私「本日付けで着任いたしました、オラーシャ帝国空軍私中尉です」
ケイ「あー、うん。とりあえずご苦労様。堅苦しいのいいから、楽にしちゃって」
私「いえ、お構いなく」
ケイ「あー、敬語もなしでお願い。背中かゆくなるし」
私「……ん、わかった」
敬礼をする私に、ひらひらと手を振るのはケイ。
統合戦闘飛行隊の隊長であるケイのテントで、とりあえずの着任報告が行われていた。
ケイ「って言うより、あなた大丈夫なの?」
私「……なにが?」
ケイ「顔色悪いけど?」
表情こそなんでもない風だが、暑いはずの
アフリカなのにちょっぴり青白い。
私「その、私は今までオラーシャから、出たことない……だから」
ケイ「だから?」
私「暑さで、死にそう……」
そのまま後ろにふらーっと倒れそうになる。
ケイ「って、ちょっと!!」
私「死ぬ……」
なんとか倒れこむ前にケイが支えた。
ケイ「どう考えても熱射病ね」
私「すまない……」
ケイ「いいのよ、オラーシャとこっちじゃ気候が全然違うしね」
とりあえず、私を床に横たえてから、はぁと深いため息をつく。
ケイ(やっぱり、私って苦労する運命なのかしらねぇ……)
日も沈みかけの、私の体調もすっかり回復したころ。
マルセイユ「総員傾注!」
呼びつけられたウィッチ達が集まるのはマルセイユの巨大な天幕。
中央で、上機嫌なマルセイユがジョッキを片手に仁王立ちしている。
マルセイユ「時刻もいい感じになってきたところで、オラーシャからのシュトルモヴィク着任を祝って――乾杯!」
全員「乾杯!!」
わっと一気に騒がしくなる室内。
やはりウィッチとはいえ女の子。おしゃべりは大好きだ。
私「……ふぅ」
本来は宴会の主役であるはずの私は、部屋の隅でジョッキを次々に空にしていた。
始まってあまり時間は経っていないのに、既に足元にはビールの空き瓶が二本程転がっている。
ケイ「最初っからえらく飛ばすわねー、大丈夫なの?」
私「問題ない。オラーシャ人にとってアルコールは水みたいなものだし、ビールの度数じゃ物足りないくらい」
ケイ「さっすがねー」
けらから笑いながら、ケイは私の隣に立つ。
ケイ「そうそう、さっきはあんなんで碌に挨拶できなかったけど、私が統合戦闘飛行隊アフリカの隊長をやってる加東圭子よ。階級は大尉。よろしくね?」
私「うん、よろしく。まあ、当分はネウロイより暑さが敵になりそうだけど……」
ケイ「あはは、まぁそれは追々なれちゃってちょうだい。休ませておけるような戦力はここにはないし」
私「私ものうのうと休んでる気はない」
空いたケイのジョッキにビールを注いでやり、小さく笑う。
ケイ「それはそれは頼もしいわね」
私「地上のネウロイは任せてくれていい。代わりに空の方は預ける」
ケイ「ええ、それは安心して頂戴」
こつん、とお互いにジョッキをぶつけ合い、飲み干す。
軽く室内を見まわしていたケイが、ある一人に気づき声をかける。
ケイ「ちょうどいいところに……真美―、ちょっと来て」
真美「なんですかケイさん?」
やってきたのは小柄でかわいらしい、おかっぱ頭の少女だった。
ケイ「紹介するわ、うちのメンバーの一人よ」
真美「扶桑皇国陸軍稲垣真美軍曹です!」
元気いっぱいに、かわいらしく笑顔で挨拶する真美に、私もつられて小さく笑みを浮かべる。
私「オラーシャ帝国空軍私中尉。地上攻撃魔女だけど、よろしく」
真美「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
ケイ「実はね、今までは真美に地上攻撃もやってもらってたりしたのよ」
握手をしていた二人の間にひょっこりとケイが顔を出す。
真美「そうなんです。もしかしたら、私さんと一緒に出撃するかもしれないですけど、その時はよろしくお願いします」
私「うん。その時はじっくり地上攻撃について教えてあげる」
ケイ「みっちり教えちゃって頂戴。いっそ転科しちゃうくらい」
私「任された」
真美「あはは……お手柔らかにお願いしますね?」
にやりと悪い笑みを浮かべあうケイと私だったが、一人真美は苦笑していた。
マルセイユ「楽しんでるか?」
私「うん、おかげ様で」
ビール瓶片手に寄ってきたのはマルセイユだ。ただ歩くだけでも、どことなく威厳があるから不思議に思える。
