前回までのあらすじ
シャーリーの機嫌を直せ!3日以内で用意しな!



街中


僕「どうしよう…」

大通りに面したカフェのテラスで呻いた。
今日が期限の3日目だが『気に入りそうなもの』がちっとも思い浮かばない。
先任が上手いこと理由をでっち上げて、3日分の非番を無理やり作ってくれたものの
あれこれ悩んでいるうちに3日目の夕刻に近づいてきた。

僕「はぁ…」

あれからシャーリーに会っても話しかけられないどころか目も合わせられない。
日に日に気まずくなっていく。
何か良さそうなものはないかと、この近辺にある『~~屋』、『~~店』と
付きそうな店をハシゴしたが

僕「無いんだよなぁ…」

彷徨った挙句、ここのカフェに行き着いてティラミスを頬張る。
ここの店にとっては良い商売だろう。

僕「あーどうしようもねー」

自分の想像力と緊張感の無さに泣けてきた。どの面下げて基地に戻ろうか。
目ぼしいものが思いつかなくてティラミス食べてました
なんて言ったら、確実に先任にどやされる。

僕「ちっくしょー……ん?」

悪態をついて呻いていると見慣れない物が視界に入る。
今まで気付かなかったが、通りの反対側に小さな商店があった。
眼鏡を取り出して掛けてみると、煤けたショーウィンドの向こう側で
ガラクタなのか骨董品なのか判別のつかないようなモノが
雑多に置かれているのが見えた。

僕「骨董品…?」

そういえば、まだあの店で探していないよな。
失礼だが、店の構えがみずぼらしくて気付かなかったのだろう。

僕「…物は試しか」

無かったら無かったで正直に事情を話そう。
ウエイターを呼んで代金を支払い、通りを渡ってその店へ入った。


骨董品屋


僕「ごめんくださーい…」

一声かけて狭い扉を開けた。埃の匂いがする。古本屋のような匂い。
奥からシワくちゃの爺ちゃんが出てきた。兎のように丸い目でこちらを捉えている。
多分ここの店主なのだろう。

僕「ここの店の中を見て回ってもよろしいですか?」

数少ないロマーニャ語で尋ねると爺ちゃんが無言のまま頷いた。良いらしい。
許可を貰ったから、4畳半ぐらいの店内を見て回ることにした。

僕「へぇ…」

薬品で変色した蒸留器、縁日で見かけるような紙製の狐のお面、銀色の銃弾、
フラスコ、皆目見当もつかない文字で書かれた牛皮の古本、木彫りの布袋様、瑠璃色のガラスの水差し等々
世界中の雑多な骨董品を、貪欲に集めてみましたと言うような品揃えだった。

僕「あ、すいません。このお盆を見てもよろしいですか?」

蘭鋳の描かれた漆塗りの盆を手に取って訊く。店主が相変わらずの無言で頷いた。
覗き込むと漆黒の水面に僕の顔が映る。漆の下で蘭鋳がまだ生きているような気がした。

狭い店内を2時間ほど見て回ったが飽きることがない。
さっき回った時にはあった物が、いつの間にか違う物になっていたりもする。ただ単に見落としていたのだろうか?
何周か回って時間を忘れかけた頃、ふと目に留まる物があった。それを手に取る。

僕「…兎?」

兎の顔を模した留め具の後ろから、ふわりとした毛皮が生えている。
大きさは目測で5cmほど。

僕「これでいいか」

シャーリーの使い魔も兎だったし。安直な考えで決めた。
お代は幾らか訊こうとしたら、いつの間にか後ろにいた店主の爺ちゃんが
紙に数字を書いて渡してきた。これが値段らしい。

僕「高いのか安いのか良くわからんなぁ」

財布を取り出して提示されたお金を払う。

僕「ありがとうございましたー」

礼を言って店から出ると、斜陽で橙色に染まった街並みと
遠くに501の城塞のような基地が見えた。時間も押しているし早く帰ろう。
借りてきた軍用バイクのエンジンをかけて、基地へ向かった。


