前回までのあらすじ
僕「ケーキうまい」
街角
ルッキーニを探しやすいようにトラックの幌を外し終え、3人集まって作戦会議を開いた。
シャーリー「ふー、幌も外し終えたしルッキーニ捜索を再開するか。
あとはどこを探していないっけ?」
僕「んー、ほとんどの場所を探したしなぁ。」
眉間に少し皺をよせて考える。
おおよそ観光地と言われるところは探し回ったが見当たらない。
少尉はどこへ行ったかが全くわからなかった。ホントに猫みたいだなと思う。
宮藤「あと思いつくといえば教会とかでしょうか?」
教会か…
一通り探しまわってまだ探してないところといえば
僕「…パシリカ・ウルビアとかか?」
シャーリー「それだ!そっちを探してみようぜ!」
宮藤「早く行きましょう!」
そう言って宮藤とシャーリーがトラックに乗り込んだ。
僕もトラックの荷台に手をかけて乗り、運転席側の外板を叩く。
乗り込んだことが分かったらしく、トラックのエンジンがかかってすぐに動き始めた。
そう言えば、大聖堂って宗教施設だよな。仏教徒でも入れるのか?
入れなかったら広場のあたりを探していればいいか。
1人でどうでもいいような疑問を抱いて、10秒で自己解決すると空襲警報のサイレンが聞こえた。
僕「こんな時にネウロイ様ご一行の登場か…」
人様の事情にはお構いなしな奴らだ。
1人で悪態をつきながら、トラックの運転席と助手席の間にある小さな窓を開ける。
僕「シャーリー、そのまま大聖堂まで行けるか!?」
シャーリー「パシリカ・ウルビアまでか?なんで急に!?」
僕「あそこならかなり広いから離陸の邪魔になる物が少ないだろう!?」
ローマ市内の地図を思い出してトラックのエンジン音と街中に響くサイレンに負けじと叫ぶ。
確かあの大聖堂の前には楕円形の広場があったはずだ。
意味がわかったのか前を向いたままハンドルを切るシャーリーがニヤリと笑った。
シャーリー「オーライ、『ちょっと』飛ばすから、宮藤と僕中尉はしっかり掴まってろよ…!」
宮藤「はい!」
僕「了解だ」
クラッチを踏まれる前に荷台に下がり発進ユニットの取っ手を掴む。
遠心力で振り落とされないように脚を広げ、腹ばいになったのと同時に
トラックが軽やかに加速しだした。
澱みなくドライブまでギアアップされたトラックが、人が少なくなりつつある通りを駆け抜ける。
右へ左へドリフトする度に、スキール音に混じって宮藤の悲鳴が聞こえたような気もするが
あまり気にしないようにしよう。
僕「叫びたいのはこっちもだよ…」
舌を噛まないようにしながら呟く。
荷台から少しだけ頭を出すと、人影の無くなった楕円形の広場と
半円型のドームを頂いた大聖堂が見えた。
そろそろか。トラックから振り落とされないように頭を引っ込めて取っ手を掴み直す。
派手にブレーキ音をたてながら車体を右へ振りつつトラックが止まった。
ゴムが焼ける匂いのする中で立ち上がり、発進ユニットにかかっていた帆布を外して
一番前に固定されていたP-51の最終点検を行う。
出発前に整備兵がちゃんと仕事をしておいてくれたようだ。
バインダーに挟まれたチェックリストを上から順にクリアする。
僕「ストライカー異常ナシ!」
シャーリー「あいよっ!」
BARに40発弾倉を叩き込んだシャーリーに伝えると
使い魔のうさぎの耳と尻尾を出してストライカーユニットに飛び込んだ。
シャーリーの耳元に近づいて話す。
僕「エンジンを3秒間限界まで回してからクランプを僕が外して垂直上昇。出来るな?」
シャーリー「心配すんなって。あたしを誰だと思ってるんだ?」
こちらを向いて余裕そうな笑みを浮かべる。問題ないな。
僕「『グラマラス・シャーリー』だろう?そろそろ始めるぞ」
軽口も程々にしてクランプ開閉ボタンの付いた
スイッチのリールを伸ばして発進ユニットから少し離れる。
回転数が最大になったらしく地面に投影された魔方陣が大きくなる。
僕「OK…数えるぞ。3…2…1…Go!!」
クランプの顎が開くと白い煙を残し
シャーリーがローマ上空へ打ち上げ花火のように上昇していく。
まだ次が残っている。荷台からトラックの下へ視線を移すと
案の定、宮藤がオロオロしていた。まぁ、そりゃそうなるわな。
