D.H.N俺 第7話「空の上事情」
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―海岸
研究者がこっちの基地に来てから、
シャーリーといつか買い物にいく約束をしてから、すでに
三日目だ。
……一人、海を眺めていた。
今日はたばこを吸っていない、昨日の間に切らしたからだ。
シャーリーに夜間哨戒の任を共に受けてくれるようにお願いしたが、やはり少し心配だ。
ネウロイ化した時どうしても他の夜間ウィッチの探知に引っかかる。
その時、俺はどうやってシャーリーだけを逃し、さらに無実だと証明しようか考えていた。
まぁ一応シャーリーは快く引き受けてくれて共に夜間哨戒の任につくことにはなったのだが……。
俺「……やっぱり、俺がそのウィッチを撃墜するしか、ないか?」
ぽんぽんっ
俺「ん?」
エーリカ「こんなところで何してんの?」
俺「ちょっと考え事をな。それよりハルトマンは何しに?」
エーリカ「ちょっとひなたぼっこしにきたんだよ」
俺「その感じだと訓練をさぼったな?」
エーリカ「ご名答!にゃはは」
俺「怖いお姉さんにどやされても俺は責任をとれないからな」
エーリカ「俺が誘ってきたって言ったらどうなるかな~?」
俺「……おいおい、冗談はよせ。今度は本気で殴られる」
エーリカ「さて、まぁそれはおいといて。何かんがえてたの?」
俺「話すことじゃないかもしれないが……俺とシャーリーは今夜から臨時夜間戦闘員になるのは知ってるな?」
エーリカ「一応ミーナから聞いたよ」
俺「仮にだ、仮に俺がネウロイ化しなければいけない時がきたとする。だが……
ナイトウィッチにそれを探知されたら」
エーリカ「その時は私達が擁護できるわけじゃないから難しいな~」
俺「まぁどう考えても攻撃してくるわな。だがそこからだ、そこでシャーリーの存在が知られたら疑われてもおかしくはない」
エーリカ「それで悩んでたんだね。見つかった時どうすればいいかって」
俺「そうだ。……ほんと、どうすりゃいいんだ」
海の果てしない水平線を見る……どうしようもなく不安になるのをどうしてくれよう。
シャーリーには、迷惑を掛けたくない。
やはりここは俺一人でやらせるようにミーナを説得すべきか……。
エーリカ「う~ん、でも俺って人間のままでも十分強いんじゃないの?」
俺「少しぐらいやれるってだけだ。だがかつてのようにできるわけじゃないさ」
エーリカ「それでもさ、俺に勝てるネウロイなんてほとんどいないでしょ。だったら!」
俺の肩をぽんと軽く叩く、まるで励ますように。
ハルトマンの顔を見上げたが日差しの逆光で表情はあまり見えない。
だが、きっとこれは笑っているのだろう。
エーリカ「だったら、心配ないって。俺なら、大丈夫!」
俺「……あんまり、無根拠に信用するなよ」
エーリカ「見つかってもどうにかなるって」
俺「どうにかなるって……」
エーリカ「それに、少しはシャーリーを信用しなよ。俺だけを見捨てるようなことなんてしないって。もちろん私達もね」
ふと温かい手が俺の右手に触れる。
ぎゅっと握られた手が、久しぶりの人の体温で、何か不安をぬぐいさってくれような……そんな暖かさだ。
しかしその暖かさがいつまでも続くことはなく、何分かほどの後手が離れた。
……さびしさの割に、海風がそこを包むように流れるのが心地いい。
俺「ハルトマン……すまなかったな」
エーリカ「にゃはは、いいって。ここにいる間は私達がちゃんと守ってあげるからね」
俺「はっ、男が守られるとは、不甲斐ないな」
エーリカ「俺はなーんか全部一人で戦おうとする節があるからさ。心配なんだよ~」
俺「一人で、か。そりゃそうだ。今までずっとそうやって来たんだからな」
