前回の簡単なあらすじ
シャーリー「やった!ベルX-1がクリスマスプレゼントだ!」


リベリオン、ニューヨーク州、バッファロー市街地


僕「…さて、今からどこへ行こうか?」

ベル社の技師に音速突破を頼み込まれた後、近くのホテルに荷物を置いてシャーリーに訊いた。
今日はここに泊まって、明日の朝に試験機とミューロックまで帰るスケジュールだ。
時刻は18時過ぎ。そろそろ夕飯時だろう。

シャーリー「そうだなー…ここには何度か来たことがあるから、美味しい店へ案内しようか?」
僕「ありがたい。よろしく頼んだ」

土地勘のあるシャーリーに案内を任せた。
しんしんと降る雪の中、歩道に積もった新雪を踏みしめて歩く。
視線を少し上げれば、雪の白にクリスマスの赤と緑が街頭に照らされて街中を飾っていた。

僕「それにしても凄いな。街中がクリスマス一色か」

白い息を吐きながら何となしに呟いた。そこら中に赤服で白鬚の爺様がいる。
何故か鼻が赤く点灯する、鹿のような生き物もセットだ。

シャーリー「そうかな?これくらいド派手に飾るのが普通だからなー」
僕「扶桑の新年と同じようなもんか」
シャーリー「へぇ、扶桑は年明けのほうが賑やかなのか」

同じように白くなった吐息がシャーリーの顔を覆う。

僕「そうだね。クリスマスもあるけど、年の暮れは家の中を掃除してる」
シャーリー「何か勤勉な人たちだな、扶桑の人って」
僕「ある意味、年末の恒例行事だからな。そっちの新年ってどんなふうなんだ?」

歩きながら訊いた。歩くたびに新雪がワークブーツに踏まれて悲鳴を上げる。
寒さで頬と鼻先を赤らめたシャーリーがしばらく考えて答えた。

シャーリー「ん~、祝うには祝うけど、2日からは働いてるよ。結構あっさりしてる」
僕「そっちのほうが勤勉じゃん。扶桑人は11日ぐらいまでは正月気分だよ」
シャーリー「あはは、正月気分の僕も見てみたいな……おっと、ここだ」

通り過ぎそうになったガラスのドアへ戻る。レンガ造りを模した外壁のビルに
こじんまりとしたドアと、その上には金文字の筆記体で店名が描いてあった。
引き戸を開けて、ドアに掛けられたサンタクロースのベルを鳴らした。


レストラン店内


暖かい暖房の効いた店内に入る。金髪をオールバックにした蝶ネクタイの店員が出迎えた。
彼に窓際のテーブルまで案内してもらい、着ていた上着を預ける。
椅子を引いてもらって腰掛けるという儀式で、内心に財布の中身を勘定し始めた。

僕「…何ていうか、すごいな、ここ」
シャーリー「…うん」

白いテーブルクロスに向き合って座った。
暗めの照明に落とされた店内で、時々揺れるランプの炎にシャーリーの顔の陰影が踊る。

僕「いつもこうなのか?」
シャーリー「いやー、昼間しか来たことがなかったから、まさかこうなっているとはね…」
僕「1人でふらりと入れるような雰囲気でもないしな…」

知らないのも無理はないか。店内を見渡せば、僕と同年代ぐらいのカップルもいる。
お互いに恐縮しても仕方ないので、いろいろと注文することにした。
程なくして、頼んだシェリー酒がグラスに注がれる。示し合わせたようにグラスを持ち上げて軽く鳴らした。

シャーリー「乾杯、メリークリスマス」
僕「メリークリスマス」

ついと一口だけ飲んだ。焼くような感覚がじわりと喉に染み込み、通り過ぎる。
独特の芳香が口の中に残った。

僕「そう言えば、リベリオンってお酒は何歳から飲んでいいんだ?」
シャーリー「ん~、州によって違うけど一応18歳からなら良いんだよ」

さっそくアルコールが回ってきたのか、頬を赤らめて答えた。

シャーリー「まさか、あたしがまだ飲めない歳だと思ったのか~?」
僕「ほら、国によって法律が違うから、色々マズイかもしれないし」
シャーリー「お固いな~あんまりきっちりし過ぎるのも考えものだぞ~」

にこにこと笑いながら言う。笑い上戸なのかなと思いながら更に一口。
体の中からじわりと火照ってくるのが分かった。

前菜、スープ、メインディッシュが並べられる。全部を深く味わうようにしてゆっくりと食べた。
鶏肉のソテーは、またここで食べたくなるほど美味しかった。
その一方で向かい側に座るシャーリーは、瓶を1本空けてから調子が出てきたのか
2本目のワインをもう既に半分程飲んでいた。

シャーリー「…それでさ、P-39でローパスしてたら木に引っかかっちゃったんだよ。
      帰ってからその傷跡が整備士官に見つかって、何て言われたと思う?」
僕「『ストライカーで木でも切ろうとしたのか』って言われたとか」
シャーリー「『お前は鳥と追いかけっこしてたのか』、だって。
      だからこう答えてやったよ『あと少しで捕まえられそうでした』って」

そこで一旦止まって水でも飲むようにワインを飲む。ペースが早い。僕もちびりと一口。
グラスが空になったので、ボトルを手にとって自分のとシャーリーの分もグラスに注いだ。

