二日後、ブリーフィングルームにて
ミーナ「みんな揃ったかしら?早速だけど補給人員を紹介します。」
宮藤「本当ですか!?やったねリーネちゃん、仲間が増えるよ!」
リーネ「そ、そうだね」
エイラ「変な奴じゃなきゃどうでもイイケドナ」
サーニャ「…ねむい」
ペリーヌ「もう、サーニャさん起きてくださいまし」
ルッキーニ「うじゅーシャーリーねむいー」
シャーリー「よしよし寝るなよー…あれ?ハルトマンとバルクホルンは?」
坂本「まだ来ていないな。大方ハルトマンが原因だろう。ミーナ」
ミーナ「ええ、入ってきてください」
俺の控える扉の向こうから呼びかけられる。
金のドアノブに手を掛けると、古めかしい音と共に樫の扉が開いた。
温かな朝の光と共に14の好奇の瞳が集まるのを感る。
ごつりごつり。軍靴の音が天井に響く。
短く刈り上げた黒髪にカールスラントの軍服。一際目を引く白布で吊ったその右手。そして何より
ペリーヌ「……殿方…ですの?」
引き攣った様な声が俺の耳に届く。丁度段まで歩き終え、その声に振り返った瞬間、吊った右腕が卓にぶつかった。
俺「い゙ぃ゙!?」
坂本「お、おい大丈夫か?」
右肩を抑えてくぐもった声を上げる俺に坂本が駆け寄るが、にへっと微笑まれる。
近寄りがたい雰囲気を醸し出す男にしては温かい笑顔だった。
俺「お構いなく。いつもの事です」
ミーナ「…皆さん紹介するわ。本日よりこの501に派遣された俺大尉です。俺さん自己紹介を」
俺「本日より501統合戦闘航空団に配属されました俺大尉です。どうぞよろしく」
宮藤「お、男の人だよ。リーネちゃん」
リーネ「うん、それに大人の人だよ」
まったく予想していなかったと、顔に書いてある二人に丁寧に言葉を返す。
俺「今年で22になりました」
シャーリー「しかし男のウィッチがここに来るとはなー」
ルッキーニ「うじゅー!おっきい!」
何か言われるだろうかと内心ハラハラしていたミーナはほっと息を吐く。
意外とあっさり受け入れてくれた様で安心した。
ミーナ「俺さんは戦力強化の為に来ました。普通に接してくれて構わないわ」
エイラ「………ッ!オマエ、オストマルクの―――――」
エイラが叫びかけた瞬間だった。
轟音と共に扉が開けられ、息を切らせたバルクホルンが飛び出してくる。
脇には目をこするエーリカが抱えられていた。
バルクホルン「ミーナ!遅れてすまな……い……」
エーリカ「うぅー…トゥルーデうるさいよぅ……ん?」
すまなそうにしていたバルクホルンの表情が変わる。
気配を察知したエーリカが、視線の先に顔を上げると久しぶりに会う男が仏頂面で立っていた。
エイラ「…大尉?」
急に空気が変わるのを感じたエイラがバルクホルンに声を掛ける。
どろどろと重くなる空気にサーニャが身じろぎをした。
エーリカ「俺じゃん。腕は―――――」
バルクホルン「……裏切りの英雄、赤鼻…」
驚きと憎悪の混ざった眼で俺を逃さないまま、バルクホルンが呟いた。
その言葉にエイラ、ミーナ、エーリカ以外の隊員達が怪訝そうに眉をひそめ、続く言葉に耳を傾ける。
バルクホルン「国を見捨てた男が何故ここにいる!」
俺「…………」
吐き捨てる様なバルクホルンの怒号に俺は無言で唇を噛む。
何も言わない俺に拳を震わせながら近づいて行く。
バルクホルン「……カールスラントの恥晒しめ…今さら、何をしに来た!?」
怒りを露わに歩み寄るバルクホルンの目をしかと見詰める俺の眉間にくっとしわが寄った。
ここまでしても動かない俺に、沸き立つ怒りのままに拳を振りかぶる。
「7年前に…過去に帰れ!赤鼻ぁ!」
ガツンと、坂本が止める間もなくバルクホルンの拳が俺の頬に突き刺さり、口の端から一筋の血が流れゆく。
口の中が切れるほどの拳を、避けも恐れもしない俺にバルクホルンは眉を顰めた。
俺「……それだけか」
バルクホルン「ッなんだと……!?」
俺「自分は陛下からの勅諭を受けてここに来た。好きなだけ吼えるといい」
バルクホルン「ッ貴様!」
俺「失礼する」
バルクホルンの拳を左手でゆるりと外し、開けっ放しの扉に少しよろけながら歩いて行く。
半開きの扉にまた右腕をぶつけた所でバルクホルンに呼び止められた。
バルクホルン「赤鼻!」
俺「…大尉、貴方は笑っていた方が可愛いですよ」
それではと、扉を閉めて俺は出て行った。
