僕「…ロマーニャはいいところだな」

残り少ないゴールデンバットを燻らせながら呟く。
ここは501統合航空戦闘団の基地格納庫の脇にあるベンチ。
僕はストライカーユニットの技術士官として、遙か扶桑から輸送船でロマーニャに派遣された。

僕「それにいい天気だなぁ」


なんでも坂本少佐の紫電改と宮藤軍曹の零戦の
整備指導をするようにという辞令、らしい。
ストライカーごとの手引書一冊送れば良いというわけではないようだ。

僕「しっかし、暇だなぁ」

ここへ赴任する直前、ちょうど501JFWが再編される直前に
宮藤と少佐がネウロイ相手に大立ち回りを演じて
(情報部によると)しばらくはネウロイの襲来する予定はない、とのこと。

僕「手持ちの煙草も少ないから、ちょっと買いに行くか…まだ昼休みだしな」

扶桑から持ち込んだゴールデンバットが紙箱の中でカコカコと揺れる。
ふと右側を見ると一人の人間が僕の方を見ていた。

そいつの背丈は僕よりも少し低いぐらい。
扶桑では見ることがないような髪は明るい橙色で、かなりグラマラスな体格だった。
僕は目が悪いのでそいつの顔を見ようとして、やや目を細めた。

「おいおい、そんな怖い顔すんなって」

そいつは冗談めかしてそんなことを言った。

僕「…シャーロット・イェーガー大尉?」

赴任する前に渡された書類と何かの雑誌にあった写真を思い出して言う。
確かバイク関連の雑誌だったような…

シャーリー「そうだよ、よく知ってんなー。
       扶桑の人間であたしを一発でわかった奴はあんたがはじめてだよ」

なんか楽しそうだ。そして何か企んでいるような顔だ。めんどくさいことは勘弁して欲しい。

僕「えーっと、ここの規則では、ウィッチと僕たちの接触は必要最低限をの…」
シャーリー「まーそう固いこと言うなって!そんな事言ってると脳みそ固まっちゃうぞー」

ここは規則を守ると脳みそが固まるのかよ。恐ろしい基地だな。
脳みそを硬化させたくないけど僕は只の技術中尉だ。
ウィッチの、しかも上官の質問には答えなければならない。

僕「…それで要件は何です?」
シャーリー「扶桑から来た技術士官なんだよな?」
僕「ええ、そうですが何か?」

むしろ何故それを知っているのかが訊きたい。吹けば飛ぶような士官の来歴を何故知っているんだ?
一方で僕の心中には斟酌せずに、予想が合っていたことがわかると、そいつはニヤリと笑う。
そして

シャーリー「今のストライカーユニットで音速を超えられるのか試してみたい」

いきなり真顔で突拍子も無いことを言ってのけた。

僕「あなたは一度、非公式ですが音速を超えたと基地の整備士からお聞きしましたが?」

しかも勢い余って体当たりでネウロイを撃墜した、という与太話を
ついさっきまで話していた陽気なロマーニャ人整備兵から聞いた。

シャーリー「あー、あれか。そーゆー非公式じゃなくて公式で
       しかも確実に超えるためにはどうしたらイイ?ってことだよ」

音速に取り憑かれたリベリアンは、じっと僕の目を覗き込んできた。
僕が速度記録に関わった時のテストパイロットとよく似た目だった。
夢を追い続ける目。楽しそうな表情とその目を見て、錆びついた心の奥底に火が灯った。
燻らせている煙草を灰皿替わりのサクマ式ドロップスの空き缶に放り込む。

僕「…取り敢えず、ストライカーを見せてください。見なければ考えることも出来ませんから」
シャーリー「やってくれるのか!?やっぱそうこなくっちゃな!」

大尉は僕の手を取り、格納庫へ引っ張った。ものすごく楽しそうだ。
僕としても音速突破という響きはとても魅力的であるし、研三で敗れた夢を大きく超える速度だ。
もう一度、速度記録に挑めるのなら

僕「…やってやろうじゃん」

思わずそう呟いた。


『対立』へ続く
最終更新:2013年02月07日 13:24