ビショップ家の俺執事


バレンタインデー番外編…





1944年9月、ガリア全域でネウロイの消滅が確認され、第501統合戦闘航空団"ストライクウィッチーズ"は大役を終え、解散した。

私はみんなとお別れをしてから、一時的に戦線を退き、ペリーヌさんと一緒にガリアの復興を手伝っていた。

復興は決して順調と言うわけではなく、そこらかしこに転がった瓦礫や何かの残骸を見ては、ネウロイの傷跡を痛感させられる。



ペリーヌ「リーネさん、少し休んだほうがいいですわよ」

リーネ「いえ、まだ大丈夫です!これが終わったら休憩します」

ペリーヌ「あまり無理をなさらないように。リーネさん、後でちょっとおはなしがあるのですけど、いいかしら?」

リーネ「えっ?あ、はい!全然かまいませんよ」

ペリーヌ「では、さっさと終わらせてしまいましょう」



最初はペリーヌさんは苦手だったけれど、今となっては仲がいい。
これもきっと芳佳ちゃんのおかげだ。
そういえば、今は扶桑に帰ってるのかな……。元気でいるといいなぁ。




今は1945年2月12日の昼。毎日瓦礫除去作業、運搬、建造を繰り返す毎日だ。

ウィッチなので魔法力を使えば重いものでもお手のもの。

しかし、進行度は著しい。蝸牛が地面を這う速度と同じくらいだろうか。



私たちは二人でガリアを歩きまわり、各地の復興作業を手伝っては、また違う場所へと移動していた。

本来はブリタニアのほうに戻らないと行けないのだけれど……家の方には説得して許してもらえ、ここで残ることができました。



……でも説得できたのは自分の力だけじゃなくて、ある人の力を借りたからだ。




ペリーヌ「みなさんも休憩してくださいまし!一時間半後に再開しますわ」

リーネ「じゃあ私たちも休憩しましょうか。今日も私がランチを作ってきたんです」

ペリーヌ「あ、ありがとうございますわ。そういえばリーネさんは料理などお上手ですわね」

リーネ「芳佳ちゃんに比べたら全然だよ~……。これは、ある人に教えてもらったの」

ペリーヌ「ある人?」モグモグ

リーネ「俺さんっていう執事さんに教えてもらったの。他にも色々教えてもらったけど……」モグモグ

ペリーヌ「その執事は今どこにいらっしゃるのですの?ここに来て手伝ってくれてもよろしいですのに」モグモグ

リーネ「うーん、今どこにいるかわからないんだー……。でも私がガリアに残るってことをお父様とお母様に渋られたときに助けてくれたの」

ペリーヌ「あら……それはすみませんわ……」

リーネ「う、ううん!私が自分の意志で残っただけだから!まぁそれを俺さんも一緒に説得してくれて……」



ペリーヌ「普通の執事なら家の事や身の安全を考えて、そんなことを言わないでしょうに。なついてますわね」

リーネ「えへへ~、優しいんだ~。私が小さい時からずっと一緒で、いつもお世話になってて」

ペリーヌ「ここについてこなかったのはなぜですの?一緒ならいてもおかしくはありませんのに」

リーネ「私が一人でやりたいって言ったら、それを聞いてくれたんです。……あ!ペリーヌさんごめんなさい、話があったんですよね?」

ペリーヌ「あ、え、ええ。今日が何日か知っていますの?」

リーネ「確か2月12日でしたよね?」

ペリーヌ「そうですわ。明後日は世間ではバレンタインデーとなっていますわ。そこでみなさんもこういう復興作業ばかりでは疲れてしまうのでなにかお菓子でも贈ろうと思いまして」

リーネ「それいい案です!」



ペリーヌ「それで、その……さすがに市販品を買っては費用がかさむものですから……材料を買ってきてつくろうと思うんですの」

リーネ「うん!それいいと思うよ~、私も手伝っていいかな?」

ペリーヌ「お、お願いしますわ。むしろリーネさんに作り方を教わりたいんですの。お、教えてくれせんこと……?」

リーネ「うん!いいよ!……バレンタインデーなんだよね……私も俺さんに贈りたいな~……」

ペリーヌ「では一緒につくって差し上げましたら?そして家の方に送っておけば届くのではないかしら」

リーネ「あ、それじゃあお父さんやお母さんにもつくろうかな。……いつもは俺さんがつくってくれてたんだけど、今回は私が作ってみよっと♪」


ペリーヌ「いい心意気ですわ。では、今日の復興作業が終わったあとに買いに行きましょうか」

リーネ「うん!」




小さいときは俺さんにねだってただけど、もう大きくなったし、感謝の気持ちを込めて贈ろう!

