夜の第502統合戦闘航空団の食堂。
隊長のラルは集まった隊員たちを見まわし、口を開く。

ラル「今朝みんなには言ったように、本日我が部隊に新たな人員を迎えることになった。中尉、自己紹介を」

俺「扶桑皇国海軍俺中尉だ。好きなものはアルコール飲料全般。これからよろしく」

簡単に名乗ると、少々砕けた敬礼を見せる。
それをフレンドリーと取るか、だらしがないと取るかは人それぞれで、

ロスマン「あらあら」

サーシャ「む……」

おおむね半々で受け止められていた。
しかしそれ以上に男のウィッチということで好奇心に満ちた視線が多い。

ラル「まあ色々質問したいことはあるかもしれないが、先に私たちも自己紹介といこう。私たちだけが相手を知っているのは不公平だろうしな」

そのこともわかっているのだろう、小さく笑みを浮かべつつも、はやる隊員たちを落ち着けるようにラルは声を発し、自分が率先する。

ラル「私はここ第502統合戦闘航空団隊長なんてものをやってる、カールスラント空軍グンドュラ・ラル少佐だ……と、これだけじゃ味気ないな。うむ、最近のお気に入りは寒いときにジョゼを抱きしめることだ。これがまたぽかぽかしていて気持ちいいんだ」

ジョゼ「た、隊長!?」

顔を真っ赤にさせた二つお下げの少女が、やおら立ち上がりラルに抗議の声を上げる。
だがラルは余裕の表情で受け流し、手のひらを下に向けて落ち着ける。

ラル「ふふっ、まあいいじゃあないか。それよりおあつらえ向きに立ち上がってるんだ、次はジョゼが自己紹介な」

ジョゼ「う……はい」

しぶしぶ頷き、気を取り直して俺の方へ向き直る。

ジョゼ「自由ガリア空軍から編入しましたジョーゼット・ルマールです。ちなみに少尉で、みなさんジョゼと呼ぶので俺さんもそう呼んでくださってかまいません。あ、あと応急処置程度ですけど治療魔法が使えるので、なにか怪我したら気軽に私に声をかけてください」

言い終わると、ぺこりとお辞儀をして座る。丁寧な口調に穏やかな雰囲気、それだけで彼女の優しい性格がわかる。
ジョゼが座ると、その隣に座っていた少女が立ち上がる。
こげ茶色の髪色だったジョゼと違い、しっとりと落ち着いた黒髪の少女だ。

下原「扶桑出身の下原定子少尉です。料理が好きで、よくお夕飯とか私が作ることがあるので、その時はよろしくお願いします」

直枝「下原のメシはうまいぞ」

下原「菅野さん、そんな」

直枝「うまいもんはうまいんだよ」

横から声を挟んだのは、黒髪をざっくばらんに短く切った、活発さというより野性味を感じさせる少女。

直枝「オレは菅野直枝少尉。扶桑出身。味方でもオレが獲物を狩る邪魔をするんだったら容赦しねーぞ」

椅子に座ったまま、不遜な態度で言い放つ。
胸を張り、ふんと鼻を鳴らすのだが、小柄さゆえに微笑ましくも見える。

サーシャ「せめて立つくらいはしてください菅野さん……」

苦笑しながら苦言を呈するのは、金髪が鮮やかな少女。
ばつが悪そうにそっぽ向いてしまった直枝にため息をつくと、少女は立ち上がった。

サーシャ「オラーシャ陸軍大尉で、ここでは戦闘隊長を務めていますアレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキンです。長ったらしいのでサーシャでお願いします、私もそちらのほうが慣れていますので。それと、くれぐれもストライカーは大切にして下さいね」

ちらと数人に目線を送る。
ある人物はそっぽを向いたまま、またある人物は軽く肩を竦める。
そして、居心地悪そうに眉尻を少し下げる少女が、サーシャと入れ替わりに立ち上がった。淡い金髪がボーイッシュにかなり短く切りそろえられている。

二パ「スオムス空軍のニッカ・エドワーディン・カタヤイネン。曹長だよ。私も気軽に二パでいいや。スオムス人は寒さに関してはオラーシャ人より強いと思うから、そこらへんは相談に乗れるよ」

