明朝、滑走路脇、係留所


夜明け前に降った雨が、滑走路脇のコンクリート製の船着場を濡らす。
0645時頃には僕達を艦隊まで運ぶ飛行艇が向かえに来るだろう。
後ろを振り向くと、臨時編成した整備兵33名が待っている。

「ん?あれか?」

整備中隊の中でも視力の良いやつが迎えの飛行艇を見つけたらしい。
首から下げた双眼鏡を覗き込んでみると、二式飛行艇よりも一回り大きなシルエットが
払暁の空を背にこちらへ向かってきていた。

僕「BV222…」

通称ヴィーキング。カールスラントの飛行艇で、実戦で使用中の飛行艇の中でも世界最大と聞く。
たった1日で、13機しかない飛行艇の内1機をここへ回す、中佐の手腕に改めて舌を巻いた。

僕「海賊船が来る。タグボートの準備は良いか?」
「いつでもいいぜ」

無線を取り上げて訊くと、係留所の端に浮かぶタグボートの艇長がダミ声混じりで答えた。
軍人ではなく軍属の地元の住人だが僕達が
ここで飛行艇を待っている理由は言わなくても分かったようだ。

迎えのヴィーキングがゆっくりと着水し、その衝撃で水しぶきを上げる。
船のようにゆっくりとピッチングをしながら、方向舵を使い弧を描いて船着場に泊まった。
飛行艇の主翼の右後ろ側にある搭乗口まで近づくと内側から扉が開いた。

「第200爆撃航空団所属VB222、コールサイン『アルトマルク』へようこそ。
 私はガンナーのエブナー軍曹です。少しばかり、お手を借りてもよろしいですか?」
僕「ええ、何でしょう?」
「こいつで艇が流れないように舫っていただけますか?」

そう言って舫い綱を投げて渡す。内火艇だけでなく飛行艇もこんなことをするのか。
受け取った縄を伸ばし、何人か集めて係留柱に括りつける。

僕「…係留、完了しました。それで荷物はどこの辺りに積めばよろしいですか?」
「そうですね、機体の中心に来るように積んでいただければ、重心がちょうどよくなります」
僕「了解です。それじゃ、積み込みますよ」

伸びたタラップを降りて、艀に弾薬とストライカーの補修部品を積むように指示。
木箱を受け取って機内に積み込む。計器類に当てないよう、注意して積んだ後に
整備兵も全員乗り込んだのを確認して搭乗口を閉めた。

全員が乗り込んだことを確認して、機長にその旨を伝える。

「了解。えーテステス。本日は第200爆撃航空団をご利用頂き、誠にありがとうございます」
「…機長、何言ってるんですか」

機長席の右側に座る副機長が冷静に突っ込んだ。

「何、エアラインにいた時の癖だよ…離陸準備」

機長の一言で僕の座っている左前にいた乗員が動き始める。

「第一エンジン始動」
「第一エンジン始動」

機長が機長席に座ったまま人差し指を立てた。機関士がエンジン類の計器盤を復唱して操作する。
今まで止まっていたエンジンが回り始めた。
そのまま2、3、4、と指の本数を増やすと、6発のディーゼルエンジンをアイドリングさせる。
後ろに繋げられたタグボートに引かれて、ゆっくりと海上へ滑る。

「全動翼、異常ナシ!」

機体上部にある銃座から声が聞こえた。
時折、無線がざわめく。タグボートに押されて、管制の指示を受けながらBV222は基地から離れる。
障害物の無い辺りまで滑り出て、タグボートが離れていく。

「そいじゃ、行きますか。コールサイン『アルトマルク』発進する」

機長がそう言うと、両翼のディーゼルエンジンの音が最大まで高まった。
水しぶきを上げ、加速度で起きる大きなピッチングしながら水面を駆ける。
飛行艇の底を叩く波の音がしばらく響いたあと、唐突に止んで空へゆっくりと上がっていく。
窓から外を覗くと遠くなりつつある基地が見えた。

僕「見送りなんて無いよな…」

隣にいる整備兵に聞かれないように呟く。ウィッチでもないのに期待する方がおかしい。
反攻作戦の記録にも残らない、無名の僕達を引き連れて艦隊の待つ海へ向かった。
今日も暑い日になりそうだ…


