前回までの簡単な粗筋
お姉ちゃん「ジェットSUGEEEE!!」




翌日、滑走路脇

朝食を済ませた後、昨日と同じように滑走路脇に行ってみた。
ジェットストライカーとレシプロストライカーの比較試験で、最後に最高速度で勝負をするらしい。

マリオ「もう賭けはしないのか…」

マリオが愚痴る。
昨日まではジェットとレシプロのどちらが勝つか、賭けをしている光景がチラホラと見えたが

僕「さすがにあんな結果じゃあなぁ…」

昨日の結果を思い出して言う。上昇、搭載量ともにジェットが圧勝しているので
大穴狙いでは無い限り賭けにならないと、ここにいる全員が判断したのだろう。
空中に目を凝らすと、シャーリーとバルクホルン大尉が並んで空中停止しているのが見えた。

マリオ「そろそろだな」

先任が持ってきたラジオの電源を入れた。
ウィッチの無線内容が聞けるように改造してあるらしい。

<<よ~い、ドーン!>>

フランチェスカ少尉が号砲役のようだ。シャーリーが急加速して先行したのが飛行機雲で確認できる。

マリオ「ん?なんで怪力大尉は止まってんだ?」

先任が双眼鏡を覗いたまま言う。確かにまだ空中で静止したままの影があった。

<<あれ?バルクホルン~?どーん、どーんだってばー>>

少尉が何度も旗を振っているようだが大尉は静止したままだ。

マリオ「フン、余裕だな。そんなに自信があるのかよ」

無線を聞いた先任が鼻で笑った。
僕は何も言わずに空を見続ける。前回、前々回で大差を付けて勝っているのだ。
あれだけ先行されても追いつけると踏んだのだろう。

<<ウ゛ニャー!>>

バルクホルン大尉がスタートしたのと同時に
フランチェスカ少尉が猫のような叫び声とともに飛ばされるのが見えた。
大尉が先行しているシャーリーに一気に追いつき、そのまま抜かしていく。

<<あ、あたしがスピードで負けるなんて…>>

ラジオからシャーリーの信じられないと言わんばかりの声が聞こえた。

僕「あれは賭けにならんわ…」
マリオ「仕事するか…」

無線の内容と飛行機雲で僕と先任は揃って肩を落とした。すごすごと片付ける準備を始める。

<<ん?何だ?>>

無線機の電源を切ろうとしたところで手が止まった。後ろを振り返って空を見る。
急上昇した後、針金を捩るような飛行機雲を描き海面へ急降下する影が見えた。

マリオ「やばくない?」

その影は引き上げをする間もなく海面に小さな水柱を立ててぶつかった。

僕「救難隊!墜落したぞ!」

僕が叫ぶよりも早く救難隊の屈強な男達が内火艇に飛び乗り
エンジンを高鳴らせて大尉が墜落した地点へ走っていった。

マリオ「僕中尉!大尉が戻ってくる前にヴィルケ中佐からストライカーの
    整備マニュアルと諸元表、ありったけの関係資料を貰ってこい!急げ!」

先任がすぐさま指示を出した。借り物のジェットストライカーの問題点を探る為だろう。

僕「了解!」

僕は中佐がいる場所へ走っていった。



格納庫の休憩所

マリオ「ジェットストライカーの使用禁止ねぇ…」

先任が諸元表のページを捲りながら1人愚痴る。

僕「仕方ないだろ。試験飛行で墜落したんだし」

僕は自分で作ったココアを啜りながら答える。
あの時の煙草が最後の1本だったが
シャーリーに『事故』のことを話したのもあって、わざわざ吸う必要も無くなった。

僕「でも、せっかく分解整備したってのに飛ばせないのは辛いな…」
マリオ「鎖で固ーく縛られてるしなぁ…」

大尉を海から引き上げた後、僕たちはジェットストライカーをパーツ1つ1つまで分解して真水で洗浄し
医者が使うようなライトでタービン1つ1つにヒビ割れがないか確認したが