うん!あ、で、でも出来の悪い物送れないよ~……。

ち、ちゃんとがんばって作って、おいしくたべてもらうんだから!




……俺さん、会いたいなぁ。ブリタニアにいるころはいつも一緒だったから、ずっと会ってないとなぜか寂しいな。


ペリーヌ「リーネさん、顔赤いですけれど大丈夫ですの……?」

リーネ「う、ううん!大丈夫だよ!うん!大丈夫!」アタフタ

ペリーヌ「え、ええ、わかりましたわ。それにしてもこのサンドイッチおいしいですわね」

リーネ「あ、よかった~。それね―――」






現在、オラーシャ、東部戦線にて俺はあごに手を軽く当て考え事をしていた。寒い風が髪をふわりと凪ぎ、冷たい雪が肩に落ちる。


俺「ふむ、明日はバレンタインデーですね……。どうしましょうか……」



いつもはチョコレートやケーキ、クッキーなどお菓子系を贈っていましたね。ああ、あとは花も。

しかし、現在お嬢様はガリア地方で復興作業中。

そして私はオラーシャに旦那様の私用で付き添ってきているため、距離的に遠いというのが現状ですか……。



俺「(別に私だけならガリアまですぐにいけるのですが……。旦那様を置いていくわけにもいかない)」


どうしたものか……。それに市販品を買ってお嬢様にさし上げるなど言語道断なことはしたくはありません。
となると手作りしないといけませんね。

材料はここオラーシャ内部の方だと手に入るので大丈夫なようですが……。



リーネパパ「おーい、俺くん。待たせてすまないね」

俺「いえ、全然かまいません。旦那様そのお荷物お持ちいたしましょう」

リーネパパ「ああ、すまないね。オラーシャは寒いがいいところだな。なかなか美しいじゃないか、ブリタニアには及ばんが」

俺「そうですね。雪景色がこれほど壮大に感じる場所も珍しいですね」

リーネパパ「ブリタニアには及ばんが」



俺「……さて、このあとはどうなされるのですか?」

リーネパパ「ん?ああ、私の用事はこれで済んだよ。これから執事長も含め、帰路へとつこうかと思う」

俺「わかりました。すぐに海船までの車を手配します」

リーネパパ「ああ、いいよ。俺くんはしなくていい」

俺「……では、なにをなさればいいのでしょうか?」



リーネパパ「君には何をおいても優先せねばならないことがあるだろう。それをしたまえ」

俺「申し訳ございません。その優先事項というのは旦那様をブリタニアまで安全に護衛することだと、思っているのですが……」

リーネパパ「ふふふっ、明日はバレンタインデーだ。君には我が娘にプレゼントを送り届けてもらいたいのだ。もちろん君自身のもね」

俺「で、ですが護衛は!」

リーネパパ「ボディーガードがいる。大丈夫だ。それより私は娘のほうが心配でね。俺くんには娘の顔を見てくると共にプレゼントしてきてほしい。
        私の言いたいことがわかるかね?」

俺「……私がリネットお嬢様のところに行き、"見つからないように影からこっそりと"お顔を窺い、プレゼントを置いてくる。
  そしてそのまま帰路につく、ということですね」

リーネパパ「流石俺くん、察しがいい。あの子も独り立ちしている頃だ。ガリア復興に一人で尽力するのもよい経験となる。
        だからこそ私たちが顔や手を出してはならぬのだ」

