―――数日後、花火部屋
エーリカ「それでさ、トゥルーデにはクリスちゃんっていう可愛い妹がいるんだけど…」
花火「待て待て待て待て、何から突っ込めば良いんだよ」
エーリカ「え…女の子を自室に連れ込んで突っ込むって…」
花火「ちげえよ! だー糞! 調子が狂う!」
エーリカ「でもまぁ突っ込むなら遅いよね、乗り突っ込みならベターだけど」
花火「糞…冷静になるんだ俺……スーハースーハー…おい、勝手に人の部屋に入んじゃねえよ」
エーリカ「そのセリフはこれで十回目だね」
花火「畜生! 何なんだてめえは! さっさと出てけ!」
エーリカ「そのセリフは三回目」
花火「…」
エーリカ「ありゃ、黙っちゃったよ…ってうわぁ何すんだ」
花火「…」ガチャン
エーリカ「無理やり追い出されちった」
バルクホルン「おい、ハルトマン。貴様またあの男の部屋にいたのか?」
エーリカ「んー? まあね」
バルクホルン「…あいつはあまり信用するんじゃない…も、もしお前が襲われでもしたら…」ボソボソ
エーリカ「えー? なになに?」
バルクホルン「な、何でもない! 訓練だ!」
エーリカ「え゛ートゥルーデおーぼー」
バルクホルン「うるさい! 行くぞ!」
花火「…行ったか」
花火「糞、何なんだあいつは…訳分かんねえ…」
花火(この十日間…あいつは何度も俺の部屋に忍び込んでは何事も無いようにペラペラと…)
花火(俺じゃ無かったら既に襲ってんぞ…)
花火(ってちげえよ、糞っ、しっかりしろ俺…)
エーリカ「あ、そうそう忘れてた!」
花火「うおわ!?」
エーリカ「ミーナがブリーフィングルームで話があるから集まれってさ」
花火「あ、ああ、分かった」
―――ブリーフィングルーム
ミーナ「皆集まってる?」
エイラ「どうしたんだ~? まだ朝も早いってのに…」
サーニャ「zzz…」
ミーナ「今から説明するわ」
ミーナ「…先日、アドリア海にて扶桑の艦が襲撃され沈没しました」
宮藤「ふ、扶桑の?」
ミーナ「私も詳しい事はよく知らないけど…本題はそこじゃないわ」
バルクホルン「どんなネウロイに襲撃されたのか、だな」
ミーナ「ええ、その通りよ」
シャーリー「アドリア海の巡回航路ならウィッチの支援もそこまで時間掛からないし、襲撃したネウロイは手強かったんだろうな」
ミーナ「実は前から似たような事がいくつかあってね、襲撃された艦の状態、乗組員の発言からも同一のネウロイで間違いないわ
それに、これを見て」パシャ
バルクホルン「これは?」
ミーナ「襲撃された海域と時間よ」
ペリーヌ「…徐々にこの基地に近づいてきてますわね」
ミーナ「そう、おそらくそのネウロイの狙いはここ、501よ」
坂本「…しかしそれならわざわざ艦を襲う必要は無いと思うが」
ミーナ「それについては…私もよく分からないわ」
花火「…余裕」
シャーリー「え?」
花火「何か余裕があんじゃねえの、艦を襲っても絶対に倒されない余裕みたいなもんが
そのネウロイの詳細ってのはよ、実はまだ今ひとつ掴めてねえんじゃねえのか?」
ミーナ「…ええ、そうよ」
花火「ハッ、やっぱそうか」
ペリーヌ「でも、ネウロイに余裕なんて感情があるんですの?」
花火「知るか、けど興奮とかそんな感じの感情は持ってんだろ、多分」
坂本「…まぁどんなにネウロイに余裕があっても、私達に倒せないという事はない」
花火「んなもん大前提だろうが」
ミーナ「…とにかく、そのネウロイは近いうちにここを襲来します。皆も常にネウロイに備えておく事、分かった?」
「「「はい」」」
ミーナ「…それでは、解散して良いわ。後、花火大佐はここに残りなさい」
花火「んだよめんどくせえな」
ミーナ「悪いわね、残しちゃって」
花火「さっさと用件を言え用件を」
ミーナ「…それじゃあ…あなたの原隊はどこだったかしら?」
花火「ああ? 扶桑皇国海軍遣欧艦隊第三○○航空戦隊って報告書に載ってなかったかよ」
ミーナ「そこで間違いないわね?」
花火「ああ」
ミーナ「…さっきの集会で扶桑の艦が沈没した、って私言ったわよね?」
花火「…」
ミーナ「その艦は…実はあなたの原隊なのよ…」
ミーナ「それで…その艦に乗ってた乗組員は皆…その…」
花火「…死んじまったってかぁ?」
ミーナ「…」コクリ
花火「はぁん…呆気ねえな」
ミーナ「それで…その艦の人の葬儀が…」
花火「いい」
ミーナ「へ?」
花火「…んなもん、行くだけ時間の無駄だ」
ミーナ「行かなくていいの?」
花火「ああ、むしろあの糞艦長がいなくなって清々した」
ミーナ「…そう」
花火「んな事より、例のネウロイ。それが来た時は俺を出せよな」
ミーナ「…」
花火「聞いてんのか」
ミーナ「…今回だけは特別よ」
花火「ハッ、そりゃどうも」
―――バルコニー
花火「…呆気ねえな」
花火(あの艦の奴らはどいつもこいつも屑だった…俺含めて)
花火(特に艦長なんかは…死んだ方が良かったのかもしれない)
花火(なのに、俺は……もしかして悲しいのだろうか)
花火(それに艦長のあの機会の意味…結局俺には…)
―――――――――
――――――
―――
「てめえまたウィッチに怪我させたろ」
「悪かった」
「ったくよぉ、てめえ自分の立場分かってんのか? ああ? 誰がこの艦てめえのために動かしてやってんだと思ってんの?」
「…悪かった」
「たしか二年前だったか?