エーリカ「東部戦線にいたときは、みんながいたでしょ?」
俺「俺が関わればそのぶんあいつらが疑われる。激戦区において、そういうことは限りなくないほうがいいからな」
エーリカ「……まぁそうだけど。そうだからこそ……基地の建物内じゃあまり皆に話しかけないの?」
俺「朝や晩、あとは訓練の時や食事時、それぐらい話せれば……俺には十分すぎるほどだ」
エーリカ「周りの目なんか気にしなくてもいいって」
俺「俺は皆に感謝してる。だが、それに甘えることが許されるわけじゃないのさ」
エーリカ「むー……」
ハルトマンにとって、この話は納得のいかないものだろう。
色々と勘づいていそうで少々怖い部分があるが、あまり悟られたくはない。
雰囲気を変えるために、俺は腰を上げてぐいっと立つ。
俺「うし!なんか大丈夫な気がしてきたな。ありがとな、ハルトマン」
エーリカ「それならいいよ。あっ、あとエーリカでいいよ。なんか妹と混ざりそうだし」
俺「妹なんているのか?」
エーリカ「自慢の妹だよ!ウルスラって言うんだけどね~」
俺「へぇ、じゃあハルト……エーリカのように堕落してるのか?」
エーリカ「ちょっとだめな部分もあるけど私よりはしっかりしてるよ!」
俺「エーリカのほうが姉だろ……?お菓子を控えて、部屋を掃除して、バルクホルンに迷惑ばかりかけるなよ」
エーリカ「え゛~、それはやだ」
俺「ははっ、だがそれで戦闘に集中されなくなっても困るしな」
エーリカ「そうそう、そうだよ。だから戦うために俺も私にお菓子を……」
俺「あのな、この前のロマーニャに行った時のお菓子は、誰が買って―――
―夕食後、執務室
カチカチと時計の音が執務室に鳴り響く。
気まずい、空気が何か疲れる、書類に集中できない。
昨日来た俺をネウロイ化の道へと連れ込んだ研究者が、椅子に座ってずっと私を見つめているからだ。
私は処理していた書類から顔を上げて、ため息と共にその男を迷惑そうな視線で見た。
ミーナ「それで、俺さんの生みの親であるあなたは、ここで何をしているので?」
研究者「いやなに、ヴィルケ中佐を観察しているのだ。その歳にして落ち着きがあるからね」
ミーナ「はぁ、それでずっとこの執務室にいられるのはちょっと……」
正直言って迷惑、というのが本音だ。
俺さんの身体の調整が終わったとはいえ、それを放置してここに来ているのをみる限り相当暇なのだろうけど。
研究者「つまらないかい?そうだね、だったら君の教えて欲しいことを何でも教えるよ、学問でもなんでもね」
ミーナ「そうですね……それなら俺さんについて教えていただけないかしら?」
研究者「また俺君かぁ……昨日も聞かれたんだけど」
ミーナ「昨日も?」
研究者「イェーガー大尉とハルトマン中尉だっけ?あの巨乳と貧乳の子。あの子たちに色々と聞かれたよ」
ミーナ「何を聞かれたのですか?」
研究者「それは秘密だ、彼女たちに言わないように念を押されたからね。さて、ヴィルケ中佐はあるかな?」
これは好都合だ、俺さんのことで少々答えが得られない部分があったから、悪いけどこの際聞いてしまおう。
できるだけ、簡潔に、要点を得て、誘導も兼ねて質問をする。
ミーナ「……それでは、なぜ俺さんはネウロイ化の研究に身を投じたのですか?」
研究者「彼が生きたいと願ったからだけど?……ああ、あと復讐もかねてね」
ミーナ「復讐?」
研究者「そ、まぁ僕は全てを話して良いという権利を持ってるから言うけど、それでは等価ではないよね?」
ミーナ「……わかりました、私のこともいつか少しだけ話しましょう」
一方的に質問したかったが、やはり誘導にも乗ってくれないところを見ると、多少面倒くさそうだ。
たぶん、この男には誠実に対応したほうがお得なのだろう。
研究者「調べたと思うけど、彼は死ぬ最後に自身の生まれ故郷の防衛に出撃したのは知ってるかい?」
