ガリア 広場―






「そういえば、俺さん」

「ん?」

再度ストライクウィッチーズが解散されて、半年と少し。
ペリーヌと共にガリアに戻った俺は、リーネにそう切り出され、食事の手を止める。

「今年は、ペリーヌさんと一緒にいられるんですよね?」

「あー…」

黒い笑顔でリーネに詰められ、たまらず苦笑する俺。
去年は、プレゼントを渡す都合で俺は一日中時間を使い果たしてしまっていた。

それ故に、今年はとリーネが目を光らせているのも頷ける。

「ああ…まあ、今年は問題ない。もうプレゼントの準備もしてるし」

「ならいいんです。一年に一度の大切な日なんですから」

あなたがいなくてどうするんですか、と。

まあ、それに関しては俺も重々承知している訳であって。

「今年は大丈夫だよ。ペリーヌと約束もしたしな」

再び食事を開始する俺。
因みに、今はペリーヌはこの場にはいない。ガリアの今後の方針を決める会議に出席している。

「さて…そろそろ昼休憩も終わりだな。ペリーヌも戻る頃だし、作業ついでに迎えに行くか」

「はい。…あ、これペリーヌさんに。夕方に食べても大丈夫ですよ」

「ん。渡しとくよ」

リーネから手渡された包みには、昼食のおにぎり。

「じゃあ、またな」

「はい、また」

軽く手を振ってリーネと別れる俺。少し歩いて、空を見上げる。

雲一つない、どこまでも澄んだ蒼穹。

ふと、その果てまで飛んでいきたくなる。

「…誰もいない空は、広すぎるんだよな」

ただ一人きりで飛ぶ空は、ひどく寂しく、空虚だ。どこまでも青いその色に溶けてしまいそうな気分になる。

――――大丈夫、一人じゃないよ…

聞きなれた声に振り返っても、そこには誰もおらず。

それでも。俺の口元は、知らず緩んでいく。

「分かってるよ」

あまり惚けていると、ペリーヌと入れ違いになる。
そう思い直した俺が再び視線を前に戻すと、その心配は杞憂に終わった。

遠目にも分かる、愛しい青が。
満面の笑みと共にこちらに駆け寄ってくるのが見えたから。

俺も苦笑ではなく、明確な笑顔と共にそちらに歩き出す。

明日、2月28日は、彼女…ペリーヌの誕生日だ。






―ガリア 俺・ペリーヌ自宅―






「…さて、と」

2月28日、朝。俺は一人ベッドを抜け出してクローゼットを開く。
いつもの黒い軍服と同色のコートを取り出して、慣れた手つきで身に着ける。

次いで、クローゼットの奥から小箱を取り出して、中身を確認する。

(改めて見ると…少し緊張するが)