俺「親心、というものでしょう。旦那様の心意気、見事でございます」



リーネパパ「うむ。では、これをたのんだぞ。俺くんは、今回なにを贈るのかね?」ガサガサ

俺「いえ、未だ思案中です」

リーネパパ「そうか。まぁあの子は君からもらえるものはなんでも喜ぶだろう。これは私と妻からのプレゼントとして贈ってくれ」

俺「了解しました。完璧にこなしてみせましょう」

リーネパパ「頼んだぞ。リーネの顔が愛しくても顔をみせないようにな」

俺「ふふっ、肝に命じておきます」


リーネパパ「では、行き給え」

俺「イエス、マイ・ロード」



そう言ったとたん俺は魔法力を解放し、その瞬間リーネパパの目の前から消え去った。

残ったのは足あとがついた雪のみで、また寒い風が吹きすさび、それが一層俺が消えたことによる寂しさを醸し出していた。






戻ってガリアのリーネ。


明日がバレンタインデーなので今日はチョコレートを作っています!
なんでもチョコレートには疲労回復やリラックスさせたりする効果があるそうです。


毎日働いている人は、お疲れになるでしょうからちょうどいいとペリーヌさんと一緒に決めました。




リーネ「えっと、ここはガリアでもあるのでロシュ、というものをつくるそうです。意味はなんでも『岩山』というそうです」

ペリーヌ「誰に話しているんですの……?あとは軽いケーキでも作っておきましょうか。早く作りましょう」

リーネ「はい!」
と作業を開始。


私たちがどこで作業をしているかなんて小さなことですから、言いません。
ウィッチでないため日頃力仕事をできない女性の方も男性に感謝したい、ということで手伝ってくれることになりました。

