ジョゼ「(覚えていてくれたんだ……)」

差し出されたものを見つめながら胸裏に零す。
俺が差し出す手には自分が身に着けているリボンと同じ青い包装紙に包まれたボールのようなものが握られていた。

それが何なのか考えるよりも前にジョゼは全身の体温が少しずつ上がっていく感覚を覚えた。
魔法力も使っていないというのに、どうしてこんなにも身体が熱くなるんだろうかと思いつつも、受け取ったそれと俺の表情へ交互に視線を送る。

ジョゼ「もらっても……いいんですか?」

俺「もちろん。ジョゼへの誕生日プレゼントだからな」

ジョゼ「……ありがとうございます」

手にするプレゼントを胸元に寄せる。
胸の高鳴りを抑えることができない。

頬が緩んでいくのが自分でもわかった。
父親以外の異性から誕生日プレゼントを贈られた経験など今までの人生であっただろうか。

ジョゼ「きれい……」

興奮した面持ちで包装紙を剥がしたジョゼの唇から感嘆が混じった声を洩らす。
包装紙の中から姿を見せたのはガラスで出来た球状の物体だった。
丹念に磨き上げられたことで一点の曇りも傷も汚れも見当たらず、また球体が持つ独特の滑らかな手触りが何とも心地よい。

水で満たされたそのガラス球には雪を思わせる白い粒が散りばめられており、中央には彼女の故郷であるガリアを代表する建造物の一つ、エッフェル塔が直立するデザインとなっていた。
試しに軽く振ってみると水の動きに合わせ白雪に見立てた粒が舞い上がり、エッフェル塔の周りに降り注ぐ。
幼い頃、両親と共に見た冬のパリの情景がジョゼの脳裏に蘇った。

俺「本当ならクリスマスに贈るものみたいなんだけどな」

季節はずれのプレゼントを送ったことに対する恥じらいを誤魔化そうと俺が頬を掻く。
九月にガリアが第501統合戦闘航空団の手によって解放されてからというものブリタニア、ガリア両国のウィッチたちが共同で復興作業を進める中、ジョゼだけは故郷に戻らず今もペテルブルクへと残っていた。
故郷へは帰らないのか。
そう他の隊員たちに尋ねられた際にジョゼは、ペテルブルクには自分にしか出来ないことがきっとあるはずだからと微笑みを湛えて返したものの、彼女の青い双眸には押し殺したような感情が漂っているのを俺は見逃さなかった。

俺「ジョゼはここに残るって決めたけど……やっぱり、帰りたいんじゃないかなって」

本心では故郷に帰り、生まれ育った街の復興作業を手伝いたいと考えているのではないか。
それでも、彼女は第502統合戦闘航空団の一員としての任務を優先した。
激戦地を駆ける攻勢部隊から一人でも戦力が駆ければ、今後の作戦に支障を来たすと考えての判断だったが、それがどれだけ苦渋な決断であっただろうか。

ジョゼ「たしかに……気にならないといえば、嘘になります」

俺「だったら――」

ジョゼ「だとしても、皆さんを置いてはいけません。戻るときは……全部終わってからにしようって決めているんです」

俺「……強いなぁ。ジョゼは」

青い瞳に宿る硬質の決意に満ちた光を捉え、俺は静かに感嘆を込めた息を吐いた。

ジョゼ「あの。このスノーグローブ……もしかして」

俺「あっ……あぁ。ジョゼ、ここのところ元気ないように見えてたからさ」

雑貨屋の店主曰く1889年のパリ万国博覧会にて販売されたスノーグローブと同じ商品らしいのだが、店の倉庫がかさみ始めたため格安で売ってもらったのだ。
よく見ればスノーグローブ中央のエッフェル塔は根元から先端部といった細かいところまで丁寧な細工が施されている。
初めは値札に記された額に目玉が飛び出るような思いを味わったが、たしかにこれほど忠実に再現されているなら、あの値段にも納得できた。