ごつりごつりと不安定な音が遠ざかる。
静まり返るブリーフィングルームでバルクホルンが憎々しげに舌を打った。
エーリカ「…ちょっとごめんね」
バルクホルン「なっ、ハルトマン?どこに―――――」
エーリカ「来たばっかりだし、部屋も知らないでしょ?それだけだよ」
バルクホルン「待て……ああ、また開けっ放しにして!」
扉を開け、そのまま走り去るエーリカを呼ぶが、返事は帰らなかった。
溜息を吐きながら扉を閉めるバルクホルンに、シャーリーが声をかけた。
シャーリー「…なあバルクホルン、聞いてもいいか?」
バルクホルン「…さっきの事だろう?」
シャーリー「ああ」
ルッキーニ「大尉、恐かったよ?」
シャーリー「ほら、いきなりあんな事されちゃあビックリだからさ。教えてくれるだろ?」
震えるルッキーニを撫でながらシャーリーが言う。
年がいも無く感情的になってしまった事に恥ながらもバルクホルンは口を開いた。
バルクホルン「アイツはオストマルク戦線に置いて最も多くの撃墜数を記録したウィッチ」
バルクホルン「そして、祖国カールスラントの危機を見捨てた裏切り者……!!」
宮藤「え?ぜ、全然そんな風には…」
エイラ「大尉の言ってる事は本当ダ」
サーニャを撫でながらエイラが口を開いた。
ミーナ「エイラさんはさっきから知ってるみたいだったけど…」
ミラク アランティア
エイラ「スオムスにいた頃に聞いた事があるンダ。奇跡のトナカイは俺の事ダロ?」
リーネ「…奇跡のトナカイ、ですか?」
エイラ「アア、後は錬金術師とか呼ばれてタナ。両手をポンと合わせるだけで爆発を起こしタリ、大砲を治したり出来ルらしい」
宮藤「やっぱり凄い人なんですね!」
エイラ「当然ダロ?誰もが諦めた国民総撤退をアイツは犠牲者を出さずに成し遂げたんだカラナ」
ごつり…ごつり…
光が差し込む廊下を不安定な足音をたてて歩いて行く。
歩く度に振動が伝わる右肩の付け根に手を当てながら廊下を進む。
エーリカ「見つけた。部屋、そっちじゃないよ」
俺「エーリカ…?」
突然背後からかけられた声に振り返る。
短く息を切りながら背後に立つ少女…昔を思い出して、俺は少し心が軽くなるのを感じた。
エーリカ「ごめん、俺」
俺「いいんだ。あれで」
そうだった。この子は全部知っていたんだ。俺は俯くエーリカを抱き寄せる。
ずっと昔に妹の様に可愛がっていた双子の姉妹。
いつも俺の後ろにくっ付いて歩いて来てくれたウーシュに、実験の度にぼろぼろになる俺とウーシュを治してくれたエーリカ。
俺の、全てを知る数少ない者の一人。
俺「ありがとうな。俺は大丈夫だ」
エーリカ「…まだ本当の事を隠すの?」
俺「ああ、これが俺のやった事への戒めだ」
エーリカ「…にぃにぃの頑固者!」
俺「ひぎぃいッ!!?」
胸に抱くエーリカに格好良く言ったつもりが、右肩を思いっ切り叩かれる。
痛い、絶望的な位痛い。思わず浮かんだ涙を見られまいとエーリカを引き剥がすがそうもいかず、思いっ切り顔を引き寄せられた。
エーリカ「まだ傷塞がってないんでしょ?神経だって繋げてない!こんな状態で陛下に頼み込んでまで来て!馬鹿だよ…この石頭」
俺「ごめんな。君達を守るって言ったのに…泣かせて」
エーリカ「謝るならウルスラに言ってよ…にぃにぃの事でずっと泣いてたんだよ?」
俺「君達には助けられてばかりさ…この腕が繋がったのも、飛ぶ意思をくれたのもエーリカ、ウーシュ、君達だ。ありがとう」
そう言って間近にあるエーリカのしずくをはらってやる。
なんだかとても懐かしく感じて、湧きあがって来た笑いを噛み殺す。
エーリカ「…メンテナンスは任せてよ。やり方は知ってるから、ウルスラがチェックに来る時以外は見せてね」
俺「ああ、約束する」
エーリカ「で、どうするのさ。トゥルーデにも、多分みんなにばれちゃったよ?」
俺「こういうのはな…態度で示すしかないさ」
そう言って木漏れ日の様に俺は笑った。
バルクホルン「…だが、それほどまでの力を持ちながら、奴は自分の命惜しさに力を使わなかった……!」
エイラの言葉に感心していた面々が、バルクホルンの言葉にまた顔を伏せる。
坂本(ここまで聞くといっそ不思議な位だ。片やオストマルクを救った英雄、片や祖国を見捨てた裏切り者…あの歩き方、右腕からの金属音…奴は一体何をした?)
