『今日ベルリンにて、カールスラント解放記念の祝賀会が行われ...』
俺「おはようチャールズ・・・・・・え?学会が承認しない?」
『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大佐がスピーチを行い...』
俺「だから科学者相手に説明するのは嫌なんだ...あいつらは理論でしか語れない・・・」
俺「こっちでウルスラ理事長に話を付けておく。あの人は技術者だから分かってくれるはずだ」
『エーリカ・ハルトマン大尉やゲルトルート...』
俺「ああ、今まで通りに研究を続けてくれ。じゃあな」
長電話を切り、急いで服を着替える。今日は彼女が来る日だ。早い目に用意しないと...
既に日も高く上り、窓からは暖かい空気が部屋へと入ってきている
その窓枠には朝のニュースを流すラジオと大きな鳥籠、サボテンが置かれている
籠の中は空っぽだ。中から上手くこじ開けて出て行ったらしい
俺「今日も開けっ放しにしておかないと...資料資料・・・」
壁の一角を占領する棚から資料を抜き出そうとする。だが
俺「よいしょ!...あっ・・・」
バラバラと資料と本が崩れていく。数秒後には足元に小さな紙の山が出来ていた
俺「...もう良い。後にしよう」
資料をカバンに詰め込み、ラジオを切って外に出る
止めてあったオートバイを動かすと空港まで急いで向かった
「・・・ここがノイエカールスラント」
「暑い...」
滑走路上のDC-6から降りてそのまま空港へと向かう人々の中に彼女は居た
彼女は麦藁帽子を被り、白いワンピースを着て特徴的な白髪を靡かせている
一度足を止めて注意深く周囲を見渡すが後続の客に急かされ、そのまま出入り口へと向かっていく
係員「ようこそノイエス・ベルリンへ!」
「...」ペコリ
係員との手続きを済ませて外に出る。出るとすぐに聞き慣れた声に呼び掛けられた
「ようこそ。ハイデマリー・W・シュナウファー司令」
ハイデマリー「・・・お久しぶりです。俺大尉」
白衣に身を包み、腕を後ろ手で組んで彼が立っていた。最後に見た時よりも大人びている
俺「・・・・・・もういい?」
ハイデマリー「何がですか?」
俺「いや、軍式の堅苦しいのはもう良いかなって...ゴホン」
俺「やぁ!久しぶりだね!マリー!・・・やっぱ無いわ」
ハイデマリー「ふふっ 俺さんは変わっていませんね」
俺「・・・ああ。ちょっと体重と知識が増えているだけだよ」
俺「このまま立ち話をしたいんだけど・・・ちょっと寄らなきゃいけない所があるんだ」
俺「ちょっと付き合ってくれるかな?」
俺「ここで待ってくれ。すぐに終わるから」
ハイデマリー「分かりました」
大きな建物へと鞄を持って走っていく俺さん
オートバイに横に腰掛け、俺さんを待つ事十数分...
俺「ゴメン!時間掛かっちゃった・・・はぁはぁ..」
ハイデマリー「何かあったんです?」
俺「いや、会う人が勝手にストライカーの開発部に向かってただけさ...はぁ」
俺「マリーは暑くない?」
ハイデマリー「大丈夫ですよ・・・俺さんに聞きたいんですが...」
ハイデマリー「いつも研究をしているんですよね?今日はしないんですか?」
俺「あぁ。今日は休むって行ったから研究所には行かなくて良いんだ」
ハイデマリー「その・・・もし良ければお仕事、見せてもらえません?」
俺「はっきり言って退屈だよ?機械を眺めたり理論を書くだけだし」
ハイデマリー「一度で良いから俺さんのやっている事を見てみたいんです。駄目ですか・・・?」
俺「・・・着いてから退屈だったとかは無しだからね」
ハイデマリー「大きな建物ですね...大学みたいです」
俺「いや、研究所は大学の中にあるから・・・こっちだよ」
学生達が庭で遊ぶ中、俺はマリーを連れて校舎の奥へと向かう
ハイデマリー「敷地を借りているんですか?」
俺「うん。ここの大学では電磁気学を専攻している生徒が多かったからね」
俺「そういった生徒に教える事もやっているよ」
