下原と俺は今、ベッドの上で向かい合っている…正座で。結局3番以降の考えは浮かばなかった。

しかし打つ手が無ければ作ればいい。普段の彼女なら考えそうもない事だが…

何故俺も一緒に正座に付き合わされているのかは”全ては淫獣のみぞ知る”という古の諺に倣う事とする

俺「お姉ちゃん…もう止めようよ」

目の前の下原は目を瞑っておりまるで聞いていない。彼女は今精神を集中させ何とか打開策を打とうと真剣だ

下原(私にしか出来ない…私にしか)

朝方のラルの言葉を思い出して奮起する。だが起死回生の妙案は降っては来ない

俺「ねぇねぇ、まだ部屋に帰らないの?」

どうやら俺の年齢ではこの無言の空気に耐えられないようで、頭にあるモルモットの耳は忙しなく揺れている

とうとう服の裾を引っ張られる所まで来て下原は目を開けた

下原「ごめんね俺君。でも…」

あと少し…、と言い切る前に揺れる耳が視界に飛び込む

その動きは俺の幼さと相まって下原に抑え難い情動を湧き上らせた

下原(くっ! ここに来てあの耳は…可愛過ぎる…!!)

そうして俺の背後に手を回し、一気に引き寄せ―――

(……!!!)

――る所でピタリ、と動きを止める

俺「どうしたのお姉ちゃん?」

下原(――待て。思い出すんだ私。今までの俺君、そして今日の俺君の事を!!)

「俺上等兵です!今日からよろしくおねがいします!!」
「おっぱい吸わせて!!」
「分かった!ありがとうお姉ちゃん!!」
「おかわり―!」

(俺君の今までの言動、そして今の状況…共通点が……!!)

瞬間、脳が瞬く。まるで目の前でスパークでも起きたかの様な感覚に陥る

彼女は辿り着いた。あまりにも単純過ぎて笑いが込み上げるほどの真実に

下原(そう、それは―――あの耳!!)

下原「ねぇ俺君。その耳…しまえないのかな?」

俺「う~ん、やった事無いから分かんない!」

元気よく答える俺のその返答は下原にしてみれば正解のコールと同義だ

そう、俺のあの暴食を通り超えた滅食は彼が無意識のうちに出している使い魔の所為だったのだ

下原(俺君が食事をすれば、意図せずとも固有魔法により体内の糖はエネルギーに変換、吸収されてしまっていた…

   それは、穴の開いた風船を必死に膨らますような物。つまり、その大元を断てば…終わる!!)

下原「ちょっと練習してみよう?…ほら」

彼女は俺の耳にサワ…と優しく触れる

俺「く、くすぐったいよお姉ちゃん…」

悶える俺。しかし下原は続ける

下原「だったら仕舞っちゃおう?引っ込め~って意識すれば良いんだよ」

俺が目を閉じた。どうやらやる気だ。いつも賑やかな彼の面影は見当たらない

必死にこのむず痒さから逃れようと耳に意識を集めている

下原(静かな俺君は初めて見るなぁ…。なんかいつもと違って…こう…オトナっぽいというか…

   ……でももっと見てたいな…)

俺に見とれるあまり意識がぼうっとする

今二人が居る空間には物音一つせず、時間が止まっている様だった

…そうして暫くして俺の使い魔の耳は姿を消した

俺「…消えた!お姉ちゃん!!耳消えたよ!!もうくすぐったくないよ!」

あの不思議な感覚から解放され喜びを禁じ得ない俺。しかし下原は何処か空虚な目をしていた

俺「……お姉ちゃん??」

手をブンブンと振る。ハッと気が付く下原

下原「…俺君?あ!耳が…」

俺「うん!!消えたよ!ありg

俺の感謝の言葉を待たずに今度こそ抱き着いた


下原「良かった…」

その言葉は問題が解決した事よりももっと別の次元の所に在る様だった

俺「お、お姉ちゃん苦しい…」

堪らず訴える。すると腕がパッと離れた

下原「あ…ごめんね(何でだろう…俺君に言われたら私…)」

自らの中に芽生える不思議な感情に戸惑う。そしてそれは彼女に口を開かせる

下原「……ねぇ、俺君?これからは私の事…『下原さん』って呼んでくれる?」

俺「何で?お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ?」

下原「でも俺君はみんなの事お姉ちゃんって言ってるでしょ?だから私の事はそう呼んで欲しくないなって…」

暫しの間の後、俺が口を開いた

俺「う~ん…よく分かんないけど良いよ!下原さん!!」

下原(! も、もう駄目…!!)

