――ロマーニャ基地、ハンガーにて――
俺「うぅ…ぅ…っ…ぁあああああああっぁ…!」ピチャ… ピチャ…
彼っ……彼ぇぇっ……くそぉおぉっ!
口から出る血が、自らの叫びによって床に飛び散る。
赤く腫れた頬の、そして口の中の痛みは彼への怒りによって感じなくなっていた。
俺「がれっ……!がぁああっ……彼…か……れぇぇえ!」
おじさんと整備兵達は唖然としている。目の前には先程殴られ、血を流しながら叫び続けている俺、そして睨み合っている彼がいる。
ハンガー内の、ストライカーが横一列に配置され、その前の滑走路へと続く大きく空いたスペースにて、事件は起こった。
俺が上を向いて笑い、坂本を侮辱した光景を見た彼は、全力で走ってきて俺の顔を殴り飛ばしたのだった。
その突然起きた行動におじさん達は呆気にとられ、もがき続けている俺以外の時間は、まるでピタッと止まっているかのようになっている。
彼「……………お前…っ。」
彼は口を開き、俺を殴った拳を握り続けたまま、更に目を鋭くして俺を睨む。
彼「…お前は確かに、おれを救ってくれた恩人だ。だが、さっきのは許せない…。坂本少佐を…馬鹿にしやがって……お前に少佐の気持ちの何が分かる!?」
俺「!!………でめ…っ……てめぇっ…!!」
少佐の気持ち……!?ふざけんな…ならお前に
俺の気持ちが分かるのかよぉ…っ!
お前みたいななぁ…!生まれた時から優遇されてる奴には一生、分からねえだろうが…よぉ…!
彼「少佐は…魔法力が限界に近づいてでも、戦おうとしてるんだ…!ロマーニャのために、この501のために。おれ達12人のウィッチ隊の一員の、最後まで戦おうとする仲間の誇りを侮辱することは決して許されねぇ!」
俺「……ふざっ…けんな…ぁ…よお……彼えぇぇっ!」
顔だけを殴られたはずなのに、俺の全身に力が入らない。動かそうとしても、思うようにいかない。
俺は両手を使って何とか立ち上がるが、足のバランスが取れずフラフラした。
だがしかし、今にでも倒れそうな俺の、彼への怒りと憎しみは増え続ける。
……誇り!?あぁ…ああぁっ……またそうゆうあれだよなぁ……!俺のことは……雑用を押し付けておいて……お前達はいつもそうやって……!
彼「人の教官を…この基地に配属して、おれがどんなに苦しい時も助けてくれた坂本少佐を馬鹿にして……聞いているのか俺二等兵!!」
苦しい時も……助けてくれた……!?ならなんで、俺はお前を助けたのに、ミーナは「一切の接触を禁ずる」だ…!魔法力が無いから…才能が無いから…俺が苦しくても見捨てて当然なのかよ…!
走ったさ…!お前や、ウィッチ達や、宮藤のために……!なんで……なのになんで………お前なんだよ…っ…。
なんで…魔法力も才能もあるからって……お前なんだよ…。どうしてウィッチ達との会話が許されるんだよ、食事が許されるんだよ…。
どうして……宮藤との恋は許されるんだよ……っ……。
俺が……走って………宮藤や…彼を救ったことは……
なんでっ……認めてくれないんだよ……――
彼「坂本少佐に……謝れェ!」
俺「……っ!!…ぐ…がああ…ああああああっぁあ!」ダッ!
頭の中が真っ赤になる。
彼のその言葉を聞いた瞬間、俺は右腕を振り上げ、彼に殴りかかった。
ガシッ!
俺「っ…!?何…でぇ……!」
おじさん「俺ぇっ!もういい加減にしろっ!」
しかし彼を殴ろうとした俺の右腕と腰の辺りを、おじさんは両腕を使って押さえつけた。
俺「くそっ、離せっ!はなせよ…っちくしょぉおっ!」
俺は必死になってジタバタし、その腕を振り解こうとする。だが更に2、3人の整備兵が駆けつけ、俺の身体を拘束する。
整備兵「今はお前が騒いでいる場合じゃないんだよ!明日は重要な作戦があるんだぞ!」
おじさん「おい俺ぇっ…!この……もう……っ…やめろぉっ!」ドスッ!
