朝、食堂

マリオ「おい、僕中尉。今日はオモシロイ物が来るらしいぞ」
僕「へぇ?なんだそれ?」

2人で朝食のハムバンを齧りながら話す。
さすがスパゲッティを砂漠で茹でる冗談のある国だ。
朝飯の出来具合にも手を抜かない。

マリオ「今までのストライカーよりも速い”ジェットストライカー”とか
    言うやつだってさ」
僕「ふぅん」

話半分で先任の話に答えてチキンブロスを飲む。旨い。

マリオ「つまらん反応だな。元スピード狂なら食いつくかと思ったんだが」
僕「僕だって見境なく食いつくわけじゃないさ。一応それなりの分別はある」

まず、スピード狂だった覚えはない。
マリオを軽くあしらってからマカロニを口に放り込む。
扶桑海軍での食事も良かったがここも良い。

マリオ「おいおい、まるで毒を抜かれたようじゃないか。先日のアレが効いたのか?」

口に含んだ食後のカフェオレを吹き出しそうになる。
ここで言うアレとは禁錮が解除される寸前に起きた一悶着のことだ。

僕「ば、バカ!ここで言うな!」
マリオ「おーおー、こちらはとーっても楽しいぜ」

慌てて食器を片付け、ニヤける先任から逃げようとしたが遅かった。

マリオ「そういや俺を寝かせた後どこに行ったんだよ?まさかイェーガー大尉と1時間もシケこんでたのか?
    こっちに来て早々からたまらんなぁ、扶桑の色男?」

こいつ気付いていたのかよ。陽気なロマーニャ人め。腹の中で毒づく。
結局僕は廊下を抜け、歯を磨いて格納庫に向かうまで、先任の質問責めに耐えるハメになった。

僕「1日の初っ端からこれかよ…」

どっと疲れたような気がした。


滑走路脇

先任に冷やかされながら格納庫に近づくと、滑走路脇に人だかりが出来ているのが見えた。
何事かと思い、近くにいた整備兵に訊いてみる。

僕「おい、何があったんだ?」
整備兵「あ、僕中尉じゃないスか。何でもレシプロ対ジェットで上昇限界を競うみたいっスよ。
    それよりもウィッチの撃墜方法を教えてください」
僕「そうか、ありがとう」

いつの間にかあの出来事は知れ渡っていたらしい。
要件だけ聞いてそれ以上を追求される前に整備兵から逃げる。

僕「だから変わった音がしていたのか」

先程からいつも聴き慣れているレシプロ魔導エンジンの音と
それとは別に掃除機の吸引音を暴力的にしたような音が聴こえてくる。

管制塔から離陸許可を得たのか、ジュラルミンの地肌が輝くP-51Dを履いたシャーリー
見慣れない赤いストライカーを履いたバルクホルン大尉が滑走路を駆け抜けた。
想像以上の轟音に思わず耳を塞ぐ。

僕「なんだあれは…」

同じことを考えたのか周りの整備兵も目が点になっていた。
あっという間に滑走路の端まで行き、信じられないような角度と上昇速度で
2人がロマーニャの青空を駆け上がって行く。
加速によって急激に圧縮された水蒸気で鋭い飛行機雲を描くのが見える。

僕「あれがジェットストライカーなのか…」

甲高い吸気音と全てを吹き飛ばすような加速を体感したからか、口からそんな言葉が転げ落ちた。

マリオ「凄いな」

先任が唖然として呟く。
僕は既に見難くなりつつある2人をよく見ようと、胸ポケットから丸眼鏡を取り出して掛けた。
やや霞がかったように見える視界がクリアになる。
ほとんど水色一色だった青空に濃淡と薄い雲がかかっていることが分かる。
更に目をこらすと垂直に飛行機雲描くケシ粒のような2つの点が見えた。

片方のケシ粒はある程度まで上昇すると、そこから先はほとんど動かなくなったが
もう片方はまだ飛行機雲を描いて動きつづけている。
恐らく動かなくなった粒はシャーリーで
まだ動いている粒はバルクホルン大尉だろう。

僕「…すげぇ」
マリオ「やべぇな…」

在り来りな感想を述べて空を見続ける。

マリオ「砲弾かよ…」
僕「かもな…」

2人が帰ってくるまで、それ以外何も言えずに空を見ていた。


再び滑走路脇

僕は昼飯をウィッチとは別の食堂で済ませ、午前と同じ場所を陣取る。
ハルトマン中尉を飴で「懐柔した」マリオによると、次は搭載量勝負らしい。
僕とマリオで簡単な予想を立てる。