マルセイユ「そうか。酒も結構いけるみたいだし、これは楽しそうだな」
言うなり、空だった私のジョッキにビールを並々とそそぐ。
私「飲み比べ?」
マルセイユ「察しがいいな。折角なんだ受けるだろ?」
自分のジョッキにもビールを注ぎ込むマルセイユはにやりと不敵な笑みを浮かべる。
対して、私もそれに口の端を小さく吊り上げる。
私「断るわけない。だけど……負けてもしらない」
マルセイユ「ほぅ……」
挑発的な私の言葉に、猛禽を思わせる好戦的な笑みをマルセイユは浮かべた。
マルセイユ「ますます気に入った。初対面でこの私にそんな口をきけるなんてな。だが、勝つのは私だ!」
私「あんな薄いビールばっかり飲んでるカールスラント人に、オラーシャ人が負けるわけがない」
マルセイユ「ふっ、固定観念に囚われているうちは、私には勝てん!」
がつん、とジョッキをぶつけ合う。
私「いざ……」
マルセイユ「勝負!」
ジョッキを傾けて一気飲みする。
そしてほぼ同時に飲み干す。
私&マルセイユ「一杯目!」
そして、すぐ二杯目を注ぎにかかる。
ケイ「あの二人、自己紹介すらせず早々なにやってるのよ……」
マイルズ「本当に……」
呆れてため息をつくのはケイとマイルズだけ。周囲はいい見世物だと大喜びだ。
アビゲイル「いけー! どんどん飲めー!!」
マリリン「ひゅー、いい飲みっぷり!!」
パトリシア「カールスラントとオラーシャの名誉を背負った一騎打ちね!!」
お祭り騒ぎ大好きなパットンガールズは声援を飛ばしている。
パットン「おい将軍共、どっちが勝つと思う?」
ロンメル「吾輩は当然マルセイユだ。10マルク賭ける」
モンティ「賭け事など馬鹿馬鹿しい…………オラーシャのほうに10ポンドだ」
マティルダ「将軍方……なにを勝手に入っておられるので?」
なぜかいた三将軍はマティルダに外へ放り出されていた。
だがそんな些細なことは気にならない程に、みなの注目はテント中央で喉へひたすらビールを流し込む二人に集まっていた。
私&マルセイユ「13杯目!」
視線で火花を散らせながら、空のジョッキを横へ突き出す。
ライーサ「おーけーティナ!」
真美「は、はいっ、次のです!」
いつの間にやらマルセイユにはライーサが、私には真美がセコンドのように横に付いていた。二人が飲み干せば、すぐにビールで満たされたジョッキを代わりに手渡していく。
私&マルセイユ「14杯目!」
まだまだ戦いは続きそうだった。
マルセイユ「ど、どうした……辛そうじゃないか」
私「ま、まさか……そっちこそ、大丈夫?」
20を越えたあたりで、二人の勢いも鈍りを見せ始め、30に到達したところでどちらもかなりきつそうになった。
今ではどちらもテーブルに半ばうつ伏せになっている。
マルセイユ「ふふふ、ぜ、全然余裕だ……それよりお前、名前は?」
私「……私。オラーシャ空軍中尉」
マルセイユ「私は、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。カールスラント空軍中尉だ……ライーサ」
名前を返すと、マルセイユは視線を逸らすことなく、手だけを横へ突き出す。
ライーサ「ま、まだいくの?」
マルセイユ「当然……だっ!」
ライーサ「う、うん……」
ジョッキを受け取ったのを見て、私も負けじと催促する。
私「……マミ」
真美「い、いいんですか?」
私「これはもう、意地の問題」
真美「うう、はい……」
マルセイユ「さあ、私についてこれるか?」
私「言っておいて、遅れたりしないように」
顔色はどちらも悪い。だけれども、瞳には光が爛々と輝いている。
私&マルセイユ「これで、決める!」
同時にジョッキをあおり、
私&マルセイユ「さんじゅう……はちっ!!」
同時にテーブルに空のジョッキを叩きつけた。
マルセイユ「や、やるな私……」
私「マルセイユこそ……」
こつんとお互いに拳をぶつけ合う。
マルセイユ「やばい……もう」
私「限界……」
全く同じ動作で、二人とも後ろへ倒れこんでしまった。
パトリシア「おおっとぉ! なんということだここでダブルノックアウトォ!!!」
ケイ「ああ、明日は休みじゃないのに……」
マイルズ「正確にはもう今日だけど……」
パットン「相討ちということは、10マルクと10ポンドはワシのものだな」
