目が覚めると、基地は炎に包まれていた。
急いで格納庫に走る。途中で倒れている地上要員を何人も見つけたが、トリアージ判定にはそれ程時間が掛からなかった。
皆「黒」だったから。
(爆風と瘴気か…魔力がなければ俺も今頃CPA、いやKIAだな。)
冷徹な頭で走り続ける。格納庫前で更に数名発見、しかし何れも手遅れ。
(この調子だと俺のFw190も御陀仏か?)
取っ手を掴んだままの死体を除けて扉を開けると熱風が吹き出てきた。咄嗟にシールドを張り何とか防ぐ。
(あぶねえあぶねえ、危うく気道熱傷になるところだった。
さて俺の190は…無事だ、あれ?整備中?)
ジャッキアップされ水平になっている190と、傍らに煙ってよく見えないが人影。
(作業中…?この環境下で動けている…?)
「おーい、大丈夫かー?」
振り向いたソレは、人間ではなかった。
・・サ! ・レ・・・ー!! ・・サ・セー!!
馬鹿な…ネウロイが喋るわけがない…
ネ・・イ!? ・ド・! ワ・シ・エーリカ=ハルトマン・・!!
エーリカ…エーリカ…ハルトマン………エーリカ=ハルトマン?
俺「ハルトマン君!?」ガバッ
エーリカ「あ、やっと起きた!
はいどうぞ」つ聴診器
とくん とくん とくん とくん…
俺「ふう…。」
(人間だ。人間の温もり…)
エーリカ「落ち着いた?」
俺「なんとか。ありがとう。」
エーリカ「どういたしまして。」
俺(一週間連続であの時の夢か。
ハルトマン君が毎朝起こしに来て、心音を聞かせてくれなかったら今頃発狂していただろうな。
だが、この状態には色々と問題が…)
エーリカ「別に私は構わないよ?毎日起こしてあげても。」
俺「……読心術を君に教えた覚えはないんだが。」
エーリカ「但し、お代はキッチリ頂きま~す!にししし。」
俺(即効性を有し、予後も良好、中毒症状も無い。
対症療法ではあるが極めて効果的な治療法だ。その対価はお菓子…安すぎる位だ。)
エーリカ「たまにはお菓子以外のものも欲しいな~」
俺「生憎今の俺には本と酒とFw190しか持ち物が無いのでね。
今度休暇を取ったら何かおいしい物でもご馳走してあげるから、それまでこれで我慢してもらえるかな?」つ飴玉の袋
エーリカ「ご馳走!?やったー!!」
心底幸せそうな顔で飴玉を頬張るハルトマン君を見ていたら、思わず頭を撫でてやりたくなった。
伸ばした手は背後から聞こえた金属音に遮られた。
バルクホルン「そこまでだ!ハルトマンから離れろ!」
エーリカ「トゥルーデ!?」
俺「昨日はMP40、今日はKar98。明日はさしずめMG42かな?バルクホルン君。」
バルクホルン「Kar98?貴様は一体何を言って……なっ!?」
俺「無意識のうちに持ってきてしまったのだろう?」
バルクホルン「………申し訳ありません。」
俺「ネウロイに大切な家族を半ば奪われた人間が、ネウロイの技術を利用する人間に銃を向ける。
自然なことだよ。もっとも、撃たれる側としてはたまったものではないがね。」
バルクホルン「………。」
エーリカ(トゥルーデ……。)
俺「さあ、二人とも早く戻りなさい。ミーナ君が心配するだろう。」
バルクホルン「私を処分しないのですか?大佐。」
俺「処分?そんなものは必要ない。君に必要なのは心の安息と娘さんの回復だけだ。
あとハルトマン君、無理に私のところへ来る必要はない。」
エーリカ「でも大佐、それじゃ悪夢を
俺「ハルトマン中尉、貴殿に私の部屋への立入りを一切禁ずる。
バルクホルン大尉、貴殿は今の事を一切口外してはならない。
以上二点を上官として命じる。異論は?」
二人「「……ありません。」」
二人は去ったが、もう一人は去ろうとしなかった。
俺「今日も朝っぱらから盗み聞きとは感心しないな、ミーナ君。」
ミーナ「すみません。ですが、大佐の安全を考えてのことです。」
俺「俺の安全などいらないと毎回言っているはずだ。」
ミーナ「しかし大佐、このままではトゥル…バルクホルン大尉はいつか貴方を撃ちます。」
俺「撃たれても構わん。棺桶に片足突っ込んだも同然の人間だ、大した問題にはならんよ。」
ミーナ「ですが
俺「ミーナ中佐、これ以上この件に介入することを禁ずる。
以上、上官命令だ。異論は?」
ミーナ「……ありません。」
遠ざかる足音を聞きながら、あの時死んでおけばよかった、と強く感じた。
どこで道を誤ったのだろうか?
