1945年、ロマーニャ
501JFW基地
格納庫
鼻歌交じりに、マーリンの出力比率を少しづつ弄る。
設計上の安全率を超えるか超えないかのギリギリまで引き上げて調整するものだが
何度もやったものだから、もう手馴れたものだ。
シャーリー「ん~…これで良しっと」
思い通りの比率に仕上げて猫背気味だった背を軽く伸ばす。
離れたところから金属と金属が触れる音が途切れることなく聴こえてくる。
格納庫を見渡すと、整備中隊のロマーニャ人と見慣れない顔の
整備士がチェンタウロの前にいた。
「…ほぅ。大分手馴れているようだけど、このテのエンジンを整備したことがあるのか?」
「ええ。こっちへ来る前にこれとは違いますがDB601を整備してました」
扶桑人の整備士が迷うことなくボルトを選んでチェンタウロに組み付けていく。
それを見たロマーニャ人整備士は、感心したように口髭を撫でた。
遠目からでも手際よくボルトとナットを締めているのが分かる。
「なるほど。しかし扶桑人でDB系統の整備経験ありとか珍しいな」
「以前いた部隊でDB601を主に整備していたんですよ」
「ああ、考課表に以前は実験部隊にいたって書いてあったな。そこで何の実験をしていたんだ?」
整備中隊の隊長が訊くと急に今まで動いていた手が固まった。
安全帽に隠れて表情は見えないけど、何か迷っているような感じがした。
「…ストライカーの最高速度実験です」
シャーリー「…!」
ポツリと呟かれた一言でもしっかりと『最高速度』という単語を捉えた。
話していることをよく聞こうと自然と体が彼らの方に傾いた。
「すごいじゃないか。そんなエリート部隊にいた奴が来てくれて
しかもDBを専門に弄ってましたとか、明日から俺の仕事が減りそうだ」
「元々エリートでも専門でも無いんですけどね…」
冗談に困ったように笑いながらストライカーのパネルを閉じる。
後ろで控えていた整備士が航空日誌に整備記録を書き込んだ。
「じゃあ、これで作業は終わりだ。昼休憩は12時から13時までだからな」
「了解です。ちょっと外で一服してきます」
「おう、行ってこい行ってこい。だが他のウィッチにバレないようにしろよ。
教育上あまりよろしくないみたいだからな。わかったか、僕
技術中尉?」
僕「了解です、整備隊長殿」
生真面目に敬礼して格納庫の外へ向かっていく。
その途中で中尉があたしの視線に気付いたらしく、作業帽を浮かせて軽く会釈をした。
シャーリー「ふぅん、僕中尉って言うのか…」
何事も無かったかのように中尉が格納庫を出ていくのを見送ったあと、P-51に向き直る。
扶桑の実験部隊出身で、見た感じ腕も良さそうだ。
もしかすると、最高速度をもっと増やせる方法を知っているかもしれない。
シャーリー「…よっし、聞いてみよっと」
規則では『必要以上の』接触を避ければいいから、もし何か訊かれても必要だからと伝えれば良い。
僕中尉が一服し終えてどこかへ行ってしまう前に
手早く周りの工具とマニュアルを片付けて格納庫の外へ向かった。
最終更新:2013年02月07日 13:24