基地近辺の居酒屋にて

マリオ「お~い~、僕中尉~どうやったらあんな美人の大尉と、あぁ~んなことができたんだ~よ~?」

…何で僕はこんなところにいるんだろう?
拙い記憶を巻き戻す。今日は禁錮刑解除から2日後。
紫電改の整備指導をした後、自室に戻った瞬間に
手際よく顔に麻袋を被せられ、後ろ手に縛られ、軍用トラックに文字通り放りこまれて…

僕「…ここに連行されたのか」

そう結論づけると、赤ら顔の先任に顔を覗き込まれ
その直後に肩をガシリと捕まれ前後に揺さぶられる。
吐く息にワインの匂いが交じってる。

マリオ「お~し~え~ろ~よ~」

どうやら禁錮刑解除寸前の出来事に興味があるらしい。

僕「いやだから、アレは偶然だと何度言えば…」

しどろもどろな言い訳で応戦をする。
逆効果だったのか、その2倍以上の猛攻が返ってきた。

マリオ「偶然にしちゃあ、やけに素晴らしい眺めだったじゃねぇか。え?僕技術中尉殿?」
整備兵A「中尉!ウィッチにお近づきになれる方法をご教授下さい!」(ロマーニャ語)
整備兵B「そうですよ中尉!こーゆー事は広く伝授すべきです!」(ロマーニャ語)

生憎ロマーニャ語で話しかけられても全くわからない。
しかし教えないと取って食わんばかりの勢いだ。

整備兵C「中尉!飢え死にする前に、どうかご教授下さい!」(ロマーニャ語)
整備兵D「このままでは我々は餓死してしまいそうです!」(ロマーニャ語)
整備兵E「中尉!飢えてしまうと我々整備中隊は技量が維持できません!」(ロマーニャ語)
マリオ「俺の可愛い部下達が教えてくれっつってんだよ~
    こいつら女の子に飢えて死にそうだからさー頼むぜ~」
僕「いや、だからさ…」

カウンターの向こう側にいるバーテンダーに助けを求めたが
頑張れよと言わんばかりにウィンクしてきやがった。増援は無しか…
完全に酔っ払ったオイルまみれの野郎どもからの質問責めに耐えつつ
こめかみを押さえて溜息をつく。

僕「…いつまで続くんだろう…」

基地内部

居酒屋から呑んだくれになったマリオと整備兵を連れて帰り
基地通用門の前に車を止めて、詰所にいる当直に身分証を渡して許可を得る。
ついでに荷台の酔っ払いを部屋まで運ぶのを手伝って欲しいと頼むと
苦笑しながら全員分の荷降ろしと部屋までの運搬を手伝ってくれた。別れ際に、一杯奢れよと言われたが。

最後に相部屋のマリオを2段ベッドの上に放り投げ
僕は一息ついてから備え付けの椅子に座った。

僕「P-51のパーツを作らにゃいかんな…」

昼間は扶桑のストライカー整備とその整備指導が再開して忙しくなるので
必然的に空いた時間に少しずつ進めることになる。
今のうちに進めるだけ進めておこうと思い、椅子から立ち上がった。
時計を見るとまだ23時過ぎで、完全消灯までは後1時間ある。
僕は鉛筆と藁半紙を取り出して部屋から出た。

格納庫

音を立てないように格納庫の扉を少しだけ開ける。
顔だけを出して周囲を確認。
右よし、左よし、前よし。口に出さずに心のなかで呟いた。
格納庫の中に入ると1つだけスポットライトで照らすように明るい場所があった。
誰のものかは分からないがストライカー発進ユニットのある場所だ。

僕「こんな時間に誰だろう…?」

足音をなるべく立てないようにして近づく。
装置の裏からそっと顔を出すと白い背中と可愛らしい下着姿が見えた。

僕「~~~~~~!!??」

僕は声にならない悲鳴を上げ
鼻の下に生暖かい感触と鉄の匂いを知覚しながら気を失った。



シャーリー「ん~?」

何かが倒れるような音がすぐ後ろでしたので、ゆっくり振り返ると
仰向けになって鼻血を垂らしながら気を失っている僕中尉が見えた。

シャーリー「~~~~~~!!??」

あたしも声にならない悲鳴をあげて、近くにあった割ときれいなウエスを持って慌てて近づく。
取り敢えず止血しようと思いウエスを中尉の鼻に押し込んだ。
仰向けに倒れていたので後頭部を打っていないか
中尉の頭をさすってみるが、熱を持ったところは無さそうだ。
怪我が無さそうなことに安心して、中尉の頬を軽くペシペシ叩いてみると
中尉が目を瞬かせながら起きたが、次の瞬間には顔を真っ赤にし目を反らして