そして私は俺さんの分も含めてつくることにしています、ものすごく気合をいれて。




ペリーヌ「それが俺さんにあげるものなんですわね。……結構こってますわね」

リーネ「もちろんです!俺さんに食べてもらいますから!」

ペリーヌ「妙に気合がはいってますわね……。リーネさんは俺さんのことが好きなんですの?」

リーネ「え、ええ?!あ、そ、その!す、好きと言われればそうですけど……///」

ペリーヌ「その慌てようだと、そのようですわね。だったら、技術に富むものより、愛情が伝わるものにしたほうがよいのでは?」

リーネ「え?」

ペリーヌ「リーネさんが渡したいのはそういうものなんでしょう。それにバレンタインデーはそういう日でもありますから、いいのでは?」

リーネ「そ、そんな私の気持ちが知られたら……うぅ……///」



ペリーヌ「はぁ……とりあえず技術より愛情を込めたほうがいい、と私のおばあさまも言っておりましたわ」

リーネ「おばあさまですか……。……そうですよね、うん、やっぱりもっと簡単なのにしてメッセージカードでもつけます」

ペリーヌ「ふふっ、そのほうがいいですわ。おとなしいあなたらしくて。あ、別に悪い意味ではありませんのよ!」

リーネ「ふふ、わかってますよ、ペリーヌさん。ありがとうございます」

ペリーヌ「べ、別にたいしたことじゃありませんわ!///」



そういうことで私は俺さんにはチョコレート・ブラウニーを作って色々とメッセージカードに書いておきました。

お父さんとお母さんには、クッキーとチョコスコーンを作りました。






……でも俺さんには手渡ししたいなぁ。








一方、俺



俺「ふぅ……こんなものでしょうか。……いや少し凝り過ぎでしょうか?」


ある場所を借りてお菓子を作製。あとはタオルと新しいネクタイも買っておいたところです。

そして現在工程中。机の上にあるのはバラの形をしたチョコレート。

それにダックワーズ(レモンピール入)にオレンジ・ガトーバスク、ショコラスフレ(ナッツ入)を作ったが……。

あとなにか花がほしいと考えていたので作ったのだ、妙に凝った物を。




しかし問題がある……それは、リネットお嬢様が受け取るまでにチョコが溶けてしまうこと。

それだけは絶対に避けねばならない。



一体どうしたものか。



俺「……だが……リネットお嬢様の笑顔のためなら……この私、不可能を可能にさえしてみせましょう」

俺「幸いここはまだオラーシャ、雪と氷ならいくらでも手に入りますね。あとは……メッセージカードも添えて」



ふむ、あとはどうやって隠れてリネットお嬢様に渡すかが問題となるわけですね。
ここはある意味、私の技量の見せどころ……。

ガリアの方までは魔法力を使って走っていけば30分以内につけますね。






だが……お嬢様にはできれば手渡ししたい。




ああ、でも会ってしまえば別れるのも辛いですし……言いつけもありますから、いけませんね。



でも……。







今日はバレンタインデー……朝から張り切って働くみんなは、なにをもらえるのか知っているようで、一段と気合がはいっています。

今日の分のノルマはあっさり越えてしまいそうで、皆で楽しめる時間が増えそうです。




リーネ「ペリーヌさん、この木の板どうすればいいんですか?」

ペリーヌ「それはあそこの学校の修復をおこなうのに使いますから、そこにお願いしますわ」

リーネ「今日もいい天気ですね」

ペリーヌ「そうですわね……。ところでリーネさん、納得のいくものは作れたかしら?」

リーネ「はい!」



私はありったけ元気を込めた笑顔で返事をした。

自分でも納得のいくものがつくることが出来、さらにメッセージカードも入れたのでバッチリです。

あとは俺さんに届けるだけ。



う~ん、でもこっちに来てくれないかな……。



あっ。

いけないいけない、そんなことばっかり考えてちゃいけない!

今日もがんばらないと!





―そして、時間が経ち、夕方……。



真っ赤な太陽からでる光は壊れた街を照らし出し、今日の労働の終りを告げようとしていた。
一陣のかぜがぴゅうと吹き、三つ編みした髪を揺らす。




……俺は来ない。



当然と言えば当然だ。

このガリア復興には、自分で一人でやると言って、俺を置いてきたのだから。



しかし。

その約束を律儀に守ってくれている俺へのありがたい気持ちと今この時来てくれない寂しさと残念さが同時に胸に染みる。




リーネ(結局……俺さんはやっぱり来ないのかな……)


小さな岩場に座って、膝を抱え込んでは自分の隣に置いてある小さな箱を見る。


リーネ(俺さんにせっかく作ってカードも入れておいたのに……)


むーっと唸っては眉をしかめ、指を何度も交錯させてはほどき、ここに来る約束をしてもいない俺をただ待っていた。
しかし赤い夕日は、少女の悩みも気にも留めず、ただ刻々と沈んでいく。





リーネ(そうだ!いつものように指を鳴らせばきてくれるかな……?)


ふっと思い出が頭の奥底から蘇る。
自分の家にいた頃、俺に優しく告げられたことがあったことがあった。



回想―…


俺「いいですか、リネットお嬢様。もしリネットお嬢様が危険に陥ったり、困ったことがあったり、用があったりするときは遠慮せずに指を鳴らしてください」

リーネ「指、ですか?」

俺「はい、こうやって」パチン

リーネ「えっと……えいっ!」パシッ

俺「おや、ふふ。練習せねばなりませんね」

リーネ「うぅ……///でも、鳴らしたらどうなるんですか?」



俺「リネットお嬢様がどんな場所にいようとも、どんな時でも、何をしていても……」

俺「私が風の様に一瞬で駆けつけます。そしてお嬢様のためにすべてを解決してみせましょう」

リーネ「え、えっと///あ、ありがとうございます」

俺「私はお嬢様とともにありますから」ニコ

リーネ「あぅ……」

俺「では、そろそろティータイムにしましょうか。テラスの方へどうぞ」

リーネ「は、はい!」




リーネ(指を鳴らす……。でも、遠くにいたら普通届かないよね)




リーネパパ「俺君、今日はあれだ、アップルパイが食べたいのだが」

俺「奥様がお作りなられているようでございますから、楽しみにしてください。今日はハーブティーです」

リーネパパ「ありがとう」




リーネ(一瞬で、かぁ……。なんかお話にでてくるナイトみたい)



俺「リネットお嬢様?」

リーネ「あ、はい。私もハーブティーでお願いします」

俺「かしこまりました」



回想終わり―……






リーネ(今でも信じられないな~。でも井戸に落ちたときは駆けつけてくれたっけ……)

自然と頬が緩む。

リーネ(た、試してみようかな……。でも、特に大した用事でもないし……)




そろそろ日が沈み顔を隠す頃だ。扶桑でいう逢い魔が時の時刻、遠くのほうはもう霞んで見えにくい。

夜はすでに近づき、休息の時間へとあらゆる人々を星の瞬きとともに連れ去ろうとしている。




リーネ(ちょっとだけ試してみようかな……。たぶん……届かないし、これないよね……うん)




