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私「はぁ……」

アフリカに私が来てからそれなりに経った。
なので、もうそろそろこの暑さにも慣れてきたと思っていたのだが、

私「やっぱり、暑い……慣れない」

さすがにオラーシャ出身の彼女にはまだまだ灼熱の大地は辛いものであった。

私「夏服のはずなのに暑い……」

力なく、シャツの襟を引っ張って風を送り込もうとする。
オラーシャ空軍の軍服は、夏服と言ってもオラーシャ基準である。アフリカ基準に置き換えれば厚着だ。

私「……死ぬ」

ケイ「相変わらず、ぐったりね」

私「……」

苦笑いを浮かべて声をかけてきたケイに、返事をする元気もないのか、私はこくりと頷くだけ。

私(……そういえば)

じっと、ケイの恰好を見つめる。
ぱっと見は全く軍服に見えないが、扶桑陸軍の戦闘装束だという巫女装束。
白い上着は薄手で、胸元が結構空いているし、裾に余裕があるのでとても通気性がよさそう。
腰回りの赤いベルトのようなものも、ひらひらとしていて、涼しげだ。

ケイ「……」

じー、と穴が開く程に見つめられ、ケイは一歩後ずさる。
私が真美に行るちょっと過激なスキンシップを思い出して。

私「ねぇ、ケイ」

ケイ「な、なに?」

私「その服、貸してくれない?」

ケイ「ごめん、もう一回言ってくれない?」

私「ケイが着てる、扶桑の軍服、貸して」

ケイ「…………えっ?」

残ったのは、呆けた表情を浮かべるケイと、心なしか目を輝かせながら両手を突き出す私だった。



場所は移り、ケイが寝泊まりしている天幕。

ケイ「ほんとに……着るの?」

私「もちろん」

その中にいるのは、天幕の主人たるケイと、私。

私「ケイなら、身長も体型そんなに変わらないから、問題ない」

ケイ「まぁ、そうね」

私の方が少々身長が高いが、バストサイズ的にも二人の差は許容範囲に収まっている。
なので、ケイの服を私が着ても確かに大丈夫ではあるのだが、

ケイ(今って、戦時中よね? それでここって、前線よね?)

ほんとにこんなことしていいのだろうか、という考えは消えない。
そもそも軍服は、規律統制、敵味方及び所属の区別を容易にするためにあるもので、みだりに貸し出していいものではない。

私「どうしたの?」

ケイ「え? ああ……」

少し表情が険しくなっていたらしく、私が小首をかしげる。

ケイはなんでもないという風に手を振ってみせて、

ケイ「それよりあんた、約束覚えてるわよね?」

私「うっ! それ、は……」

げっ、といった表情の私。
すかさずケイは両手を腰に当て、悪い笑みで畳み掛ける。

ケイ「なに忘れたの? それじゃあ貸せないわねー」

私「いや、その……忘れて、ない」

ケイ「よろしい♪」

恥ずかしそうに、視線を逸らしながら言う彼女と対照的に、ケイは明るい笑顔。

ケイ(オラーシャウィッチの扶桑軍服姿な写真を撮れるチャンスなんてそうそうないものね!!)

曲者揃いの部隊を率いる部隊長は、とっても強かだった。
鼻歌交じりの上機嫌で行李から服を探す。

ケイ「えーっと……あったあった。はい」

私「うん」

渡された軍服上下一式を、私はまじまじと見つめる。
高くあげてみたり、ひっくり返してみたり、どこかその姿は年頃少女っぽさを感じさせた。

私「……くんくん」

そして、一通り見終わると、服に顔をうずめてにおいを嗅ぐ。

私「やっぱり、ケイのにおいがする」

ケイ「……そりゃそうでしょ、私のなんだから」

彼女の能力的ににおいを嗅ぐ癖があるのはわかっているものの、実際に自分の私物に対してやられると気恥ずかしく、ケイはぽりぽりと指先で頬を掻いた。

私「でも、やっぱり軍服で戦場での汗とか洗濯の時の石鹸のにおいも混じってるから、これをもっと詳しく置き換えるなら、出動後のシャワーからあがってきたばっかりのケイのにおい」