マリオ「あの推力じゃあ、13mm4丁は固いな」
僕「腕が2つしか無いのにどうやって持つんだよ」

思わず突っ込む。

マリオ「あの怪力大尉の事だ、両手に2丁と肩に2丁ぐらいかけても違和感は無いだろ。
    もしかするとスツーカの37mm2丁と30mm機関砲を担いでくるかもな」
僕「まさかな…」

いつもの冗談だと思い笑って済まそうとしたが、滑走路を見た瞬間に笑えなくなった。
隣の先任も同じらしい。

マリオ「嘘だろ…」

滑走路上に見えたのは高射砲と見紛うような砲を背負い、30mm機関砲の弾をたすき掛けにし
両手に箱から筒が出ているだけにも見える30mm機関砲4門をぶら下げたバルクホルン大尉の姿だった。

僕「ネウロイの巣に殴りこみでも掛けるのか…」

空飛ぶ戦艦のような武装に目を張り、唖然として呟いた。
良く見えなかったが隣のシャーリーはBAR1丁と追加弾倉を幾つか、である。
あれでも重装備の部類に入ると思われるが、隣のバルクホルン大尉と見比べると随分軽装に見える。

マリオ「…飛行試験、だよな?」
僕「実戦とは聞いていないが…」

2人が再び滑走路を駆け抜けていく。前回よりかは遅いように見えるがそれでもかなり高速だ。
2人が滑走路から飛び立つと、先任は首からぶら下げた双眼鏡を覗き込んだ。
僕は丸眼鏡をかけ直して阻害気球のある方向に目を凝らす。
遠雷のような音と共にどちらかが撃墜したのか、阻害気球に充填された水素が爆発しているのが見えた。

マリオ「バルクホルン大尉が1機撃墜…2、3、4…」
僕「シャーリーはどうだ?」

淀みなく撃墜数を数える先任に訊いてみる。

マリオ「バルクホルン大尉に先行されて1機も撃墜出来ていない。…あ、また1機撃墜」

完全に遅れをとっているようだ。
ジェットストライカーにいいように振り回されているのを見て、絶望的な気分になった。

僕「レシプロで音速超えは無理かな…」

思わず呻いてしまった。今晩あたりに会えたら対策でも伝えておこう。


格納庫

ジェットストライカーとレシプロストライカーの比較実験が終わった日の夜、僕は1人でP-51の整備をしていた。
本来ならば今日のP-51の整備当番はマリオになるがアイツは

マリオ「今日はジェットに負けた大尉を慰めてやれよ」

と言って仕事を押し付けてまた飲みに行きやがった。
職務怠慢で中佐に言いつけてやろうかと思ったが、シャーリーに伝えたいこともあるのでありがたく交代した。

僕「さて、じっくりと見聞しますか」

P-51の外装を全て外して片手に懐中電灯を持ち、パーツを1つ1つ照らして目視確認を行う。
懐中電灯を照らすと、動力を伝えるパイプにクラックが入っていた。
そのパーツの交換時期まではまだ時間はあるが、次飛ぶ時に何があるかわからないので
ボルトを固定する為の回り止めワイヤを、ニッパで切り取ってボルトを外す。
そのパーツを取り外して新しいパーツを取り付ける。
ボルトナットを締め、規定のトルクで固定した後に新しいワイヤを掛け

僕「整備不良で墜落しました、なんて洒落にならないからな…」

1人呟いて、整備日誌に交換したパーツ番号を書きこむ為にP-51の整備マニュアルを読み返していると

シャーリー「あれ、今日の整備担当はマリオじゃないのか?」

僕は驚いてマニュアルを取り落としそうになった。

僕「飲みに行くから任せたと言われまして。それと毎回驚かさないでくださいよ…」
シャーリー「ん~?あたしは驚かすつもりは全く無いんだけどなー」

格納庫のシャッターに体重を預けているシャーリーが答えた。
体重を更にかけてその反動でこちらに向けて歩き出す。

シャーリー「ちょっと見ててもいいか?」
僕「構いませんよ」

僕はそれだけ答えて、もう片方のストライカーの目視点検を始める。
シャーリーは近くにあったパイプ椅子に背もたれをこちらに向けて
跨るように座り、こちらを見物することにしたようだ。