俺「!!?うぁっ……ぅ…あぁ……ぁ…」
おじさんのボディーブローがみぞおちに突き刺さり、呼吸が出来なくなった。
全身の脱力と共に、俺の意識が遠のき始める。
薄れる意識の中、俺は目だけを動かして周りを見渡した。彼と全ての整備兵が俺を睨みつけ、誰もが軽蔑の目をむけている。
俺(……なんで………だ………よ………)ガクッ…
俺はそのまま、意識を失った。
――
――夜、男性兵士用の共同寝室にて――
……小さい時から……ずっとそうだった……
頑張って……足りない才能の分を……補おうとしていた…
補えた分もあった………でも…「彼」みたいな奴らには……どうしても敵わない……
生まれつきの…背の高さ、顔立ち、身体能力、体格……誰からも注目されるような才能……
そして魔法力……ネウロイと戦えること……。
最初は……全ての…他のどんなことだって、頑張れば出来る…そう信じていた。
でも…そんな努力は実らない。くだらない。認められなかった。ウィッチじゃないから…謹慎や注意をくらったし…魔法力を持ちたくても…戦えるようになりたくても…それを叶える方法は無い。
戦いたくても…死んでいった人達もいる。だから…戦える、成功する奴らは必ず才能を持っているんだ…。
勝てないよ…彼にだって…才能がある奴には……俺は…どんな世界でも………。
負けっぱなしだ………
………逃げて…ばっかりだ…
…もう……何も……
無いんだ……
『ピキィィィィィイ!』
俺「……………っ……ぁっ…?」
俺が目を覚ましたのは、共同寝室のベットの上だった。
周りのベットには兵士が寝ている。夜までの長い時間、俺は意識を失っていたようだ。
俺「……ネウロイ…音…?………ぃ…てっ……。」
左頬と口内の痛みを思い出し、俺は顔に手を添えた。殴られたところにはガーゼが貼ってある。
殴られて吹っ飛んだ時、右手にも切り傷が出来ていたらしく、そこにも包帯が巻いてあった。
……誰かが…治療してくれたのか………。
「グオーッ」と、隣に寝ている兵士のいびきが聞こえてくる。
もう夜……か……
あの時は…彼に殴られて……他の整備兵も俺のことを………軽蔑して……
…頬が…痛い……
俺はとりあえず立ち上がり、立ち眩みがする頭を手で支えた。
足下は気にせず、そのまま薄暗い寝室の出口へと歩いていき、ドアを開けて廊下へと出た。
――滑走路にて――
基地の中を放浪していた俺は、降り出した雨の音と誰かの声につられて、滑走路の近くに訪れた。
俺「………………。」ペタッ… ペタッ…
ザァァァァァァァア…
何も考えず、ただただ、音が大きくなっていく方向へと裸足で歩いていく。
そしてそこには――
ミーナ「もうやめて!美緒っ!」
坂本「まだだっ!私はッ…必ず真烈風斬を完成させる…!」
ミーナ「だめよっ!分からないの…!?もう無理なのよっ!」
坂本「頼むっ…一度だけ…一撃だけで良い…っ!私に…真烈風斬を打たせてくれ……!」
見覚えのある光景があった。坂本とミーナが涙ぐみ、雨に打たれながら、2人は必死になって声を出している。
近くには坂本の脱ぎ捨てられたストライカーと、地面が少し削れた跡があった。
坂本がストライカーで飛ぼうとしたところを、ミーナが止めたのだろう。
柱の陰に隠れ、俺は2人を見続けた――
坂本「………お願いだ…私も……」ガチャ…
流れる涙とともに烈風丸を握っていた手の力が抜け、坂本は崩れ落ちるように座り込んだ。
坂本「っ…私も…12人の仲間にいさせてくれぇぇっ…っ…!……頼む………ミーナぁ……」
大粒の涙を流し、倒れ込んだ坂本をミーナは抱きかかえた。
ミーナ「美緒……。」
坂本「っ…うぁあああぅっ…ぁあっ…!!…あぁっ…ううぅっ……――」
俺「……坂本……少佐………。」
坂本が泣き叫んでいる姿を見た時、俺は自分自身と彼女を知らぬ間に照らし合わせていた。
どこか共感し、身体に重い何かがのし掛かる感じがする。
昼間に自分が侮辱した彼女は、今では大粒の涙を流し、悲しみに打ちひしがれている。
そう思うと、ますます身体が重くなっていくような気がしてならない。
…っ……違う…!違う…!才能があったから……だから、もっさんは…悲しめるんだ…
俺は……そんな特別な悲しみ…味わえないんだよ……
…でもっ……でもっ……
……彼女は…………
俺「……………。」
俺は無理矢理、坂本のことを考えるのを止めて、寝室に戻ろうとハンガーの方へ歩き出した。
早歩きをしながら、息を殺して進んでいく。
…すると横から、薄い影が足下に落ちた。俺は足を止め、影が出ている方向を見る。
暗闇でよく分からないが、誰かがいるようだ。
少しづつ、俺は近づいていく。
そしてそこには…
俺「……………………あなたは………」
宮藤「…ぐすっ……え……俺…さん…?」
目に少しの涙を溜めた、寝間着姿の宮藤が立っていた。
……宮…藤…………?