二パが座ると、小柄で銀髪のはかなげな少女が立ち上がった。

ロスマン「カールスラント出身エディータ・ロスマン曹長よ。空戦術について色々言うかもしれないけれど、私は教官役も兼ねてるからそこらへんは理解しておいてちょうだいね。あとはまぁ、やり過ぎない程度に楽しむ分にはいいから、仲よくやりましょう」

クルピンスキー「ちなみにこう見えてエディータは部隊最年長だから」

ロスマン「うるさいニセ伯爵!」

クルピンスキー「いたっ! ひどいなぁ先生は」

横から茶々を入れてきたクルピンスキーの頭を、手に持っていた指し棒でたたくロスマンはなるほど先生という表現が似合っていた。
とりあえず俺は、クルピンスキーの言葉に合わせて、脳内のロスマンの年齢欄を変更しておいた。あやうく年下相手の対応の仕方をするところだった。

ぷんぷんと怒りを表すロスマンを宥めつつ、最後の一人のクルピンスキーが立ち上がる。

クルピンスキー「改めて自己紹介だね。私はヴァルトルート・クルピンスキー、ごらんのとおりカールスラント出身で中尉さ。みんなは私の魅力に釘付けだから伯爵って呼ぶなぁ。ああそう、私もお酒は大好きだね、女の子も同じくらい好きだけど」

魅力がうんぬんのあたりで周囲からブーイングがあったが、クルピンスキーは全く気にしたようすがなく、耳にかかった髪を軽くかきあげると、小さく唇の端を吊り上げて見せる。
にやりと俺もそれに笑みを返した。

ラル「よし、それじゃ全員自己紹介が終わったようだし、しばらく自由時間にするか」

手を叩いてラルが宣言すると、俺に色々と質問をしようと机を皆で囲んだ。

ロスマン「扶桑からここまで直接自力で飛んできたって本当なの?」

俺「ん? ああ、そりゃ本当だ」

下原「ええっ!?」

なんでもないことのように俺は言うが、他の人々の驚きはかなりのものだった。

二パ「扶桑からここってどのくらいあるっけ?」

サーシャ「とりあえずオラーシャを横断する距離はありますね」

直枝「いや、嘘だろ。そんな魔力持たないし普通」

ざわめいていたみなだったが、直枝の言葉に一瞬ぽかんとした後、なぁんだという表情になる。
今のは俺のジョークだと思ったらしい。

俺「いや、本当に飛んできたぞ? 魔力は固有魔法で補えるからな」

ジョゼ「それってどんな固有魔法なんですか?」

俺「あー、体内にとりこんだアルコールを魔力に変換するっていう魔力変換だ。つまり酒を飲むと魔力が作れるって感じか」

サーシャ「……はい?」

その一言がみなの心情を代弁していた。
固有魔法はただでさえ少ないウィッチの中でも限られたものしか持たないもので、その効果は様々だというのは皆が知っている。
凄まじい怪力を発揮したり、なんでも凍らせちゃったり、弾道を安定させて命中率や飛距離を延伸したり、重力を操っちゃったりと、なんでもアリだという認識をみなが持っていた。
だけれども、お酒を飲んだら魔力が回復するなんて、そんな小説や漫画のような固有魔法に出会ったのは初めてで、一瞬固まってしまう。
だがそれでも、一部そんなことお構いなしな人物もいる。