自室


夕食と風呂を済ませた後、自分の部屋でルッキーニと過ごしていると

ルッキーニ「ねーねーシャーリー、『雑巾オバケ』って知ってる~?」
シャーリー「何だそりゃ?」

聞きなれないことを訊いてきた。
あたしのベットにもぐりこんでいるルッキーニに訊き返す。
今日はここを寝床にするらしい。

ルッキーニ「エーッとね、そこら辺に雑巾とかをポーイってしとくと
      いつの間にか無くなってるんだって」
シャーリー「ちょちょちょっと待て。それは誰から聞いた?」

おいおいマジかよ。雑巾がズボンに変わる日も近いぞ。
もしそうなってから中佐の耳に入ったら、整備兵の大半が粛清されかねない。

ルッキーニ「う~ん、忘れちゃった!でもなんでシャーリーの顔が赤くなってんの?」
シャーリー「うぇ!きき気にするな!子供は寝る時間だぞ!」
ルッキーニ「え~つまんなーい。最近シャーリーが何か変だよー?寝る前に一人で足バタバタさせてるし」

気づかれてた!もう寝たかと思ってたのに!
このままだと墓穴を掘りそうだ。こういう時は

シャーリー「よしルッキーニ、寝ろ!寝ないと『雑巾オバケ』が来るぞー」
ルッキーニ「ウニャーァァァ!」

猫のようにひっついてきた。
ルッキーニには気の毒だが、寝付きが悪い時の
脅かす→ひっつかせる→安心させて寝させる
の流れには毎回お世話になってる。1時間もすれば寝付くだろう。

シャーリー「0000時に格納庫へ来い、ねぇ…」

夕食後にマーリンを弄ってたら、僕中尉がそれだけを伝えてどこかへ行った。

シャーリー「まるで逢引じゃん…」

口に出してから言葉の意味を思い出して猛烈に恥ずかしくなった。
バタつかせたくなる足を何とかとどめて、時間になるまで寝転んだまま待った。


格納庫


僕「まだかな…」

懐から懐中時計を取り出して時間を見る。零時の鐘が鳴ってから15分。
格納庫から伸びる滑走路を眺めて待っていたが、まだ来ない。
もう寝てしまったのだろうか。

僕「帰るか…」

また明日に渡せば良いか。
ボヤいて夏でも冷たい格納庫の床から腰を上げると

シャーリー「…人を呼びつけて勝手に帰るのは酷いよな?」
僕「うぉわ!」

格納庫の通用口から聞こえたシャーリーの声に驚いた。
どこからこんな声が出てくるんだ。

シャーリー「冗談だよ。ところで何の話だ?」

そう言って通用口から歩いて来た。怒ってはいないようだ。
慌てて骨董品屋で買ったものを取り出す。

僕「その…この前はスマンかった!デリカシーも無いこと聞いて…それでお詫びにというか、なんというか…」
シャーリー「おいおいどうしたんだよ、急に…」

しどろもどろで謝って紙袋に包まれたそれを渡す。
シャーリーの手に包みが渡った事を確認して帰ろうとすると

シャーリー「えっ、もう帰るのか?」

意外そうに呼び止められた。

僕「その、何だ…あまり長く話すと当直にバレるかもしれないし」
シャーリー「そっか…」
僕「…じゃあ、また明日。おやすみ」
シャーリー「うん。おやすみ」

それだけ言ってそれぞれの自室へ戻る。
仲直りにしては、あまりにも簡単すぎたか?後ろ髪を引かれる思いで自室まで歩いた。

再び自室


自室に戻って紙袋を破くと、中から兎を象った留め具に兎の後ろ足が付いたモノが出てきた。

シャーリー「…ラビッツ・フットか」

窓から差し込む月明かりにかざしながらそれを見る。
リベリオンのバイク乗りでも持ってたヤツが結構いたな。

シャーリー「シャレが効いてんなぁ…」

兎は生き延びる為に、時速80km/hで捕食者から逃げることもある、とどこかで聞いた。
そこから転じて、兎の後ろ足は『生き残る力の象徴・生存の象徴』を表すらしい。

シャーリー「使い魔とお守りを掛けるとはね…」

呟いてブレザーの胸ポケットへしまった。大事にしよう。
服を脱いで、ルッキーニの眠る横で眠りについた。


『後日談』へ続く
最終更新:2013年02月07日 13:29