前回までのあらすじ
僕「恐らく宮藤軍曹の魔法力が云々…」
坂本「長い。三行で説明しろ」
翌日、格納庫
まだ少し眠い目を擦りながら格納庫の通用口を開ける。
朝っぱらから司令室に呼び出され、少しばかりキナ臭いことを聞いた。
僕「扶桑からの艦隊、ねぇ…」
わざわざ地球の反対側から艦隊を供出するあたり
近いうちに、ヴェネツィア上空に巣食うネウロイとドンパチを始めるのだろう。
格納庫の出入口に目を遣り、差し込む朝日に目を細める。
滑走路の先端から整備兵が一列になり、バケツ片手にゴミ拾いをしているのが見えた。
僕「虎の子の戦艦も参戦か…」
何て艦名だっか。九州の片隅で教官兼整備兵になっていたから
いつの間にか浦島太郎みたく、世事に疎くなってしまった。
ただ、辞令で出向中にストライカーユニットの整備手順書や諸元表を読むことは
許されていたから、ここで困ることは無かった事が唯一の救いか。
僕「反攻作戦か……」
中佐の所々ぼやかした話から導いた結論を紡ぎ出した。
出入口から視線を手前に移動させると、一段低い床で同じく整備兵が
ストライカーユニットを全機引き出して、点検のために張り付いている。
僕「………フン」
短く鼻腔から息を吹き出す。
キナ臭くなろうが反攻作戦だろうが、僕たちはここで完璧にストライカーの整備をして
ウィッチが無事に戻ってくるように祈るしか無い。
僕「仕事するか……」
気を取り直すために頭を振った。整備に私事を持ち込まない。
術科学校で教官を務めていた時、何度も学生に言い聞かせた言葉を思い出し
整備中隊全員に今日の業務予定を伝えるために、格納庫の一段低い床へ足を進めた。
廊下
朝食を片付けたあと、今日の予定を聞くためにルッキーニを連れてブリーフィングルームに向かう。
珍しくあたしのすぐ右隣にいるバルクホルンが、かなり落ち込んでいた。
エーリカ「トゥルーデ~、朝から落ち込んでどーしたのさ?」
バルクホルン「…その、昨日すこしな……」
エーリカ「ふーん…ミヤフジのことで?」
一番右端にいるハルトマンの一言でバルクホルンの肩がビクリと上がった。どうやら図星らしい。
バルクホルン「その、何だ…」
エーリカ「不調のミヤフジにちょっとキツイこと言っちゃった?」
また肩が上がった。分かりやすいったらありゃしない。
普段なら傍観するけど結構気にしているみたいだから、この辺で止めておこうか。
バルクホルン「は、ハルトマン…!」
シャーリー「まーまーハルトマンもその辺にしとけって。バルクホルンも気にしてるんだからさ」
何があったかよく知らないけれど、宮藤がしょげていたのに一枚噛んでいるようだ。
シャーリー「飛べなくなったって言っても、一時的なことだろ?
宮藤のことだから、またすぐに飛べるようになるさ」
ルッキーニ「そーだよ!芳佳ならまたバビューンって飛べるよ!」
バルクホルン「そ、そうだったな…すまない。だが、ハルトマン!お前というやつは…」
エーリカ「わートゥルーデが怒ったー逃げろー」
からかうようにしてハルトマンがバルクホルンの腕をすり抜け、ブリーフィングルームへ入っていった。
朝から元気な2人だな。いつみても面白いけど。2人に続いて部屋に入ると大体が揃っていた。
ハルトマンとバルクホルンは部屋の左側奥に座ったようだ。
あたしもルッキーニとその手前側に座る。
ミーナ「皆さん、揃いましたね。連合軍司令部によると、明日にはロマーニャ地域の戦力強化のため
戦艦大和を旗艦とした扶桑艦隊が到着する予定です」
坂本「いよいよ到着するか…」
ほぼ全員を集めた上での連絡だから、近々大掛かりな作戦でもあるのだろう。
部屋の反対側にいる宮藤がリーネと話しているし、途切れ途切れにしか聞こえないが
かなりデカイ艦みたいだ。…確かに大きい物が好きだしな、うん。
突然、中央の机にある電話が鳴った。中佐が受話器を取り上げ耳に当てる。
ミーナ「はい……ええ、大和で事故!」
坂本「なんだと!」
ブリーフィングルームに緊張が走った。
いつものお気楽気分で聞いている場合ではなさそうだ。
ミーナ「はい…了解しました。救助要請です。先程、大和の医務室で爆発があって
負傷者が多数発生、大至急医師を派遣して欲しいそうよ」
宮藤「わたしに行かせて下さい!戦闘は無理でも、飛ぶことと治療ぐらいは出来ます!」
リーネ「わたしにも行かせて下さい!包帯ぐらいなら巻けます!」
おいおい、飛行禁止じゃなかったのか?だけど、エミリー(二式大艇)で医師を運ぶには遅すぎる。
医療ができて、飛行艇よりも優速のストライカーで急行出来るのは宮藤しかいないが
途中で事故らないか心配だ。それでも背に腹は代えられないのだろう。
ミーナ「…わかりました。宮藤さんとリーネさんはすぐに格納庫へ向かって下さい」
宮藤&リーネ「了解!」
敬礼した後ブリーフィングルームから走って廊下へ消えていった。
あの2人なら何かあった時でも大丈夫だろう。
ミーナ「最後に、シャーリーさんとルッキーニさんは戦闘待機をして下さい。解散!」
シャーリー「りょ、了解!」
ルッキーニ「りょうかーい!」