ジョゼ「やっぱり……俺さんにはそう見えましたか?」

俺「今まで色々な奴らを見てきたからな。分かるんだよ」

ジョゼ「そう……でしたか……」

なるべく心配をかけさせまいと平常心を保っていたつもりだったが、やはりこの男には隠し通せなかったようだ。
わざわざエッフェル塔のスノーグローブを選んで来た理由も、軍人としての職務を選んだ自分に少しでも故郷を感じさせようという彼なりの優しさなのだろう。

ジョゼ「俺さん。プレゼント、ありがとうございます。大切にしますね」

ならば、今は彼の優しさに素直に甘えるとしよう。
スノーグローブを胸元で握り締めるジョゼが柔らかな笑みを浮かべた。



夜が老け込み日付が変わるか否かのところまで時刻が進んだ時に、俺は込み上げてきた空腹感に耐えることが出来ず、食堂を抜け厨房へと忍び込んでいた。
要はつまみ食いである。
早く食料を差し出さなければ鳴き続けるぞと騒ぎ立てる腹の虫を何とか押さえ込みながら、暗闇に包まれた厨房の中を見渡す。
薄ぼんやりとではあるものの、食器棚などの姿が見えた。
基地の厨房といっても広さは民家の台所と差ほど変わらぬ程度であり、何度か足を運び内部を把握した俺は真っ直ぐ白米が詰められている釜へと向かう。

俺「(一個くらいで足りるだろう)」

塩の入った小瓶の位置も頭に入っているため、塩むすびの一つでも入れておけば腹の虫も治まるだろう。
そうと決まれば早いところ済ませて、撤収しなければならない。
いくら夜更けとはいえ物音を立てれば巡回の警備員に見つかるかも知れない上に他の隊員たちを起こしてしまうことも充分にあり得るからだ。

俺「スピードが命なんだよ」

それにしても最近やたらと独り言が増えている気がする。
もう年なのか。いいや、まだ二十四だ。まだまだいけるさ。

脳内で空しい一人芝居を演じつつも、淡々と塩むすびを作る俺の手つきはかなり手馴れたものだった。
そういえば小さいときは智子によく作ってたっけなぁなどと取り留めの無い呟きを胸裏で零し、念のため身を屈めると一通りそれらしい形となった塩むすびにかぶりつく。

白米自体が夕飯に合わせて炊かれているだけあってか、まだ柔らかさとハリが残っていた。
もっとも、つまみ食いをしたことがばれないよう小さめに握ったためすぐに食べ終わってしまったのだが。

こんなんじゃ足りるかと再び騒ぎ始める腹の虫どもを何とか黙らせた。
使った用具を元の位置に戻すことも忘れていないことを確認し出口へと身を翻す。

と同時に俺は食堂の扉が開く音を聞き、身を潜めて息を殺し始めた。
食堂に入った際に扉は閉めたはずである。窓もロックされていることを考えると自然に開いたとは考え難い。

つまり、何者かが食堂へと入ってきたことになる。
基地内部への侵入者――にしては随分と粗末な歩き方であることが足音から伝わってくるため、侵入者の線は薄いと考えたほうが妥当だ。

では警備員か?
そう考え、すぐさま否定した。

彼らならばブーツの踵が刻む特徴的な音が聞こえるはずである。
しかし、侵入者の足音は“ぺた……ぺた……”とまるでスリッパでも履いているかのような音だった。
様々な憶測が俺の頭の中を飛び交っている間にも、足音は彼が息を潜める厨房へと近づいてきていた。

俺「(ウィッチの誰か、か?)」

侵入者にしてはあまりにも警戒心が感じ取れない足の運び方やラフな足音からこちらへと向かってくる何者かがウィッチの誰かであると予測した。

俺「(まずいな……)」

仮にウィッチだとしたら現れた者によっては面倒なことになる。
ロスマンやラル、サーシャならば厳重注意もしくは正座といったペナルティが与えられる場合があるからだ。逆を言えばそのほかのメンバーならやんわりと注意されるか、からかわれるかのどちらかだろう。
だとしても、リスクは避けるべきである。

誰にも見つからないことが好ましい。
そう考えた俺の行動は早かった。一つしかない出入り口まで近寄り、身を壁に寄せる。
侵入者が厨房に入り、照明のスイッチを入れるよりも早くすれ違って離脱する算段であった。

