――夜、司令室にて――
坂本「彼も大分この基地に慣れてきたな。」
ミーナ「えぇ。でも最初は本当に驚いたわ…まさか…男の人がウィッチーズの隊員になるなんて…。」
坂本「しかし、私の見る限り奴は相当な力を持っている。やはり珍しい男のウィッチなだけあって、魔法力も桁違いと言うところか。」
ミーナ「そうね…その魔法力のせいか、軍上層部も彼さんに注目しているわ。何か裏がなければいいけど……そうだわ、美緒。明日この基地に研究中だった新型のストライカーが届くそうよ。カールスラントの試作機で――」
――次の日の早朝、男性兵士用の共同寝室にて――
チュンチュン 俺「……んっ、もう朝か…」
目が覚める。他の隊員を起こさないように、俺はベットから下りて服を着替えた。今日もまた、いつものように雑用の作業だ。
あれから、彼と宮藤のやりとりを見てから、息苦しい日々へと変わっていった。
俺は宮藤が好きだった。でも、それはもう叶わない。
彼とは縮めることの出来ない差があるんだ。生まれついての才能も、力も。
俺には…絶対にできないこと……ばかりだ…。
ここにいたって、元の世界にいたって、どうせ俺は………
俺「……とりあえず、ランニングするか…。」
今の気分からして、今日は少し長めに走ろうかと思う。。
日課であるランニングのために、土手を走っていた時のランニングシューズに履き替えた。
俺「……よし。」
俺はドアを開け、外に出る出口へ向かって行った。
――ハンガーにて――
おじさん「おーい、俺ー。こっち来て手伝えー。」
出口へ向かう前に通りかかったハンガーで、おじさんが俺を呼んだ。
俺「どーしたんですかー。」
おじさん「新型のストライカーが届いたんでなー。ノイエ・カールスラントからだー。」
新型のストライカー?……もしかしたら…4話のジェットストライカーのことか?
俺はおじさんのいるところへ走って行った。
真っ赤なストライカーユニット、そして大きな武器が並べてある。
おじさん「Me 262 v1。どうだ?なかなかイカしてるだろ?どうやらレシプロとは違うタイプだ。」
俺「はい…。(やっぱりジェットストライカーだ…ってことは今は4話あたりまで時間が経過してるってことか…)」
おじさん「整備やチェックもしなくちゃならねぇ。ということで、今から言う整備道具とか機材とかを持ってきてくれ。」
俺「え……了解。」
最悪の気分だって言うのに…今日はどうやら走れそうにない。
俺はそのまま、おじさん指揮による作業に移った。
――整備終了後、ハンガーにて――
バルクホルン「いいや、私が履こう!」
シャーリーとバルクホルンが新型ストライカーをかけて言い争う。
ミーナ「また始まったわ…。」
坂本「しょうがない奴らだ…。」
ルッキーニ「…ぃいっちば~ん!」ガッ バルクホルン「おい!」 シャーリー「ずるいぞ、ルッキーニ!」
ハンガーの鉄骨の上で寝ていたルッキーニが飛び降りてきて、ジェットストライカーを履いてしまった。
しかし、ストライカーから電撃が流れ、すぐさま飛び跳ねる。
ルッキーニ「ギニャーニャニャニャ!ウジュジュ」ドン!バン!ダダダダダ…
バルクホルン「?」
ルッキーニ「なんかびびびってきたぁ~…!」
シャーリー「ビビビ?」
ルッキーニ「シャーリー…履かないで…。」 ルッキーニの頼みに、シャーリーは答えた。
シャーリー「やっぱ私はパスするよ。考えてみたら、レシプロでやり残したことがあるしなぁ。」
バルクホルン「フッ…怖じ気づいたな。まぁ見ていろ…私が履く!」
バルクホルンがストライカーを履き、魔力を発動する。キュイィィンと大きな音が響き、地面が震動した。
バルクホルン「どうだ!今までのレシプロストライカーで、こいつに勝てると思うか?」
シャーリー「なんだと!?」
ミーナと坂本が呆れて、エーリカがあくびをする。
宮藤「みなさ~ん!こんなところにいたんですかー?」
リーネ「朝ご飯の支度ができましたよー。」
彼「…って、何やってるんだ?」
言い争いの末、二人のストライカーでの勝負が始まった。
――夕方、ハンガーにて――