一つ苦笑して、ベッドの上に目をやる。

そこには、彼が最も護りたい、最も愛しい存在がすやすやと寝息をたてている。

そっと近づいて、頭を撫でてやる俺。

「んぅ…おれさん…?」

「…起こしたか。おはよう、ピエレッテ」

薄く目を開けて、上半身を起こすペリーヌ。

今日は、ガリアの復興作業は一日休業である。
それ故に、普段ならばにわかに賑わい出す時間であっても、窓の外は静かだ。

「もう少し寝ているか?」

「いえ…起きますわ」

ふわ、とあくびをしてから、ベッドサイドの眼鏡を取るペリーヌ。

「じゃあ朝飯の用意してくるな。少ししたら降りてきてくれ」

「分かりましたわ。お願いします。…あ、俺さん」

「ん?」

部屋を出かかった俺の服の裾を、ふとペリーヌが掴んだ。

「あの…えっと…」

やや朱が差した顔で、上目づかいに俺を見るペリーヌ。その様子に一瞬考え、俺は得心いったようにうなずく。

「ふふ。分かったよ」

再びペリーヌに向き直り、腰を屈めてその唇にキスを落とす俺。

「ん…」

触れるだけのキス。それが離れると、ペリーヌはいつもより満足そうな顔で、

「その…もう一回、してください…」

いつもより珍しく、そう俺にねだった。

「…仕方ないな」

再びペリーヌと唇を重ねながら、朝食は遅めでもいいか、などと考えてしまう俺だった。






―同国 集会所―







去年と比べて、ガリアの復興は着実に進んでいる。
つい先月、多目的に使える集会所が完全に修復され、イベントや大規模な会議、集会に使われていた。

時間は正午。その集会所に、ガリア復興に携わる多くの工夫、手伝い、国民が集められていた。

何せ、ガリア解放の立役者として人気の高いペリーヌの誕生日だ。大々的に誕生会が行われるのも頷ける話ではある。

だが、それにしても。

「…リーネ?」

「はい?」

「…気合入れすぎじゃないか?」

そんな中、今回もペリーヌの誕生会の企画をしたというリーネの傍らで、集会所を眺める俺は苦笑が絶えなかった。

ざっと見ても、百人単位で人が集まっている。いったいどうやって、と俺は首を捻るばかりだ。

「去年は色々と準備不足でしたから…今年は、と思いまして」

そう言ってにっこり笑うリーネに、俺は苦笑を深めるしかない。

そんな時、集会所の奥から歓声が上がった。
今回の主賓である。ペリーヌが入場してきたのだ。それも、ドレスで着飾った姿で。

「…あれも、お前か?」

「はい。ペリーヌさん、ああいう格好似合いますよね」

抜け目ない奴だな、と俺は苦笑して、ペリーヌに視線を戻す。
ペリーヌは少しも気後れすることも無く、周りの拍手や歓声に笑顔で、優雅に頭を下げて応える。

流石はお嬢様、と言ったところだろうか。

(綺麗だな…)