俺「(まだだ……まだまだ)」

足音がすぐそこまで近づいてきた。
侵入者と思しき者の息遣いも聞こえてくる。
黙ってすれ違って逃げればいいものを、その聞き覚えのある声を耳にし、俺はつい声をかけてしまった。




暗闇のなかをジョゼは手探りで進んでいた。
楽しい誕生日パーティも終わり自室へと戻った彼女が布団へ潜り眠ろうとしたとき、突如として生まれた空腹感が襲いかかってきたのだ。

何とか眠ってしまおうと瞼を閉じてはみたものの、空腹という名の魔物はあっという間に、膨れ上がり、ジョゼを真夜中の基地内部へと連れ出してしまった。
食堂に誰もいないことを確認し厨房へと入った矢先のことである。

???「ジョゼ?」

自分の名を呼ぶ男の声がすぐ耳元に届いたのは。
動きも思考も停止する。
誰もいないはずの厨房でどうして男の声が聞こえてくるのだろう。

ジョゼ「……ひっ!? いやぁぁぁっ!!」

不審者だとか幽霊だとか。
そんなことを考えるよりも早く、我を取り戻した彼女は悲鳴をあげ、声が聞こえた方へと両手を突き出していた。

俺「ぐはっ!?」

吐息に含まれる微かな声音を聞き、侵入者に声をかけてしまった俺が返って来ない返事から間違えたかな、などと思っていると強烈な一撃を腹部の辺りに叩き込まれた。
余りに唐突な攻撃に心臓が収縮し、呼吸が満足に行えず、そのまま壁へと頭をぶつける。

暗がりの中でいきなり自分の低い男の声が自分の名前を呼んだら驚くよなぁ、と痛む箇所を抑える俺は足をもつれさせ、盛大にひっくり返ってしまった。
やけにはっきりと聞こえる鈍い音は、おそらく後頭部を床の上に打ちつけた際によるものだろう。

俺「あいたた……」

ジョゼ「俺……さん?」

暗闇の奥からさきほど自分の名を呼んだ声が聞こえてきた。
よく思えば、やけに聞き覚えのある声である。
まさかと思い照明のスイッチを入れると、案の定そこには仰向けに倒れた状態で顔をしかめる俺の姿があった。

俺「こんばんは、ジョゼ。こんな時間に会うとは……奇遇、だな」

俺が苦いものを含んだ笑みを口元に浮かべる。
頭を摩りながら起き上がる様子を前にジョゼは自分が何を突き飛ばしたのかをようやく理解した。

ジョゼ「え……あ、わたし……俺さんのこと突き飛ばして……?」

俺「気にしないでくれ。俺のほうこそ、怖い思いさせちゃったか? ごめんよ」

震える声で謝罪の言葉を搾り出すも当の俺はというと、いつも通りの笑顔で手を振って見せる。たしかに頭は痛むものの、これくらいのことを笑って許せるほどの度量は持っているつもりだ。

ジョゼ「でも……突き飛ばしてしまったのは私ですっ」

背を向ける形で床の上に座ると、打った後頭部にジョゼの手が添えられる。
妙なくすぐったさを感じつつも、彼女の手の平から感じる温かさに身を任せていると次第に後頭部から痛みが引いていくのがはっきりとわかる。
ジョゼが治癒魔法を始めてから五分と経たない内に俺の怪我は完治した。

俺「ありがとう。悪いな……って、ジョゼ!? どうした!?」

振り向き、俺は目を見開いた。
彼女の顔がまるで風邪でも引いたかのように火照っていたからだ。
使い魔のペルシャ猫の耳と尻尾も力なく垂れている。

ジョゼ「わ……わたしっ。固有魔法の治癒魔法を使うとっ……体温が上がっ……」

数珠繋ぎで声を絞り出すジョゼの姿を俺は食い入るように見つめた。
普段は大人しく、どちらかといえば可愛らしい部類に入るジョゼ。
しかし、今はどうだ?
紅潮する頬。
荒く、熱が篭る吐息。
潤んだ輝きを帯びる青い瞳。
その全てが彼女に妖艶な色を添えていた。