いきなり振られて言葉が出るのに時間がかかった。周りもブリーフィングルームから引き上げていく。
戦闘待機を命じられたあたしも、ルッキーニと格納庫へ向かうことにした。
再び、格納庫
僕「…んで、リトビャク機はマッシモとアントニオで
フランチェスカ機はエンツォとフェルッチオが今日の整備担当です」
勤務表一覧を見ながら、今日のストライカー整備の当番を読み上げていく。
口には出さないが、この時の整備兵一人ひとりの表情の変化が面白い。
お好みのウィッチの担当になったときは物凄く嬉しそうで、そうでもない時は、ほぼ無表情のまま。
誰構わず声をかける奴は多いが、好みもあるらしい。
僕「それで今日は…」
言いかけたところで、壁にかかっている電話が鳴った。
一覧を折りたたんでポケットにしまい、壁に近づいて受話器を取る。
僕「はい、こちら整備中隊の僕
技術中尉です」
ミーナ「僕中尉さん?ただいま近海を航行中の艦隊で事故がありました。
救難のため宮藤さんとリーネさんを急行させるので、至急、飛行前点検を行って下さい」
危うく舌打ちしそうになるのを何とか思いとどまった。本人から不調と聞いた翌日に宮藤を飛ばす?
不調のパイロットを空に上げるとか信じられんと思ったが、それだけ急いでいるのだろうと納得させ
僕「…了解。ちょうど全員が揃っているところなので、すぐに点検に移ります」
そう答えて、受話器を耳から離して壁にかける。
上からの指示だ。個人の意見でグズっていたら、軍として機能しない。
整列したままの整備兵に振り向き息を吸う。
僕「総員、よく聞け!近海を航行中の艦隊で事故が発生。
救難のため宮藤軍曹とビショップ曹長を発進させる!
零戦とスピットの整備当番は飛行前点検、武装担当は2人の武装を準備。
とくに宮藤軍曹は不調だから念入りに点検しろ。かかれ!」
「「「「Yes,sir!!!!」」」」
一気に指示を出すと、整備兵が蟻のように一斉に動き出した。
僕「宮藤さんにも言わにゃならんこともあるな」
周りが急に騒がしくなった中で一覧とは別の紙切れを取り出す。
昨日言った『階段を登るようにゆっくりと』出力を上げる詳しい方法を書き込んだものだ。
あと、なるべくリミッターが作動しないような方法も書いてある。
僕「所詮、安全装置を誤魔化してるだけだが…」
「武装準備完了!」
武装担当の声が響いた。2人がそろそろ来るだろう。
僕「ストライカーの準備はどうだ!?」
「もうちょいです!」
僕「あと1分ぐらいで来る、ウィッチは待っててくれんぞ!」
「………出来ました!」
整備兵が準備完了を告げると、ちょうどよく2人分の足音が聞こえてきた。
こんな時に走って格納庫まで来るのは、宮藤とビショップ曹長ぐらいしかいない。
リーネ「リネット・ビショップ、ただいま到着しました!」
宮藤「同じく宮藤芳佳、到着しました!」
僕「ストライカー、武装共に準備完了。いつでもどうぞ」
宮藤&リーネ「はい!」
それを聞いた2人がそれぞれのストライカーに飛び込み使い魔を発動させ、床に独特の魔方陣を描く。
ビショップ曹長は順調にスピットのエンジンの回転数を上げるが
宮藤の零戦はまだ不規則にしかペラが回っていない。
色々と宮藤が力んでいるうちに、発進ユニットへ近づく。息を切らせた宮藤がうなだれていた。
宮藤「どうしよう、わたし飛べない…」
発進ユニットの一段高いところへ飛び乗り、うなだれたままの宮藤の肩に手を置いた。
突然だったからか、手を置くと細い肩が驚いたように跳ね上がった。
宮藤「うひゃあ!ななな何ですか!」
僕「驚かせてすいません。えーと、取り敢えず脱力して下さい」
宮藤「は、はぁ…」
渋々ながらも力が抜いたらしく、床の魔方陣が小さくなった。適当なところで止めるよう指示を出す。
宮藤「このくらいですか?」
僕「そのくらいですね。次に歩くつもりで、少しずつ回転数を上げて下さい」
次第に聴きなれた栄二二型のエンジン音と可視化されたペラの回転が安定してきた。
僕「いい調子ですね。次は早歩きするぐらいまでゆっくりと」
宮藤「はい!」
ペラが起こす風切音に負けないように宮藤が答えた。
少しずつペラの回転で起きる回転音の周波数が同調する、独特の和音が聞こえてくる。
リーネ「中尉さーん、さっきから何をしてるんですかー!?」
少し離れたところから曹長が訊いてきた。やはりこれも見られない光景なのだろう。
僕「ストライカーの試運転と同じ方法で出力を上げてるんですよー!あと少しです!」
答えた後、宮藤に軽く走るぐらいまで出力を上げてから、インカムの電源を入れるように指示。
途中で途切れること無くペラが二重奏を奏で続ける。素晴らしい音に思わず頬が緩んだ。
こちらもゴツいヘッドセットの電源をオン。
僕「宮藤さん、聞こえますか!いい音ですよ!」
宮藤「聞こえます!あとはどうすればいいですか!?」
早く飛ばして欲しいと僕を見る目が語っている。
急患が待っているから、いつまでもエンジン音を聞くわけにもいかない。
僕「ここからが本題です!あとは走るぐらいまで出力を
上げられたらいいのですが発進ユニットの耐久性上、長時間はやっていられません!
