ◇


――ミーナの執務室

私は、俺の処罰に関してミーナに問い質しに来た。

バルクホルン「ミーナ、どうして俺に対する処罰があんなに軽かったんだ?
本来敵前逃亡といえば良くて収容所行き、悪ければ銃殺刑になるはずだ」

ミーナ「あら? あなたは重くした方がいいと思ったの?」

バルクホルン「いや、そう言いたいわけではない!
確かに俺のやったことが許されるものではない。ただ、処罰が軽かったことにホッとしているんだ」

ミーナ「ふふ、やっぱり俺さんのこと、気に掛けてるのね。軍隊だから甘くしてはいけないとか言ってたのに」

バルクホルン「別にそういうわけでもない! あれは皆がいる手前、甘ったれたことを言うわけにもいかなかったんだ!」

ミーナ「はいはい、そういうことにしておきます。
 ・・・・俺さんのことはね、私もあれは許されたことではないと思っているわ。
でもね、私たちも俺さんに期待し過ぎたというのがあったのかもしれない。
あの人は戦った経験がないみたいだし、それに、俺さんって異世界の人でしょう。不安だったのよ、多分。
初めてここに来たあの日、戦力になり得ると聞いて一緒に戦わないか持ちかけたけど、今思えばあれは強引だった気もするの。
一緒に戦わないのならここには置いてやらないって言ってるようなものだから。
この世界に来て恐らく初めて出会った私たちを頼れなければ、のたれ死ぬんじゃないかって不安があったのかもしれないわ」

ミーナの話を聞いて、しまった、と思った。俺を引っ叩いたことだ。
そうだ、俺は一人で迷っていたんだ。そしてその迷いが解消されないまま戦地に赴き、あんな行動に出てしまった。
それを私は怒りに任せて・・・・

エーリカ「それに、深い理由もあるみたいだしね~」

ミーナ「あら、フラウ・・・・」

ハルトマンがいた。いつの間に私のバックを取ったのだ・・・・
部屋に入ってきたことにも気付かなかった。

バルクホルン「深い理由ってなんだ?」

エーリカ「模擬戦での俺の腕前は知ってるでしょ? 自慢じゃないけどエースの私たちの攻撃を簡単に避けてしまうんだよ?
しかもペイント弾を一発で、体の何処に当てるわけでもなく銃に当てちゃうし」

バルクホルン「そういえばあの投擲の技術は神懸りなものだったな・・・・」

私も何度かやられたのを覚えている。最初の頃は飛び慣れておらず、模擬戦が終わる頃には全身がペイントまみれになっていた。
だが、飛ぶのに慣れてくるとこちらがどれだけ狙いを定めても、ペイント弾が当たることはない。その上、正確に武器目がけて弾を投げつける。
ペイント弾だというのにあの衝撃、本物の銃弾を投げつけられたらきっと一撃で銃は破壊されていたはずだ。
ただ、気になるのは何故武器だけを狙うのか。敵自身を狙わなければ撃滅することはできない・・・・

エーリカ「そんな腕前がネウロイに遅れを取るとは思えないんだよね~。
あの逃げ方もなんかわざとっぽいし、何か別の理由があったと思うんだ。
私はよく分かんないけど、俺の過去になんかあったりして・・・・」

バルクホルン「そういえば時々様子がおかしいときはあるな」

エーリカ「でしょ? でも、絶対自分からは話したがらないと思うんだよね。
だからトゥルーデが聞き出すのが一番いいんじゃないかな?」

バルクホルン「なっ、ど、どうして私がっ――」

エーリカ「ん~、なんか悔しいけど俺ってトゥルーデに一番懐いてる気もするしね。
あの時はトゥルーデの目の前で泣いたりしてたし♪」

バルクホルン「そ、それはだから私の昔話を聞いてあいつが勝手に泣いただけで・・・・お前も知ってるだろうが!」

エーリカ「まぁまぁ、なんだっていいじゃん」

ミーナ「そうね。それじゃ、フラウの言う通り俺さんのことはトゥルーデに任せるとして・・・・
事情がはっきりするまでは、俺さんは飛行停止のままにしておきましょう。きっとあの調子だとまともに戦ったりできないわ」

バルクホルン「私も飛行停止処分に関してはそれでいいと思う。ただ・・・・」

ミーナ「ただ?」

バルクホルン「本当に私でいいのか? 私はあいつを引っ叩いたんだ。口を聞いてくれるかどうか・・・・」

エーリカ「俺がそんなことを気にすると思う?
俺がここに来てまだ三週間ちょっとしか経ってないけど、私の知ってる限りでは俺はそんなこと引き摺ったりしないよ」

ミーナ「そうね、私もそう思ってるわ。トゥルーデに引っ叩かれたことも、ちゃんと理由があるんだって分かってくれてるはずよ。
それに、向こうもいつまでも口を聞いてもらえないことが苦だと思うわ」

バルクホルン「そうだな・・・・わかった」

ミーナ「ふふ、それじゃ、もうすぐ晩御飯の時間ね」


◇  ◇  ◇


ルッキーニ「おっれ~♪ 晩御飯だよ~!」

俺「ん、んん・・・・」

部屋の外から聞こえてくる声で目が覚めた。ルッキーニの声だ。
晩飯の時間なので呼びに来たようだ。
もうそんな時間か・・・・飛行訓練からそのまま戦闘で飛び続けたから疲れたし腹は減ったな。
寝てたから疲れは取れたけど。

ルッキーニ「お~~い?」

俺「あ、ああー! 今すぐ行くよー」

ベッドから飛び起きて、扉に向かう。そして、扉の錠前を外してもらった。
ルッキーニと、シャーリーがいた。

シャーリー「よっ、大丈夫か?」

俺「ああ、大丈夫・・・・呼びに来てくれたんだ、ありがとう」

ルッキーニ「は~や~く~!」

ルッキーニが急かすように、俺とシャーリーの腕を握って行こうとする。

シャーリー「そう慌てるなって、そんじゃ行くか」

俺「なあ・・・・怒ってないのか?」

シャーリー「何が?」

俺「俺が敵前逃亡したってこと」

ルッキーニ「別に~、怒ったりするわけないじゃん~」

シャーリー「そうだなー、今回私たちは出撃してないから実際見たわけじゃないし、初出撃だったんだから仕方ないって。
それに軍規違反なら、大抵のヤツが経験することだしな」

ルッキーニ「シャーリーなんて五回も自室禁錮になったことあるからね~♪」

シャーリー「だから四回だって! なんで一回増えてるんだよっ」

ルッキーニ「四回も五回も大して変わらないよっ」

シャーリー「全然違うだろ~」

俺「ははは・・・・」

シャーリー「お、やっと笑った」

俺「え、俺今まで笑ってなかったっけ?」

シャーリー「今までのは作り笑いっぽかったな。私が言いたいのはやっと心から笑ったなってことだよ」

俺「そうか、心配かけちゃったなァ」

ルッキーニ「はーやーくー!」

俺「ああ、そうだった」
最終更新:2013年02月02日 13:59