少しばかりの少女らしい葛藤が終わり、決心を生み出す。

結んだ指を解いて、手を顔の高さまでゆっくりと持ち上げ、散々練習した自分と俺だけの秘密の約束を今使おうとする。



さすがに来ないか、という念から苦笑いをするが、もしかしたら……という期待に胸も膨らます。

そして、世界はその音だけを待つように、静寂した。





―――パチィン……





練習に練習を重ねた約束の音は、ただ響き渡った。







だが……また静寂が訪れただけだ。






リーネ(やっぱり来ないよね……。これは家に届けてもらおっと……)


胸を寂寞感が占める。





立ち上がった時、強く、何かを吹き飛ばすように風が背後から通り過ぎ、自分の前へと過ぎ去っていった。





そして同時に聞こえたのは、砂を踏む音。





リーネ(え……?)





背後から気配がする……そう、懐かしい気配。

……きっとその人は私の後ろで微笑んでいる、不信半分で指を鳴らした私を。



そして今度は優しい風が声を運んできた、じわりと滲むような声を。





?「リネットお嬢様、ただいま参上いたしました。どうかなされましたか?」




リーネ「お、俺さん?」



恐る恐る振り向いていくが……俺は顔を仮面で覆い隠している。なぜ?

でも、心の奥から喜びが溢れてくる、今私はどんな顔をしているだろうか。

ちょっとだけうれしさと驚きで涙目になってしまった……。





リーネ「お、俺さん?なぜ……仮面なんですか?」

俺「旦那様にリネットお嬢様に"顔"を見せるな、とおっしゃられておりますので、こうやっている次第であります」

リーネ「……ふふっ………ふふふふふふっ、変な俺さん。……来てくれてありがとうございます」

俺「リネットお嬢様との約束ですから。いつでも、どこでも参上いたしましょう。今日はどうなされましたか?」




リーネ「あ、ああ、ええっと!こ、これです!受け取ってください!」

俺「これは……?」

リーネ「今日はバレンタインデーですし、いつもは作ってもらってばかりで悪いですし……。日頃の感謝もこめて受け取ってください!」

俺「……ふふっ、こんな私にくださるなんて、光栄の至り。誠にありがとうございます。ぜひ受け取らせていただきます」

リーネ「えへへ、渡せてよかった~。家の方に贈ろうかと思ってて、でも手渡ししたくて」

俺「なんという御心、ありがとうございます」

リーネ「来てくれてありがとう、俺さん」




にこにこと笑みがこぼれてしまい、変な子に思われないだろうか、気持ちがばれないだろうか。

仮面で隠してしまっているけど、いつもの優しげな笑顔は簡単に思い浮かんでしまうあたり、自分でも流石と思ってしまう。




俺「私からも、リネットお嬢様にプレゼントがあります。もちろん、旦那様と奥様からもです」

リーネ「ほ、本当ですか?」

俺「嘘などいいません。では、どうぞ。これは旦那様と奥様からです。中は存じません」

リーネ「ありがとうって伝えておいてください。あ、これを私もお父さんとお母さんにお返しというか、えっと渡しておいてください」

俺「かしこまりました。そして、こちらは私からです。大したものではありませんが……」



きれいに包装された3つの箱を受け取った。
相変わらず律儀だなぁ……。




俺「この青い箱はタオルが入っております。日中汗が出ることも多々あるでしょうから、よければお使いください」

俺「この赤い箱はネクタイを入れております。リネットお嬢様に合うようなものを選んだつもりです。ですがお気に召さなければ―――」

リーネ「つけます!ぜひ、明日からつけさせていただきます!」


俺「え、ええ、ありがとうございます。最後にこの白い箱は、色々とお菓子を入れております。ビターなものもスイートなものも作っておりますので
  皆様と一緒にお召し上がりになってくださっても結構ですし 親しい人と密かに雑談に華を咲かせながらお召になってもよろしいと思います」

