私の部屋

 暇で暇でしょうがない。
 居候の身である私は大量の仕事をこなしているが、それでも暇になる日はある。
 この間ハルトマンに借りた絵本は全て読み切った。
 代償はハルトマンの部屋の片づけ。今思うと釣り合ってないな。

私「あーうー……」

 ベッドの上で寝転がってぬいぐるみを軽く叩く。
 今はルッキーニもシャーリーも訓練中だ。どこかに行くと行っていた気がするが、遠方で模擬戦だろうか。

私「私も参加しようかなー……」

 馬鹿なことを呟いてみる。多分、一発でネウロイということがばれるだろう。
 ストライカーユニットで飛ぶ程度ならある程度誤魔化せる。
 しかし戦闘となると魔力の流れは滅茶苦茶になるので、ウィッチでないことがばれてしまう。

 人間、じゃなくて生物は暇になると生きていけないと思う。
 寝ることだって立派な活動の一つだ。しかし今はその眠気もない。

 コンコン

 部屋に鳴り響くノックの音。

???「私さんいるかしら」

 その声に思わず飛び起きて、壁に後ずさってしまう。
 ミーナの声だ。
 先日私を散々な目にあわせたミーナの声だ。死線を潜ってきた私でさえもアレを思い出すと手が震える。

私「い、いるぞ」

 上擦った声を出しながら何とか返事をする。

ミーナ「入ってもいいかしら」

私「あ、ああ」

 扉が開かれミーナが部屋の中に入ってくる。
 そういえば私の部屋にミーナが入ってくるのは初めてだ。

ミーナ「こういう部屋なのね」

私「何もなくてつまらない部屋だろう?」

ミーナ「ベッドの上はそうでもないみたいだけどね」

 ベット上のぬいぐるみを見てミーナは笑う。
 普段は隠しているのに、不覚にも怯えて隠す暇がなかった。

私「そ、そんなことよりも何の用だ?」

ミーナ「そうそう。今からわたし達は海に訓練に行こうと思ってるの」

 そういえば周りは海だというのに一度も海で訓練してるのを見たことが無かった。
 ストライカーユニットを履いた状態で海に落ちた場合を想定して、ユニットを履いたまま水中にたたき落とされたこともあったっけ。