エーリカ「はい、ここがにぃにぃの部屋ー!」
俺「はは、ありがとうエーリカ」
エーリカ「……ねえ、いつからいたの?」
俺「ん?昨日からだぞ?」
備え付けのベッドと机だけのはずの部屋にはすでに大量の本、実験器具、書類にゴミ。
古ぼけた棚にはありえない色をした液体の詰まった瓶に、ゴミの様な物質の山。
エーリカ「私の部屋より汚いね」
俺「いやぁ、まだ足りなくてな」
エーリカ「…何これ、石ころ?」
光沢のある灰白色の塊を持ち上げる。
床には鉱石標本の箱がぶっ散らかって様々な輝きに満ちた石達が放り投げられていた。
俺「あ、あった!それはニオブ。教授から貰ったんだ!すごいだろ?」
エーリカ「ニオブ?にぃにぃは宇宙の事勉強してるんじゃなかったっけ?」
俺「これは俺の魔法に使うんだ。超電導っていう相て――――」
エーリカ「はいストップ。私の専門は医学だよ?」
俺「理解は出来るだろう?」
エーリカ「これは興味の問題だよ。ワトソン君」
俺「ふむぅ…」
熱く語ろうとする俺を無理やり止め、ちっちと俺の目の前で指をふる。
ぐうと押し黙った男に溜息をつき、いつもの説教を開始する。
エーリカ「まったく、科学の話になるとすぐ熱くなるんだから」
俺「ウーシュだってそうじゃないか」
エーリカ「にぃにぃの影響だよ…まあ感謝してるけどね」
ゴミ山から救急セットを引っ張りだす。
しかしどうやらこの部屋のゴミ達は綿密な設計の上で成り立っていたらしい。音を立てて一山が崩れた。
俺「あ゙ぁ゙ー!?そこは熱力学の本が!」
エーリカ「読む本が多趣味過ぎるよ!専攻は物理でしょ?」
俺「やりたい事が多すぎて…それに、熱力学だって物理だし、専攻は量子学だ」
エーリカ「医学の私にはさっぱり分かりませんね。はい消毒」
俺が逃げる間もなく、頬に大量の消毒液がかけられる。
用量なんて知ったこっちゃない。聞き分けの悪い子にはお仕置き。そんな心の声まで聞こえてきそうだ。
思い出したようにずきずきと痛む頬に、俺は歯を食いしばった。
俺「…相変わらず容赦無いな」
エーリカ「にぃにぃだもん。ほら、口あけて」
俺「んが」
エーリカ「…うん、大丈夫。はいおしまい」
簡単に確認した後に頬に湿布を貼られる。
口の中の傷も酷いが、数日で治るらしい。食事の時などが大変らしいが…慣れてるし平気だろう。
エーリカ「怪我の話は終わりだよ」
背伸びをして治療をしてくれていたエーリカが空気を変える。
真剣な、揺るがぬ意思を湛えた空色の瞳。ウーシュとそっくり、しかし突き抜ける様な爽快感はエーリカのものだった。
俺「はは、さすがにあの時ほど魔法力は無いんだよ」
エーリカ「腕の稼働時間はどの位?理論上ではきちんと動くはずだよ」
俺「動作は完璧だ。魔法力と共に信号を流す…稼働時間は戦闘一回分位だろう」
エーリカ「やっぱり感覚の問題か…」
俺「……すまない…あれさえ無ければ」
ざらり。
焼きついた記憶が再生される。叫べども叫べども、終わらぬ地獄を。
身をかがめ、口を覆った俺の背を、エーリカはゆっくりさする。
エーリカ「仕方ないよ。右腕は戻ってきても、そっちの傷は時間が掛かるものだし」
俺「…エーリカはいいお医者さんになるよ」
エーリカ「子ども扱いしないでよ。今は一緒に戦う仲間だよ?」
「赤鼻が仲間とは信用も何もあったものではないがな」
ノックも無しに扉が開いた。
先程より幾分かマシだが、やはり根底に蠢く嫌悪だけは健在だった。
俺「バルクホルン大尉、ノックはするものですよ」
バルクホルン「貴様に名を覚えられるとは心外だな。大尉で結構」
エーリカ「トゥルーデ!」
辛辣なバルクホルンの声にエーリカが珍しく声を荒げる。