ストライカー全体を確認した後、パーツごとに懐中電灯を照らしてみたが
こちらのストライカーにはクラックも、飛行時間ごと交換するパーツも無かったので
ワイヤを外して全てのボルトをトルクチェックした後、新しいワイヤをかけ直して外装を戻す。
整備日誌に「左異常ナシ、各部増し締めとワイヤかけ直し」と書き込み、整備確認者欄に僕の名前を書く。

整備日誌に必要事項を書き込んだ後、休憩しようと思いココアを飲むか訊いてみる。

僕「ココア、飲みます?」
シャーリー「あ、じゃあ一杯くれよ」
僕「了解」

それだけを話してから休憩室へ向かった。
整備中隊の休憩室で2人分のココアを作り
近くにあった砂糖の入った缶と2つのスプーンを持って、作業台へ戻る。
シャーリーは暇だったのか背もたれに凭れて椅子を前後に揺らしていた。
作業台の上に砂糖の缶をおいて、ココアとスプーンを渡す。

僕「どうぞ。砂糖をどれだけ入れるかわからなかったので、砂糖は入ってません。自分で調節してください」
シャーリー「お、ありがと」

僕はスプーン1杯分の砂糖を缶から掬ってココアに入れる。
シャーリーも同じようにして砂糖を掬って入れる。
1杯、2杯……5杯か。甘いものが好きなんだな。
2人して無言のままココアをかき混ぜてから一口飲む。

僕が2口目を飲もうとすると

シャーリー「なぁ、ジェットストライカーにはどうやったら最高速で勝てると思う?」

と尋ねてきた。
昼間の結果が堪えているらしい。かなり真面目な顔でこちらを見ていたので

僕「そうですね…」

足を組み替えて少し考える。

僕「十中八九、無理ですね」
シャーリー「なんだよー、イキナリ結論かよー」

シャーリーが口を尖らせて言った。
ジェットストライカーの優位性を見せられたあとでは悲観的な気分にもなる。

僕「レシプロ側の当事者だったら、無理だってことが一番身に染みているでしょ」
シャーリー「えー、でもさー出来れば勝ちたいと思うじゃん?」

諌めるように言ってみるがシャーリーが駄々っ子のように椅子を前後に揺らす。
ココアを渡す前は揺りかごで、今はロデオといったところか。

僕「…多分これだけの改造を行えばジェットにも勝てるかもしれませんが」

そう言って懐から自室で暇つぶしにアイデアを書きなぐった藁半紙を取り出し、シャーリーに見せる。
シャーリーが覗き込んだ。 17にしては発育の良い胸が目の前に近づく。…ヤベ、鼻血出そう。

僕「まずは塗装をすべて剥がして全体を鏡面仕上げにすること。
  これは塗装分の機体重量を減らし、鏡面仕上げで空気抵抗も出来る限り減らします。
  次に現在使われているアルミ合金のパーツを、一部マグネシウムに置換すること。
  これも軽量化の一環です。あとは過給器の回転数を上げて純メタノールを直噴し……」
シャーリー「あー、言いたいことはよーく分かった。今は無理って事でいいか?」

1つ1つ説明しているとシャーリーが僕の説明を遮って訊く。

僕「残念ながら…」
シャーリー「だーっ!そんなにメンドくさいのかよー!」

絶叫とともに後ろに倒れようとして、椅子ごとひっくり返りそうになった。
驚いて椅子から腰を上げそうになる。

シャーリー「うぉっとっと」

何とか体勢を戻した。
さすがパイロットとだけあって運動神経は良さそうだ。当たり前か。
浮き上げた腰を椅子に落としてから訊いてみる。

僕「まぁ仕方ないですよ。僕達は戦争をしているんですから。
  今からでも、壊さない程度にエンジンの回転数を上げておきますか?」

ジェットストライカーが格納庫内に残っているのを見る限り、また明日も比較試験をするのだろう。
少しでも長く逃げられるように、と考えて提案してみると

シャーリー「よっしゃ、一緒にやろうぜ!」

と言って手に工具を持って立ち上がる。うれしそうだ。

僕「了解です」

僕も工具を手にとって調整をすることにした。


『反撃』へ続く
最終更新:2013年02月07日 13:26