バレンタイン、乙女が意中の男性にチョコレートを渡す日。
 これをを考えたのは扶桑のとある会社で、いつの間にかそれは世界中に広がっていた。

私「苦い」

 とりあえず考えた企業はウァレンティヌスに謝るべきだと思う。
 まあ、個人的には別に悪いと思っているわけではない。女性がつつましやかな扶桑では、男性に接近する機会としては丁度いいと思っている。
 しかし――

私「甘い」

 私の机にあるチョコはどうしたものだろうか、と包みに入ったチョコを食べながら思う。
 どうやらここは欧米の風習のほうが強いらしく、男性でも女性でもどちらでもお世話になった人に物を贈るのが主流らしい。
 それに扶桑のチョコが加わって、結構な量のチョコが私のもとにやってきた。

私「……私も渡すべきなのだろうか」

 どうせ裏切るんだからどうでもいいことだろうが、私はどうも恩を着せられっぱなしなのは気持ち悪い。


 貰ったチョコをそのまま誰かに渡せばいいという考えも浮かんだが、簡単にばれる可能性が高いので脳内から作戦を削除する。
 チョコが貰えたのはウィッチ達では宮藤、リーネ、サーニャ、ハルトマン、ミーナ、坂本。あとは整備兵達といったところ。
 ネウ子からも貰った(わざわざ虫型ネウロイに運ばせてきた)が、歯車にチョコをコーティングした物体だったのでノーカウント。
 勢いよく噛んで歯が折れたが5秒で修復した。……まあ、私の不注意だから別にネウ子を恨んではいない。

私「……全力で板チョコを巣に投げたらコア割れるかな」

 もう一度言うが恨んではない、多分。

私「これはハルトマンのか」

 銀紙に包まれた何か言葉にしにくい形をしたチョコレート。開くと何故か糸を引くチョコレート。
 私は判断する、これはチョコレートではない似て非なるものだと。

私「はぁ」

 しかし手作りのようで捨てるにはもったいない。幸いネウロイなので食中毒で死にはしないだろう。


 1分後

 結果から言おう。死にかけた、いや死にかけている現在進行形で。

私「ぐふぅ……」

 ベットの上でうめき声を上げながら転がりまわる。
 まさかチョコ一つでコアにヒビが入るとは思わなかった。

私「うぐう……」

 近くにあったコップの水を一気に飲み干し、ダン! とコップをテーブルに叩きつける。
 水がこんなに美味しいのは生まれて初めてだ。ああ、私は生きてるんだな。ネウロイだけど。

ルッキーニ「私ーいるー?」

 落ち着いたところで、トントンと扉を叩く音と一緒にルッキーニの明るい声が聞える。
 コアも何とか修復し終わったので、ベッドから起き上がると扉を開く。

私「どうしたルッキーニ」

ルッキーニ「あのね、チョコ作るの手伝ってほしいの」

 そう言いながら私の胸に手を伸ばそうとするルッキーニ。毎度のことなので、適当にルッキーニの額に人差し指をあてて進めなくする。

私「別に構わないが……」

 今日は何もないし、何より暇だしな。それにチョコが余ったらそれで配る用のチョコを作るのもいいだろう。

ルッキーニ「やたー!」

 ルッキーニがぴょんぴょんと跳びはねる。

私「しかし、チョコくらい簡単だろう?」

ルッキーニ「簡単だけどさ、万が一ってなったらいやだし」

私「……うん、そうだな。万が一ってのは割と高いかもしれないしな」

 万が一以下の確立でコアにヒビ入ったからな。

ルッキーニ「じゃあいこう!」

 私はルッキーニに手を引っ張られながら厨房へと向かった。


 チョコを作るシーンは特に目立ったところも無いので言うことも無いだろう。
 板チョコを湯煎で溶かして、冷やして、また溶かして型に流し込むだけの作業。目新しい行動なんて一切していない。
 ルッキーニが裸エプロンという扶桑文化を実践しようとしたのを止めた程度だ。

私「じゃあ後は冷やすだけだな」

ルッキーニ「うん!」

 ハート形の型に流し込まれたチョコレートを、冷やすためにルッキーニは冷蔵庫へと運ぶ。

私「……余らなかったな」

 ルッキーニの作ったチョコは大小合わせて結構な量で、大量にあった板チョコは全て消えていた。

ルッキーニ「入れてきたよー」

私「御苦労さま」

ルッキーニ「どのくらいで冷えるかなー」

 私の横にある椅子に座ると、ルッキーニは足をぶらぶらとさせる。

私「相当入れたからな、完全に固まるまで結構かかるぞ」

ルッキーニ「うじゅー……」

 ルッキーニが机に突っ伏す。
 彼女の性格からしてじっとしているのが嫌いなのだろう。

ルッキーニ「せっかく私にすぐに食べてもらおうと思ったのになー……」

私「え?」

ルッキーニ「んー? あのチョコ私にあげる分も入ってるんだよ? シャーリーと同じくらいおっきなやつ!」

 そういえばやたら大きいのが二つあったな。他のに比べて、その二つを特に集中して型に流し込んでいた気がする。

ルッキーニ「私もシャーリーもどっちも大切だから、どっちにも美味しく食べて貰いたかったんだー。私は手伝ってくれたお礼に一番最初に食べてほしくて」

 その言葉に思わず頬が赤くなるのを感じる。

私「……ありがと」

ルッキーニ「にひひー」

 ルッキーニも照れ臭そうに笑った。

 時計を見るとまだ昼前。色々とやった割にはそんなに時間は経過していない。
 これくらいなら街に行って戻ってこれるだろう。

私「……固まるまで時間あるし、買い物にでもいくか」

ルッキーニ「許可取れるの?」

私「必要物資買いに行くって言っておくさ」

 内容はチョコ100%だけど。

ルッキーニ「あたしもいくー!」

私「ミーナ中佐がいいって言ったらな」

ルッキーニ「わーい!」

 彼女達は好きだ。しかし、ウィッチとして、軍人としては嫌いだ。
 私はいつか彼女たちを裏切ることになるだろう。その時、傷跡を心に残せるように、絆を深めておこう。裏切ったという事実が心を引き裂くほどに。

ルッキーニ「私ー」

私「どうした?」

ルッキーニ「一緒に隊長に頼みにいこっ」

 私の横に来るとルッキーニが私に手を差し出す。
 もし、あと少し早く出会えたなら私はどうなっていたのだろうか。そんなことを考えながら私はルッキーニの手を握りしめた。
最終更新:2013年02月02日 14:23