シャーリー「そしたらさ、こう言ったんだ『ほう、そのトンチキ鳥は巣の中にいたに違い無いな』
      『翼の代わりに木が生えるわけがない』いやーあの後は大変だったよ」
僕「それはもう接触じゃなくて衝突だろ…」

その当時を思い出したのかクスクスと笑った。

僕「そりゃ司令から直々に『イェーガーから絶対に目を離すな』って言われるって」
シャーリー「もーホントに楽しかったよ……でもさ、不思議じゃない?」

すでに空になった皿とボトルを脇に避ける。両肘をテーブルについて顔を載せた。
内緒話でもするように僕も少しだけ顔を近づける。

シャーリー「こうやって話たり、テストパイロットに選ばれたなんて
      まだちょっと信じられないよ。これって夢?」
僕「さぁ?でも、夢なら確かめれば分かるんじゃないかな」

気を抜けば視界がぼやけてくる。その端で魚が泳ぐように店員がすいすいと近づいてくる。
夢現でも空になった皿とボトルをウェイターが片付けていった。

シャーリー「…なぁ、僕?」
僕「ん?」

半分溺れかかった意識が浮かび上がる。俯いて何か決めかねているみたいだった。
しばらく逡巡してから、確かめるように言葉を紡いだ。

シャーリー「…後でだけど、夢か現実か確かめてもいい?」
僕「…いいよ」

特に深くは考えずに答えた。

夕食後、ホテル内


僕「やっと着いた…」

あちらこちらを迷い歩いて、ようやく今日泊まるホテルの部屋の前に辿り着いた。
懐中時計を見ると、ホテルへ着くまでに2時間近く掛かったようだ。
酔っぱらい2人で知らない街を迷うもんじゃないな、と時計をしまいながら思う。

僕「起きろー、部屋に着いたぞー」

僕に抱きついたままのシャーリーに声を掛ける。
気がついたのか、薄めに開いた目を擦りながら周りを見渡した。

シャーリー「んん~、もう着いたのか~?」
僕「そうだよ……んで、部屋の鍵はどこだっけ…?」

ぐでんぐでんになったシャーリーを部屋の前に放置する訳にもいかない。
フロントで受け取った鍵を探した。コートの右ポケットから取り出して鍵を開ける。
半分意識のないシャーリーを抱きかかえて、右腕でドアを開いた。

僕「風呂と歯磨き、それと着替えぐらいは自分で出来るよな?」
シャーリー「それくらい酔っ払ってても出来るって~」

ヘラヘラと笑って答えたが、さっきからずっと凭れたままだ。

僕「本当かよ…」
シャーリー「心配性だな~」

こんな調子だと、バスタブで熟睡してしまわないか心配になってきた。
シングルベッドの前まで動かないシャーリーを運ぶ。ベッドに腰掛け、一息ついたところで

シャーリー「…確かめても、いい?」

唐突に訊かれ、答えようとする前に柔らかい感触が唇に当たった。
その身を預けるようにもたれ掛かってくる。抗うことなく押し倒された。
じっと息を潜め時間が止まったような感覚の後、重なった唇が音もなく離れた。

シャーリー「これが夢なんてことは無いよね…?」

雪の積もる音と同じくらい小さな囁きが聞こえた。やっと目の焦点がシャーリーを捉える。
窓から差し込む雪明りの中で深い青色の瞳が揺れていた。

僕「…じゃあ、これも夢かな?」

咳きのように囁く。
シャーリーを引き寄せて唇を奪い返し、半開きだったその隙間から舌を入れてこじ開けた。
肩へ回った腕に力が込められたが、それもすぐに無くなる。口の中でお互いの舌が触れあった。

シャーリー「んっ……ぁん……」

舌が絡まるたびにシャーリーの口から甘い吐息が漏れる。寝返るように横倒しにさせ、組み伏せた。
立場が逆転して、今度は僕が押し倒したようになる。
甘えるように抱きつくシャーリーに、最初よりも激しく絡ませた。

シャーリー「……もっと……んんっ…」

押し倒した下で身悶える。その押し殺した喘ぎ声と柔らかい舌の感触で理性が飛びそうになる。
それでも理性の欠片が残っているうちに唇を離したが、腕の下から物欲しそうな目で僕を見上げた。

シャーリー「もっと、欲しいな……」
僕「…ここから先は音速を超えた後のお楽しみだ」

そこで切り上げようとする僕をより強く抱きしめた。

シャーリー「…帰ったら、部屋に押し入っちゃうかもよ?」
僕「その時は返り討ちにしてやる」
シャーリー「じゃあ、最後にもう一回キスして?」

答える代わりに口づけた。最初は優しく、徐々に熱く、息が苦しくなるぐらいに求め合う。
その熱をゆっくりと冷まさせ、唇をそっと離すと名残惜しそうに糸を引いた。

僕「もう良いかい?」
シャーリー「…うん」

そろそろ潮時だろう。軽く抱きしめてベッドから立ち上がる。着ていたままだったコートのシワを払った。
部屋のドアに向かい、ドアノブに手をかけたところで振り返った。

僕「…おやすみ、シャーリー。いい夢を」
シャーリー「おやすみ…」

ドアを開けて、閉まる音を背に自分の部屋へ歩いた。



第5話『発進』に続く
最終更新:2013年02月07日 13:36