ミーナ「まあ訓練といっても遊びみたいなものだけれど」

私「で、私はどうすればいいんだ? 基地の留守番か?」

ミーナ「いいえ、私さんにはわたしの代わりに監視役として海に行って欲しいの」

私「ミーナはいけないのか?」

ミーナ「わたしはちょっと資料の整理が残ってるの。終わったら行くわ」

 監視役と言っても余りやることは無いだろう。
 抜けているところもあるが、全員やるときはやっているしな。

私「どのくらい海で訓練するんだ?」

ミーナ「お昼過ぎくらいまでね。すぐに向かうからわたしがきたら遊んでもいいわよ」

私「もう海で遊んではしゃぐような年齢じゃないさ」

 ひらひらと手を振りながらミーナの横を抜けて外へ出ようとする。

ミーナ「あ、ちょっとまって」

私「なんだ?」

ミーナ「はいこれ」

 手渡されたそれは紺色をしていた。
 さわり心地はすべすべしていた。
 どこかで見た様な気がした。

私「……何だこれは」

ミーナ「なんだって……私さんの水着に決まってるでしょう?」

私「いやいやいやいやいやいや! これ扶桑皇国の制服だよな!?」

 見せつけるように制服を広げる。
 常々思ってるんだがこれって制服じゃなくてボディースーツに近いんじゃないだろうか。

ミーナ「美緒も宮藤さんもこれで泳いだりしてるからいいじゃない」

私「そういう問題じゃなくて……というか誰から貰った!」

ミーナ「さっき袖の大きな行商人さんがやってきて無料でくれたわ」

 あの男、次会ったら殺すまでとはいかなくても絶対に一発殴ろう。

私「……これ着ずに監視役はダメ?」

ミーナ「ダメです。もし海で誰かを助けることになったら、その普段の服だと水を吸って重くなるわ」

 何度もミーナと水着を交互に見比べる。

私「……ほんとに着なきゃダメ?」

ミーナ「ダメです」

 ミーナは笑う。
 私にはその笑顔の裏に、何か以前感じた恐ろしいものが見えた気がした。
 逆らうのは得策じゃないと私の経験と勘が反応した。

私「うう……わかったよ着るよ」

ミーナ「わたしもできるだけ早く行けるようにするから、それまでよろしく頼むわね」

 ミーナが部屋から出て行った。
 ため息をつきながら、もう一度手渡されたモノを確認する。

私「不思議なものだ……」

 昔、師匠の所で、これを着た黒髪でポニーテールの少女を初めて見た時、多分私は一生着る機会はないだろうと思っていたが――

私「まさか着ることになるとはな……」

 人生、いやネウロイ生、何があるかわからないと痛感した。




 海岸

 サンサンとてりつける太陽の日差し。
 砂浜ではウィッチ達が水を掛け合ったり、ボーっとしたり、それぞれが思い思いの行動をしていた。

私「確かにこれは遊びに近いな」

 そんな私の格好は例のアレに、以前ルッキーニから貰ったシャツというよくわからない格好だったりする。
 水着は不気味なほどサイズはぴったりだったが、一部分がやたらきついのは多分あの袖の大きい男の悪意だろう。

私「とりあえず坂本は……っと」

 砂浜を見渡すといた。
 海に来てまで扶桑刀を背負っているのですぐにわかった。
 錆びるんじゃないだろうかと思いつつ、私は坂本に近づく。

坂本「おお、私じゃないか。どうしたんだ?」

 私に気付いたのか坂本は腕を組みながら振り返った。

私「ミーナが来るまで一緒に監視役だそうだ」

坂本「別にわたし一人でも十分だぞ? 泳いできたらどうだ?」

私「遠慮しておく」

坂本「そうか。ところでさっきから気になってたんだが」

 坂本は私を上から下までじっくりと眺める。

坂本「その下に来ているのは扶桑の服のようだが、どうしたんだ?」

私「カクカクシカジカ」

坂本「シカクイムーブ」

私「……というわけだ」

坂本「はっはっは! だが着てみると悪くないだろう?」

 確かに空気抵抗や、被弾する面積を押さえつけることで小さくするという点では中々に便利だ。
 普段着ている軍服よりは動きやすいしスースーする。

私「……まあ、悪くは無いな悪くは」

坂本「だろう? この際私もそれを着続けてみてはどうだ?」

私「謹んで遠慮させていただくよ」

 苦笑いを浮かべながら私は答えた。


 主に海で遊んでいる連中を、坂本と二人で監視をしながら他愛もないことを話す。

私「……ん?」 

 ふと気付くと砂浜に変なものが打ち上げられていた。

坂本「どうした?」

私「いや、アレは一体……」

 そのよくわからない物体を私は指さす。
 それは緑色をした巨大な塊だった。
 最初はワカメかと思ったが、それにしては巨大すぎる。

坂本「何なんだあれは……」

私「と、とりあえず確認してみる」

 砂浜に打ち上げられたそれに恐る恐る近づき端を触ってみる。
 ぶにぶにとしてぬめぬめした触感。
 こんな巨大な海藻の塊があるとは世の中は広いと思った。

私「何だ海藻か」

 坂本の所に戻るため、海藻を背にする。

 ぐちゃっ

 背後から粘着質なものをつぶすような音が聞えた。

私「えっ」

 振り返るとそこには、今にも襲いかからんとする巨大な海藻の塊がいた。

私「うあああああああああああ!?」

 予想外の出来事に回避する暇もなく海藻に飲み込まれる。
 服の間や水着の間に海藻が入り込んで非常に気持ち悪い!

私「なんだなんだなんだ!?」

 懸命に逃れようとバタバタと手足を暴れさせる!
 結果更に海藻が入り込んでしまった!

私「き、気持ち悪い、そんなところに入り込むんじゃない!」

 そう叫んだ瞬間、視界は緑色から蒼い空へと変わった。

ルッキーニ「にひひー」

 海藻まみれの私を八重歯を見せながら見下ろすルッキーニ。
 頭に海藻、目にゴーグルを付けているところをみると、どうやらさっきまで海藻の中で私が近付くまで待機していたらしい。

