――車両庫前方にて――
兵士「……走って、救助!?何を馬鹿な!そんなことをするのは自殺行為だ!」
俺「…この基地で……一番持久走が速いのは俺のはずです。それに…車よりは目立ちません。」
過去の人間より、未来の人間の心肺機能、走る筋持久力は進化している。
さらに長距離走の練習を積んできた俺にとって、たとえ戦場の兵士にも、勝てると自信があった。
俺がいじめられていた時だったか……奴らとの才能の差を感じていたとき、「走ることは違うぞ」と部活の顧問は俺に言った。
その言葉に突き動かされ、今まで走ってきた。だから俺は信じたい。これだけは、俺にできることだと。
兵士「ふざけている場合か!お前ひとりだけで――」 バシュウウウン…ドカァァン! 「うわぁあ!」
ビームが俺達の頭上を通過した。後ろに広がるロマーニャの陸地にも、ネウロイは侵攻してきている。
俺「もう時間はありません!……行きますっ!」ダッダッダッ…
兵士「待てっ!命令違反だ!」 ドカァン! 「くっ…車両庫が…!」
どこかに引火して小さな爆発を起こした車両庫を後に、俺は彼の墜落した方向へ震えながらも走り出した。
――基地の周辺にて――
宮藤「彼さんっ……彼さん………っ」バシュウウン!
宮藤が涙を流しながらネウロイと戦い、基地へ降り注ぐビームをシールドで防いでいた。
坂本「しっかりしろ、宮藤!……くっ…てやぁぁぁぁ!」ダダダダダダ! パリンパリン!
5体に分裂したネウロイを倒し、ジェットストライカーを履いた彼の後に続いて、5人のウィッチ達が遅れて合流した。
しかし、ネウロイの多さ、大型の激しい攻撃により戦局は押されていた。
坂本「くそっ、まさか彼が墜落したとは……救助はどうなっている!?」
坂本が地上の兵士に通信を送る。
『地上からの救出は困難です!車両庫内の車両多数は走行不能で、彼少尉が墜落した陸地にもネウロイがうろついています!』
エーリカ「こっちも手が離せないよ!」ダダダダ!
圧倒的な数であるネウロイ。今一人でも欠けてしまえば基地全体が破壊されてしまう。
それに、先程まで他方へ撃墜に向かっていたウィッチ達は特に、全隊員の魔法力の限界が迫ってきている。
ミーナ「少佐!私達がネウロイの動きを一時的に止めるわ!その隙にコアの位置を…!」
坂本「…了解した!」ブゥゥゥゥゥン!
ミーナの指示を聞き、坂本は大型ネウロイの全体が見渡せる位置まで上昇する。
ミーナ「(まずは基地周辺の敵をどうにかしないと…彼さんの救助には…!)ペリーヌさんは少佐の援護に!リーネさんは宮藤さんの援護に向かって!」
ペリーヌ「了解ですわっ!」 リーネ「了解っ!」ブゥゥゥゥゥン!
ペリーヌが坂本へ、リーネが基地への攻撃をシールドで防いでいる宮藤のところへ援護に向かう。
リーネ「芳佳ちゃん!しっかりっ!」ダァン! ダァン!
宮藤「うぅ…でも……彼さんが…っ」バシュウウン!
宮藤(……彼さんっ……。)
――基地後方の陸地にて――
俺「はぁっ…はぁっ…」タッタッタッタッタッタッ…
基地から陸地へと続いている道を通って、俺は草木が見えるロマーニャの大地へ足を踏み入れた。
たしか……あっちだ!煙が上がっている方向へまた走り出す。ネウロイはまだ俺に気付いていない。
彼の地点まで約5kmって兵士達が言ってたよな…何とかして速く到着しなくちゃ……!