が、そんなエーリカを片手で制し、顔色一つも変えない俺が前に出る。
俺「分かった。大尉、用件はいかほどで?」
バルクホルン「…ふん、夕飯の用意が出来た。ハルトマン、行くぞ」
エーリカ「わっ、トゥルーデ~自分で歩けるよ~」
引きずられる瞬間、エーリカがどうしてと目で訴えて来たが笑って返した。
話がほとんど聞かれていなかった様で安心した。
惨めではないか。自らの力が足りなかったばかりに救えなかったのに真実を話し、甘えて好意を引こうとするのは。
あの子を救えなかった自分に、甘えなど必要ない。
力を示し、己を認めてもらうしかない。
俺「…技術屋とはは、難題程燃え上がるも――ぐぅううう――……」
せっかくの覚悟すら、腹は待ってくれないらしい。
見失う前に着いて行こうと、俺は走りだした。
ミーナ「みんな自己紹介が済んでなかったわね。では宮藤さんから」
そんな風に、簡単に自己紹介は終わった。大尉とのゴタゴタが尾を引いているのか、空気が重いように感じる。
俺の席はエーリカの隣だった。
二つ向こうから強烈な殺意を感じるが無視を決め込んで食べる。
俺「おいしいな」
宮藤「本当ですか大尉!」
俺「うん、とってもおいしいよ。特にこの納豆がなんとも」
ペリーヌ「その腐った…豆が食べられるのですか?」
俺「…クロステルマン中尉、今“腐った”と言ったかい?」
ペリーヌ「え、ええ。その通りでしょうに…」
きらりと俺の目が光る。
また始まったとエーリカが溜息をつくが、この際見えず、
俺「否、これは発酵である!発酵とはもちろん腐ると同義であるが、人にとって有益な場合のみ発酵と呼ぶ。
おそらくこの大豆は何か特殊な菌を40度程度の温度で大豆と一緒に寝かせ、繁殖、増殖する事により出来あがったものだろう
確かに匂いは怪しいものがあるが、栄養価も高い。
これは微生物の繁殖の奇跡であり、恩恵なのだ!!」
細かく細かく的確に。
熱意に輝く俺とは裏腹に、ペリーヌは驚きすぎて目を見開いたままだ。
ペリーヌ「」
宮藤「納豆の事をこんなに良く知っている人がいただなんて…!!」
エイラ「……コイツ…出来る」
坂本「…見事だ」
認めたくはないが、この点だけは。
一息に言いきった俺に四分が賞賛、六分が呆れた溜息を吐く。
いや、すごい。すごいんだけど…
エーリカ「食べてる時ぐらい考えるのやめなよにぃに…俺」
俺「考えるのをやめたら腐ってしまうよ」
シャーリー「俺ー、そいつは発酵にはならないのか?」
俺「はは、イェーガー大尉は冗談が上手だ」
ルッキーニ「うー…おれー難しい事は分かんないよぅ」
俺「申し訳ないルッキーニ少尉。ああ、後自分の事は俺で大丈夫です。気軽に呼んでくれ」
樫の木の様な男が笑う。
相変わらず笑顔が似合わない様にみんなが笑った。
食事は大事だ。明るく楽しく食べたい。
俺はそう思いながら仏頂面で食事を勧める大尉の震える肩を見遣った。
ミーナ「シャワーの時間は午後9時からとさせてもらいます」
俺「お心遣い感謝します。隊長」
夕食後の茶を楽しみながらミーナから諸注意が告げられる。
ほぼ全員で軽く質問を交しながら注意事項を確認していく。
俺「隊長、通信室の使用許可を頂けますか?本国の技術省と連絡を取りたいのですが…」
ミーナ「ええ、通信兵達に迷惑をかけない程度なら構いません」
俺「…ありがとうございます」
エーリカ「話し込んじゃ駄目だってさ」
俺「ッエーリカ!」
エーリカ「冗談だよー」
一瞬言葉の詰まった俺にエーリカが囁きかける。
急いで声を出せば、彼女は楽しそうに笑いながらリーネ作のクッキーを齧った。
あまりにも警戒心が無いエーリカと緊張感の無い俺に501の面々は疑問に思いながらも普通に過ごす。