俺「そういえば、ジョゼはこんな時間にどうしたんだ?」

まずい。
これ以上、見つめていたら頭がどうにかなってしまいそうだ。
どうにか頭をフル回転させ、話題を逸らした。

ジョゼ「ッ!? あっ、あのっ……べつに」

俺の問いかけに思わず身体を強張らせる。
何でもないですと続けようとしたジョゼの言葉を彼女の腹の虫が遮った。
なんとも可愛らしい鳴き声が厨房に木霊する。

ジョゼ「あっ……うぅぅぅぅぅ」

聞かれた。
聞かれてしまった。

よりにもよって男の人に、それも同じ部隊の彼に聞かれるなんて。
恥ずかしさとみっともなさで押しつぶされそうになるなか、視界まで滲んできた。

俺「もしかして……お腹空いてるのか?」

ジョゼが返事の変わりに小さく頷いて答える。
両手で腹部を押さえ、項垂れる彼女の双眸に透明な雫が浮かんでいた。

ジョゼ「あのっ」

俺「うん?」

ジョゼ「聞いて……もらえますか?」

固有魔法である治癒魔法を使用すると体温が上昇すること。
また、魔法力を使用後に空腹感を一際大きく感じること。

その度にこうして夜中に厨房へと忍び込んでつまみ食いをしていること。
ぼろぼろと白い頬に涙を零しながら、有りのままの事実を告白した。

俺「なるほどな」

そういえば、いつぞや痛む腹部を治療してもらったことがあり、その時に彼女の顔が赤かったことを思い出す。
あれも治癒魔法による影響だったのだろう。

ジョゼ「やっぱり、変ですよね。女の子が夜中につまみ食いだなんて……」

俺「……そうか?」

ジョゼ「ひゃぅんっ!?」

俺の言葉にジョゼが思わず顔を挙げ、さきほど彼を突き飛ばしたときに発したものよりも短めの悲鳴をあげた。
顔を上げた途端に涙で濡れる目じりや頬をハンカチで優しく拭われれば、大抵の人間は驚くものであり、それが年頃の少女ならば、なお更である。

ジョゼ「ああああ! あのっ! 俺さん!?」

無論、ジョゼとて例外ではない。
突然の出来事に混乱する頭を必死に押さえ込み、何とかして言葉を吐き出す彼女の顔色は茹蛸のように染め上がっていた。

俺「お腹が空いたら誰だって何か食べたいって思うぞ。生きていく上では当たり前のことじゃないか」

ジョゼ「……でもっ!」

俺「それにジョゼは今が成長期な上にウィッチなんだ。食べられるときに食べとかないと、今後に響くかもしれないだろう?」

ジョゼの言うことも理解できる。
たしかに年頃の少女にとって大喰いなどという言葉はあまり好ましいものないのかもしれない。

だとしても自分たちは軍人であり、最前線で戦うウィッチなのだ。
故にコンディションは常に万全の状態に整えておかなければならない。

ジョゼ「そう……でしょうか」

俺「もちろん」

俺が見せる満面の笑顔にジョゼは自然と自身の表情が和らいでいくのを感じた。
どうして、この人はこんな他人を安心させられる笑みを浮かべることが出来るんだろう。

そんなことを考えながら自身を見つめる黒い瞳を前に視線を逸らす。
またしても腹の虫が騒ぎ出し、ジョゼの頬に差し込む朱を濃いものへと変えていく。
恥ずかしさのあまり視線を逸らしてしまった彼女に笑いかけながら俺が釜のほうを指差した。

俺「塩むすびでよければ、食べるか?」

ジョゼ「……おねがい、します」

俯き、時折俺のほうへと視線を持ち上げるジョゼがか細い声をあげ、こくんと頷いた。





俺「はい。小さめでごめんよ」

ジョゼ「いえっ! これで充分ですっ」

手渡された塩むすびを受け取ったジョゼが頭を振った。
ただでさえ迷惑をかけてしまい、あまつさえ自分のために夜食まで用意してくれるのだ。これ以上注文をするほうが罰当たりというものである。