俺は一旦深く息を吐き、腕をプラーンとさせて肩の力を抜いた。そのまま段々とピッチを上げていき、太ももの裏を意識してスピードとペースを上げる。
ジョギングはしていたが、5kmという距離をこんなスピードで走るのは久しぶりだ。
当然足は重く、呼吸は苦しくなっていくが、今は我慢して、一刻も早く彼のところへ向かわなければならない。
喉に痰が絡んでさらにきつくなった。
俺「(どうか…ネウロイに…気付かれる前に…)はぁっ…!はぁっ…!」タッタッタッタッタッタッ…
彼が墜落した森が見えてくる。煙の見える位置が少し近くなったせいか、俺はさらにペースを上げた。
――基地後方の陸地、森にて――
森の中に入ると、整地されていない道が広がっていた。転びそうになりながらも、俺はスピードを下げずに走っていく。
俺「(まるで…山で練習したときと同じクロスカントリーだ…)はぁっ…!はぁっ…!」タッ…タッ…タッタッタッタッ…
俺はでこぼこする道を走りながら、高校生の時の練習を思い出していた。
山へ遠征し、毎日大量の湿布を貼って寝て、ハンガーノックでぶっ倒れたあの日。
いじめから抜け出したかったから始めた、走るということ。
足も速くなり、自分では努力したつもりだった。だけど、奴らには勝てなかった。
中学、高校、大学に進学しても、小さいときから運動神経がある奴、頭のさえる奴、顔立ち、体格、大きな才能の壁には勝てなかった。
俺はあきらめた。逃げ出して、そしてこの世界に来てしまった。
それでも…今は……やるしかないんだ……彼を助けて…宮藤さんのために…。
不規則に生えている木々を避け、手と足で草をかき分けて進んでいく。草が身体に当たって擦り傷ができ、だんだん痒くなってくる。
基地を走り出してから約15分が経過した。
――森の中、彼の墜落地点にて――
俺「……っ…はぁ…!いたぁ!」タッタッタッタッタッタッ…
大きく煙が上がっているところが見え、俺はそこへ向かって真っ直ぐに進んでいく。
俺「はぁっ…はぁっ…(…見つけた)。」
あれはジェットストライカーだ…!もっと近くへ進むと、彼の姿が見えてきた。
俺「…っ…おい!彼!彼少尉!しっかりしてくれ!」
彼の身体を持ち上げ、呼びかける。
ストライカーはなにやら複雑な部品が飛び出し、壊れているが、彼自身の身体に大きな外傷は見あたらない。
魔力を吸い尽くされたのか…それとも…身体の内部に何か異常があるのか……
彼の手首から脈の確認する。脈は…よし…あるぞ。
その時、彼の耳の方から小さな音が聞こえてきた。これは…インカムか?
俺はそのインカムを耳につけて、音を聞く。
『く…そっ…これでは…ダメージが与えられない…それに彼が…ザザッ』
坂本の声が聞こえた。俺は思わず、そのインカムを使って呼びかけた。
俺「坂本少佐!聞こえますか!?」
坂本『!その声は……たしか俺と言ったな…!?なぜお前が』
俺「彼少尉の生存を確認しました…!脈があり、生きています!」
坂本『なっ…どういうことだ!?』
俺「…今はネウロイの撃墜を!彼少尉は俺が連れて行きます!」
空を飛ぶネウロイの数がさっきから増えてきている。彼の身体のこともあり、時間を長くは掛けられない。急いで基地に戻る必要があった。
彼からストライカーを脱がし、武器は重たくて持てないので、俺は彼のみを背負ってまた走り出した。
――基地の周辺にて――
坂本「…海岸で会った俺二等か……全員へ継ぐ!彼の生存が確認された!」
宮藤「……彼さんが!?」 宮藤が驚き、その報告に安堵した。涙を脱ぎ払う。
他のウィッチ達も彼の生存が分かり、安心する。
坂本「各員、気を引き締めていけっ!」
全員「「「了解!」」」
ミーナ「フォーメーションを組んで!大型を叩くわよ!」
坂本の魔眼により、コアの位置はすでに特定されていた。
501の士気は回復していき、戦局は変わりつつあった。
――基地後方の陸地にて――
俺「ちっ…くしょ……重い…なぁ…!」ゼエゼエ タッ…タッ…タッ…タッ…
自分の身長よりも高く、なおかつ筋肉質な体格をしている彼を背負って走ることは、想像以上に厳しい。
足への負担も多くなり、先程のようなスピードも出せない。呼吸も大分苦しくなっている。
俺「っ…はぁ…!(でも…あと少しだ…あと少しで、基地へつづく直線の道に着ける…!そうすれば…――)」
「ピキィィィィィィ!!」
俺「…えっ!?」
小型のネウロイが3体、いきなりすぐ近くに来て、俺達を囲んだ。
しかしビームを打とうとはせず、からかうような動きでグルグルと周りを回りはじめる。
俺「あぁ…あ……あっ…」
言葉が出ない。俺のことを待ち伏せしていたのか…?