坂本「俺大尉、その右腕は一体何なんだ?」
俺「……え?」
誰も聞かなかった…聞けなかった事をさらっと聞いた坂本に空気が固まる。
カップを持つ手が僅かに震えるのを感じる。
まさか、この人は知っている?サカモト少佐は…真実を…
坂本「あ、すまない。嫌な事だったら良いんだ。ただ戦闘でどうなるかを聞いておきたかっただけだ」
俺「あ…はは、そうですよね。戦えます。気になるのでしたら明日
模擬戦でもいかがですか?」
坂本「それがいいな。では、明日朝食が終わり次第ハンガーまで来てくれ」
ではと言って坂本が部屋を出る。
周りではルッキーニが能力を聞いたり、色々な質問をしてきたので全て丁寧に返し、一言言ってから通信室へと急いだ。
ルッキーニ「俺ってすごいね…一緒に昆虫採集してくれるって!」
シャーリー「…あいつは何をどの位知ってるんだ?」
エーリカ「心赴くままに興味のあるものを貪ってるだけ。多分生息地が知りたいんじゃない?」
ミーナ「生息地?院生ってすごいのね」
エーリカ「私達がアジアに行った時も散々言われたし…あー大変だった」
エイラ「博士にでもなるのカ?アイツハ…」
サーニャ「お菓子も作ってくれるって…」
俺「やあ、久しぶりだね。そっちはどうだい?」
≪そろそろジェットストライカーの実戦投入を考えています…まあ試作機ですが≫
俺「さすがウーシュだな。大きいエネルギーを小さいエネルギーに移す事によって得られる推進力。やはり、ウィッチに不可能は無い……か」
≪501には坂本少佐がいらっしゃるんでしたね。でもこの理論は俺さんが教えてくれたものですよ?≫
誰もいない通信室で言葉を交わす。
少ししか離れていないが話したい事は山ほどあった。
まだ見ぬ宇宙の話を。宇宙は広がっているかも知れないと言う事、宇宙の始まり
俺「…エーリカは少しも話に乗ってくれないんだよ」
どうしたものかと溜息を吐けば、向こうで彼女が小さく笑う声が聞こえた。
≪私と姉さまでは好きな物が違います。医学の話をしてあげて下さい≫
俺「そうだな…そうするよ。ではウーシュ、あまりやり過ぎないように」
≪俺さんこそ……隠すんですか?その力≫
切ろうとした通信の向こうから心配そうな声が流れる。
俺「ああ。これがけじめなんだ。時が来れば、使うけれどね」
≪…そうですか。ではしっかり寝てくださいね。おやすみなさい、俺さん≫
俺「ああ、お休みウーシュ。良い夢を…」
がちりと通信機を置く。
夜は嫌いだ。ざわざわと胸にさざなみが立つ。
俺「………豆でも挽くかな」
エーリカ「もちろん私にもくれるんだよね」
いきなり背後に抱きついたエーリカに、俺が固まる。
数秒の硬直の後、俺はゆっくりと口をひらいた。
俺「…君が居た事は分かり切っていた……」
エーリカ「ビックリしたならそういいなよ。早く行こう。ねむい」
俺「眠い子がコーヒーを飲んじゃ駄目だ。明日にしなさい」
エーリカ「ミルクが入ってればいいもの。メンテナンスもあるし」
どうやら今日は長いようだ。
覚悟を決め、部屋に戻ろうとすると、ふと、先ほどウルスラの言っていた事を思い出した。
俺「…久しぶりに医学を教えようか?」
エーリカ「え……うん!にぃにぃと勉強なんて久しぶりだね!」
小躍りしながら袖を引くエーリカに呆れながら走る。
振動が付け根に響くが慣れが必要だし、平気だろう。
俺「では俺の部屋においで。準備をして待ってるから」
エーリカ「ん~このままでいいよ。医学書もあるんだよね?」
俺「じゃあ豆でも挽きながら」
エーリカ「やったね!早く早く!」
エーリカ「…むにゃぁ……」
俺「また布団をずらして……」
ノートと本が散乱する机にコーヒーミルを置き、唯一綺麗なベッドで眠るエーリカに近寄る。