マリオ「タービンブレードを幾つか交換したけどそれ以外はきれいなモンだよな。
    仕上げの試運転ぐらいしてもいいと思うけどなぁ」

それが出来なくて不満なのか、まだ愚痴り続ける。

僕「中佐がダメと言ったんだから仕方ないだろ。そのうち…」

言葉を続けようとしたが空襲のラッパで途切れた。

僕「さて、仕事するか」
マリオ「そうだな」

ウィッチが来る前にストライカーの発進ユニットを並べるのも僕達の大事な仕事だ。
急いで休憩室から飛び出しカタパルトを並べる作業に取り掛かる。
すでに他の整備兵の手で半分近くが並べられていた。
各々がカタパルトを並べ、載っていたストライカーの飛行前点検を行う。
僕の並べたカタパルトにはシャーリーのP-51が載っていたので、そいつの点検をする。
武装は武装担当の整備兵に任せた。

整備兵「武装異常ナシ!」
僕「ストライカー異常ナシ!飛行準備ヨシ!」

手信号と声で先任に伝える。「了解」の手信号が返ってきた。
すぐに反対側の扉からウィッチが駆けこんでくる。
シャーリーに「異常ナシ!」と手信号と声で伝えBARの予備弾倉を渡す。

僕「土産に1機頼むよ!」
シャーリー「ああ、任しとけ!」

お互いに軽口を叩いてシャーリーが手を振って出撃して行った。
格納庫の入口から5つの弾丸が飛び出してゆく。手を振って見送りながら勇ましさに見惚れていると

マリオ「おめぇらボケッとしてんな!次を並べるぞ!」

先任が怒鳴った。防衛戦が突破された時に備えて、残りを並べるのも僕達の仕事だ。

僕「了解!」

急いで残りのユニットを並べる作業に取り掛かった。


防空壕

<<じっとしてろよ……>>

残りのストライカー発進ユニットを並べた後、狭い防空壕で改造ラジオでウィッチの無線内容を聞く。
無線内容を傍受出来るスグレモノだが1個しかないので
整備兵全員がラジオの前で寄って集って聞く事になる。恐ろしく暑苦しい。

マリオ「押されてるな…」

隣の先任がこぼす。
最初はサッカーのラジオ中継を聞いているかのごとく、かなり盛り上がっていたが
劣勢になるに連れて徐々に応援の声が小さくなっていった。

<<シャーリーが苦戦している!至急、応援を!>>
<<リーネさん、宮藤さん!>>
<<はい!>>

ミーナ「宮藤軍曹、ビショップ兵曹を出撃させます。整備中隊は出撃準備に取り掛かってください」

無線の後で中佐の命令が隅のほうにあるスピーカーから聞こえた。

マリオ「よっしゃ、仕事すんぞ!僕中尉と後2人、最終点検だ!」

先任が宮藤&リネットペアの出撃命令を聞いて嬉しそうに言った。

僕「了解!」
整備兵A&B「Yes,Boss!」

僕達は防空壕から飛び出して、既に引き出しておいたゼロとスピットの最終点検に入った。
受け持ちのゼロの最終点検を行う。手際よく各部の外観確認。
以前いた部隊で仕込まれているので、ものの1分程度で確認を終える。異常ナシ。
武装確認。九九式二号二型改13mm機関銃を引っ張り出して外観の確認と
安全装置が効いているか見る。ちゃんと効いていた。弾倉を叩き込む。
予備弾倉も用意して、最終点検と飛行準備完了。

僕「異常ナシ!準備ヨシ!」

先程と同じように頭の上で丸印を作って伝える。

マリオ「了解!」

ちょうど良く宮藤、ビショップ曹長が駆けこんできた。
ストライカーに飛び込み耳と尻尾が生えたところで機関銃の予備弾倉を渡す。

僕「頑張れよ!」
宮藤「はい!」

宮藤が元気よく答えて発進しようとした時

バルクホルン「お前たちの足では間に合わん!」

格納庫の正面に大尉が立っていた。

リーネ「命令違反です、大尉!」
バルクホルン「今あいつを助けるにはこれしかないんだ!」

魔力の消耗がまだ完全に回復していないらしい。
耳と尻尾を生やした大尉が忠告を無視して発進ユニットにフラつきながらも近づき
ジェットストライカーを縛る鎖に手をかける。
固有魔法の怪力で千切ろうとしたが