ロンメル「ふむ。この10マルクはマルセイユ君を慰めるためにプレゼントしよう」
モンティ「やれやれ、着任早々大変だなあの娘も。10ポンドは小遣いとしてやるか」
マティルダ「だから、なぜいつの間に?」
ライーサ「ティナ~」
真美「私さん、せめて寝床まで……」
夜も更け、宴会も終わった。
遠路はるばるオラーシャからやってきた私だったが、不安はかなり消えていた。
私(なんとか、うまくやっていけそうかな……)
そして泥酔に身を任せていく。
砂漠の寒暖の差は激しい。
夜に急激に冷え込んだかと思えば、太陽が出た瞬間からぐんぐんと気温は上がっていく。
とはいえ、この太陽が出てから少しが一番過ごしやすい時間かもしれない。
私「ふわ……」
自分のテントから出て食堂へと向かう私がいた。
だが、なぜか使い魔であるボルゾイの耳と尻尾が出ていた。
私「……ん?」
前方に、水の入った桶をもって歩く真美がいた。
私「マミ……おはよう」
真美「あ、おはようございます!」
私「うん……」
そのまま、私は真美の横を歩いて追い越していく。
最初は笑顔でその背を見送った真美だったが、ふとあることに気づく。
真美「……あれ? 今……私さん目を開けてなかった!?」
驚きのあまり桶を取り落してしまい、また汲み直しになる真美だった。
一方の私は、目を閉じたまま危なげなく食堂へと向かっていった。
食堂のテントの前でケイに出会った。
ケイ「あら、おはよう。昨日あんだけ飲んだのにちゃんと起きれたんだ?」
私「そこらへんは……問題ない」
ケイ「ま、それはこっちも助かるわ。二日酔いで大切な時に戦えませんじゃ困るものね」
二人で並んでテントに入る。
マルセイユ「おはようケイ。それに、なんだ元気そうだな私……ってお前なぁ」
入ってきた私を見て、マルセイユは驚いた表情を見せる。
マルセイユ「歩いてる時くらい目を開けろよな、私」
確かに、私の目はまるで寝ている時のようにずっと閉じられたままだった。
私「だって……眠い」
マルセイユ「眠いって……目を閉じてたら危ないだろ」
ケイ「さすがに歩いてた間は目は開けてたんじゃない? 私と話をしてた時は閉じてたけど」
私「眠いから、ずっと閉じたまま」
ケイ「はい?」
調子の外れた声を上げてしまった。
ケイ「それはさすがに、場所がわからなくなるでしょ?」
私「不便はない。においでわかる」
マルセイユ「におい~?」
呆れたような声をマルセイユはつい出してしまう。
私「うん……今、テントにマイルズが来る」
マルセイユ「ははは、そんな都合よく――」
マイルズ「おはよう……って三人何やってるの?」
マルセイユ「……」
私「ふふん」
自慢げに私はブイサインを作っているが、目は閉じたまま。
マルセイユ「ほ、本当ににおいでわかるのか?」
私「うん」
ケイ「もしかして、耳と尻尾が出てるのって……」
私「使ってる、固有魔法。『絶対嗅覚』を」
マルセイユ「絶対に固有魔法の無駄遣いだろ……」
やれやれとため息をマルセイユはついた。
ケイ「そういえば、そんな固有魔法が書類に載ってたわね、詳しくは書いてなかったけど」
私「とにかく犬とか以上に嗅覚が発達する。真っ暗な中でも問題ないくらいに。あと、近くなら方向とかもわかるから、襲撃機の弱点な後方にもある程度強い。
精度は距離に反比例して下がっていくし、風の条件もある。だけど、半径3km圏内に来た大量のネウロイの接近に気づけたりはする」
マルセイユ「なんだそりゃ、ここ掘れネウロイって出来るわけか?」
マイルズ「ほんと、猟犬って感じ……」
私「うん、隠れたネウロイの探索。残存ネウロイの有無の確認なんかはやってた……む」
と、口を止めて私はひくひく鼻を動かした。
そして、表情を顰める。
マルセイユ「どうした」
私「やなにおい……」
ケイ「どういうこと?」
目を閉じていた私が目を開けた。
私「風に乗って、瘴気のにおいがする……」
マルセイユ「なにっ!? それはつまり!」
マイルズ「ネウロイってこと!?」
私「……うん」
さっきまでの起き抜けの緩んだ表情はどこへやら、真面目な表情で頷く。
そして同時に、警報が鳴った。
ウィッチ達が駐屯する基地から数キロ離れた前線基地からの全力魔女支援要請が入ったのだった。
最終更新:2013年02月07日 14:06