気付けば、俺はペリーヌに目を奪われていた。

一瞬も視線を外せずにいると、ペリーヌが俺に気付いて、花が咲いたように顔を綻ばせる。

ドレスの裾を少し持ち上げて、俺に駆け寄るペリーヌ。

「…どうですか?」

「…惚れ直した」

ペリーヌの赤面交じりの言葉に、思わずと言った様子で俺の口から言葉が漏れた。

「もうっ…」

その言葉に、ペリーヌは口を尖らせ、しかし満更でもないような顔で微笑む。

「ペリーヌさん、どうぞ」

リーネが横からペリーヌに差し出したのは、マイク。
それを受け取って、軽くマイクを叩いてから、ペリーヌはそれを口に寄せた。

≪…皆さん。本日はお集まりいただき、ありがとうございます≫

ペリーヌの堂々とした声が、集会所に響き渡る。

≪ささやかですが、本日はどうぞ存分に楽しんでいってください。そして、どうかこれからも、ガリア復興にお力添えをお願い致します≫

その言葉とペリーヌの一礼で、会場が大いに盛り上がった。

リーネにマイクを返すと、ペリーヌは俺の手を取った。

「さ、俺さん。私をエスコートしてくださいます?」

「…かしこまりました、お姫様」

冗談めかして言う俺に、もう、とペリーヌは微笑んで、二人は誕生会の中に溶け込んでいった。







―同国 俺・ペリーヌ自宅―







「…そういえば、俺さん」

「ん?」

夜。自宅に戻った二人は、明日も早いので早々に寝る支度を整えていた。

「今年は、約束果たしてくれましたわね」

ベッドの端に腰掛けたペリーヌが、そう嬉しそうに言った。

「ああ。俺はピエレッテとの約束は……一回だけ、破ったな…」

そうですわよ、と頬を膨らませるペリーヌに、俺は苦笑しながらその頭を撫でた。

「半年も待たされたんですから…」

「…悪かったよ」

七月のあの日。
すぐ戻ると約束した俺は、結局半年近く帰って来なかった。

「でも…いいです。帰ってきてくださいましたから」

ペリーヌは俺の肩に頭を置いて、言う。

「今日も、約束護ってくださいましたし…」

「…ああ」

「一緒にいられて、幸せです…」

肩に置かれたペリーヌの頭をそっと撫で、俺も満足そうに笑む。

「なあ、ピエレッテ…少し、聞いてほしいことがあるんだが…」

「はい?」

少し名残惜しいがペリーヌに頭を退かしてもらい、クローゼットに向かう俺。

それを開け、少しの逡巡と共に、今朝の小箱を取り出した。

「何ですか?」

ペリーヌが俺の顔と小箱を見比べて、小首を傾げる。

「その…なんだ。あー…」

俺にしては珍しい歯切れの悪い言葉に、ペリーヌの頭にさらに疑問符が浮かぶ。
やがて、何かの覚悟を決めたらしい俺が、小箱をペリーヌに差し出した。

「これ、誕生日プレゼント…と…それと…」

小箱をペリーヌの前で開ける。中身は、

「指輪…?」

「ああ…その、な…」

一度咳払いをしてから、ペリーヌにきちんと向き直る俺。

「…この先、ピエレッテがウィッチじゃなくなったら…その、結婚、しよう」

一瞬何の事だか分からなかったのか、目をぱちくりとさせるペリーヌ。
徐々に俺の言葉が浸透したようで、一気に顔が紅潮した。

「け、けっこんって…」

ペリーヌは真っ赤な顔で俺と指輪を見比べて口をぱくぱくさせる。

俺も俺で顔を赤くさせて、ペリーヌと目を合わせられない。

しばらくそんな雰囲気で沈黙が続き、やがて、どちらからともなく顔を上げた。

「俺さん…それって、プロポーズですか…?」

「ああ…そうだよ」

差し出された指輪を、ペリーヌは穴が開くほど見つめる。

「…俺さん」

やがて、ペリーヌが意を決したように俺を見た。俺も表情を硬化させる。

「一つだけ、いいですか?」

「何だ?」

「しあわせにしてくれなきゃ、嫌ですからね?」

指輪をそっと小箱から取り出し、俺に微笑んでみせるペリーヌ。

「ああ。…当たり前だ」

俺はペリーヌの手からそっと指輪を取り、次いで左手を取る。

少し緊張の残る手つきながらも、それはすっとペリーヌの左手薬指に収まった。

「俺さん…さっそく、一つお願いしてもよろしいですか?」

「ん?」

指輪を満足そうに眺めてから、不意にペリーヌがそう切り出す。

「私から、離れないでくださいね。…ずっと、一緒にいてくださいまし」

その言葉に、俺は何かを考える前に、ペリーヌを抱きしめていた。

「当然だよ。二度と離さない」

「…絶対ですわよ?」

「絶対だ」

ペリーヌも俺の背中に手を回し、俺の胸元に額を擦り付ける。

「…今、幸せだ」

「私も…ですわ」

抱き合いながら、互いの幸せを噛みしめる俺とペリーヌ。

「なあ、ピエレッテ」

「何ですか?」

腕を緩めて、ペリーヌが顔を上げた瞬間、

「んっ…」

俺が、ペリーヌの唇を奪っていた。

いつもならば、触れるだけのキス。
今回は、それで留まることなく、互いの舌まで絡め、吸い合う貪欲なそれ。

「ぁ…ん、ちゅ…む…」

「…ん…ぅ…」

唾液を交換し合い、互いを求め合う。

「はっ…ぁ…もう…いじわる…」

呼気が苦しくなり、どちらからともなく離れる。開口一番のペリーヌの言葉に、俺は苦笑してしまう。

そのまま、俺はそっとペリーヌをベッドに押し倒した。

「…まだ、ダメですけど…俺さん。優しく…してくださいね…」

「…努力はするよ」

もう、と言いかけたペリーヌの言葉は、再び俺によって塞がれた。

「俺さん…愛してます」

「俺もだよ…ピエレッテ」



一年に一度の、特別な日。二人の夜は、もうしばらくだけ長かった。
最終更新:2013年02月03日 16:40