…ネウロイにも…俺はからかわれるのか…
このままじゃ殺される。でも足がすくんで動けない。
背筋からゾクゾクと寒気がし、股間のあたりが急に尿意をもたらしたような変な感じになる。
ネウロイが街を燃やし、叫び、殺された人々の映像が頭に再生され、恐怖で涙が流れてきた。
自分自身の死を意識した俺に対し、ネウロイは遊んでいるように飛び回っている。
俺「ぁ…あぐっ…!」ドンッ ドシャァァ…
一体のネウロイが背中を突き飛ばし、彼を背負ったまま、俺は前へ倒れた。
震えながら顔を上げる……。すぐ目の前には……ビームを打とうとしているネウロイ……。
いやだ…死にたくない…まだ生きたい…死にたくな
ネウロイ「ピキィィィィィィ!!」バシュゥゥゥ……
俺の顔めがけ、ネウロイがビームを放った。
……
バシュゥゥゥゥン!
俺「っ……………ぇ…えっ!?」
死んだと思った。しかし目の前にはシールドが張られ、ネウロイのビームを弾いている。
まさか……これは…俺が……張っているのか…?どうして……
だが、そうではなかった。背負っている彼の手から、シールドが発生していた。
彼から使い魔の耳としっぱが出ている。短時間で魔力が回復し、無意識のうちに彼がシールドを張ったためであった。
こいつは…やっぱりすごいんだな…。彼はまだ目覚めていない。
これが……超えられない才能……
俺「…っ…お…おおおおおおお!」ガッ バキィィィ!
俺は力を振り絞って彼を持ち上げ、目の前のネウロイをシールドで弾き飛ばした。
それに気がついた横と後ろのネウロイがビームを放ち、俺の太ももと腰のあたりをかすった。
俺「あっっ…!くあぁぁ!」
身体を捻って彼を振り回し、横と後ろの2体にもシールドをぶつける。今だ…!
基地へと続く道へとすぐに視界を移し、それにむかって全力で走った。
――基地の周辺にて――
坂本「はぁぁぁぁあ!烈ッ風…斬!」ズシャアァァァァ!
大型ネウロイ「ピキィィィィィィ……!!」パリィィィィン……
坂本「はぁっ…こちら坂本…はぁっ…大型ネウロイを…破壊した!」
坂本が大型の破壊に成功した。親であるコアが消滅したため、小型の姿も次々と消えていく。
ペリーヌ「やりましたわ、少佐!」
兵士「大型ネウロイの消滅を確認!やりました!」
基地内兵士「お…うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
基地からも歓喜の声が上がった。
宮藤「はぁ…はぁ…か…彼さんっ!」ブゥゥゥゥゥン!
宮藤が彼を目指して、基地後方の陸地へと飛んでいく。
シャーリー「お、おい、宮藤!」
他のウィッチ達も、宮藤の跡を追った。
――基地後方の直線通路にて――
俺「やった…やった…ぞ…あと少しで……基地に…」
フラフラになりながらも、俺は彼を背負っていた。
ビームがかすったところから出血しており、何故か、彼がシールドを張ったときから、意識が不安定になっていた。
きっともう…俺の身体は疲れているんだろうな……。
苦しいな……ネウロイ…怖かったなぁ……。
宮藤「かっ…彼さーーーーーん!」ブゥゥゥゥゥン!