降りしきる雨の音が今まで以上に、正確に聞こえてきた。
――廊下にて――
俺「……………。」
宮藤「……………。」
俺は宮藤の前を歩き、自分の寝室へと向かっていた。
宮藤「…見ていましたか…?さっきの…坂本さんの……」
俺「……はい。……見ていました。」
宮藤「……そう…ですか………。」
宮藤は落ち込んでいた。先程の坂本とミーナのやりとりを見たのだから、無理もないだろう。
俺「………俺はこの先の廊下を左に曲がるので…それでは……。」
宮藤「……はい……。」
俺「………っ…あの……宮藤さん…!」
俺は何かを、必死で言おうとした。でも、言えない。言ったところで…もう何も変わらない………。
宮藤「……??」
俺「……いえ、なんでも……ありません……。」
俺は廊下の十字路に着き、左へ曲がった。宮藤は右に曲がる。
しかし俺は振り向いて、宮藤の後ろ姿を見た。
少しずつ、彼女が遠くなっていく。暗い廊下の奥の方へと進んでいく。
宮藤のために…俺は…走ったんだよ。それなのに……なんで…彼なんだよ……どうしてだよ……宮藤……お願いだ…俺を…助けてよ……宮藤っ…。
俺「…………宮藤……っ。」
俺は思わず、手を伸ばした。しかしもう届かない。
この世界に来て…
初めて、目の前で話したウィッチが…宮藤だったよな……
嬉しかったし…俺にとっては希望でもあった……苦しかった元の世界じゃない…ストライクウィッチーズの世界に俺は入れたんだ…って…
今まで見てきた…スト魔女のSS…それみたいに…俺にも魔法力があって…戦えるんじゃないかって……信じていた。
だけど……そんな希望は元から無かったんだよ。「彼」しか…やっぱり…才能のある奴しか………選ばれないんだ。
……でも……そうだとしても……坂本少佐を……俺は……彼女のことを………
坂本を侮辱したことに対し、俺は罪悪感を感じ始めた。しかし…
『ピキィィィィィイ!』
その感情は、夢で聞いたネウロイの声によって直ぐにかき消された。
だけどさ………あぁ…そうだよ……さっきのもっさんだって…よく考えたら…どこが泣けてくるんだ?どこが…苦しい?寄り添ってくれる人がいるじゃないか。12人も…。
俺のことは……放っておいてたじゃないか…本当は…兵士は道具で…ウィッチだけが仲間だと思っているんだろ…?ミーナ…ぁ!
許せない……ウィッチ達も、整備兵も、おじさんも、ロマーニャも……当然……彼も………!