クルピンスキー「ああ、だからお酒なんて持って空飛んでたのかぁ! ただ飲みたいだけじゃなかったんだね」

ラル「あのあほみたいな空き瓶の数々はそういう理由があったか」

なるほどと納得している二人により、固まっていた各々の時間が戻った。

二パ「なんというか、愉快な能力だね」

直枝「ギャグかよ……」

とは言っても、苦笑いするものと呆れるものとに大別できるが。

俺「つってもなー、俺が選べるわけでもないしよ」

もう固有魔法を明かした時の人々の反応には慣れているのか、全く気にすることなくそそくさと浦霞をグラスに注いで呷った。

俺「ま、俺としてはいつでも酒飲める口実が出来て万々歳だけどな」

空になったグラスを机に叩きつけると、にやりと笑みを浮かべてみせる。

クルピンスキー「あ、私にも一杯くれる?」

俺「ん? ああ、いいけどよ。気に入ったのか扶桑酒?」

クルピンスキー「まあね」

すっと出されたグラスに酒を注ぐ。

サーシャ「中尉……」

いきなりのクルピンスキーの行動に頭を抱えるサーシャだったが、それだけにとどまらなかった。

ラル「おっ、扶桑酒か。しばらく飲んでないな、私にも一杯頼む」

ロスマン「あら、だったら私もちょうだいしようかしら」

俺「あ、どぞどぞ」

さらに二つグラスが増える。
堅物が多いとされるカールスラント軍人だが、502にいる三人はフランクであった。

クルピンスキー「じゃ、乾杯しようか?」

俺「ああ、やるか?」

ロスマン「いいんじゃない?」

ラル「おう、じゃあ俺の配属を祝って乾杯!!」

俺&ロスマン&クルピン「乾杯!!」

グラスのぶつかる甲高い音が部屋に響いた。
そして各々の喉が鳴り、満足そうな息が吐き出される。

ロスマン「あら、扶桑酒も中々いかすわね」

ラル「うーむ……扶桑酒ってのは米で作るというのは聞いていたが、米も侮れないな」

クルピンスキー「おや、二人も気に入っちゃったかな?」

俺「気に入ってもらえたなら扶桑人としては嬉しい限りっすよ。どっすかもう一杯?」

再び注がれる扶桑酒。
浦霞は一升瓶だが、この四人のペースにかかってはすぐに底をつきそうである。

下原「あ、じゃあ私なにかつまめるもの作りますね」

ジョゼ「なんだか、お酒が足りなさそうなので持ってきますね。ワインとウォッカしかないですけど」

酒宴が本格的になるのを見て、二人は台所へと抜けていく。

直枝「あほらし……寝る」

二パ「あはは……」

どうでもよさそうに欠伸をする直枝と、苦笑しつつ巻き添えをくらわないように身を引く二パは、部屋から静かに去って行った。

サーシャ「あ、あれ? なんでこんなことになってるんですか? しかも隊長と曹長まで! た、隊の風紀はどこへ!?」

頭を抱えていたサーシャがはっと気付いた時には自分のまわりは酒飲みだらけ。他の仲間たちは皆どこかへ行ってしまっている。
彼女がおろおろする姿を見つけたクルピンスキーは獲物をみつけたとばかりににんまりと笑った。

クルピンスキー「おやおや、熊さん一人ぼっち? なら、私たちと一緒に楽しく飲もうよ!」

ロスマン「そうね、ジョゼさんがお酒追加してくれるみたいだしどうサーシャさん?」

サーシャ「え、いや私は……」

ラル「ポクルイーシキンお前さんオラーシャ人なんだろう? なら酒好きに違いない!」

俺「飲み比べとでも行くか!」

サーシャ「えっ? えっ?」

あれよあれよと言ううちに囲まれ、退くも進むもできなくなってしまった。

サーシャ(前々から思ってたけど、カールスラント軍人は規律にうるさいなんて絶対ガセよー!!)

心の中で嘆くも、目の前に差し出されるのは五つ目のグラス。
もちろん並々と酒が注がれている。

サーシャ(もう……知らない!!)