ルッキーニ「ねえねえ驚いた!?」

 ニコニコと笑いながら私に近づく。

私「……ああ、驚いたよ」

ルッキーニ「やったやった!」

私「驚きすぎて腰が抜けて立てないんだ。手伝ってくれないか?」

ルッキーニ「えー私って怖がりなんだね」

 やれやれといったふうに私に手を伸ばすルッキーニ。

私「馬鹿め引っかかったな!」

ルッキーニ「うじゅっ!?」

 腕を掴むとルッキーニを海藻へと引きずりこむ。

 ドッチャァ

 粘着音を立てながら盛大に海藻の中へとダイブした。


ルッキーニ「うぇー……またヌメヌメ……」

私「これで終わると思ったか?」

ルッキーニ「えっ?」

 ルッキーニの背中に私の横にあった海藻を片っ端から乗せる。

ルッキーニ「うじゅあああああああああ!?」

私「ほれほれほれほれ!」

 ルッキーニが叫ぼうがあばれようが構わずに次々と海藻を背中に乗せる。
 あれよあれよという間に海藻は山のように積もった。                       

私「ふう……」

 ぬるぬるとした腕で額の汗をぬぐう。
 ルッキーニは頭だけ出して海藻に埋もれている。

ルッキーニ「うじゅー……」

私「これに懲りたらもうこういうことはするんじゃないぞ」

 積もった海藻を手ですくい取り海に戻してやることにした。



 数分後

 結構な量があったが、そこは海藻なので思ったほど多くを運ぶのは苦ではなかった。
 少し固有魔法使ったりとズルもしたけれど。

私「あとちょっとだな」

 もう自力で脱出できるほどに海藻は減っている。

私「ほらほらどけてやるから早く起きろ」

 最後の山を持ちあげようとかがむ。

ルッキーニ「隙ありー!」

私「うぇ!?」

 ルッキーニが私の足を払う。
 普段なら耐えれるが海藻が予想以上にあったため、見事に脇腹から再び海藻へとダイブ。

私「……ルッキィィィーニ!」

ルッキーニ「にゃははははー!」

 互いに手元にあった海藻を掴み相手に投げつける。
 顔に当ろうが腕に当ろうが関係なくひたすら投げ続けた。

ルッキーニ「まだまだー!」

 手元に海藻が無くなると今度はルッキーニが私に向かって飛びかかってきた。
 近距離でさらに座った状態だったので、避ける間もなく背中から海藻へ本日三回目のダイブ。
 嫌な粘着音が響いた。

私「ええいいい加減にしろ!」

 力を込めて回転し、ルッキーニを下側にする。
 が、直ぐにルッキーニも力を込めて私を下側にした。

ルッキーニ「うじゅあああああ!」

私「おおおおおお!」

 ごろんごろんと海藻の中でくんずほぐれずしたりする光景は、はたから見たら異様な光景に違いない。

 そのうちルッキーニに体力の限界が来たのか、ぬるぬるになりながら肩で息をする。

ルッキーニ「うじゅー……」

私「さてどうしてくれようか……」

 動きが止まってようやく視線をに気付いた。
 恐る恐る顔を横に向ける。

シャーリー「……どんなプレイ?」

 苦笑いを浮かべたシャーリーがそこにいた。
 慌ててルッキーニから離れてシャーリーに近づく。

私「か、勘違いするな!」

シャーリー「いやいやわかってるって」

 右手を前に出してシャーリーは私を止める。

シャーリー「性癖は人それぞれだし……な?」

私「だーかーら! 違うって言ってるだろう!」

 肩を掴んでガクガクと揺らす。

シャーリー「あばばばばば冗談だって冗談」

 頭と胸を揺らしながらシャーリーは手をひらひらとさせた。
 本当に本当だな、と何度も念押しをして肩を揺らすのを止める。

シャーリー「とにかく海に入って体洗ったらどうだ? 凄いことになってるぞ二人とも」

 シャーリーの言う通り、今、私達の体は透明でぬるぬるとした液体でコーティングされている。
 多分遠くからみたらテカテカと私達は光っていることだろう。

ルッキーニ「ほらほら早く早く!」

 シャツの袖を掴みルッキーニは催促する。
 流石に私もこのままでは気持ち悪いので、連れられるままに海へと入った。
 私はネウロイだが一応元人間なので海は問題ない。

ルッキーニ「うっきゃー!」

 バチャバチャとバタ足をしながらルッキーニは泳ぎながら体に付着したものを落とす。



 私もシャツを脱ぎ、いろんなところに入った海藻を少しずつ取っていく。
 海水は腰の所までしかなかったのでしゃがむ必要があったが、潜水して体と髪に着いたぬめりを取った。

私「ぷはぁ」

 本当はずっと潜っていられるが、人間だったころの感覚が残っているようで、何となくだが苦しい感じがする。
 呼吸をしない人間というのもすぐにばれてしまうので丁度いいともいえる。

私「ん?」

 視線を感じた。4人……いや、5人か。
 視線のする方向へ目をやると、宮藤、バルクホルン、ハルトマン、ルッキーニ、リーネがいた。
 それぞれの視線はどうやら私の胸に注がれて……胸に……胸に?