僕「た、大尉!服を来て下さい、服を!」

と消え入りそうな声で叫んだ。
何のことかと思い自分の胸元を見やると確かに上着を着ていなかった。
そういや、パジャマのままここに来たんだった。

シャーリー「~~~!!??」

また声にならない悲鳴を上げそうになった。
同性に見られるのは慣れているが、まさか男性の
しかも一番合うと気まずい人に見られるとは思ってもいなかった。
都合よく発進ユニットに掛かっていたパイロットジャンパーで前を隠す。
顔の火照りを感じながら中尉の方を見ると、同じく顔を真っ赤にして

僕「大尉!すいませんでした!!」

と叫んで額と両手を床につけて平謝りしていた。
何か声を掛けなければと思い言葉を探す。

シャーリー「わわ、わかったから少し話さないか…?」

自分でも何故そんなことを言ったのかわからなかったが
その提案を聞いた中尉は

僕「…えっ?」

と顔だけを上げて答えた。
何のことか全くわからないと顔に書かれていた。

シャーリー「だ、だからあたしと話さないかって…」
僕「は、はぁ…」

消え入りそうな声でもう一度訊くと、中尉の生返事が返ってきた。
あたしは気まずくなって立ち上がり滑走路の方へ歩き出すと
中尉が慌てて立ち上がり、追いかけてきたのが見ずともわかった。


滑走路先端


僕「どうしてこうなった…」

隣りに座る大尉に聞こえないように呟く。
禁錮刑から開放されると、手際よく拉致され尋問され
極めつけは予想外の可愛らしい下着姿でノックアウト。

僕「どうしてこうなった…」

改めてそう思った。
顔が赤いままの大尉も気まずいのか、先程から一言も話さない。
足元で寄せては返す地中海の波が一定のリズムを刻んでいる。
気まずいのは僕も同じなので、視線の置き場に困り月を眺めていると

シャーリー「…何で僕中尉はあたしの話に乗ったんだ…?」

左を振り向くと顔を伏せたまま、目を合わせずに大尉が小さな声で尋ねた。
やはり訊かれるか。しばらく考え込んでから答えた。

僕「…大尉からその話を持ちかけられた時、僕は『事故』のことを忘れたかったのかもしれません」
シャーリー「……」
僕「無意識のうちに、記憶を名誉で上塗りしようと考えたんでしょう。卑怯ですね」

海に向けて自嘲気味に言う。

僕「でも、大尉の言葉で、あの記憶から逃げちゃいけないんだって分かったんです」

大尉が振り向いたような気がしたが、目を合わせずに僕は海に向いたまま続ける。

僕「これからどんなことがあっても、過去を忘れないで進んで行こうって思ったんですよ」
シャーリー「そっか…ありがとう」

大尉が呟いた。

僕「いえいえ、僕が言うべきですよ。大尉、先日はありがとうございました」

そう言って頭を下げると大尉もつられて頭を下げる。

僕「そういえば大尉…」

大尉の来歴を尋ねようとすると顔を寄せて、いたずらっぽく立てた人差し指で口を抑えられた。
人差し指を口の前で立てて「シーッ!」とするような形だ。

シャーリー「今度からあたしのことはシャーリーでいいよ」
僕「でも階級が…」
シャーリー「階級なんて堅苦しいだろう?上官命令さ」

どこか矛盾しているような気もするが、楽しげに言われたら抗いようがない。
僕も口元を綻ばせて答える。

僕「分かったよ、シャーリー。これからよろしく」
シャーリー「こちらこそよろしく」

僕は滑走路の端から立ち上がりシャーリーに手を伸ばした。
シャーリーが手を掴んで立ち上がる。
僕達は並んで格納庫側まで歩き、手を振って別れた。

第4話『実験』へ続く
最終更新:2013年02月07日 13:26