………俺は……まだ……諦めていない………。
「オペレーション・マルス」が…失敗することを…
501が…ロマーニャが崩壊することを……。
『ピキィィィィィイ!』という夢で聞いた時の音が、耳鳴りのように延々と響き続ける。
そして再度、心に沸き上がってくる怒り、嫉妬、憎しみ。
その音は後に、別の意味での「新しい希望」を俺に与えることとなる。
――「オペレーション・マルス」当日、ハンガーにて――
俺は待機を命じられた部屋から抜け出し、こっそりとハンガーに訪れた。
整備兵や他の誰かに見つからないよう、遠くから離れてハンガーの様子を伺う。
だがしかし、そこには何故かウィッチ達が不安そうな顔をし、彼に対して何か意見をしている光景があった。
バルクホルン「なんだこれはっ!彼っ…!今までどうして黙っていたんだ!」
バルクホルンが何かに向かって指を指し、怒ったように彼へと質問を投げつける。
彼「これは…おれだけの問題だ……。みんなは関係ない…。」
宮藤「そんなことありません!彼さんは言ったじゃないですかっ!私達12人で仲間だって、家族だって!」
彼「……!!……宮藤………。」
ミーナ「…彼少尉……私達501…ここにいる12人の仲間は、宮藤さんの言うとおり家族です。あなたはその一員…もう、実験道具なんかじゃない…大切な家族の一人なのよ?」
ルッキーニ「そうだよ~彼ー!」
シャーリー「今さら隠し事なんて…お前らしくないぞ?彼。」
ペリーヌ「ふふっ…わたくし達は家族…当然のことでしてよ?」
リーネ「帰ってきたら…みんなでパーティーです!」
エイラ「まぁ……私達を信用しろッテ。」
サーニャ「そうですよ、彼さん……!」
彼「…みんな……っ…。」
彼の目に、微かな涙が浮かぶ。
エーリカ「にひひ~でも作戦が終わったらパーティーの前に…ね~宮藤ぃ~♪」
宮藤「はっ…ハルトマンさん…!?」///
バルクホルン「まったく…本当にお前達ときたら……。」
坂本「ふっ…そうだな…。……私も彼のように…頑張らなければならないな。」
ミーナ「彼少尉、あなたには今まで通りのストライカーを履いて出撃してもらいます。たとえ上層部がなんと言おうと、この機体の使用は禁止します!異議はありますか!?」
彼「…!!…中佐……………ありません。それと……ありがとう……ございます…。」
彼は深々と頭を下げ、その後におじさんの方を見た。おじさんはニカッと笑い、やれやれといったポーズをとる。
おじさん「…まぁ、仕方ねぇなっ!行ってこい!何と言われようと、帰ってこい、彼!」ニカッ
ミーナ「…只今より、第501統合戦闘航空団は、この地よりネウロイを一掃するために、『オペレーション・マルス』に参加します!我々の任務は連合国艦隊機関、大和の護衛です!全員、出撃!」
全員「「「了解!」」」
各ウィッチがストライカーを履き、出撃準備に取りかかった。地面に魔法陣が浮き出る。
そしてハンガーの後ろの方…
俺は瞬きもせずにその様子を見ていた。
…?…何の話しをしてたんだ?…でも…
……良い感じだな…本当によくあるアニメ的な展開だよな……あんなに彼は…誰からも…心配され、家族とか言われて…!
本当に良い雰囲気だな…っ……なぁ……くそっ……ちくしょお………
俺は……ここでも……一人ぼっちか…
『ピキィィィィィイ!』
……あぁ…でも…まだ分からないさ……まだ……
こっから最悪の展開だって、あり得るかもしれないからなぁ!――
サーニャ「…っ…!!」
エイラ「?……どうした、サーニャ?」
サーニャ「…い、いいえ……。エイラ、出撃しましょう。(気のせい…?)」
――ブゥゥゥゥゥン!
12人のウィッチ達がお互いの絆を新たにし、大和へ向けて飛び立っていった。
最終整備を終えたハンガー内のおじさん達は、後の整備は扶桑艦隊の整備兵達へと思いを託し、基地に残って作戦の成功を心から願っている。
だが、一人だけ…俺だけは作戦の失敗を願っていた。
自分だけが永久に取り残されたような、とてつもない孤独感。
そして元の世界で言う「犯罪心理」…それに近いものが、俺の心の中に定着しつつあった。
自らの手で、常識を越え、犯罪を起こしてまでも物事を自分の思うがままにしたいという欲求。
それが、今の俺の思考を支配し始める。
魔法力も無し……飛ぶことも出来ず……ただ毎日、下っ端の仕事だけ……
ははっ…どっちにしろ……どう頑張ったって、戦うウィッチにはなれないし、雑用ばっかりの日常も変えられない…
なら……逆の発想だ……
俺が…逆に……この世界を壊す側の……
『ピキィィィィィイ!』
ネウロイになれたら、いいんだ。
~つづく~
ついに開始された「オペレーション・マルス」
彼の活躍により、2期本編以上の作戦の遂行率が予想されるであろう。
ロマーニャ、501、仲間達、そして宮藤のために、彼は戦う。
この作戦においての「彼」の意味、影響される「本来の展開」とは…。
そして俺は、この世界において、最後の決断をすることとなる。
最終更新:2013年02月03日 15:57