ケイ「そんなのどうでもいいからさっさと着ろ!!」

身もふたもない言い方に恥ずかしさが一気に上昇、顔を赤くしたケイのチョップが私の脳天に直撃した。

私「いたい……」

ケイ「バカなこと言ってるからでしょうが」

腕を組み、ケイはふんと鼻を鳴らす。

私「でもさぁ、ケイ……これ、どうやって着るの?」

ケイ「ん? あー……」

扶桑陸軍の軍服は、扶桑の伝統的な装いであり、洋服しか知らない私には、まったく初めてのもので、着方がわからないのも道理であった。





洗濯物が一杯入った籠を抱えて歩く小柄な人影が一つ。

真美「よいしょ……」

前が見えているのか心配になるほどの分量だったが、パワーに関しては部隊で一番な彼女の足取りはしっかりしている。
そして、彼女が敬愛する扶桑の先輩の天幕を通りかかった時だった。

ケイ『とりあえず服脱いじゃって』

真美「え?」

天幕の中からよく聞きなれた声が耳に飛び込んできた。
しかも、信じられないような発言。

真美(そ、空耳だよね、きっと……うん、そう)

そう自分に信じ込ませようとするが、

私『わかった』

真美「ええっ!?」

こちらも聞き間違えようがない声が聞こえ、完全に足が止まった。

真美(ななななな、なんでケイさんの天幕の中から私さんの声が? しかも内容が……)

純情少女真美は、一瞬にして顔を真っ赤にしてしまう。
でも、ちょっぴりそっち方面の興味が出てくるお年頃なので、聞き耳を立てることは忘れない。

ケイ『うっわ、前から思ってたけど、こう改めて見ると肌白いわね!』

私『でも、アフリカじゃあ苦労ばっかりでいいことない』

ケイ『服の下の白さなんだからいいでしょ』

真美(ふっ、服の下って……それって、つまり!)

あわあわと一人慌てる真美。

ケイ『っと、あんたもうちょっと足開いてくれない?』

私『こう?』

ケイ『よろしい』

真美(あ、足開くってなに!?)

ここあたりに来ると真美の思考の暴走もかなりのものになりつつあった。

真美(そ、そんなケイさんと私さんがそんな関係だったなんて……しかも、意外にもケイさんが主導権握ってる感じ)

普段、私から少々過激なスキンシップを受けている真美としては、ケイの言葉に大人しく従う彼女というのは意外であった。

真美(でも、それってつまりケイさんが嫌々ってわけじゃないってことだから……)

瞬間、ぴこーんと真美の頭の上に電球が灯った。

真美(つまり、ケイさんが頑張れば私さんから受ける被害が減るってこと!?)

閃きだった。
真美とて私のことは嫌いではなかったけど、耳に息を吹きかけたり甘噛みしてきたりといった行き過ぎなスキンシップはちょっと遠慮して欲しいと思っていたのだ。
しかし、ケイが私を手籠めにしてしまえば話は別である。

真美(ケイさん頑張ってください!! 私応援してますから!!)