ミーナ「ええ……そして故郷は壊滅したということも」
研究者「彼が出撃した当時の状況は聞いてる?彼は単独で出撃して一人で守り続けたんだよ」
ミーナ「一人で……?なぜそんなことを?」
研究者「軍が彼と街を見捨てて引き上げたからさ、さらに多くの者を救うための決断だ」
ミーナ「そんな理不尽な……。俺さんは……一人でそれに抗議でも?」
研究者「しつこくね、まだ助けられる、と。その場で射殺されそうになったけど、振り切って一人で出撃したのさ」
ミーナ「そんな無茶な……彼がいくら強いといっても……」
研究者「彼は連日の出撃もあり疲労困憊、だが毅然として倒れるまで戦った。ウィッチとして、ね」
ミーナ「そうだったのですか……。あと、その動機の復讐というのは?」
研究者「そうそう、復讐というのはね―――」
ミーナ「それは、何ですか?」
研究者「それは……いや、やっぱり置いておこう。直接、彼に聞いてくれたまえ」
突然顎を指で抑えて言葉を止める男に内心少しがっかりする。
だが言わなかったということは、たぶん俺さんがネウロイ研究に身を投じた根本的理由と原因の確信なのだろう。
この男は話すつもりはなかったに違いない、最初から私がどれだけ話を知っているかを確認したかったということか。
ミーナ「……えっと、その復讐は除けても、彼がネウロイ研究の検体者となったのは?」
研究者「彼はそこで死んだわけではない。第一波、第二波、第三波のネウロイ群を蹴散らし、第四波で彼は被弾したのだ。
だが、彼はその状態で第五波まで一人で破壊したんだ。でも身体がもたず第六波が来る前に意識が昏倒し墜落。
僕がバイクを出して彼を回収した時に……」
一呼吸置いて、研究者は言葉を紡ぐ。
ミーナはそれをじっと見つめてただ静かに耳を傾けた。
研究者「意識が混濁する中で彼は力ともう一度のチャンスを神に請うような言動をしたんだ。
それを……僕が気に入って、ネウロイ化研究の検体者にしたんだよ」
ミーナ「あなたは……その時からネウロイの研究をしていたのですか?」
研究者「僕はあの頃マロニーという男の元でのネウロイ研究の要員だった。だけど後に意見の食い違いで殺されそうになって抜けだすんだけど」
ミーナ「あなたが俺さんをネウロイにした、そう捉えてもよろしいですか?」
研究者「……かまわないよ。彼をこの道に導いたのは僕だ。彼を責めるつもりなら僕は全力で彼を擁護するつもりだ」
ミーナ「さっきの話が本当なら、彼はそのやり方が嫌いで軍を抜けたと考えてもいいですか?」
研究者「ああ、それでいいよ。7割合ってる」
ミーナ「……最後に、あなたと彼は、友人ですか?」
研究者「そうだよ。正確には、そうだった、だね」
悲しそうにぽつりとつぶやく。
先ほどまで少々軽薄かつ冷静な人間かと思ったが、この表情をみた後どうしてもそうは思えなかった。
友人でいたかったのだろう。
だが彼をネウロイの検体者にしたことについて自分を許す気もないのであろうか……いや確実にそうだ。
コンコン……ガチャ
シャーリー「中佐?今大丈夫か?」
ミーナ「ええ、大丈夫よ。どうしたの?」
シャーリー「今日の夜間哨戒のことなんだけど、あと数時間整備や準備してからでるよ」
ミーナ「わかったわ。シャーリーさん、気をつけてね」
シャーリー「大丈夫だって。俺もいるし」
研究者「イェーガー大尉、俺くんの夜間デートを楽しんできてくれたまえ」
シャーリー「で、でーと?さすがに通信もあるからやばいだろー……」
研究者「なんなら通信を妨害してもいいよ」
ミーナ「はぁ、やめてください。シャーリーさん、話した通り俺さんをお願いね」
シャーリー「大丈夫さ。ちゃんと俺を守るって」