私「あっ」

 この水着、何故か胸の所だけが嫌がらせのように横の布面積が少なく、おまけに窮屈なことを思い出した。
 だからシャツで隠しておいたのに。

私「……」

 無言で横を漂っていたずぶぬれのシャツを着直す。
 ドポン、と水音が3つ聞えた。
 先ほどまでそこで見ていたハルトマン、宮藤、ルッキーニの姿が見えない。

 ついでに後ろを振り向くと、先ほどまで砂浜で私を見ていたシャーリーも消えていた。
 向き直ると海の中から高速で3つの物体が近付いてきているのが見える。

私(……詰んだ?)

 いや、まだだまだ何とかなる。
 死中に活を求めるんだ。私ならできるやればできる。
 右足を上げ魔力を集中ある。威力はある程度押さえるので問題は無いだろう。

私(断艦!)

 ドッバーン

 高いところから重いものが落ちた様な音と共に巨大な水柱が上がる。
 同時に前の三人と後ろの一人が慌てて海面に顔を出した。

私(今だ!)

 皆が水柱に気を取られている隙に海へと潜る。
 追跡されないように祈りつつ、私は隠れることができそうな場所を潜ったまま探すことにした。




 崖下の岩陰

 都合よく岩が海面から出ていて、おまけに影になりそうな岩もあったので海からあがる。
 シャツを脱いで、雑巾を絞るように破れないように力を込める。

私「よく考えれば帰りも泳ぐんだよな……」

 絞り終わって日の当るところでシャツを乾かしてから気付いた。
 少し無駄なことをしたとため息をついて視線を下におろす。
 そこには棒が落ちていた。
 棒の先には細い糸の様なものが付いていて、所謂釣竿のようだ。
 周りを見回すが人の気配は無い。
 偶然流れ着いたのか、それとも釣り人か忘れて帰ったのか。
 なんとなく拾って引っ張ってみる。

私「ん?」

 少し重みがある。どうやら何かが引っかかっているようだ。
 リールはないので途中から手で糸を手繰り寄せる。
 海中から何やら白いものが見えてきた。力を込め一気に引き上げる。

私「……水着?」

 それは白い色をした女性用水着の胸部分だった。

???(キャーエッチ!)

 久々に聞いた声が脳内に響く。

私「……何やってるんだ?」

 眉をひくつかせながらどこからともなく現れた知り合いに尋ねる。

ネウ子(何って……ウィッチ達の水着姿を見……海水浴だヨ)

私「何が海水浴だ! ご丁寧に上下白の水着なんて着て!」

ネウ子(なんか気が付いたら巣に置かれてたんだヨ)

私「で、それをわざわざ針の先に付けた理由は? 変な答えだったら濃度100倍にした海水ぶっかけるぞ」

ネウ子(やめて錆びる! それはね……キミが恥ずかしがるところを見たかったから!)

 私は竿をおおきくふりかぶってロマーニャの巣目がけて槍投げもどきをした。
 なお水着は未だに針についていたので一緒に飛んでいった。ついでに海水もかけた。
 まあ、ネウ子に海水をかけたところで、錆びても直ぐに錆びた部分をはがすので意味は無い。

ネウ子(うわああああああああああああ!)

 がっくりと肩を落とすネウ子。恐らく水着のダメージのほうが大きい。

私「……で、本当の用はなんだ? わざわざ私が逃げるのを確認してから竿を用意したんだろう?」

ネウ子(なんだわかってたんだ)

私「長い付き合いだからな」

 苦笑いがこぼれた。

ネウ子(そっか。じゃ、用件だけ言っとくよ。この間の会議でそろそろ501に攻撃仕掛けるように言われたから)

私「何だと!?」

 思わず声を荒げネウ子の肩を掴む。

ネウ子(わたしももう少し人間を観察していたいさ。でもね、オラーシャの巣の友人以外の皆が言ったんだ)

 ネウ子は私の手を肩から剥がすと空へと飛ぶ。

ネウ子(キミはどうしたいのかな。まだ時間はあるからゆっくり考えるといいヨ)

