ドライブイン駐車場
シャーリー「なー、食うもん食ったし、次はどこ行こうか?」
バイクの前で伸びをしながらシャーリーが尋ねてきた。
懐中時計を取り出して今の時刻を見るが、まだ帰るには早い。
僕「そうだな…」
駐車場から街の様子を首を巡らせて眺める。
賑やかには程遠く、かと言って著しく寂れているわけでもなさそうだ。
それなりに自動車も走っているし、人通りもある。
僕「あの建物に一番望みがありそうだけど」
街中で唯一、不夜城の様相を呈している建物を指差してみる。
ボーリングのピンを象った看板が、うら寂しくライトアップされていた。
シャーリー「ボーリング?中尉ってボーリングやったことあったっけ?」
僕「一応はあるよ」
スコアは散々だったが、銃を撃つよりも遙かに簡単だ。
弾倉1つ分撃ち尽くしても、1発も的に掠りもしないほど悲しい事は無い。
僕「全然当たらないより、1本でも倒せれば儲けもんだよ」
シャーリー「ふ、ふぅん……ま、いいや。バイクのキーはある?」
僕「ああ……どうぞ」
特に何も考えずにジャンパのポケットから鍵を渡す。
鍵を差し込んで捻ると、4ストロークエンジンが唸りを上げた。
ハーレーに跨ったシャーリーが、すぐ後ろにある即席シートを軽く叩く。
シャーリー「乗ってもいいぞー」
僕「それじゃ失礼します、よっと」
取って付けたようなバックステップに左足を載せる。
体を右側に乗り出すように、バイクの中心に体重を掛けて乗った。
シャーリー「よーし乗ったな。しっかり掴まってろよ」
腹の前で手を組んだ所で、ふと我に帰る。そういや、シャーリーってスピード狂だったよな…
僕「ちょ、待って…」
シャーリー「行っくぞぉぉぉ!」
車体をギリギリまで傾け、左足の踵を軸にハーレーがアクセルターンを決める。
一瞬で進行方向を反転させると、今度は前輪がふわりと浮き上がった。
シャーリー「イィィィヤッッホォォォオオォオウ!!」
僕「~~~~~!!」
僕の声にならない絶叫は、シャーリーの歓声とスキール音で掻き消され
ゴムの焼ける匂いを駐車場に残して走りだした。
ボーリング場の駐車場
シャーリー「おーい、大丈夫か~?」
僕「何とか…」
後部シートでひとしきりシェイクされた後、這々の体で答える。
前にも同じような目に遭っているのに、あっさりと鍵を渡すとはあまりにも迂闊だった。
よっこらせと立ち上がって、メットとゴーグルを取った。
僕「あー、シャーリー?1つ言っていいか?」
シャーリー「ん?何だ?」
僕「リヤタイヤと僕の寿命の減りが早くなるから、ああいうのは控えてくれ」
シャーリー「…またやっちゃ、ダメか?」
やや上目遣いで覗き込むようにして僕を見つめるが、それはそれで物凄く魅力的で困る。
僕「その、何だ…何するか言ってからだったら良いよ」
シャーリー「やった!中尉、ありがとうなー!」
頬を掻きながら答えると、僕の手を取って嬉しそうに思い切り上下に振られた。
僕「痛い痛い…でも、どこであんなことを覚えたんだ?」
千切れるんじゃないかと思うほど腕を振るシャーリーから、やんわりと腕を解いて訊いた。
2人分の重量を載せたまま、一度もコケずにターンさせたりウィリーさせたりと
馬を操るようにバイクを運転する技術は、安全性を抜いて考えても凄いことだと思う。
シャーリー「ん~、少なくとも14になる前からバイクを振り回していたからなー。
コイツはここまでなら大丈夫、ってそのうち分かるようになるよ」
特別なことでもないように、さらりとトンデモナイことを言ってのけた。
恐るべしリベリアン。道理で転ぶことなく走れるわけだ。
僕「それは凄いな。でも、これからは安全運転で頼む」
シャーリー「もーわかったって。あんまり言うと、あたしも怒るぜ」
今度は少しムッと膨れた顔を向けられる。表情の変化に思わずたじろぐと、急に噴き出して
シャーリー「冗談だって。本気にするなよ?」
ニッと笑って僕の肩を叩く。
イニチアシブを取られっぱなしだなと思いつつボーリング場へ入った。
ボーリング場
表の看板同様に、ボーリング場の中も寂れていた。入口近くのハンバーガ・ショップは開店休業状態
そのすぐ隣りのゲームコーナは、誰もいない空間で電飾が虚しく光っている。
メインのボーリング・レーンは30本ぐらいあっても、5組ぐらいしか見かけなかった。
僕「…とりあえず、受付行ってくる」
シャーリー「じゃあ、飲み物でも買ってくるよ。何が良い?」
僕「レモンティーで」
シャーリー「アイアイサー」
ついでに靴のサイズを訊いてから、僕は受付でレーンと貸しシューズ料金の支払を
シャーリーは閑古鳥が鳴くハンバーガ・ショップで飲み物を買いに行った。
指定されたレーンで待っていると、シャーリーが2人分のカップを持ってこちらへ来る。
シャーリー「ほい。どっちが先に投げる?」
僕「お先にどうぞ」
シャーリー「いえいえ、そちらこそどうぞ」
僕「こういう時はレディファーストで」
シャーリー「こんな時に使われてもなぁ」
困ったように頭の後ろを掻いたが、急にニヤリと笑った。
何を思ったのかはわからない。でも嫌な予感がする。
シャーリー「レディファーストか~、こんな時に使われるのはちょっとアレだな~」
絶対に何か企んでる。頭の中で赤ランプが回り始めた。
警報、警報。即刻、前言撤回せよ。繰り返す。即刻、前言撤回せよ。
僕「いやー、運動神経抜群のシャーロット・イェーガー大尉殿にお手本を見せてもらおうと…」
シャーリー「へぇ~?タダじゃ見せてあげないよ~?」
これは高く付きそうだ。引いたら負けた気がしたので逆に突っ込んでみる。
もし警報を鳴らしている人がいたら、もう逃げ出している頃だろう。
僕「お代は、如何ほどで?」
シャーリー「スコアで負けたら勝った人の言うことを聞く。OK?」
僕「…乗った」
シャーリー「そうこなくっちゃな!」
グッと握られた拳が突き出される。それに拳を突き合わせると、鼻歌交じりにボールを選びに行った。
それほど待たずに、12lb球を選んで戻ってくる。
ボールを持ってアプローチに立つと、僕の方をくるりと振り返った。
シャーリー「あたしに勝負を挑んだことを後悔するなよ~」
僕「僕はゆっくりとレモンティーでも飲んでるよ」
シャーリーの挑発に虚しい虚勢を張り返す。
投球姿勢に入った所で、机の上のレモンティーに手を伸ばした。
少しづつ助走を付けファウルライン手前で
シャーリー「うぉおぉりゃぁあぁ!」
雄叫びと共にボールがシャーリーの手から離れた。
ボールは緩い左カーブを描きながら1番ピンと2番ピンの間へ転がっていく。
かなりの高速でポケットへ突入して、刈り取るように全てのピンを倒した。文句なしのストライク。
シャーリー「…どう?」
えへんぷいと自慢気に振り返る。もう勝てる気がしない。
僕「…自慢できるのも今のうちだ。そっちこそ驚かせてやる」
シャーリー「ほーほー、頑張れよ~」
シャーリーと場所を入れ替わり、茶化されながらアプローチに立つ。
滑らないように慎重に助走を付け、床を舐めるようにしてボールを放った。
最終更新:2013年02月07日 13:34