とびきりの笑顔で自分の事を呼ばれ、遂にタガが外れた

俺「下原さん僕お腹がぁぁぁ!?」

ガバッと抱き着かれた勢いで押し倒される。もがくが抜け出せない

俺「下原さん苦しいよ!!離して!!」

下原「…………」

必死の叫びも下原には届かない。しかし熊さんには届いた

サーシャ「俺君!?今の叫び声はいっ…た……い…」

ガチャッ!! と良い音を立てて部屋に飛び込んできたポクルイーシキンが見たモノは

暴れる俺を抑え込む下原の姿。それによって彼女は過去の記憶が呼び起こされ、使い魔が出てしまう

そして下原も大きな音に意識を回復し、振り返ればホッキョクグマの耳まで赤に染まった大尉の姿

サーシャ「な、何をしてるんですか下原さん!俺君の件は一体…」

喝を入れようとしたが言葉が止まる。下原が既に眼前30㎝の位置にいるのだ

下原「大尉、あなたも正座ですか?」

優しげな言葉とは裏腹に目の奥はギラギラと光っている

”蛇に睨まれた蛙”とはこの事だ。動けないポクルイーシキンに対し下原はジリジリと距離を詰める。そして…

下原「恥ずかしがる大尉…カワイイ…。一緒に行きましょう?」

最早階級など関係ない。ただ可愛いものを愛でるだけの獣が、そこには居た。腕を掴まれる

サーシャ「ど、どこに行くんですか!!あ、ちょっと待って下さい!いくら下原さんでもこれは許しま

バタン!!とドアが閉められた後、声が再び聞こえる事は無かった……




―――夕方

哨戒を終えた三人は賑やかに基地に戻って来た

クルピン「今日も疲れたねー。やっぱり働いた後は美味しいご飯がなくちゃ!」

管野「今日”も”じゃ無いだろうが…」

二パ「まぁ今日は少し助かった所もあったし…」

クルピン「ほら、二パ君もこう言ってるし!それより今はご飯の事だよナオちゃん」

怒り気味の管野の気をうまく紛らわせる

管野「そういえば…下原は上手くいったのか?」

二パ「大丈夫だって! きっとこのドア開けたら豪華な料理がバーンと…」

三人が部屋に入って見たものは…何も無い。というより誰も居ない

クルピン「……あれ?」

管野「どういうことだよ?」

二パ「さ、さぁ…全く……」

この時間にこの場所に人一人いないというのは妙だ。三人が有らぬ事を考えているうちに

にこやかな下原と顔を真っ赤にしたポクルイーシキンが入ってきた

下原「皆…お帰りなさい」

拍子抜けするクルピンスキー

クルピン「うん、ただいま。…ポクルイーシキン大尉?」

彼女の余りの状態に冗談などかましている場合ではないと察する。しかし彼女は呟くだけ

サーシャ「何も聞かないで…何も…」

三人は一体何があったのか、下原の状態からハッキリと理解できた

二パ(大尉…残念だったな……)

二パの視線がそれを物語っていた

クルピン「あれ?エディータは?」

ふと気付く。朝から出かけて夕方まで帰ってこないなんて、彼女の性格からは考えにくい

下原「まだ姿は見ていませんよ?」

管野「曹長が来ないとメシg」

管野の言葉はゴォォォォという音にかき消される

サーシャ「この音…」

馴染みある音にハッと正気を取り戻すポクルイーシキン

クルピン「ストライカーユニット?でも何で?」

音が止み、足音が近づいてきた。部屋に入ってきたのはロスマンだった

ロスマン「遅れてごめんなさい。でも食料は十分な量を確保したわ」

ジョゼ「今の音、一体何ですか?…ってロスマンさん!いつ帰ってたんですか!!」

遅れてやってきたジョゼは空腹が我慢できなかったのか少し怒り気味だ

ロスマン「たった今よ。下原さん、悪いけど晩御飯の支度をお願い」

下原「はい。…あれ? これは…味噌?何処で買ったんですか?これ」

ロスマン「丁度扶桑のウィッチが居る部隊が思ったより近くにあってね、少し頂いて来たの」

クルピン「それでストライカーなんか使っちゃって、本当は別の用事だったり…?」

ロスマン「煩いわよ伯爵」

ジョゼ「そういえば元気になったように見えますね」

ロスマン「実はソコの隊の人にちょっとマッサージをしてもらったの。とってもいい子だったわ」

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―――501基地

宮藤「リーネちゃん、晩御飯作ろっか!」

リーネ「う、うん…」

宮藤「リーネちゃん?元気無いよ?」

リーネ「ごめんね芳香ちゃん…私……汚されちゃった…」

宮藤「え?今何て?(いけない!胸元見過ぎて聞こえなかったよぉ…)」

リーネ「……ううん。何でもないよ」

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エイラ「サーニャは私が死守したゾ!」

サーニャ「エイラ、何言ってるの…(あの人…優しそうだったのに…)」
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ロスマン「話はお終い。今晩は久しぶりにいい食事が出来そうね」

下原「私、頑張ります」

下原は厨房に向かった。

その後俺とラルもやって来て、晩御飯の時間と相成った

食卓に並べられた様々な料理。全員の顔が安堵に包まれる

ラル「やはり下原の料理はこうでないとな」

クルピン「うん、下原君の作るゴハンが恋しかったよ」

管野(…やっといつもの飯だ)

ジョゼ「美味しい…」

とここで、ラルが何かに気付いた

ラル「そういえば俺の食べる量が減ってるな。…下原、どうやった?」

見れば確かに俺の食事量は以前より減っている。下原は訳を説明し始めた

下原「えっと、俺君の使い魔のコントロールを少し…」

二パ「そういえば耳が出てないな」

下原「はい。俺君は無意識で固有魔法を使っていたのだと思います」

クルピン「なるほど…」

管野「これで下原の美味い飯が暫く食えるな」

下原「管野さん、ありがとう。…俺君、おかわりはいいの?」

俺の様子に気を留めて声をかける

俺「ううん下原さん、僕もうお腹いっぱいだよ」

下原「…そっか(ちょっと…悲しいな)」

そのやり取りに異変を感じる者が数名

二パ(今…アイツ、何て?)

ロスマン(”下原さん”って言ったわね…間違いなく)

クルピン(もしかして…)

ラル「何にせよ課題が消えた。これで一件落着だな。下原、良くやった」

隊長からの労いの声に

下原「あ、ありがとうございます…」

やや恥ずかしいのか、俺に目が流れる

俺「?」

なぜ自分を見たのか分からない、そんな面持ちだ

クルピン(まさか……)

伯爵だけが何かに気が付いた様だった
最終更新:2013年02月04日 14:57