宮藤「夕食は肉じゃがですよ~!」
ウィッチ達がハンガーに置いてある机に集まって、夕食を食べ始めた。
シャーリー「んん~、私は料理のことはよく分かんないけど、宮藤の作る料理は何でもおいしいな!」
ペリーヌ「それにしても、どうしてこんな油臭いところで食事することになるのかしら…。」
エイラ「だから文句いうナ。」
サーニャ「おいしい…。」
彼「うん、すごいおいしいな。やっぱり宮藤の料理を食べると何か安心するよ。」
宮藤「え…えへへ…」///
エイラ「オッ、ミヤフジ顔が赤くなってるゾー。イイお嫁さんになれるんじゃないノカー?」
宮藤「え、エイラさんっ?!」///
ワイワイ ガヤガヤ
俺「……。(あっちは楽しそうだな……)」
夕食を食べているウィッチ達から離れたところに、食事を持った俺が突っ立ている。
おじさんがジェットストライカーの整備に掛かりっきりになってしまったため、俺は食事を運んできた。
俺「…本当にいいんですか?バルクホルン大尉、あんなにやつれちゃってますよ?」
カチャカチャと整備をするおじさんに話す。
おじさん「確かに、こいつはただ者じゃねぇストライカーだ。だが、バルちゃんの頼みといえば、断るわけにもいかんだろ。」カチャカチャ
俺「(バ、バルちゃん…)そう…ですか…。」
ここまでの展開からすると、きっとバルクホルン大尉は魔法力切れで墜落してしまう。
いや、しかし、本編では結果的に良い方向に向かうわけだし、下手に手を出して未来を変えるのは気が引ける。
今の俺がこんな状態だからって、ヤケになって展開を変えてしまったら、ウィッチ達や多くの兵士達に予期せぬ被害を与えてしまうかもしれない。それは駄目だ。
おじさんに食事を渡し、俺は頼まれていたドラム缶を外に置いてから、自分の作業に戻った。
――翌日、基地の外にて――
俺「やっぱり……!」
ジェットストライカーを履いたバルクホルンが、おかしな軌道を描いて海へ墜落する。
すぐさま救助が行われ、看護室へ運ばれた。
――ハンガーにて――
おじさん「おれのせいだ……おれがいくら大尉に頼まれたからって、危険なジェットを整備してなけりゃ…。」
おじさんが落ち込んでいる。ジェットストライカーが鎖で巻かれていた。
俺「ま、まぁ、大尉も無事だったことですし…」
そのうちまた大尉がジェットストライカーを使うことになりますし…。
その後、ネウロイの出現を伝える警報が鳴った――
――司令室にて――
ミーナ「目標は、ローマ方面を目指して南下中!ただし、徐々に加速している模様!交戦予想地点を修正、およそ」
坂本『大丈夫だ。こちらも捕捉した。』
宮藤、リーネ、彼の3名が司令室にて待機を命じられ、坂本、シャーリー、ハルトマン、ペリーヌ、ルッキーニの五人が出撃した。
坂本からの通信が聞こえた後、レーダーに映るネウロイの数が5体に増えた。
ミーナ「分裂した!?」
5対5の空中戦が始まり、シャーリーがコアのネウロイを狙う。しかし、苦戦しているため、坂本が増援を要求した。
ミーナ「リーネさん、宮藤さん、彼さん!」
――ハンガーにて――
バルクホルン「お前達の足では、間に合わん!」
3人が出撃しようとした時、目の前にバルクホルンが現れた。魔法力を発動し、ジェットストライカーの鎖を引きちぎる。
彼「何をしているんです!ジェットストライカーを使う気ですか!?」
彼がストライカーを履こうとしたバルクホルンの腕を掴んだ。
バルクホルン「離せ、彼!こうしている間にも…!」
彼「…今のあんたの体力じゃ無理だ。間に合ったとしても、また墜落するぞ!」
彼の顔が真剣になり、バルクホルンを説得する。
バルクホルン「しかし…」
彼「おれがジェットを使おう。」
3人がえっ!?と驚く。
バルクホルン「なっ…」
リーネ「でも彼少尉…そんなことをしたら…」
彼「罰なら受ける。それに、こいつを履くことに興味があったしな。」
宮藤「…彼さん……」 宮藤が心配そうに彼を見つめる。
彼「…この501で一番魔法力がでかいのはおれだ。心配すんな宮藤。無事に帰ってくるから。」
彼「……いくぞ!」キュゥゥゥゥン!