ハイデマリー「教えるって・・・俺さんはもしかして...」
生徒「俺教授!おはようございます!」
俺「あぁ、おはよう」
生徒「その...彼女は・・・」
俺「気にするな」
生徒「は、はい。ではこれで...」タッタッタッ
ハイデマリー「・・・教授なんですね」
俺「特別名誉教授だよ。開発省の連中がくれたんだけど...さ、入って入って」
ハイデマリー「お邪魔します」
チャールズ「教授!それに...彼女ですか?」
俺「だから気にするなと言っとるだろうが。大切なお客様だ」
俺「彼はチャールズ。メーザーの開発を手伝っている」
チャールズ「よろしくお願いします。Ms...」
ハイデマリー「ハイデマリーです」
チャールズ「ハイデマイリーさんですか。名前の響きはカールスラントのようですけど...」
俺「早く仕事に戻らないか?チャールズ君」
チャールズ「・・・はーい」
俺「奥にいるのはアレクサンドルとニコライ。オラーシャからの留学生だ」
ハイデマリー「よろしくです」
「...」コクッ
俺「では・・・客人に我々の発明を見せようではないかっ!」
チャールズ「了解!」
数人がかりで運ばれてきたのは大きな機械。至る所に電線が繋がれている
俺「電圧異常なし、冷却も上手くいってるな...」
チャールズ「準備が整いました!」
俺「では・・・メーザー発射!」
シーン
ニコライ「成功です」
チャールズ「中々安定してません?やっぱり機材を買い換えただけはありますね・・・」
俺「よし、結果をすぐにまとめてくれ。海軍の研究所が欲しがっているからな。メーザー時計として使えるぞ...」
ハイデマリー「あのー・・・すみません」
アレクサンドル「何でしょうか?」
ハイデマリー「えーっと・・・メーザーが放出されたんですよね?」
アレクサンドル「ええ、そうです」
ハイデマリー「私の知るメーザーはもっとこう...高出力だったんですが」
チャールズ「何言ってるんですか・・・ここで出せるのは世界一の出力なんですよ?」
ハイデマリー「でも俺さんが...」
俺「シーッ!!」
俺「・・・マリー。ここの連中には俺の昔の経歴は言ってないんだ」ボソボソ
俺「その・・・なるべく内緒にしてくれ。これ以上目立ちたくない」
ハイデマリー「なるほど・・・」
俺「ゴホン! では研究結果をまとめてくれ。後でチャールズは部屋に来るように」
チャールズ「? 分かりましたー」
俺はマリーを連れ、研究所の一角にある職員室へと案内する
部屋の中には大量の資料と壁に付けられた伝票が壁を覆っていた
俺「そこに掛けてくれ」
ハイデマリー「ルビー結晶への銀蒸着による共振器作成...これは全部研究で使われるものですか?」
俺「まぁね」
部屋に備え付けられた湯沸しでポットを温め、引き出しからインスタントコーヒーを取り出す
俺「アマゾナス産インスタントコーヒー。どうぞ」
ハイデマリー「いただきます」
部屋が一気に静かになる。彼女がコーヒーの味を楽しんでいる間、俺は観葉植物に水をやっていた
ハイデマリー「・・・・・・俺さんはどうして昔の事を言わないんですか?」
俺「・・・もう戦えないのにそうやって威張るのは・・・ハリボテ戦車で街を突っ切るようなものだよ」
俺「それなら一研究者としてやっていく方が気楽だからね」
ハイデマリー「そうですか・・・」
また静かになる。窓の外からグラウンドが見え、学生達が野球に興じているのが見えた
ハイデマリー「・・・俺さんが楽しそうでなによりです」
俺「楽しい、とは言っても毎日研究の維持の為に忙しいんだけどね・・・そっちはどうなんだい?」
ハイデマリー「いつも通りですよ。基地で司令の仕事に就いていました」
ハイデマリー「・・・・・・でも寂しかったです。俺さんが居なくて」
俺「いつまで軍に居るつもり?」
ハイデマリー「...もう辞めました。昨日付けで」
俺「え?・・・ええっ!?」
俺「まさかその荷物だけ持ってここに来たのか!?」
俺「いや、あの・・・どこで泊まる...」
ハイデマリー「俺さんの家で、と思ったのですが・・・もしかして駄目だったりするんです?」