 私はネウロイで皆はウィッチ。いずれこうなることはわかっていたはずだ。
 それが少し縮まっただけ、それだけの話。
 ……人を殺して来た私が今更何を考えるというんだ。

ネウ子(……わたしはキミが選んだ道に従う。それだけだから)

 去り際にネウ子はそういって飛んでいった。

私「どうしたい、か」

 ともかく一度戻ろう。
 乾かしたシャツを着て海へと潜る。
 どうして逃げたのかをうっかり忘れて、その後どういう目にあったかは思い出してくないので、省略する・




 夜 ルッキーニ・シャーリーの部屋前

 気が付けば足がここに来ていた。ただ目的もなくぶらぶらしているだけだったのに。

私「……いるか?」

 ノックしながら声をかける。
 部屋からガタガタと数回音がしてからドアが開かれた。

ルッキーニ「うじゅ? どったの?」

 珍しくルッキーニは部屋にいた。いるとは思わなかったので少し驚いている。

私「あー、いや、その……だな」

 なんとなく呼んだだけだったので、具体的になにをするか決めていなかった。
 ルッキーニからしたら、私はもじもじしている様に見えるはずだ。

私「海岸……歩かないか? 用事があったり、眠いなら別にいいんだ」

ルッキーニ「んー……」

私「い、いやいいんだ気にしないで――」

ルッキーニ「大丈夫! いこういこう!」

 ニコリと笑いルッキーニは私の手を掴んだ。





 夜 海岸

 昼間の太陽とは打って変わって、今は満月が砂浜を静かに照らしている。
 少し前を行くルッキーニは月を見ながら楽しそうに砂浜を駆ける。

私「……なんでついてきたんだ」

シャーリー「気にするなよー」

 歩きながらシャーリーは私の肩に腕をかけた。

シャーリー「それに私とルッキーニが夜に一緒なんて、何か間違いがあったら困るしな」

私「何が間違いだ」

シャーリー「そりゃあ何かだろ?」

 腕を払おうとするがシャーリーは更に力を込めた。

ルッキーニ「二人ともー早く早くー!」

 ルッキーニは私達に手を振ると少し速度を上げて走り出した。

シャーリー「こけるなよー!」

私「なあ」

シャーリー「ん?」

私「ルッキーニは好きか?」

シャーリー「当たり前だろ? 今更何言ってるんだ?」

 バンバンと私の背中を手で叩く。

私「そうだな。当たり前のことを聞いて悪かった」

 ぎこちない笑顔を作って見せる。 
 シャーリーはまた腕を私の肩に廻した。

シャーリー「悩みごとでもあるのか?」

私「……少し頼みがあるんだが」

シャーリー「何だ?」

 シャーリーは顔を寄せてくる。

私「私がもし――」

ルッキーニ「二人ともー!」

 いいかけてルッキーニの声に阻まれる。
 顔を上げるとルッキーニがすぐそこまで近づいてきていた。

ルッキーニ「遅いよ二人とも!」

シャーリー「悪い悪い。で、続きはなんだ?」

私「いや、いいんだ。また別の機会で構わない」

シャーリー「ふーん……なあルッキーニ」

ルッキーニ「なになに?」

シャーリー「私は好きか?」

ルッキーニ「大好き!」

私「はやっ!」

 私がシャーリーに突っ込みを入れるより早く答えた。
 顔に熱がこもって赤くなっていくのがわかる。

シャーリー「よかったなー私ー」

 シャーリーは目を細めてニヤニヤと笑っている。
 先ほどの質問のお返しかちくせう。

私「し、シャーリー!」

ルッキーニ「私はあたしのこと好きじゃないの?」

 潤んだ瞳でルッキーニが見上げてくる。


私「んぐぐぐぐぐ……」

 唸る私にルッキーニは右手を差し伸べた。

ルッキーニ「じゃあ好きなら手を掴んで」

私「……」

 私はすぐに無言でルッキーニの手を掴んだ。
 普段より強く、離れないように強く。

ルッキーニ「いこっ!」

 ルッキーニも私の手をしっかりと掴み駆けだす。

シャーリー「よし、競争しよう!」

 少し遅れてシャーリーも駆けだす。

ルッキーニ「シャーリーずるい! ほら私ももっと早く早く!」

 笑いながら走る二人を見て私は思う。
 多分、私は出会ったときから決めていたのかもしれないと。
最終更新:2013年02月02日 14:26