ジェットストライカーを履いた彼は、瞬く間に大空へ駆け上がった。
――待機室にて――
俺を含めた男性兵達が待機している。
俺「…ん?(あれは…ジェットストライカー?ってことはバルクホルン大尉が出撃したのか。)」
窓の外を見ると、ウィッチがものすごい速さで飛び立っていった。
あぁ、これでネウロイも倒せて、やっと蒸し暑い待機室から出られる…。
しかし、立ち上がりもう一度窓を見ると、妙な物が目に映った。
俺「えっ?…なんで……どういう…こと…?」
――司令室にて――
ミーナ「なっ、基地周辺に、大量のネウロイが発生!」
何処から発生したのかも分からない多くのネウロイが、基地の周りを囲みながら接近してきた。
坂本『なに!?』
ミーナ「(まさか、美緒達が撃墜に向かったのは…囮!?)基地にいる全ての隊員は護衛に向かって!私も出撃するわ!」
基地に残った6人のウィッチ達が出撃する。
二度目の警報がなった――
――基地の周辺にて――
兵士「武器を用意しろっ!」
兵士「くそっ、奴らこんなすぐ近くに…なんでいきなり出てきたんだ!?」
基地の周りはすでにネウロイに囲まれてしまっている。大勢の兵士が必死になって、ドタバタと走り回る。
どういうことだ!?こんな展開は無いはずだ。やっぱり、未来が変化しているのか……!?
バシュウウウン……ズドォォォン!「うがぁあ!」
ビームが降ってきて、ついに基地に当たってしまった。人の叫び声が聞こえた…巻き込まれたのか…!?
『…ザザッ…き、基地内の車両庫前方が破壊されました!これでは車両が……ザザッ』
兵士「くっ、小型のネウロイを狙え!」ダダダダ!
信じたくない光景が目の前に広がっていた。大量のネウロイが浮遊していて、しかも基地めがけて攻撃している。
俺「あの時と…同じ……戦……争……」
目の前に映る多くのネウロイに、俺は恐怖で立ちすくんでいた。
基地はずっと安全だから、安心していられる。雑用でもいい、あんな怖いものと戦うよりマシだ。ウィッチ達がなんとかしてくれる。俺は死にたくない。
本当はそう心の中で思っていた。
隠しても隠しきれない。ネウロイを倒したい、もし魔力があればと俺は自分に言っていたが、本心は違うんだ。
今すぐ…逃げ出したい…。
兵士「あ、あ、ウィッチがきたぞ!援護しろ!天使達に当てるなよ!」
6人のウィッチ達、昨日あんなに楽しそうに食事をしていた少女達がネウロイと戦っている。
俺「よ…よかった…。」
宮藤さん達だ…!自分の命が助かることに、安堵を覚える。
しかし…
バルクホルン「くっ!……手強い!」ガガガガガ!
バルクホルンが大型の裏へ回り込み銃弾を撃ち込むが、ネウロイの装甲が堅く、ダメージを与えられない。
ミーナ「トゥルーデ!近過ぎよ!あなたはまだ回復していないのよ!?」
バルクホルン「しかし、今は少佐達が戻るまで耐えなければ……!」
サーニャ「…っ!」バシュゥ バシュゥ ドカァァァン!
フリーガーハマーが命中し、堅い装甲がはがれた。
ミーナ「今よリーネさん!そこを狙って!」
リーネ「はいっ!」ダァン! キィン!
エイラ「弾いた!?」
ミーナ「再生速度が速い…!」
一度剥いた装甲がすぐに再生し、銃弾を弾く。これではコアを見つけるどころか、傷一つ与えることが出来ない。
攻撃を受けたネウロイが、怒ったように攻撃を激化させる。
大型ネウロイ「ピキィィィィィィ!!」バシュウウウン…
俺「ひっ…!」ビクッ
体勢を変えたネウロイが、俺達がいるところをめがけてビームを放つ。
目の前に赤い光が広がっていく……死ぬ……俺は目をつぶった。
宮藤「はぁぁぁあ!!」バシュウウウ!
目を開けると、そこには宮藤がいた。間一髪のところでシールドを張る。
宮藤「早く…逃げてください!」バシュウウウ!
俺「あ……あぁ……。」
そうだ…宮藤がビームを食い止めてくれている。いまのうちに逃げなくちゃ…助からない…!