その答えを俺は知らない。そして知ろうとも思わなかった。
今、俺は501統合戦闘航空団“総司令”、という今一よく分からない地位にある。
世間的には中々偉いらしいのだが、戦闘に関する実務は全てミーナ君にお任せ。
軍隊における非魔法医の復権を狙ったカールスラント医師会に育てられ、送り込まれた俺に統率力などないし、必要もない。
普段の仕事といえば、大佐という無駄に高い階級を活かした上との折衝と形式的な書類確認位である。
が、形式的とはいえ時折厄介なものもある。今回のように……。
俺「確かに人材は欲しい。だが、よりにもよって治癒魔法持ちか。」
(医師会が聞いたら何て言うだろうな…)
ミーナ「申し訳ありません。」
俺「いや、別に君の責任でも坂本君の責任でもない。
それに俺自身は治癒魔法に何の恨みも無い。幾度かお世話になったぐらいだからね。
とりあえず二人が到着する前に何とか交渉しておくから、心配しないでくれ。」
とはいったものの、特にツテがあるわけではない。一人を除いて。
姉『そろそろ何か厄介ごと持ってくるんじゃないか、って予感がしてたの』
俺「それで電話に出るのが早かったんだな」
姉『そうよ。で、用件は何?』
俺「かくかくしかじか…」
姉『…………テスト。』
俺「テスト?」
姉『そう、上を納得させるためにテストをして。いい結果を添えて書類を出せば少しはゴリ押しも楽になるわ。
但し、あくまでも“あの時”の貴方以上の成績は取らせないこと。』
俺「あの時って言うと、要するに俺の初陣のことか?」
姉『ええ。“神童”とまで呼ばれた貴方と同じぐらい、でも決して上回らない結果ならとても好都合。
医師会の連中は彼女に貴方の幻影を見つつ、貴方に及ばない理由を無意識下で“治癒
魔法使いだから”と勝手に納得してくれるはずよ。』
俺「なるほどな。
だがしかし姉貴、今彼女は空母に乗って此方に移動中、俺はドーヴァーの基地にいるわけだ。離れすぎている。
おまけに部下…ではないな、担当のウィッチ君が独断的に連れてきたから、不合格になったらどうしようもない。
ここは一つ、“カールスラント空軍 姉中将”の肩書きで頑張ってもらえないかな?」
姉『我々姉弟の肩書きが医師会の飾りに過ぎないのは貴方の方がよく知っているでしょう?そんなの無理ね。
まあ、幸いなことにあの宮藤博士の娘さんだから才能は十分あるはずよ。』
距離はFw190でどうにかしなさい。健闘を祈るわ。』
俺「了解。」
(頑張ってみるか。)
姉『ところで、リネット・ビショップ軍曹の調子はどうなの?』
俺「調子?どうって言われてもな。今のところ特に上がりも下がりもしていない。」
姉『困ったわね、先週からずっとガランド少将が彼女のことばっかり気にしてて職務が滞ってるのよ。』
俺「……今度写真を撮って送っておく。あと訓練も工夫してみるよ。」
姉『よろしく頼むわ。それじゃ。』
外線電話を置いた瞬間、基地内線電話が鳴った。
俺「はいこちら俺大佐」
技師長『大佐、例のものが完成しました!』
俺「例のもの?ああ、Fw190にくっつけるフロートか。」
技師長『はい。空気抵抗が少なく、投棄も容易な優れもの。さらにボタン一つで再生まで可能!』
俺「おいおい、いくら半分ネウロイ化した戦闘機だからってそんな事まで出来るのか?」
技師長『カールスラントの技術は世界一ですぜ大佐。不可能なんてありません。
まあ一つ欠点を挙げるとすれば、使い道が無いってことですかね。こればっかりはどうしようも…』
俺「いい事を教えてあげよう。実はたった今、それの使い道が誕生した。
ちょっと沖合いの扶桑空母まで用事ができたんだ。」
技師長『何と!それはよかった!
扶桑空母ってことは赤城ですかね?』
俺「ああ。今度扶桑から大型新人が来るからな、到着前の打合せだ。」
技師長『大型新人…期待しておりますぜ大佐!』
受話器を置いて一呼吸置くと、俺は階段を登り格納庫へ向かった。
宮藤芳佳君、君は一体どんなものを俺に、そして501JFWにもたらしてくれるのかな?
その問いの答えを俺は知らない。だけど、知りたいと強く思った。
最終更新:2013年02月07日 13:23