屈んで宮藤の頭に軽く手を置いてニッと笑う。
僕「宮藤さん、取り敢えず僕の指示に従って緊急離陸のシーケンスを
行って下さい。いいですね?」
発進ユニットに向き直ってゼロを取り出し、同じように最終点検を行う。
うん、異常なしだな。
僕「ストライカー異常ナシ!」
宮藤がストライカーに飛び込む。エンジンが勢い良く回りだした。
僕「いい調子です!そのまま最大まで回して下さい!」
宮藤「は、はいっ!」
僕「3つ数えたらクランプを外すので一気に上昇してください
じゃあ数えますよ…3…2…1…Go!」
スイッチを押してクランプを開けると、先程と同じように白い煙を残して急速上昇していった。
初めてにしては上出来だろう。上空で旋回待機していたシャーリーと宮藤が合流したようだ。
僕「後はルッキーニ少尉だけか…一応用意しておこう」
上空の2人を見送った後、発進ユニットに向き直って少尉のファロット G.55Sストレーガを固定する。
Bf109とあまり変わらないエンジンなのでそこまで手間取らずに最終点検を終える。
僕「ストライカー異常ナシ、っと……ん?」
急に太陽が翳り、上を向いてみると太陽を背にして1人の人間が勢い良く飛び降りてきた。
そのままの勢いでストライカーに文字通り飛び込む。
僕「…えっ、っておい!」
ルッキーニ「ジャーン、おっ待たせー♪」
僕「大聖堂から飛び降りてきたのかよ!」
ルッキーニ「そうだよー、そんなことより早く準備してよー」
頬を膨らませてすでに耳と尻尾を生やした少尉が文句をいう。
僕「わ、わかったよ。緊急離陸のシーケンスは分かってますよね?」
ルッキーニ「いいから早くー!」
とたんにエンジン音が上がり地面の魔方陣も拡大される。とっとと飛ばしたほうが良さそうだ。
僕「りょ、了解!3つ数えたら飛ばしますよ…3、2、1、Go!!」
白い煙を引いて少尉が砲弾のように空へと駆け上がる。
上空で全員が集合したところで、ネウロイが侵攻してくる方角へ飛んで行ったようだ。
僕「…さて、僕は観戦でもしてますか」
まっすぐ上昇していく少尉を眺めながめて呟く。
北東へ伸びる3本の飛行機雲を見送り、トラックを建物の陰に隠した。
流れ弾が当たるときは当たるだろうけど、気休め程度にはなるだろう。
エンジンを切り、双眼鏡を取り出して基地に一報するために公衆電話を探す。
広場をぐるりと見渡すと
僕「…あった」
さすがは観光地といったところか。思った以上に早く見つかった。
受話器を取って硬貨を入れ、基地直通の番号にダイヤルを回す。
交換手が回線を繋ぐまでの空白のあと、耳の側で呼び出し音が鳴る。
エイラ「コチラ、第501統合航空戦闘団のエイラ…」
僕「エイラ・ユーティライネン中尉か。自分は僕
技術中尉で、IDは19460125だ
ヴィルケ中佐に、今ローマ郊外で…」
エイラ「ちょ、ちょっと待ッタ。ミーナ中佐に替わるから、そのまま待ッテロ」
受話器を耳に当てたまま、建物の影から顔だけを出して北の方を見る。
双眼鏡を覗くと、赤い光線をまき散らしているネウロイの周りで
3つの黒い点が組んず解れつして飛び回っているのが見える。
電話先で誰かが受話器を取る音が聞こえた。耳に受話器を強く押し当てる。
ミーナ「僕中尉さん、ミーナ・ヴィルケ中佐です。聞こえる?」
僕「ええ、ちゃんと聞こえますよ。現在北東よりローマ市街に向けて
大型のネウロイ1機が侵攻中。買い物へ行ったイェーガー大尉以下3名が迎撃しています。」
ミーナ「わかりました。今そちらに向けて応援部隊を送りましたが
到着まで持ちこたえられそう?」
状況を簡単に説明して、中佐の問い掛けにもう一度物陰から顔を出す。
僕「持ちこたえられるかどうかは見物客に聞くよりも本人に聞いたほうが的確ですよ。
たださっきからネウロイの影が大きくなっていないので
確実に足止めは出来ているようです。」
双眼鏡で3人が迎撃している方角を見ながら答える。
思っていた以上にネウロイの放つ光線が少ないように見えるな。
うまい具合に侵攻方向も逸らしているから、これなら増援なしでも勝てそうだ。
しかし、実際のところ彼女らが戦える時間は、この前の戦闘から考えると15分ぐらいだろうか。