豆を挽いた後の芳ばしい香りが充満する部屋の中に差し込む朝日が少し眩しい。
俺「ここにいたら色々不味いか……仕方ない」
エーリカを抱き上げ、枕元に置いてあった本を閉じる。
何を熱心に読んでいたんだかと思い、題名を確認して思わず唇を噛んだ。
俺「…気を使わせて……駄目な兄だよ。俺は」
乾いた笑いを漏らし、本棚に戻した。
本は最近リベリオンの科学者が発見した菌の論文を俺がまとめた物。
内容は神経を保護する菌の発見と報告。彼女の専門外の物だった。
エーリカとバルクホルンの部屋
俺「これは、見事な対比が…」
半分は必要最小限の物のみ。
もう半分は必要最大限を大きく越えた物、否ゴミの山。
俺(ベッドベッド…ズボン脱ぎっぱなし……埃の厚さ6.95mm…)
自分の部屋が汚くとも、他人の部屋の汚さは許せない。
俺、22歳。そんな男である。
エーリカをベッドに優しく寝せた途端、怒涛の勢いで掃除を開始した。
バルクホルン「うるさいぞハルトマン……お前は静かに寝る事も出来ないのか…?」
俺「あ………」
バルクホルン「……赤鼻…何故貴様がここにいる」
開始から数十分。夢中になると周りが見えない。俺、22歳。そんな男である。
寝起きの髪を下ろしたバルクホルンに全力で乙女の領域を掻き回している所を見られた。
バルクホルンが枕元から拳銃を出して俺に向ける。清々しい程に迷いの無い顔だった。
バルクホルン「釈明の余地が欲しいのなら、その頭で上手い嘘でも考えてみろ」
俺「おはようございます大尉。今日は雀が良く鳴いていますね」
バルクホルン「…随分とハルトマンと仲が良い。貴様は世話でもしに来たのか?」
動じもせず、ありのままを伝える俺にバルクホルンが苛立ちを深める。
俺「この体たらくでも囮程度は出来ます。これ以上―――――」
バルクホルン「能書きはいい。いい加減自分の言葉で話せ。赤鼻」
俺「俺は何時でも本気だ!」
無感動に銃を向けるバルクホルンに思わず俺が叫ぶ。
いきなり叫ばれたバルクホルンも固まるが、叫んだ俺の方も固まっていた。
バルクホルン「…赤鼻?」
俺「……失言です。お気になさらず。さあ、朝食に行かないと今日が持ちませんよ?」
失礼と、弱弱しく自虐的な笑みを浮かべて俺が部屋をでる。
残されたバルクホルンもバルクホルンで、飲み下しきれない思いが胸に溜まって行くのを感じた。
バルクホルン(自分の言葉?奴は裏切り者だぞ……)
苛立たしげにベッドに倒れ込んだバルクホルンを横目で見つつ、エーリカは溜息をついた。
エーリカ(トゥルーデはきっと体では分かってるんだ…変に鋭いし)
エーリカ(うわぁー…面倒臭いよ…あの馬鹿にぃの事だから絶対このままだよ…)
エーリカ(ウルスラの馬鹿…こんな面倒な事任せて…ちくしょう)
基地 外
坂本「遅いな」
ミーナ「そろそろ来ると思うのだけれど…」
宮藤「あっ、来ましたよ!」
リーネ「あれ?審判はハルトマンさんなんですか?」
坂本「ああ、バルクホルンがどうしても自分の手で撃ち…試したいと言うのでな」
エイラ「大尉も過激ダナ…」
シャーリー「まさかペイント弾だよな…?」
溜息を吐く坂本に「いや、止めろよ…」的な雰囲気が流れる中、バルクホルンと俺が向きあう。
エーリカによる説明が適当に行われ、何とも適当に始まった。
サーニャ(少佐も俺さんの事嫌いなんですね…)
エーリカ「たぶんね」
サーニャ「きゃっ!?」
エイラ「サ、サーニャ!?……って、中尉?ナンデここにインダヨ?」
いつの間にかサーニャに抱きついていたエーリカを引き剥がして威嚇する。
エーリカは現在向こうの方で模擬戦の審判をしていたはずだ。
エーリカ「だってあの中にいられる?」