ジョゼ「い、いただきます」

やや興奮した面持ちで手の中に納まるそれを口元まで運んで一口齧る。
不思議だ。

手に持ったときは崩れなかったのに、食べてみれば白米が口の中でばらけて塩むすびの素朴な味わいが広がっていく。
塩加減も程よく白米が持つ甘みと見事に噛み合っており、それがジョゼの食欲を自然と促した。

ジョゼ「ごちそうさまでした……」

お腹は満たされているにもかかわらずジョゼは物寂しい気分を感じた。
どんな美味しいものでも食べ終われば、何も残らない。

いや、むしろ美味しいものであればあるほど、食べ終わったあとには虚無感しか残らないのではないだろうか。
そんな益体のないことを考えていると、ふと疑問が浮かび上がった。

ジョゼ「あのっ。この時間にいるということは俺さんも、ひょっとして」

俺「そっ。ジョゼと一緒でつまみ食い」

ジョゼ「そう……だったんですか」

自分が来るよりも早くここに来ていたということは、彼もまた空腹に耐えられなかったということだろう。
そう考えると、自分と変わらないことに気がつき急に笑いが込み上げてきた。

ジョゼ「このことは……二人の秘密ですね」

俺「そうだな。二人の秘密だ。バレたら大変だしな」

ジョゼ「はいっ!」

顔を見合わせたジョゼと俺が同時に吹き出す。
互いに共通の秘密を抱いたことで、二人の距離が縮まった瞬間でもあった。

俺「さてと! そろそろ引き上げないと。冷えてきたし、誰かに見つかっても面倒だしな」

ジョゼ「そうですね。あっ……」

塩の小瓶を元の場所へと戻し、出口へと向かう俺の口元に付着している米粒を見つけた。
彼と出くわしてから取り乱してばかりいたせいか、今の今までまるで気がつかなかったのだ。

ジョゼ「俺さん、ご飯粒がついていますよ」

俺「えっ! 本当か?」

ジョゼの指摘に慌てて手を口元へやる。
まさか、ずっと彼女の目の前で米粒をつけていたのか。
そう考えた途端、俺は今すぐこの場から逃げ去りたい衝動に駆られた。

ジョゼ「いま、取りますから。じっとしていてください」

口元まで持ち上げた手を掴まれ、もう片方の手を胸元に添えられる形で動きを止められた瞬間。

――ちゅっ

俺の口端に柔らかな感触を持つ何かが、乾いた音を立てて触れた。
視線を動かせば、顔を真っ赤に染め上げて瞼をきつく閉じたジョゼの容貌がすぐ目の前にあった。
そのことから、自分の顔に密着する感触の正体が彼女の瑞々しい唇であると理解するのに大した時間はかからなかった。

ジョゼ「と、とれましたよ……」

俺の頬に付着していた米粒を咀嚼し、飲みこんだジョゼがぽつりと洩らして、ゆっくりと離れる。
ささやきにも似た彼女の言葉に我を取り戻し、俺は自分がキスされたことに気が付いた。

俺「あっ……じょ、ジョゼ……?」

ジョゼ「俺さんっ。おにぎり……とてもおいしかったです」

俺「え……あぁ」

半ば放心状態の俺を置き去りにして、ぱたぱたと出入り口へと走るジョゼが最後にもう一度、振り向く。
彼女の表情は魔法力使用に伴う体温上昇とは異なった朱色にほんのりと染まっているように見えた。

ジョゼ「また今度、食べさせてくれますか?」

俺「……あぁ、わかった。あれでよければ、何個でも握るよ」

俺の返事にジョゼの笑みが深いものへと変わっていった。
少女らしい可憐な微笑みを前に俺は反射的に生唾を飲み込んでしまった

ジョゼ「ありがとうございます。あの、俺さん」

俺「どうした?」

ジョゼ「おやすみなさい」

俺「あぁ……おやすみ。ジョゼ」

今日は良い夢が見れそうだ。
厨房を片付け終えて食堂を後にした俺は自室へ向かいながら、そう思うのだった。

おしまい



投下する余裕がないのでwiki直投とさせていただきました。
最終更新:2013年02月04日 14:39