ですからこの辺でクランプを開放します!」
宮藤「はい!」
ついでにストライカーの他の異音が無いかも聴く。
振動で構造材がビビる音もないし、左エンジンが咳き込む音も珍しく発生していない。
僕「離陸中はゆっくりと出力を上げて下さい!飛行中もです!
決して一気に魔法力を叩きこまないように!急な出力の上げ下げは避けること!
そして安全装置を騙すようにして飛んで下さい!出来ますか!?」
宮藤「出来ます!」
良い返事だ。すぐ横にいる整備兵に出撃可能と伝える。
そのまま管制塔へ連絡してすぐに離陸許可が下りた。
発進ユニットのクランプを外し、宮藤とビショップ曹長がゆっくりと滑走路までタキシング。
まっすぐ前方へ進む時は誘導員はいらないから、滑走路にはストライカーを履いた2人だけ。
リーネ「リネット・ビショップ、発進します!」
宮藤「宮藤芳佳、行きます!」
そう言い残して、ゆっくりだが確実に滑走路を走っていく。
滑走路の端まで使いきり、少しずつ浮かび上がった。そのままスピットに零戦が追従して上昇。
言いつけをちゃんと守って階段を登るように上昇していくのを確認した後
帽振れをしたまま見とれている整備兵に声を掛けた。
僕「いつまで見てる。これから忙しくなるだろうから、いまから全員分の飛行前点検をするぞ」
何となくそう思った。もし宮藤が何かあったら、ここのウィッチが飛んでいくだろう。
すぐにでも飛べるようにするために残りも診ておく必要がある。
いつも通りの不満気な反応をした整備兵を引き連れて格納庫へ戻った。
シャーリー、自室
昼間の光景を思い出して、枕に抱きつき脚をばたつかせる。
何も汗でシーツが脚にまとわりつくのが鬱陶しいわけじゃない。何か悔しい。
シャーリー「なんだよ、中尉のやつ…」
もう一度、今日の格納庫で見たことを思い出す。
あたしとルッキーニが戦闘待機のために格納庫に向かうと、ちょうど宮藤とリーネが
離陸する直前だったのだろう、不調の宮藤に僕中尉が話しかけているのが見えた。
そこまでは離陸前によく見かけるから何とも思わなかった。ただ気にくわないのが
シャーリー「楽しそうに話し込んじゃってさ…」
枕に顔をうずめて呟く。最終的にそこへ行き着く。
宮藤の不調を気遣ってか、ゆっくりと出力を上げるように指示を出していたのだろう。
宮藤が少しずつ回転数を上げるのを見て、普段あまり笑わないような中尉が顔を綻ばせていた。
シャーリー「なんだよ…」
また何か悔しくなって脚をばたつかせる。
さっきからそれを思い出しては脚をばたつかせてちっとも眠れない。
目が冴えてまた思い出しては、の悪循環で消灯から1時間ぐらいはこうしていた。
シャーリー「なんだよこれ…」
大切なものを取り上げられた時のような、バイクの調整が上手く出来ない時のような
そんなときの不満がグルグルと胸の奥で渦巻くような気分。
まさか焼き餅でも妬いてるのか?
シャーリー「~~~~~っ!もう寝る!」
一晩中考えたら始末がつかなくなりそうだ。
一言、自分に宣言させてタオルケットにくるまった。
悶々とした気分のまま丸まって、しばらくした後、ゆっくりと意識が遠のいていった。
最終更新:2013年02月07日 13:30