ひょいと指をさした先には激昂して今にも弾丸を放ちそうなバルクホルンとそれを前に真剣に説明する俺。
ルッキーニ「うえ~…絶対ムリ」
ペリーヌ「…あの方は一体何をしましたの?」
エーリカ「武器だよ武器。あの馬鹿にぃ、拳銃で勝負に出たんだ」
バルクホルン「貴様は私を馬鹿にしているのか、それとも見下しているのか」
俺「充分真剣。この6発で貴女を沈めてしまえば良い話」
戦闘は開始されてはいるが、怒りに引き攣るバルクホルンに俺は怖気もせず拳銃を突き付ける。
ネウロイ撃墜数世界第2位の己に挑む態度とは到底思えない。たとえ目の前の少し鼻の赤い男が『赤鼻』だとしても。
バルクホルン「遺言は、向こうで書くんだなッ!!」
俺「―――ッ!?」
いきなり発射されたペイント弾が右肩を掠め、赤い塗料が付着する。
構えから射撃までに隙が無く、的確に弱点を撃つ。なかなかどうして、味方にやる事ではないが。
頭の中では冷静に分析出来ても奥底にへばり付いた記憶がどろりと体中の血管を這いずる。
重いペンキで塗りたくられた空、ぐちゃぐちゃに食い潰された街、その中に咲いた一輪の…
込み上げる嘔吐感を飲み下して再びバルクホルンと向きあう。鋭い瞳が殺意を込めて突き刺さるが無視した。
俺「……自分の負けですね」
バルクホルン「その位ハンデだ。私には一発、貴様には後3…2発当たれば終了だ」
俺「…感謝します、大尉」
バルクホルン「たった一発でそんなに汗を流すか?……さっさと化けの皮を剥いでやる」
俺「トナカイの毛皮は暖かいですよ。自分も愛用していますし」
バルクホルン「戯言は後にしろ」
再びペイント弾が雪崩れて来る。
それをゆっくりと、分からないギリギリのラインで横にずれながら上昇して行く。
――ああ、この人は腕が良い。あの時に戦場にいれば……
思わず寄った眉間の皺を見られぬようにゆっくりとターンを繰り返す。
いつの間にか上を取られたバルクホルンが驚くがすぐに俺の射線からそれて照準が向けられる。
また右肩、この人はなんで分かるのだろうか。
坂本「バテて来たな…3分も立ってないぞ……」
リーネ「…なんだか変ですね…本当にあの人が奇跡のトナカイなんですか?」
シャーリー「書類のままだったらな、あ、避けたぞ?」
ルッキーニ「戦闘じゃなきゃ面白いのにね~…ん~残念賞」
ミーナ「調和はまあまあだし……先生役でもやってもらおうかしら?」
ぱっとしないせせらぎの様な戦闘に一同が困った様に溜息をつく…数名のみを除いて。
エイラ「ナァ、なんでアレを避けられるンダヨ…」
エーリカ「あの位普通じゃない?でも当たった所が悪かったかな…」
エイラから囁かれた疑問を洋上で戦う二人を見ながらエーリカが答える。
その回答にエイラが確かにと、呟く。
射線は読み切った筈が僅かに右肩を掠った。
そして赤のペイントを見た瞬間見開いた瞳。吐き気をこらえる様に結んだ口…何よりも、悔しくて、堪え切れない何かを刻んだ表情
サーニャ「俺さん…何があったんですか?」
宮藤「嫌な思い出でもあるんでしょうか…」
エーリカ「まあ、正解だね……理由言えないけど」
矢継ぎ早に来る質問にぷうと溜息をついてエーリカは再び二人を見る。
どうやら決着は付いた様で、荒く息を吐く俺とは反対にバルクホルンは使えないと、オーラが語っていた。
エーリカ「妥当…かな」
ミーナ「俺さんを囮にするには惜しいし、やっぱり教官なら出来そうね」
坂本「まあ…あれでは、な」
ペリーヌ「もう22歳と言っていましたし、魔法力の限界でしょうか…」
俺「……ハッ…はぁ、はッごほっ……」
バルクホルン「大分消耗が激しいな。そんななりで陛下の御前に出て許可を頂いた?笑わせる」