アドリア海、空母『天城』


「ウィッチだ、ウィッチが来たぞ!」

2時間程前に『天城』に到着して飛行艇から荷物を全て降ろした。
飛行甲板上で広い集めた異物を1つにまとめていると
僕達のすぐ上を11本の矢がエンジンの多重奏を残して飛んでいく。

僕「まるで弦打ちだな…」

太陽に目を細めながら空を見上げた。
古来、扶桑では怪異を払うおまじないとして、梓で作られた弓を打ち鳴らしたという。
この場合は有象無象の怪異ではなく、明確な形状のあるネウロイだが
それさえも打ち払う音に身震いを覚える。

僕「生きて帰ってこいよ…」

綺麗に散開したウィッチたちを見て、知らず知らずのうちに呟いた。

同海域、艦隊上空、シャーリー視点


基地から出撃して20分程飛行を続けると、陣型を組んだ艦隊が見えてきた。
中央にかなりデカイ戦艦と空母、その周りを取り囲むようにして駆逐艦と他の戦艦が
航行しているのが見えた。逆V字編隊のまま中央の空母をローパスし急上昇。

バルクホルン「これが戦艦大和か…」
シャーリー「でっけーなー」

中央の大和があまりにも大きいので、目の縮尺が狂って他の戦艦が巡洋艦に見える。
駆逐艦に至ってはフェリーぐらいだ。
赤いビームの直撃を受けた先頭の駆逐艦が爆炎を上げる。

ミーナ「始まったわ…大和がネウロイ化するまでの間、何としても守り切るのよ!」
「「「「了解!」」」」

言った瞬間に11人が飛行機雲を描いてブレイク。
あたしとロッテを組むルッキーニは、陣形の右翼にいるので右へロールしピッチアップ。
横滑りさせるようにして、やや右へ両足のP-51を向けながら右旋回上昇。

ルッキーニ「シャーリー、アレやる?」

インカムからルッキーニのいたずらっぽい声が聞こえた。後ろを向くといつもの笑み。

シャーリー「いいね、やってやろうぜ」

ネウロイの巣がある方向を向くと、熱烈な歓迎をしに来たネウロイが向かってくる。
お行儀の悪いアイツらに、先制パンチをかましてやるには持って来いだろう。

(推奨BGMただし音量注意)

一度この辺りで減速し、ルッキーニを上に行かせる。
こちらに向かってくる20機ほどのネウロイが上下2つに別れた。
あたしとルッキーニ狙いか。怖さを知らないネウロイが突っ込んでくる。
頃合いを見て叫んだ。

シャーリー「来いっ、ルッキーニ!」
ルッキーニ「うぅぅぅりゃぁぁぁぁ!」

身を翻して急降下してきたルッキーニの手を掴み、思い切り振り回す。
固有魔法の超加速と急降下で得た運動エネルギーを相乗させて

シャーリー&ルッキーニ「「行っけぇぇぇぇ!!」」

ネウロイの大群にルッキーニを放り込んだ。

即座にBARを構えてネウロイ共に照準をあわせる。
ヴェイパーコーンを纏ったルッキーニが大群へ突っ込むと
その乱流でこちらに向かってきたネウロイの姿勢が、一斉に崩れて行き足が止まった。

シャーリー「今だ!」

トリガを引く。空中で止まってるなんて、こっちに言わせりゃ鴨撃ちだ。
小気味良い破裂音でネウロイが次々に破片へと化した。

ルッキーニ「ヒャッホーイ!」
シャーリー「ヒュゥー、やったぜ!」

常人ならブラックアウトしそうな速度と旋回半径でルッキーニが歓声を上げてこちらへループ。
背中に寒気が走り後ろを向くと、ルッキーニ側へ分かれたネウロイの軍勢があたしを狙っている。

シャーリー「くっ…」

BARを向けようとするが間に合わない。いきなりこれかよ!
腹の中で毒づくと

ルッキーニ「シャーリー、避けて!」

ルッキーニに言われたとおり、一度スロットルをアイドルまで落とす。
揚力が無くなって自由落下しようとすると、頭上を発砲音と火線が通過して
目の前にいたネウロイが粉々になった。

ルッキーニ「もー、シャーリーってば何してんの!」
シャーリー「悪い悪い。次行こうか」

頬を軽くふくらませたルッキーニに謝ると、次のネウロイの塊が降ってくる。

シャーリー「さぁ、踊ろうぜ!」

一旦アイドルまで落としたスロットルを最大まで吹かして緩降下。
ネウロイを引き連れてやや左へ旋回。ただ旋回してるだけでは
飛んでくるビームに当たるので、縦の方向にシギングさせる。
引き連れたネウロイの後ろでルッキーニが短く撃って少しずつ数を減らす。
そろそろかな?