覚悟を決めて受け取ると、一気にその中身をあおる。

サーシャ「んっ……はっ」

四人「おー!!」

一気に飲み干したサーシャに四人からは歓声と拍手が送られる。
だが、もはや自棄っぱち状態のサーシャは止まらない。

ジョゼ「お酒もって来ましたけど――」

サーシャ「ジョゼさん一本もらいますよ!」

ジョゼが抱えていた酒の中からワインボトルを一本引き抜くと、魔力を使っての身体強化を行ってまでして無理やりコルクを引っこ抜くと、ラッパ飲みを始めてしまう。

ロスマン「あら大胆」

ラル「さすがオラーシャ人。酒に対する強さが違うな」

俺「こりゃ負けてられねーな」

クルピンスキー「なんだかんだで熊さんもノリノリだね」

サーシャ「んぐっ……んぐっ…………ぷはぁっ!!」

再び一気飲み。しかし今回空になったのはボトル丸々一本だ。
口元を無造作に袖で拭うと、ドンと机の上に空になったボトルを叩きつけるように置く。

サーシャ「いいですよ! 飲み比べでもなんでも!!」

もう、サーシャの目は据わっていて、いつもの理性の光は殆ど見られない。

ロスマン「すごい飲みっぷりね……」

俺「そうこなくっちゃ!」

クルピンスキー「うんうん、楽しくなってきたね」

ラル「よーし、夜は始まったばかりだ!」

そして、理性を持つものは部屋に残っていない。
つまみと酒を届け終わった下原もジョゼも、すでにさっさと退避している。



酒宴は夜遅くまで続き……
そして夜が明けた!



ラル「いかん、飲み過ぎた……」

ジョゼ「いったいいつまで飲んでたんですか?」

ロスマン「うう、気持ち悪い……」

下原「あの、お水です」

サーシャ「あ、頭が……」

直枝「おいおい、らしくないじゃねーか」

自室で寝ていた組が起きてきて最初に目に入ったのは、大量の空き瓶に混ざって、青白い顔で床に転がっているラル・ロスマン・サーシャの三人だった。

クルピンスキー「お酒は飲んでも飲まれるなって言うんだけど。みんなまだまだだねぇ」

俺「いや、俺としちゃあんたがぴんぴんしてるほうが不思議だよ……」

そして次に見たのは、普通に元気で、朝早く起きたからか全員分の朝食(とても簡単なものだが)を用意していた俺とクルピンスキーであった。

クルピンスキー「ふふっ、私は自分の限界はちゃんと理解しているからね、後半からはひたすら煽る側に回っていたのさ」

俺「えげつねーな、おい……」

クルピンスキー「そうかなぁ。それより、君のお酒の強さの方が私はびっくりだよ。だって、ラルもエディータも熊さんも全員、君との飲み比べに負けた結果なんだし」

意外に手慣れた様子で目玉焼きをフライパンから皿へと移していくクルピンスキーがちらりと目線を送ると、にやりと笑った俺がいた。

俺「言っただろ? 俺の固有魔法はアルコールを魔力に変える魔力変換だって。体の中に入っちまえばアルコールは魔力になるだけなんだ。固有魔法を制限したりしない限り、悪酔いは絶対にしないし、二日酔いするほど残ることもないんだ」

クルピンスキー「世界中の酒飲みから嫉妬されそうだよねぇ……」

俺「ははっ、姉御には『ずるい!』って思いっきり言われたっけな」

憮然とした表情の赤松明美を思い出し、俺はからからと笑った。
そんな会話を聞いて余計にぐたっと脱力するのは飲み比べで敗れ去った三人。
502での地位が高い方から三人のそんな姿に、二パは苦笑いを隠せない。

二パ「こんな時にネウロイが来たらどうするつもりなんだか……」

サーシャ「こ、これくらいなんてことありませ、あいたたたた」

無理やり起き上がろうとしたサーシャだったが、カチューシャが絶え間なく撃ち込まれているかのような頭痛の前にあえなく崩れ落ちてしまう。

ラル「二パ、そ、その心配はないぞ……」

サーシャは撃沈、ロスマンは未だにぴくりとも動かない中、ジョゼの手を借りながらなんとか椅子に座ることに成功したのは、隊長であるがゆえの意地かラルだった。
とは言え、椅子に座っているだけで、上半身は机の上に投げ出されているのだが。

ラル「侵攻計画はないし、今日の哨戒任務のシフトは下原と菅野だから大丈夫だし、情報部によれば今日明日はネウロイもやってこないだろうって言うしな」

冷や汗を流しながら無理やりな笑みを浮かべ、一本だけ立てた指を振る。

ラル「そうだ。なにも問題はないぞ。それよりジョゼ。水をもう一杯――」

くれないか、と続けようとした瞬間だった。
耳をつんざくようなけたたましい音が鳴る。

ネウロイの襲来を知らせるサイレンだ。

クルピンスキー「やれやれ」

ぽん、と俺の肩をたたく。

クルピンスキー「君も、なかなか大変な502開幕戦だね」

502統合戦闘航空団。
出撃可能ウィッチは、九人中六名。




最終更新:2013年02月04日 14:21