501の基地とローマまでの距離を概算してみると増援がこちらに着くのは
15分よりも後になるかもしれない。もし、撃退出来なかったらその後の結果は目に見えている。
僕「…ですが、予断を許さない状況にあることは間違いありません。なるべく早めに……」
おもむろに壁から出した頭を引っ込めると、さっきまで頭があったところを
一升瓶ぐらいの太さの赤い光線が通過してその先にあった石畳を抉る。
危うく首より先が消失するところだった。顔から血の気が引いた。
僕「……いえ、迅速にこちらへ到着させてください。お願いします」
ミーナ「了解しました。応援の部隊に伝えておきます。
僕中尉はその場で別命があるまで待機してください。通信終わり」
電話先から受話器を置く音がした。震える手で受話器を公衆電話に掛ける。
歯の根が合わない。もう一生分の運を使い果たしたような気がする。
僕「そうだよな、ここは最前線だもんな…」
改めて今ここの情勢を思い出した。
教壇で学生相手に教鞭を振るっていたり、のらくらと暮らしていれた内地ではない。
僕のすぐ横で話したり笑ったりしていた彼女達も「何かあったら」という理由で
ストライカー3機を発進ユニットごと持ち込んでいたのだから。
僕「…トラックに戻ろう」
そう呟いてトラックに近づいてドアを開ける。そのまま倒れこむようにして座席に座り込んだ。
ここなら流れ弾の直撃で体の一部が消し飛ぶことはないだろう。
運悪く建物に当たって、崩壊した一部が自分に降りかかってくるかもしれないが。
僕「くっそ、止まれよ…」
情けない話だが、体の震えが止まらない。
頭を引っ込めただけで命拾いしたように、サイコロを振るかのように
簡単に自分の生き死にが決まる、その『恐怖』で震えが止まらなかった。
(ソードだけで奴らに立ち向かうとか信じらんねぇよ)
今更、警官の一言が蘇ってくる。
今の自分に出来ることは何も無い。ただ無事を祈って待つばかりだった。
帰路、トラック車内
僕「………」
シャーリー「う~ん…」
さっきから僕中尉の様子が何かヘンだな。頭を捻って考えてみる。
ネウロイを撃墜した後、トラックのある方へ戻ってみると
中尉が幽霊でも見たかのような顔であたし達を出迎えて、黙々とストライカーを片付け始めたよな。
シャーリー「お~い、どうしたんだよ~?」
問いかけてみるが、黙ったまま前を見て運転している。いつもの中尉らしくもない。
宮藤とルッキーニが話しかけてもどこか上の空だったし
片付けた後、帰りは自分が運転していくと言って聞かないし、
さっきから目が異様なほど澄み切っている。何かが吹っ切れたようにも見える気がする。
シャーリー「なんなんだよ、全く…」
頭の後ろに両手を回して座席に凭れかかる。そのうち戻るだろう。
僕「…怖くは、無いのか?」
運転してからずっと無言だった中尉が、エンジン音に紛れるようにして囁いた。
頭の後ろで組んでいた腕を解いて中尉の方へ顔を向ける。
シャーリー「ん、どした?」
僕「…あんなバケモノと戦って、怖くないのか?今日は良くても明日は死ぬかもしれない。
そんな状況でも怖くないのかって。サイコロみたいにどの目が出るかもわからんのに」
前を向いたまま、堰を切ったように中尉が問いかけてきた。
なるほどなぁ、それでさっきから様子がヘンだったのか。
頭の中で文章を構築して吐き出す。
シャーリー「ん~音速を超えるまではまだ死ねないし、ネウロイと撃ち合ってりゃ
そんなことの考えてるヒマもないよ。要はそういう事」
僕「なるほどな、そういう考え方もあるのか…」
ハンドルから離した右手を自分の顎に添えて僕中尉が呟いた。
へたな説明でも納得できたようだ。
それに帰る前と比べて、雰囲気がいくらか柔らかくなったような気がする。
シャーリー「それにさ、1人で抱え込む前に誰かと話したほうがすっきりするし
あたしで良ければ相談役ぐらいにもなれるぞ」
僕「8歳も年下の女の子に相談ね…」
あたしが自慢の胸を張って言うと肩を竦めて答えた。うん、いつも通りの中尉だな。
でも、中尉のどこか物哀しげな横顔が気になった。
最終更新:2013年02月07日 13:28