バルクホルン「…え?」

鍵の開く音で大尉が拍子抜けした声を上げた。
張力の無くなった鎖がその場にバラバラと音を立てて落ちる。

マリオ「…こりゃあ始末書ものだよなー、僕技術中尉殿?」
僕「…僕達2人で、か」

先任が取り外した南京錠を手のひらで弄びながらユニットの裏から出てきた。
ニヤつく意図を何となく察し、苦笑して答える。

僕「独断で飛行禁止のジェットストライカーを『試運転』、か」
マリオ「中佐に撃たれるかもな……あ、お前らはこいつの飛行前点検しとけよー」

ボーリングのピンよろしく、事の成り行きを見守っていた
整備兵2人にいつもと変わらぬ口調で指示を出す。あたふたと動き出した。

宮藤「バルクホルンさんはまだ体調が回復していないんですよ!」
マリオ「鎖を千切ってでも飛ぼうとしただろう?止めようとしても、あんな怪力を俺らじゃ止めらんないよ」

宮藤の反論に肩を竦めて答えた。

バルクホルン「お前たち、私の無断出撃を庇うのか…?」
僕「大尉、これは無断出撃じゃありませんよ。無断『試運転』です。
  事後処理は僕達で何とかしときますので、安心して下さい」

無断で出撃しようとしたはずの大尉が心配そうに尋ねるが、僕は『試運転』のくだりを強めしてに答えた。

整備兵A&B「異常ナシ!準備ヨシ!いつでも飛べます!」

最終点検を終了した整備兵が伝える。
不敵な笑みを浮かべ舞台役者のような口調で言う。

マリオ「ゲルトルート・バルクホルン大尉殿、舞台の準備が出来ました。いつでもご出撃を。
    あと、始末書の作成も我々の仕事であります」
バルクホルン「本当にすまないな…」

それだけを呟くと大尉はストライカーに飛び込み暖気運転を始めた。
魔力の供給が安定していないのか、咳き込むようにして回り始める。

バルクホルン「クソッ…」
マリオ「パッと行って、ダダっと叩いて、とっと帰って来りゃあいいんですよ。
    だけどヤバイと思ったらすぐに戻ってください」

大尉の横で先任が気楽に言う。
不規則だったタービンの回転が少しずつ安定してくる。弱々しかった吸気音が迫力を増す。

僕「君たちもエンジン回しとけよ」

すぐ隣りにいる宮藤に耳打ちすると

宮藤「は、はい!」

慌てて暖気を再開した。リーネも暖気を再開する。
次第に掃除機の吸気音を思い切り暴力的にした轟音になる。

バルクホルン「バルクホルン機、出るぞ!」

回転数を最大まで上げたジェットストライカーを履き、バケモノを撃ち殺す銀の弾丸が飛び出していった。
遅れて宮藤、リーネがそれに追従していく。
3人が出撃していくと、とたんに格納庫が静かになった。がらんどうの格納庫に声が響く。

マリオ「さて、俺らはウィッチが帰ってくる前に、防空壕で始末書の内容を考える作業に移りますか」
僕「何枚書くんだろうなぁ」
マリオ「枚数のこともゆっくり考えようぜ。あと実況中継も聞きたいしな」

3つの弾丸を見送り、並んで防空壕へ向かう。

僕「そうだな。おーい、そこの2人も戻るぞー」

見送ったままの整備兵2人にも声を掛ける。慌てて駆けつけてきた。

整備兵A「あんなこと言ってましたけど、本当に大丈夫なんですか?」
マリオ「心配すんなって。俺らは精精これくらいしか出来ないんだ。
    間違っていたかどうかなんて中佐に任せりゃいい」
僕「君らは僕達の指示を受けてやったとだけ言えばいい。
  営倉行きは僕とここの責任者のマリオだけさ」