シャーリー「…ここだ!」

ルッキーニの様な急旋回は出来ないが、逆上がりをするように
右脚、左脚の順に振り上げ旋回半径の内側へテールスライド。
頭の少し上を軸にして世界が水平に回った。Gで視界が狭くなる中でトリガに指をかける。

シャーリー「当たれっ!」

頭上を止まれずに通過しようとしたネウロイへ7.62mmの弾雨を食らわせた。
ほぼ一直線に並んで飛んでいた3機のネウロイに、銃弾のミシン目が刻まれて破裂。
残りの1機は後続のルッキーニが落としたようだ。

ルッキーニ「まだ来るよ!」

3機連続撃墜で喜んでもいられない。落としたネウロイと別の集団が迫ってきている。
スロットルを緊急出力まで叩き込んでマーリンを急かす。

シャーリー「くっそ、数が多いな…」

ネウロイの巣に近いのもあるのだろう。いつもより数が多い、いや多すぎる。
加速しながら撃たれないように、時々、バレルロールを打つ。
十分に運動エネルギーをつけたところでピッチアップ。後ろの集団も食らいついてくる。

シャーリー「ルッキーニ、1、2の3で振り向いて撃つぞ」
ルッキーニ「わかった!」

サムアップで答える。そろそろ速度が落ちてきた。もう少し上がりたいけど、頃合いだろう。

シャーリー「行くぞ…1、2の3だ!」

半ロールして下に向き、追っかけに向けて弾を撃つ。残り4機、3機、2機…

シャーリー「しまった!」
ルッキーニ「あっ!」

こんな時に二人揃って弾切れ!?弾倉を替えてる時間は無い。
とっさに判断して左手にBARを持ち替え、腰の後ろに付けたホルスターから
サイドアームのM1911を右手で引き抜いて撃つ。

シャーリー「これでも食らえっ!」

右腕に強めの反動を残して吐き出された.45ACP弾がネウロイの表面を穿つ。
弾切れ寸前の6発中4発を当てたところで、ネウロイが砕け散った。

シャーリー「あっぶねー…」

あと2発しか残っていない弾倉を落として、新しい弾倉を叩き込む。
スライドを引いて初弾を薬室へ送る。

ルッキーニ「ウェー、いつもより忙しーよー」
シャーリー「頑張れ、ルッキーニ。まだ始まったばかりだぞ」

愚痴りながらブレダの弾倉を交換しているルッキーニを宥めながら旋回。
M1911をホルスターに戻して、BARの弾倉を交換する。インカムがザザっと鳴った。

バルクホルン<<リベリアン、さっきは大丈夫だったか>>
シャーリー「ああ、コルトで追い払っといたよ」

上空を見上げると、バルクホルンがロールしながらエーリカとネウロイを破片へと変えている。
デタラメに撃っているようにしか見えないが、あれでもちゃんと当てているようだ。
MG42の電動ノコギリによく似た三重奏がインカムからBGMのように流れる。

バルクホルン<<緒戦から弾切れとは、らしくもないな…うぉっとっと!>>
エーリカ<<また1機っと…よそ見してちゃダメだよ、トゥルーデ>>

心配してくれるのは良いんだけど、そっちが墜とされたら元も子もない。
太陽が陰ったような気がした。

シャーリー「そっちこそらしくもないぞー」
バルクホルン<<う、うるさい!私は…>>
シャーリー「あーはいはい、心配してくれてありがと…よっと」

軽口もそこそこにして、上空から急降下してきたネウロイの一団を避ける。
一撃離脱をミスったらしく、そのままダイブして逃げるネウロイに追従。
銃身が焼き付かないように、断続的に短くトリガを引く。
ルッキーニと少しずつ数を減らすが、この一団は嫌に数が多い。

シャーリー「まだ半分も減ってないな…」

ネウロイも本気でぶつかってきている。ヘタに気を抜いたらマズい。
その集団の先頭に水色の影が躍り出た。

エイラ<<シャーリー、コイツらをそのまま追っかけてヤレ!残りはサーニャに撃たせル!>>
シャーリー「ラジャー、任せとけ!」

下の方にフリーガハマーを構えたサーニャがいる。なるほど、大体の予想が付いた。
あたしとルッキーニで集団を追い立てながら撃墜し、先頭でエイラがネウロイをからかうように舞う。
ネウロイのビームが当たるわけがない。全部1テンポ遅いよ。