…宮藤さんだ……。急に意識が遠くなってくる。
宮藤「彼さんっ…!よかったぁぁ……――」
宮藤さん…俺……あなたのために…
俺……――
――看護室にて――
俺「――…ん………あれ……?」
気がつくと、俺は看護室のベットで寝ていた。どうやら基地の近くで意識を失ったようだ。
周りを見渡すと、誰もいない。他のみんなはどうなったのだろうか。
ガチャっとドアが開いた。
坂本「入るぞ…おぉ、気がついたか。」
坂本とミーナが部屋に入ってくる。
俺「坂本…少佐?それにミーナ中佐…?」
二人を間近で見たため、俺は驚いた。
坂本「…お前は彼を背負ったまま倒れたんだ。原因は疲労かエネルギー切れと言ったところか。」
俺「…そうですか……彼少尉は…無事でしょうか?」
坂本「あぁ、大丈夫だ。今、向こうのベットで休んでいる。身体にも異常は見られなかった。」
坂本の話を聞き、俺は安心した。それなら…きっと宮藤さんも…
ミーナ「…俺二等兵。あなたの行動によって彼少尉の救出、先程のネウロイとの戦闘による戦局の好転へと成功したことに感謝します。…なぜ…あなたはこの様な行動を…?」
俺「……それは…」
言葉が詰まる。しかし俺は、思った通りに話してしまった。
俺「……宮藤さんの…ために……彼少尉が死んでしまったら……彼女は……」
一瞬、ミーナ中佐が思い詰めたような顔つきになった。
ミーナ「…そういうことね……。俺二等、あなたがとった行動に敬意を表します。しかし、違反は違反です。あなたには自室での謹慎、この件についての他言の禁止と、ウィッチ達との一切の接触の厳重注意を命じます。」
俺「……そんな!」
ミーナ「……これは命令です…――」
ミーナと坂本が部屋を出て行った。
宮藤や他のウィッチ達のほとんどは、彼の事に必死になっていたため、彼を救出したのは俺だということを知らないらしい。
……でも、俺は彼と、宮藤を救えたんだ。
苦しくても、走って、彼女のために……俺は助けることが出来たんだ。
それで、十分じゃないか…。
俺はベットから立ち上がって、部屋を出ようとした。しかし、看護室の奥の方の、離れた位置から声が聞こえてきた。
気になって近づいていく。
彼「…悪かったよ……宮藤…」
彼の声だ。もう少し近づいていくと、そこには…彼と…ベットに寄り添う宮藤。
俺はカーテンの隙間から覗き込んだ。
宮藤「うぇっ…ひ…っく…彼さんが…死んじゃうって…思って…っ」
宮藤が顔をベットに伏せ、泣いていた。
宮藤「約束してくださいっ…もう…無理しないって…」
彼「…わかったよ。約束する。」
きっと宮藤の治癒魔法で、彼の回復が早まったんだろう。
……俺にも、魔法…かけてほしかったな……。
宮藤「約束…本当、ですからねっ!?」
宮藤が顔を上げ、彼と目が合う。ずっと泣いていたのであろうか、宮藤の目が赤くなっていた。
宮藤「………あっ……」///
頬が赤く染まっていく――
…こうなることは多分、俺でも分かっていたはずだ……でも……いざとなると…辛いな……。
宮藤さん……俺が彼を助けたんだよ……彼を…
宮藤さんの……笑顔が見たいから……
宮藤「あっあの…私っ……」///
…この先の展開なんて、予想がつくに決まってるよ…
でもお願いだ…やめてくれっ…
宮藤「私…っ…」///
俺は君のために…走ったんだ……
分かってるよ…でも…もう……やめてくれ……
宮藤「私…っ…彼さんの……」///
いやだ…やめてくれっ…!
宮藤さん……芳佳…っ
宮藤「私…彼さんのことが…!」
頼む…やめてく
宮藤「私……彼さんのことが好きです…。」
――
バタン
俺「……」ダッ
俺は基地の外の海岸へ向かって走り出した。
――基地の外、海岸にて――
俺「…くそっ…くそぉおおおお!」ダッダッダッ
俺は自分の身体を完全にぶっ壊したくなって、思いっきり走り出した。
海に沈む夕日が、更に惨めに演出する。
俺「動けよっ…動けよっ…!」
動かない足を無理矢理叩いて、ムチをいれた。
…やっぱり走ったって、頑張ったって、俺は変われないんだよ……とどかないんだよ……
彼を助けて…宮藤を救えた……でも……でもっ……
俺「このっ…!ぁぁあああああああああっ!――」
坂本「おっ、あれは………わっはっはっは!起きてすぐ訓練とは、たいした奴だ!」
司令室にいた坂本が、窓から俺を見つける。泣きながら走る
俺の気持ちとは裏腹に、はっはっはっと笑っていた。
その後、俺は足をつって豪快にすっ転び、気持ち悪くなって嘔吐した。
~つづく~
何のために走ったんだ…何のために、走ってきたんだ…
全部…無駄なことばかりじゃないか…
俺は最悪の気分へと陥っていく。
基地では復興作業が始まり、ウィッチ達がロマーニャへ買い出しに向かった。
そんな時、おじさんは俺にある提案をする。
最終更新:2013年02月03日 15:54