しかしシールドを張っている宮藤の横に、小型のネウロイが接近し、ビームを発射しようとしていた。
俺「あ…危ない!」
叫んだときにはすでにビームが放たれていた。宮藤が横からのビームに気がつく。しかし、今シールドをずらしたら俺に当たってしまうことを、宮藤は分かっていた。
彼「宮藤ィィィィィィ!!」バシュウウウ!
その時、高速で飛んできた彼が、横からのビームをシールドで防いだ。
宮藤「彼さんっ!」
彼「悪い、遅れた。しかしこんなことになっているとは…」
俺は彼がジェットストライカーを履いていることに気がついた。そうか、バルクホルン大尉ではなく彼が…
彼と再会した宮藤の嬉しそうな顔が目に入った。苦しくなる。しかし…
俺「!…かっ、彼少尉ー!」
彼の真下にもう一体の小型のネウロイがいることに気がつき、とっさに俺は声を上げた。
だが、もう遅かった。
バシュウウウン!ズドォォン! 彼「うぁぁぁあ!」
ビームが右足のストライカーに命中し、彼が吹っ飛んだ。
被弾によりジェットストライカーの不良が更に悪化する。彼の魔法力を吸い、基地の後ろの陸地まで、不気味な軌道を描いて飛んでいく。木々が生い茂る森のところで見えなくなった。
彼が墜落した。
宮藤「かっ・・・…彼さぁぁぁぁぁんっ!」 宮藤が叫ぶ。
俺はその一部始終を見ていた。
墜落した彼と、泣き叫ぶ宮藤。嘘だろ……でも、だからって…俺がいたって…何も出来ないよ……。
俺は……怖くなって……逃げ出していた…――
俺「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ!!」ダッダッダッダッ…
さっきの光景で、俺の全身は恐怖で震えていた。どこかへ…どこか安全なところへ……!
基地の後ろへ走っていく。すると無線で聞いた、破壊された車両庫が見えた。俺はそのまま走って通り過ぎようとする。
そうだ、早く、逃げな――
「彼少尉はどこに墜落した!?」
「ここから約5kmのところです!しかし破壊された車両も多数で、車で救助に向かったとしても、目立ってしまいネウロイの的です!」
その兵士達の会話を聞いたとき、俺は立ち止まった。彼の話だ…。
彼が被弾した時、俺がもっと早くネウロイに気付いていればと自分を責めた。
でも……それと同時に心の奥底では、俺は喜んだんだ……。彼が、いなくなるって……。
そうすれば…宮藤さんはきっと……俺に……
………
彼が…彼が……いなくなったとしたら……どうなる……
『ネウロイの攻撃が激しすぎて…近づけないよぅ!』
『彼さんっ、彼さぁん!』
『駄目だ宮藤!今お前がいなくなったら誰がこの基地を守るんだ!』
『でもっ、彼さんが…彼さんがっ…!』
『嫌だよ…こんなのっ…彼さん…彼さぁん…!彼さぁん……!』
車両庫の無線機から聞こえてきたのは、戦っているウィッチ達の声と、泣き叫ぶ宮藤の声だった。
俺は唇を噛みしめた。
彼が…いなくなったとしたら…
宮藤から…宮藤芳佳から…笑顔が…あの笑顔が…消えてしまうだろう……。
それは分かっている。でも…
どうすればいい……俺は…それでも、それでもまだ逃げるのか?彼女を救えないのか?
……こんな俺でも…彼女を救いたいんだ。
悲しんで欲しくないんだ。
どうしても、笑っていて欲しいんだ。
俺は魔法も使えない。ネウロイと戦うこともできない。
なら……俺に…できること……できることは……――
俺「……彼少尉が…墜落した地点はここから5kmって言いましたよね…?」
兵士「?あぁそうだ、少尉が墜落したのはあの地点だ。」煙が上がっているところを指でさす。
俺「車両は使えないんですよね…?」
兵士「あぁ使えない……一体なんだ!今はお前なんかの質問を聞いてる場合じゃ――」
俺は足下を見た。昨日から履き替えないままでいた、ぼろぼろのランニングシューズ。
いままでこの靴で…この世界に来る前からずっと…ずっと走ってきた。だから…
…俺が…今の俺にしか…できないことは………
俺「俺が…俺が走って……彼少尉の救出に向かいます。」
~つづく~
この世界に来ても、俺は変わらなかった。
でも、今はやるべきことがある。
彼を助けるため、仲間のため、自分のため、
宮藤のため、俺は彼の墜落地点を目指して走り出した。
最終更新:2013年02月03日 15:52