エイラ<<今だ、ブレイク!>>

あたしは右に、ルッキーニが左へバレルロール。
同時に1発のロケット弾が放たれ、先頭のネウロイに直撃すると後続のネウロイが
空中で玉突き事故を起こして、全機が砕け散った。
そのまま減速せずに下にいたネウロイの集団に突っ込んでいく。
行き掛けの駄賃で4機ほど撃墜。
やや暑いのは隣のルッキーニが光熱魔法を使ったからだろう。

サーニャ<<また引っかかってる…>>
エイラ<<2回目もカヨ…>>

インカムからサーニャとエイラが呆れたような声が聞こえた。2回目だったのかよ。
突っ込んだ勢いを残して海面すれすれを飛ぶ。また別のネウロイがくっついている。

ルッキーニ「もー、まだ追っかけてきてるよー」

ルッキーニと交互にシーザスさせてネウロイを撹乱させようとするが、今回のは手強い。
何度も振り払おうとするが、しっかり食らいついている。嫌なやつ。

シャーリー「ストーカーは嫌われるぞ…」

この変態め。振り向いてBARを構えると、視界の端で何かが小さく光った。
上から降ってきた1発の大口径の弾丸とその後に降った機銃の雨で
すぐ後ろまで迫っていたネウロイがぐらつく。
すかさず引き金を引き、7.62mmと12.7mmの洗礼でネウロイを砕いた。

リーネ<<ルッキーニちゃん、大丈夫!?>>
ペリーヌ<<シャーリー大尉、お怪我は!?>>

ほぼ真上で旋回しているリーネとペリーヌが心配そうに訊いてくる。
見えるかどうかはわからないが、親指を立て

シャーリー「Goodkill!こっちは大丈夫だぞ」
ルッキーニ「ありがとねー、リーネ、ペリーヌ!」

横で手を振るルッキーニと一緒に答える。
ジグザグに動く中型ネウロイに遠距離からの狙撃を命中させるとか

シャーリー「ホントすげーなぁ…」

あたしには真似できそうにないな。残弾わずかになった弾倉を捨てて、新しい弾倉を叩き込む。
また別の方角からネウロイの集団が来る。身を捩って進行方向を奴らに向けヘッドオン。
超加速でその集団に突っ込む。シールドを張ってビームから身を守りながら撃つ。

シャーリー「くそっ、キリがない…」
ルッキーニ「ロマーニャから出てけー!」

ルッキーニと身を翻して、ビームを避けつつネウロイを落とす。
トンネルのように密集したネウロイの一団から抜け出したが、何匹か撃ち漏らした。

ミーナ<<対ネウロイ用対空弾が飛んで来るわ!全機、高度1500ftまで下がって!>>

そりゃヤバイ一旦逃げよう。逆ループで今度は視界が赤く染まりそうになったが
気にせずに緊急戦闘出力まで吹かして急降下。周りを見ると他のウィッチも降下している。

ミーナ<<着弾まで残り5秒!…3、2、1、今!>>

一斉砲撃で放たれた砲弾は、そう高くない上空を駆け抜ける。
一拍遅れて圧縮された空気と砲声が、爆風となってあたしの横を通り過ぎた。

シャーリー「うおっとぉ!」

手荒な乱気流で姿勢を崩しそうになる。
後ろについてこようとしたネウロイが、爆発に巻き込まれて消えた。

シャーリー「すげー…」
ルッキーニ「うひゃー…」

迫撃砲のように一列で起爆した後を見て、ルッキーニと呟いた。
あんなのに巻き込まれたらただじゃすまないだろう。一斉に高度を下げた理由もよくわかる。

ミーナ<<大和がネウロイ化するまであと4分、それまで持ちこたえて!>>

あと4分。あいつらにロマーニャの土を踏ませてやるもんか。
それまでにあらかた片付けて生き残ってやる。自分を奮い立たせるために腹の底から吠えた。

シャーリー「負けるかぁぁぁぁ!!」

出力を最大まで上げる。
もう一度、巣から懲りずに降りてきたネウロイの集団に突っ込んだ。


『撤退』へ続く
最終更新:2013年02月07日 13:31