第0話「『始まり』は突然に」
―――薄暗い空間は紅色に包まれていた。
煌々と光るソレは小さいながらもあたり一面に光を散乱させ一人の男と一つの男を照らしだしている。
一人の男の顔は険しくも期待に満ち溢れた表情をしており、一つの男は目をつむったまま安寧の表情をしていた。
「―――……ようやくだ。ようやく完成だ」
一つの男は人間でいう心臓の部分を切り開かれたまま台に寝かされており、そしてその部分から怪しい赤い光を放っていた。
「ようやく、ネウロイに対抗できる力を手に入れた……!」
にやりと笑った男はぐっと拳を握りしめ、台に寝かされた男にくるっと向き直る。
「同調率97%、身体、脳に影響はない。核も安定した稼働をみせている。すべてが…うまくいったか」
「ありがとう、検体者……俺君」
最後にかすかに一筋の雫を顔に伝えさせながら口角を釣り上げて歓喜の笑みを浮かべた。
研究者「調子はどうだ?」
ほっそりとした体の男が声をかけてくる。
着用した白衣からは潔癖感が漂っていた。
俺「問題ない。身体・精神とも異常はなく、能力テストも完璧だった。感覚すべてがクリアだ」
研究者「再生能力は?」
俺「上々だ。アレの期限は?」
研究者「これぐらいだな」
そういって男は片手の平をばっと広げて俺に見せてきた。
そうか、5か。十分だ。
研究者「人間でなくなった気分はどうかな?」
俺「さぁな」
研究者「そうかい。後悔はあるのかい?」
俺「ない。今の時間を」
研究者「1941年9月だよ。ほかに聞きたいことは?」
俺「俺が死んだ日から起こったことをだいたいでいい。教えてくれ」
研究者「かなり省略して話すと、カールスラントは陥落、その後
ガリアにも巣ができた。君が飛んだ空の下はほとんどネウロイがうろついているよ」
俺「不快だな……。俺の服と武装、任務をくれ。早くこの体に慣れる」
研究者「任務はすでに通達されてるよ。服はその籠に入っているよ。武装などは格納庫にある」
俺「了解」
研究者はポケットからタバコとライターを取り出して、俺に一本差し出す真似をする。
それを首をふって断ると研究者は一つため息をつき、一人でタバコに火をつけ吸い始めた。
研究者「さて、君はその体で何を望むつもりだい?」
俺「決まっている。外道共の駆除だ。俺の街、家族、友人、すべてを消し去ったネウロイに報復するのさ」
研究者「かまわないよ。ま、言えることは一つだね」
俺「?」
研究者「楽しみたまえ」
となりの籠にたたまれて入れられた服をきた後、若干青が入った黒色のロングコートを羽織り用意された軍靴へと足をいれる。
久しぶりの感覚に違和感を感じるが、いくらか準備運動をすると実になじんだ。
俺「いらぬ気遣いだ。じゃあな」
そういってその部屋を後にした。
―時は流れ―1945年、春
俺は一人の人間に呼ばれたので輸送機に乗りはるばるリベリオンから欧州へと脚を運んだ。
そいつとは旧知の仲、そして戦友でもある話が通じる唯一の人間だと思っている。
だからそいつに招集をかけられたら当然尋ねる、まぁ借りがあるというのもあるが。
赤いカーペットが敷かれた柔らかな日差しが挿し込む廊下をゆっくりと歩き少し気分を落ち着けようとした。
ドアの前で立ち止まり、わずかな緊張を残しながらノック、中から聞こえた声の後にきれいな扉を静かに開けた。
俺「よう、久しぶりだな。アドルフィーネ・ガランド」
ガランド「やぁ、久しぶりだね。待っていたよ」
俺「相変わらずその格好か。まぁかっこいいけど少しは変えないのか?」
ガランド「ちょっとした制服みたいなものさ。それに私はこういうのが好きでね」
俺「短いズボンを履いたらどうだ?」
ガランド「ふふっ、もう歳だから勘弁してほしいね」
俺「おいおい、その若さで歳だと言うか……。それにずいぶん上に行ったみたいだな」
ガランド「上にいっても大変なことばかりさ。まだ空を飛んでいたほうがましだったかもね」
俺「全然大変そうに聞こえないな。で、どうした?」
ガランド「どうした、と聞きたいのはこっちのほうだ。俺、この数年間の出来事を耳にしたぞ」
俺「その耳の良さも相変わらずだな。俺を呼び出したのは説教するためか?」
ガランド「いや、そんなことはしないさ。その道は君が望んで、君が決めたことだろう。私が口をだせるわけない」
俺「実際は馬鹿だと思ってるだろう?」
ガランド「おや、読まれてしまったか。正直意外だったのだよ……ヒーローになると言っていた君がそんな風になるとはね」
俺「……こりゃ手厳しいな。まぁ昔の俺は若かったってことだ」
ガランド「私は君に期待をしていたのだよ?だからこうやって呼び出した。なんとか君のしっぽを掴んでね」
俺「期待、か。俺には重すぎる」