研究者「……話を挟んで悪いけど、君はずいぶんと俺君を目にかけているね。どうしてだい?」
シャーリー「あ、え?」
研究者「彼が好きなのかい?」
シャーリー「それは、秘密だ」ニヤ
ガチャ…バタン
研究者「逃げられてしまった」
ミーナ「そりゃそうでしょう。あなたはデリカシーがありませんね」
研究者「褒め言葉ありがとう。さて、そろそろおいとましようかな。俺君をみてくるよ」
ミーナ「あの、もうひとつ最後にいいですか?俺さんは……他のウィッチを恨んでいますか?」
研究者「それを聞いてどうするつもりだい?彼が恨んでいたら謝罪でもするつもりかい?」
ミーナ「……」
研究者「……はぁ。彼はね、すべてのウィッチに感謝しているよ。だから、時々優しくしてやってくれ」
ミーナ「ふふっ、あなたは、やさしいですね」
研究者「やめてくれ。僕は、クレイジーサイエンティストだよ。それだけで十分さ」
がたがた……ガチャ……バタンっ
研究者は席を立ち執務室をあとにした。
部屋に残ったミーナは疲れが一気に出たように椅子にぐったりともたれかかる。
気になっていたことを多少は知ることができたが、依然としてうなるような考えは頭の中で鳴り止まない。
あのリベリオンの最強ヒーローと謳われた俺が、なぜこうまでしてもう一度生きようと願ったのだろうか。
ミーナ「はぁ……少し休憩しようかしら……」
―ハンガー
ハンガーのストライカーの最終整備をし終えるとと、後ろにいた研究者が暇そうにしていた。
俺はストライカーのふたを閉めて、発進ユニットにもたれかかる。
俺「どうした?」
研究者「今から出撃かい?」
俺「まぁな。夜間哨戒だ。久しぶりで楽しみだぜ」
研究者「言っておくけど、あまりエネルギーを解放しないようにね」
俺「いや、使うときは使う」
エーミッタム
研究者「解放 は本来ならば使わなくても大丈夫なんだがな」
俺「わかっている。本来のこの機能は……」
研究者「……こと戦闘に関しては君に任せてあるから言わないが」
俺「それも、わかっているさ。だが、やらなきゃいけないんだよ」
研究者「生き急ぐなよ、死ぬぞ」
研究者がたばこを吸おうとしたので、それを制止する、ここはハンガーだからと。
一度嫌そうな顔をした後にいそいそとタバコを白衣のしたに戻し、ため息を1つして、どこかに歩いていった。
……研究者がどこかにいった数秒後にシャーリーがやってきて、準備万端であることをつげてきた。
俺「じゃあそろそろ行くか。体調は大丈夫か?」
シャーリー「もちろん!俺の方こそ大丈夫か?」
俺「ああ、万全だ。……それと、隠れて話を聞くくらいならこちらにでてこいよ」
シャーリー「うぇっ!……あははっ、ばれてたか」
俺「もちろんだ。気を張っていれば誰かが近くにいることはわかる。さて、いくぞ」
シャーリー「了解。まぁほとんど俺が指揮をとっていいからな。私が指揮を執れって言われているけど」
俺「……わかった。何かあっても、俺が絶対守ってやるから安心して飛ぶんだな」
シャーリー「う、うん……」カァ
俺はシャーリーに1つ目配せして、靴を脱いだ後、発進ユニットから飛び降りストライカーユニットを履く。
魔法力が満たされ全方向に魔方陣が大きく展開される、青白い光が月光のようにハンガー内を照らした。
それの後続いてシャーリーがストライカーユニットを装着し、BARを装備。
俺は予めにミーナに頼んで配備してもらっていたボーイズ対戦車ライフルMKIIとBARを装備。
ボーイズを持ちBARを背負う、変な格好だ。
シャーリー「俺、行くか?」
俺「さて、夜空のドライブと洒落込むか」
シャーリー「よし!……イェーガー、出る」
俺「……続いて、俺、出撃するぜ」
月下に、うさぎと黒装束が、飛び出した。
第7話前半部終了
最終更新:2013年02月06日 23:04