俺「大丈夫だけどさぁ・・・ココに来るとは聞いてたけど泊まるまでは・・・」
ハイデマリー「もし嫌だったらホテルにでも泊まります...」
俺「大丈夫だ。大丈夫だから泊まっていってくれ。むしろ泊まってくれ...ちょっといきなり過ぎたから焦っただけだよ」
俺「でもどうしていきなりそんな事決めたんだ?」
ハイデマリー「...数ヶ月前、新聞に俺さんが載っていたのを見たんです」
俺「メーザーの公式発表の時の記事か・・・」
ハイデマリー「それを見て昔を強く思い出したんです。一緒に飛んだときのあの楽しかった時の事を・・・」
ハイデマリー「・・・俺さんには会いたかった。でもカールスラント奪還で皆忙しい時に会いに行けば俺さんが怒ると思ったんです」
ハイデマリー「そして11月...」
俺「カールスラントの完全奪還、か」
ハイデマリー「すぐに本部へ辞表を提出しました。本部としても解放された以上
各夜間戦闘航空団を統一するようだったのですぐに受け入れられました」
俺「君が新しい司令に任命される、なんて事にはならなかったのか?」
ハイデマリー「ハインリーケさんが新しい司令に任命されたようです」
俺「・・・此処で暮らす気、満々なのか」
ハイデマリー「貴重品はこの鞄の中に入れています。要らない物は皆にあげました」
俺「俺は研究を続けるつもりだ。それでも良いのか?」
ハイデマリー「俺さんが居てくれるならそれで良いんです」
俺「もしかしたら研究で少しの間、会えなくなる事もあるけど良いのか?」
ハイデマリー「ずっと待ちます」
俺「・・・流石にその時は寝て待ってくれ」
ハイデマリー「・・・はい」
「......入ってもよろしいでしょうか!」ドンドン
俺「・・・・・入って良いぞ。チャールズ」
チャールズ「失礼します。お話というのは...」
俺「君が言っていたメーザーの
天体観測への応用の件だ」
俺「知り合いからリベリオン海軍天文台に話を付けている。そこの電波望遠鏡を貸してくれるようだ」
チャールズ「本当ですか!?いつから・・・」
俺「今からだ。既に向こうではメーザーを備え付ける設備を作っている」
俺「ほら、航空券だ。行ってこい」
チャールズ「ありがとうございます!!」バタンッ!
俺「・・・慌て過ぎだろ・・・まぁ良い」
俺「もう帰ろう。後はアレクサンドル達に任せれば良い仕事だ」
ハイデマリー「俺さんの家に行くんですね...楽しみです」
俺「あんまり良い家じゃないよ。安値で買った古家だから」
ハイデマリー「古い家は趣があって良いと思いますよ」
俺「期待し過ぎるとがっかりした時の落差が大きくなる、ってね。行こうか」
そのまま研究所を後にしてオートバイで大通りを走っていく
通りではカールスラント解放を祝って街の皆が喜びあっていた
ハイデマリー「皆賑やかですね。彼らはカールスラントに戻るんでしょうか」
マリーは俺の後ろに跨り腰に手を回している。手には鞄が握られている...少々邪魔だが仕方ない
俺「研究所や学校はすぐには戻らないよ。ここに愛着を持っている人も一杯いるからね」
大通りから住宅街へと入る。ここは大撤退の前にカールスラント人が建てた物の一つ。その中に俺の家はあった
俺「さぁ・・・到着だ」
彼女を下ろしてオートバイを納屋の中に入れる
家の前のトントの人形下から鍵を取り出し、扉を開けた
俺「ちょっと待ってね。片付けるから」
部屋の電気を付けてゴミや資料を片付ける。窓を見ると籠の中からこちらを見続ける一匹の鳶
窓も籠も閉まっている。全て自分で閉めたらしい
トンビ「♪」パタパタ
俺「良く出来ました!ってか。その調子で部屋の片づけもしてくれると助かるよ」
トンビ「..」プイッ
目に見える所を片付け、もう一度玄関に戻り扉を開ける。マリーは不思議そうにトントの人形を眺めていた
こちらに気付いて微笑む彼女。俺は大きく息を吸い、微笑み返して言った
「おかえりさない。マリー」
「・・・ただいまです。俺さん」
最終更新:2013年02月07日 13:51