リーネ「ふ、ふとっちゃいそうです……」

俺「一応低カロリーには仕上げております、が食べ過ぎないように」

リーネ「わ、わかってます!///」

俺「それと……どうぞ。リネットお嬢様」

リーネ「わっ……ありがとうございます」




後ろに隠された手から、私の前に出されたのは二輪の花。

一つは、一輪の美しく開いた真っ赤な真っ赤なバラの花。

もう一つは、一輪の……チョコレートで作った、本物にさえ劣らないであろう完成度高い、精巧なバラの花。



そして、From Your Valentineと書いた小さな紙を刺し添えて。




俺「花束、というのも考えたのですがこういうところでは邪魔になるかと思ったので、こうしたんです」

リーネ「……本当に、ありがとう、俺さん。素敵なプレゼントです」



チョコの花には、愛しのリネット様、と小さく書いてあるのを見て、私は感動してしまいどこかへ意識がぽんと飛んでいってしまった。

そして、たぶん顔が真っ赤なのかな……いや、そうだと思う。



俺「お気に召したなら、私は天に昇る気持ちです。あんまり、お力になれないで申し訳ありません」

リーネ「そんなことありません。こうやって私の元に駆けつけてくれました。俺さん、本当にありがとう」

俺「そこまで言われると照れてしまいますよ。リネットお嬢様、旦那様には内密にお願いいたします」

リーネ「ふふっ、わかってます。これは私と俺さんだけの秘密です」

俺「ふふっ、ありがとうございます」



最後には、私の頭を撫でてくれて、髪をさわさわとしてくれました。

心地良かったから、手が離されたときは残念でしたけど……。




そして、隣り合って座ってつい最近の出来事や悩みとか面白かったこととかを一緒に話したりして……。

ゆったりと、満たされるような時間を過ごしました。

やっぱり私は俺さんがいないとだめだなぁって思ったりすることがあって……でも、素直に言えませんでした。




最後に、俺さんは私にがんばってくださいと励ましをくれ、なにかあればいつでもお呼びください、と言い残してふっと消えてしまった。

また風と共にきて、風と共に去っていってしまいましたが……。







今日はとっても満足のいく日でした。

俺さんはお父さんとの約束を破ってまで、来てくれて……とても嬉しかったなぁ……。



ありがとう、俺さん。言葉なんかじゃ足りないけど。

そして―――。



明日からまたがんばります!


家で待っててくださいね。






ビショップ家―…



俺「俺、ただいま戻りました。このたびは旦那様の心遣い、誠にありがとうございます。この私、感激でございます」

リーネパパ「ははは、満足したならそれでかまわんさ」

俺「そして、リネットお嬢様からこちらへと届いておりました。中を確認したわけではありませんが、リネットお嬢様がお作りになったお菓子かと」

リーネパパ「なんだと!?は、はやくそれをこちらに!」

俺「どうぞ、旦那様。焦らずにお召し上がりになってください。すぐにティーを用意いたします」

リーネパパ「ああ、頼んだぞ!今年はウィルマと妻からしかもらえなかったんだが、いや、よかったよかった!」

俺「旦那様が羨ましい限りです」




リーネパパ「それはそうと、言いつけは破ってないか?」

俺「ええ、もちろんです。"顔"は見せておりませんし、手伝ってもいません。では、ティーを用意いたしますのでお待ちください」



ガチャ……パタン……



リーネパパ「……ふふっ、今日はなんという日だ。娘たちバンザイ!うわははははははははは!」





廊下を歩きながら、笑顔が漏れてしまい、少し変態とは思われてしまうのではないかと考えてしまう。
しかし、顔を引き締めようとしても、リネットお嬢様の顔を思い出してしまうとたちまちのうちに戻るのである。


仕方なく、そのまま歩いていると、帰ってきていたウィルマお嬢様に笑われてしまった。



リネットお嬢様との別れ際は胸が切り裂かれるほど辛かったものだ。



俺(また、すぐにでも会えるさ。私もしっかりせねば)


そう思い、廊下窓に映った自分の顔を見つめ、目をぐいと意識的に持ち上げる。





……だが、すぐに戻ってしまった。


もういいか、今日はこのままリネットお嬢様のことを考えながら過ごすとしよう……。






でも、バレンタインデーには、本当に感謝ですね。





終わり



最終更新:2013年02月02日 14:42