アフリカの星とドンパチやった時からてめえは馬鹿みてえに暴れやがって」
「…悪かった」
「てめえそれだけしか言えねえのか? いくら階級が大佐だからって俺は容赦しねえぞ?」
「…」
「おいおい…今度はだんまりかよ、いいご身分だねぇ大佐って」
「…あんまり調子乗んじゃねえぞ」
「はあ? だーれが俺の娘に一生消えないようなでっけえ火傷させたんだっけなあ…」
「そ、それとこれは…」
「なんにも違わねえよ屑。またそうやって暴力で解決しようとしてんじゃねえか」
「…」
「あ゛ーホント屑だわ。五年間艦に乗っけてきてどこで間違えたかなぁ?」
「…」
「…まぁそれより、実は前から言いたかった事があんだわ」
「…何だよ」
「てめえってさ、飛べなくなった後どうすんの?」
「…」
「てめえのウィッチとしての実力ってすげえよな。超すげえ。まさに選ばれたモンって感じ」
「…」
「そいつをさぁ、上がりってモンは全部持っていっちまうんだよ。扶桑男児なら恐えだろ?
もう一生ネウロイと戦えなくなんだよ。てめえより年下の譲ちゃん達が飛んで戦ってんのを指咥えて見てなきゃなんなくなる訳」
「たしかに…上がりは恐い」
「だろぉ? 特にてめえならその恐怖が痛いくらい分かんだろうがよ」
「…それで、お前は一体俺に何が言いたいんだ」
「実はよう、てめえに転属命令が来てんだわ」
「転属? 今頃?」
「ああ、今頃な。何でか分かるか?」
「…」
「…んまぁ簡単に言えば俺がてめえを上層部に売ったからなんだわ」
「な、何でそんな事…」
「間違いなくてめえは転属した部隊にいる間に戦えなくなる。悪けりゃ飛べなくなる」
「…」
「あれだ、てめえなりのケジメをあっちでつけて来いっつってんだよ。俺なりのプレゼントだ」
「…わけが分からない」
「んーまぁ一番の理由はてめえを売れば俺の地位が上がるっつう事なんだけどよ」
「…」
「ま、そういう訳で、いますぐ準備して艦から降りろ。地図やっから一週間以内にはあっちに飛んでけ」
「…分かった」
「オッケイ、じゃあな害悪。二度と俺の前に現れんじゃねえぞ」
「…最後に一つ聞きたい」
「あんだよ」
「艦長は…俺の事どう思ってる」
「嫌いに決まってんだろ、早く死ね」
「……そうか」
―――
花火(糞…何がしたいんだよ俺は…)
花火(伏線でも良心でも何でも無え、もう死んだ人間の事なんざ考えんじゃねえよ俺)
花火(この機会の意味をずっと考えてやっと答えが見つかったんだろうが…それをもう一度よく思い出せ…)
花火(…そうだ、花火。覚悟を決めろ)
花火(俺は…俺らしく…俺のために…)
ウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ
花火(全部、終わらせるんだろうが)
―――空
サーニャ「目標は『例のネウロイ』で間違いないと思います、後五分程で接触します」
ミーナ「分かったわサーニャさん、有難うね」
サーニャ「いえ」
ミーナ「…花火大佐」
花火「何だ」
ミーナ「出撃は許可しましたけど、勝手な行動は許しませんからね?」
花火「言われなくても分かってる」
ミーナ「そう…」
花火「…」
ルッキーニ(うじゅー…何だかやな空気)
宮藤(何だろう…この大佐から感じる雰囲気…一度どこかで…)
エーリカ「はーなび」
花火「何だ」
エーリカ「キミ、いつになく怖い顔してる」
花火「気のせいだ」
エーリカ「そうかなぁ…無茶しないでよ?」
花火「分かってる」
エーリカ「…ならいいけどさ」
坂本「ネウロイを確認、小型機が…ざっと百機程だな」
宮藤「小型機だけでも百も…」
坂本「『例のネウロイ』は…小型に囲まれてまだ見えんな」
バルクホルン「どうする?」
ミーナ「まずは小型から片付けましょう。バルクホルン隊は…」
花火「待て」
ミーナ「どうしたの? 花火大佐」
花火「あいつは俺一人で片付けたい」
ミーナ「…そうしないと、何か都合の悪い事でもあるの?」
花火「あの程度の小型機、俺なら一掃出来る。だがお前らが居ると全力を出せん」
ミーナ「…そう」
バルクホルン「おいミーナ! 行かせるのか!?」
ミーナ「…花火大佐」
花火「…」