どんどん真美の頭の中ではストーリーが出来上がっていた。

ロマーニャ兵L「ん?」

ロマーニャ兵M「どうした弟よ」

ロマーニャ兵L「ああ、兄さん。いや、あそこに稲垣軍曹がいるんだけど、なんか様子が変でさ」

ロマーニャ兵M「うん? あぁ、なるほど」

ロマーニャ兵L「兄さん、なにかわかるの?」

ロマーニャ兵M「まぁな。なぁに、あの年頃のお嬢ちゃんなら、ちょっとイケナイ想像しちゃうこともあるさ」

ただ、ケイの天幕のすぐ前で立ちすくす姿はあまりに目立ち、いらぬ誤解を招くのだった。
そして、

私&ケイ「……何、やってるの?」

真美「えっ!? いえ、そのちょっと!! ってあれ、私さんそのかっこどうしたんですか!?」

つい考えに没頭してしまい、着替えを終えて出てきた私とケイに出くわしてしまうのだった。





真美「な、なるほど……私さんが、扶桑の軍服を着てみたい、と」

ケイ「そ。なにを考えてだかは知らないけどね。あ、そのまま視線こっち向けて!」

私「うぅ……」

オアシスの水辺、約束通り『激写! 扶桑軍服なオラーシャウィッチ!』の撮影会が開かれていた。

ケイ「おっけー」

ぱしゃり、とシャッター音が鳴る。
ふぅ、と額の汗をぬぐったケイの表情は、とても清々しい。

ケイ「じゃあ次は、あそこのナツメヤシにもたれかかりながら空を見る感じでお願い」

私「まだ、やるの?」

ケイ「当然!」

私「……はやまったかもしれない」

ケイ「はいさっさとポーズ取る!」

有無を言わさぬ調子で、ケイはぱんぱんと手を叩いた。

真美「……」

仕方なさそうにポーズを取る私を、真美はぼーっと眺めていた。
袴から伸びる二本の足は、嫉妬したくなるくらい真っ白で、袴の緋色と眩しい対象をなしている。しかも扶桑人と違って足が長いためにふとものかなり上まで見えている。
それでいて、きゅっと締まったウエストが憎い。
白衣の小袖から出ている腕も細くて、可憐さを感じさせる。
そして、純扶桑の装いでありながら、アンバランスに思える彼女の西洋人と一目でわかる顔立ち。いつもは結わえている銀色の髪は、今はストレートに流されており、陽光を浴びて輝く。
空を見上げる形なのでよく見える喉の真っ白さも眩しい。
真美でなくても、見とれそうな魅力があった。

ケイ「よーし、じゃあ次ね!」

私「……」

もう結構な時間を取り続けているのだが、まだケイの撮影意欲が満たされることはなく、観念したらしい私は声すら出さなかった。


だが、その瞬間にサイレンが基地中に鳴り響いた。


ケイ「ちっ、このタイミングで?」

真美「しかもこれって、スクランブルですよ!」

緊急出撃を知らせるサイレンだ。

ケイ「私っ、真美っ、行くわよ!」

表情を一瞬で引き締めて隊長のそれにすると、部下二人に声をかけて駆け出す。

真美「はいっ!」

私「了解」

先行するケイの背中を見ながら、こっそり私はこう思っていた。

私(助かった……)

しかし、大変なのはこれから空にあがってからだった。





カールスラント兵A「あれ?」

カールスラント兵B「どうした?」

カールスラント兵A「いや、扶桑の航空ウィッチって、三人もいたか?」

カールスラント兵B「なに言ってんだおめぇ? 扶桑の航空ウィッチって言ったらカトウ大尉とイナガキ軍曹の二人だけだろ?」



リベリオン兵C「扶桑の軍服着たウィッチが三人……」

リベリオン兵D「……だな、なんでだ?」

リベリオン兵C「あの馬鹿でかい武器の割に小柄で黒髪なのがイナガキ軍曹で、茶色髪なのがカトウ大尉だよな」

リベリオン兵D「三人目……なんか髪の毛が白くないか? いや銀か?」



ロマーニャ兵E「おいおい、なんてこった! カメラが無いじゃねぇか!!」

ロマーニャ兵F「こうなったら目に焼き付けてやるぜ!!」

ロマーニャ兵E「俺も俺も! いやー、でも驚いたよな」

ロマーニャ兵F「まさか、私中尉ちゃんの扶桑軍服姿が見れるとはな!」






その日の夕刻だった。もう既にいつもの服装に戻った私の周りには人だかりができていた。

マルセイユ「なあなあ私! 今度はカールスラントのやつなんてどうだ!」

ライーサ「とっても似合うと思うなぁ」

アビゲイル「いやいやここはリベリオンでしょ」

マリリン&パトリシア「陸軍のだけどものはためしに!」

マイルズ「陸軍のなら、うちのでも……」

皆が皆、手に手にそれぞれの国の軍服を持っていた。

私「……」

兵たちからはひゅーひゅーと口笛混じりの声援を送られ、恥ずかしさがMAXに達していた私。

私「どれも着ない!!」

マルセイユ「逃げたぞ、追え!!」

ウィッチーズ「おー!」

その日、遅くまでウィッチたちの喧騒はやむことはなかったという。


ケイ「一人勝ち……ってね」

残っていたのは、カメラを大切そうに撫でるケイだけだった。






最終更新:2013年02月07日 14:08