吐き捨てる様に目の前で言葉を続けるバルクホルンを見る。
虫ケラを見る様な眼、7年間、ずっとこの眼を向けられていた。そして今も
嗚呼、俺は何一つ変わっていない。命を捨てる覚悟で、今度こそと皇帝陛下に願い出てようやく帰って来たのに
陛下に申し訳ない、力にしか頼れない自分が情けない、真実を表せない自分が許せない
ぐっと堪えていた物が溢れそうになる。じんわりと視界が揺れたが急いで拭う。
バルクホルン「過去の栄光にしがみ付き、現在の力を見ようともしない。赤鼻、貴様は三流以下だ」
俺「……そうですね、自分は―――――む?」
疲れ果てた目をしていた俺がふっと遠くの洋上に向く。
何だこいつはと、バルクホルンがそちらを向いた瞬間だった
≪南東よりネウロイ多数、来ます!≫
サーニャの切迫した声と共にウィッチーズが飛び出して行く。
通信からは俺の後方待機とバルクホルンの前衛が告げられ、その通りに動く。
突風が隣を行ったと思った途端、風に乗った声が耳に届く。
『見損なったぞ馬鹿にぃ』
俺「……はは、俺もう駄目かも…」
熱い滴が頬を伝うのが感じられ、更に溢れて来る。
嗚咽が聞こえない様にインカムを取り、ウィッチ達の戦闘を見る。
綺麗に揃っている。乱れは殆ど無く、皆が皆を信じ合っているのが分かった。
右肩に手をやりながら滴を止めようと上を向くが止まらない。
すんと、鼻を鳴らした瞬間、封じられた勘が目を覚ます。
俺(…ミヤフジ軍曹、付けられているのか?)
俺(いや、だとしたら大尉も付けられて………まさか…)
古びた勘が警鐘を鳴らす。あれはやられる動き、確実に半分が狙われている
右肩から紫電が溢れるのと、俺のストライカーが飛び出すのは殆ど同時だった
エーリカ「……おかしい」
エイラ「何がおかしいってんダヨ!」
すいすいと無数の赤い光を避けながらエイラが叫ぶ。
いつもと一緒の普通の戦闘、勝てるはずなのに先程からネウロイの挙動が変だ。
戦場から距離を取り、全体を見た瞬間目に飛び込んで来たのは機銃を掻い潜りながら宮藤の背後に忍び寄るネウロイ。
風を纏うが間に合わない、バルクホルンも気付き機銃を放つが味方正面に一瞬動きが止まる。
宮藤が咄嗟に振り返り、シールドを張った瞬間、それは起こった。
鋭く青い電流が宮藤の隣を通り過ぎたと思った瞬間、
どろりとネウロイが溶け、シールドを前に形を崩す
コアが輝くが束の間、弾けた
宮藤「え……え、ええ?」
バルクホルン「な、何だ今のは!?」
宮藤「分かりません……なんだか電気が来たと思ったら…」
ペリーヌ「私ではありませんよ?」
各員が突然の事態に思いを叫ぶ。
俺「いやぁ、危ない所でしたね」
ミーナ「俺、さん?…今のは一体……」
俺「ふむ、ネウロイにもエンジン不良と言う物があるやも知れませんね」
シャーリー「なんでお前飛べてるのさ。墜落寸前だったじゃないか!」
俺「治りました。いやぁ危なかった」
先程まで息を切らせて疲れ切っていた俺が元気一杯と言った感じで後方から飛んでくる。
軌道もぶれず、顔色も悪くない。ただ右肩を抑えているだけだ。
俺「さあ帰りましょう。敵は全て消えてしまった事ですし」
また似合わない笑みを浮かべて基地へと引き返す。
ルッキーニやエイラ達が質問を浴びせるが、曖昧、しかし本当くさい言葉で返されて行く。
エーリカ「なんで使ったのさ…使わないって」
俺「すまない。体が勝手に、な」
エーリカがふわりと俺の隣に飛び寄り、右肩に触れる。
顔を顰め、弱く笑う俺は申し訳なさそうに赤い鼻を点滅させた。
エーリカ「でも」
俺「なんだい?エーリカ」
エーリカ「ちょっと見なおしたよ?にぃにぃ」
天使の笑顔で悪魔は笑った
最終更新:2013年02月03日 16:34