ミーナ「小型機を撃墜したら此処に戻ってきなさい。『例のネウロイ』は私達も一緒にやるわよ」
花火「ああ」
ミーナ「いい、絶対に一度此処に戻ってくるのよ? もしそれが守れないようなら…分かってるわね?」
花火「…分かってんよ」
花火(そう言えばあいつらに
初めて会ったのもこんなにいっぱいネウロイがいたっけな…)
花火はネウロイの大群に近づいて行った。
鉄パイプを握る片手が妙に震えている事に気がつく。それに何だか手汗も冷たく感じる。
花火(武者震い…だよな、この俺がビビってる訳ねえ)
手に力を入れる。
ネウロイが此方に気付き向かって来たところで花火は足を止め、鉄パイプを真っ直ぐ天に向けた。
少し顔を上げてみると、空には灰色の雲が広がり、今にも雨が降りそうな嫌な天気だった。
花火(…今日は曇ってんな、冷たい雨が降る前に、こいつ降らしとくか)
花火「―――ナイアガラ」
花火は上に向けた鉄パイプをそのまま百八十度下に振り下ろした。
すると雨のように、否、滝のようにネウロイの大群の真上から炎が降り注いだ。
たちまちネウロイは動きを鈍らせ、装甲は焼け爛れるように原型を崩した。
花火「一世一代のショーだ。ギャラリーはあいつらだけで十二分」
花火「だから邪魔者は…一匹残らずぶち殺してやんよ!」
鉄パイプを両手で握りなおし、ネウロイを砕きながらジグザグに『例のネウロイ』のいる中心部へと向かった。
純粋に楽しい。
ビームの熱気と飛び散る破片を肌で感じながらそう思った。
次々とすれ違うように放たれる死の中で、存分に生き、ネウロイを殺している。優越感に似た快感。
花火はすでに他のウィッチでは到底辿り着けない領域で、溺れていた。
花火「ハハハハハ!! 楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて仕方が無え! この快感は俺だけのモンだぁ!!!!」
宮藤「す、すごい…」
ペリーヌ「ほ…本当にあの数を一人で撃墜するつもりなんですの…?」
サーニャ「五十…四十…ネウロイの反応が…また…!」
坂本「まるで鬼だな…」
ルッキーニ「見ててすっごくヒヤヒヤする…シャーリー、花火大丈夫なの?」
シャーリー「…ああ、多分、な」
バルクホルン「滅茶苦茶な機動だな、何故奴はビームに当たらない…」
エーリカ「…」
花火「そろそろ姿ァ見せろよオラァ!!」
花火の体は近くにいるだけで熱気を感じるほどに熱く燃えていた。
握られた鉄パイプは最早真っ赤に熱せられ、傍から見るとまるで蛍光棒のようだ。
花火「ああ!?」
突如、『例のネウロイ』を守るように壁の役割をしてたネウロイ達が、真ん中にシュールな穴を開けた。
その穴から一瞬だけだが、ネウロイの姿を確認できた。
花火(あいつか…!)
四枚の平べったい細い板が、高速でくるくると回転しているのが印象的だった。
ヘリコプターのように見えたが、花火の想像しているヘリとソレは大きく異なっていた。
胴体の左右には四つのロケット弾のような形の物が取り付けられており、後ろに伸びるテールローターからは
ビームを発射するために赤くなっている装甲が、そして胴体の下部、スキッドの間からはその全体のシルエットを変えるほどの
大きなレイピアのような物が突き出ていた。
花火(おいおい…何かすげえ武装だな)
よく見てみると上部のプロペラ部分の先端にも赤い装甲が見えた。
あれなら三百六十度全ての方向にもビームを発射できるだろうな、と改めてその武装に関心した。
が、そんな余裕も次の一撃で粉砕される事になった。
花火「あ?」
下部の砲身からバチバチと、妙な音が聞こえた。帯電しているようだ、と花火は思った。
それと同時に花火の直感は何かを捉えた。
花火(何か…来る!)
それは一瞬の出来事だった。
一本の青白い閃光は花火の眼球の動きをも超越し、顔のすぐ横を通り過ぎた。
そしてその出来事の三秒後にあるのは、負傷した肩をおさえる花火の姿だった。
花火(な…!?)
傍から見ればまるで、ビーム自体が花火から避けているような錯覚に陥るほどの体感の持ち主でも、ソレは避けきれない物だった。
花火「…電気…だと?」
最終更新:2013年02月02日 14:53