整備兵の不安を僕と先任が紛らわすように言う。防空壕に通じる扉を開けた。
扉を開くと幾対もの不安げな視線が僕達を刺してくる。

マリオ「俺たち整備中隊はやれるだけのことをした。
    あとはオフェンスに任せてバケモノ退治の中継でも聞こうぜ」

視線を受け流すようにして言い、マリオがラジオへ近づいてボリュームを上げた。

<<また分かれた!?>>

ネウロイが分裂してからかなり時間が経っている。
いくらレシプロはジェットよりも魔力の消費量が少なくとも、無限大に存在しているほど都合は良くない。

僕「まだ着かないか…?」

懐中時計を見て焦りを押さえるように呟く。

<<ヤバイ、挟まれた!>>

マズったか。
思わず奥歯を噛み締めようと力を込めた瞬間に
突然ラジオのスピーカーから聞きなれない連続した爆発音が聞こえた。
ラジオの前にいる整備兵が固まる。 間を置いて、さらに先程とよく似た爆発音が聞こえる。

<<バルクホルン!?>>

何とか間に合ったらしい。他人に見つからないようにして胸を撫で下ろす。
大尉の到着と、ネウロイを撫で斬るような撃墜を聞いて周りが一気に沸き立った。

<<バルクホルンめ…無茶しおって…>>
「ヒャッハー、やりやがった!」
「お姉ちゃん大尉すげぇ!」

ネウロイの撃墜確認の無線を聞いてより一層盛り上がるが

<<おい、どうなってる?バルクホルンのスピードが落ちないぞ!?>>
<<ジェットストライカーが暴走しているんだ!>>
<<このままだと魔法力を吸いつくされるぞ!>>

ジェットストライカーの暴走を聞いて、急激に休憩室の温度が下がった。一瞬で静まり返る。
最悪の事態を考えたのか、先任が僕の肩に手をかけた。振り向いて答えようとしたが

僕「……まだ追いつける」

搾り出すようにしてそれだけを言う。
音速に取り憑かれたウィッチがいる。
諦めるな、と僕にもう一度チャンスをくれたあいつが。

<<シャーリーさん!>>
<<了解!>>

打って変わったように全員が息を飲んで無線を聞く。
僕はただ祈る。
追いつけ追いつけ追いつけ追いつけ追いつけ……

<<クっ…>>

やはり、レシプロはジェットに勝てないのか。拳を固めて近くの石壁を殴り、僕は叫んだ。

<<くそったれぇぇぇぇ!!>>
僕「行っけぇぇぇぇぇシャァァァーーリィィィィーー!!」

ラジオから聞こえるシャーリーの絶叫と僕の絶叫が重なる。
もう恥も外聞も無い。拳を振り回し渾然一体となって
狭い防空壕の中が酸欠にならんばかりに空気を吸い込んで僕は叫んだ。

僕「追いつけぇぇぇぇぇ!!」
マリオ「うぉぉぉぉぉぉぉ!いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」
「にがすんじゃねぇぇぇぇぞぉぉぉぉぉっっ!!!!」

周りの整備兵も訳の分からない雄叫びを上げて、ネウロイ撃墜の時よりも防空壕の中に響き渡る。

<<……ドォン…ザー>>

突然ラジオから遠雷のような音がして、僕を含めた野郎どもの雄叫びが止んだ。
空電のような音がスピーカーから鳴る。

マリオ「何があった!?」

マリオがラジオにとりついてチューナーを弄る。
しばらくすると、安定してきたのか空電が小さくなった。

<<…ザー…あ~!ソレあたしの、あたしの~!>>

永遠のように長かった空電の音が少しずつ小さくなり
フランチェスカ少尉の何故か不満そうな声がラジオから聞こえた。

<<バルクホルンの無事を確認した。全員、帰投するぞ>>
「「「「「Yeaaaaaaaah!!!!!」」」」」

大尉の無事を確認した坂本少佐の帰投宣言がラジオから聞こえると
整備兵の歓喜の声がまた上がった。

マリオ「さぁ、ウィッチが帰ってくる前にお出迎えの準備だ!急げ!」
「「「「Yes,Boss!!」」」」

先任の一声で整備中隊の面々が一斉に答える。全員が滑走路に向けて走りだした。

マリオ「ほれ、ボケッとしてなさんな。愛しの大尉殿が帰ってくるぞ」
僕「わかったから、いちいちそれを言うな!」

放心しているとマリオに茶化された。顔を真っ赤にして答える。
始末書のことは後でゆっくり考えよう。
今はシャーリーに思い切り手を振って出迎えようと、僕も防空壕の出口へ走っていった。


第5話『買物』に続く
最終更新:2013年02月07日 13:26