ガランド「対ネウロイ戦において正式な記録は少ないもののネウロイ撃墜スコアは高く、確実に滅ぼされるであったはずの街街を幾度と無く救ったのは君だけ
だよ。しかも街の人々は死者を一人も出さずすべて無傷のまま避難させて」
俺「あの時は、必死だったからな。それに軍の対応もよかったしな」
ガランド「そんな俺がカールスラント撤退戦で戦死したという報告を聞いたときは耳を疑ったよ。ありえないってね」
俺「……街の人々を避難させる時間稼ぎを何日も休みなしに続けていたら魔法力と疲労のせいで気が途切れてな。そこをネウロイにやられちまったんだよ」
翻ったガランドの黒髪がふわっと揺れる。
呆れたのだろうか、つまらなくなったのだろうか、怒ったのだろうか、どれにせよ、あまりいい感情は抱いてないだろうな。
俺は黙って窓の外を見たままのガランドに語りかける。
俺「俺を呼び出したのは、なんだ?」
ガランド「……もう一度、君に期待を預けてみたい。賭けてみたいのだよ。それが今回の呼び出しの意義だ」
俺「つまり、もう一度戦え、と」
ガランド「私は俺が必死になって手に入れた力を否定はしない。だが、その使い方を謝るなら批判するつもりだよ」
俺「手厳しいな。でも嫌いじゃない」
ガランド「で、答えを聞きたいな、俺。正直、私は今でも期待しているぞ?」
俺「……いつか、ガランドは言ったな。力は必要とされるところに導かれると」
ガランド「そうだ」
俺「そのセオリーなら俺はすでに導かれているわけだ。実直に話せ、一体どこに行かせるつもりだ?」
ガランド「第501統合戦闘航空団、通称ストライクウィッチーズ。そこに君を派遣しようと思う、ウィッチとして」
俺「かの有名なところか。そこに派遣して、俺にまたヒーローを志せ、とでもいうのか?」
ガランド「そのとおりだよ」
俺「それは無理な話だ。生前の俺はこの世から消えた。今の俺は生と力にしがみついたクソったれ野郎だ。ガーランド、悪いが、ヒーローにはなれない」
ガランド「そうか……残念だよ」
ガランドは窓の外を見つめたまま少しだけ顔を伏せた。
背中越しからは表情は読み取れない、しかし背中は少しだけ寂しそうだった。
リベリオン出身の俺は確かに自国のヒーロー、それに加え世界のヒーローになりたかった。
今は22歳となるが、そんなことを言う歳ではないし、志すには少し遅すぎているような気もする。
それに俺は無力というものを知った。
街を守って、人を守って……でも奪われて、今となっては俺の手に何も残っていない。
ネウロイに撃墜され殺されたと同時に俺は自分が恐ろしく孤独で無力であることを知ったのだ。
でも、またこうやって借り物の生を与えられ、この世に蘇った。
何年か過ごすうちにやはり自分は現実にはない馬鹿らしいものを目指していることを自覚していた。
俺「だが」
ガランド「?」クルッ
先程の言葉の逆接をとると、その言葉にガランドは振り向いた。
言いたいことは決まっている。
当たり前だ。
この力を―――ネウロイの力を―――決死の思いで手に入れたのにはわけがある。
それは昔から変わらないこと。
俺「この世界のどこかによ、そいつがいれば絶対安心って人間が存在してたらさ、少しは希望を振りまけるか?」
ガランド「それは、もちろんだ。歴史の変遷におけるウィッチたちが証明している」
俺「俺は、やっぱりそういうのに憧れてるわけだ」
ガランド「だが俺はいまさっき……」
俺「ヒーローにはなれない。だったら、ダークヒーローを目指してみるとするさ。それで、いいだろ?」
ガランド「ふふっ、それでかまわないよ。期待通りだよ」
ガランドは先程の雰囲気を崩してにこやかに微笑んだ。
そんな戦友の表情に和んでしまう。
ガランド「では、早速向かってもらおうかな」
俺「は?今から?」
ガランド「もちろん。ドアの前に潜んでいる諸君!さっさとこの男を運び出してくれ」
その瞬間壊れるような勢いでドアが押し開かれ屈強な兵士たちがわんさかと入室してきた。
そして俺へと渾身のタックルを仕掛け、さらに持ち上げ、縛り上げ運び始めたではないか。
ガランド「平和のためにがんばってくれたまえ、俺。愛しているぞ」
俺「おい!その感情のこもってない言葉は聞きあきたぞ!」
ガランド「では、いってらっしゃい。俺は軍属ではないが、向こうに迷惑をかけないようにな」
俺「おい、こら!ガランド!!」
有無を言わさず運ぶムキムキ男達。
なんて強引なやり方なんだ、昔っからそうだが……。
まぁそれはいいとして……おかしい。
誰かさっきの混乱に紛れて俺の金玉を触った奴がいる……一体誰なんだ。
誰なんだ……。
第0話「『始まり』は突然に」終
最終更新:2013年02月06日 23:01