ロマーニャの街から少し離れた場所にある、小さな自動車整備工場。
その整備工場内に、3つの影がある。
1人は寝板を使って整備をする青年、もう2つはガレージの入口で会話をしている中年の男性、
そして黒の長い髪を持つ女性である。
中年の男性が青年に呼びかける。
中年「オイ、そっちは後でいいからこっちの修理を頼む」
青年「あぁ?オッサンの手が空いてるだろーが」
中年「オレはこれから出張修理なんだよ。後のことは任せるぞ。――それではミス、自分はこれで失礼します」
中年の男性は青年に了承を得ぬまま、車に乗って行ってしまう。
青年「あ、おいコラちょっと待てって……!」
青年は慌てて身を起こすも、車は既に遥か遠くへ。
青年「うわぁ……、本当に行っちまったでやんの」
寝板から身を起こし、件の女性の元へと歩く。
青年「ハイハイお待たせー……っと」
青年の顔を見た女性が、少し驚いたような表情に変わる。
青年「どうした?」
女性「……いや、なんでもないさ。……ふむ、これは面白い」
青年「? 変な客だな。――まぁいいや、症状は?」
女性「先程前輪をパンクしてね。スペアという事を考慮しても、どうも振動が酷い。」
青年「ふむ……。ボルトでも緩んでんのかな……」
青年は女性の車を調べるが、脚回りに以上は見られない。
青年「ボルトの緩みなし。テンパータイヤ交換しても効果なし、と。……あ、」
と、青年がボンネットを開ける。
青年「あー、こっちか……」
青年は女性に異常振動の原因を伝える。
青年「エンジンマウント。エンジンを固定するこれのボルトがポッキリ折れてるから、エンジンルーム内でエンジンが動き放題。
振動はそのせいだな」
女性「直るかい?」
青年「マウント自体を交換するだけだから簡単さ。……ただ、エンジン持ち上げないとイカンから少々時間が掛かるな」
青年は少し考え、
青年「どうする? 急ぎの用事があるなら代車でも出すが」
女性「ふむ、良ければここで見学させて貰えないかな」
青年「見学ったって……。見てても面白くなんて無いぜ?」
女性「ならば話し相手にでもなってくれ」
青年「さいですか。――ちょっと待っててくれ、今座る物とか取ってくるからよ」
□
青年はガレージ入口近くの日の当たらぬ場所に椅子と小さなテーブルを置く。
そして、次に戻ってくるときにはその手にポットとカップの乗ったトレーを載せていた。
ポットから立ち上る香りに気付いた女性が言う。
女性「コーヒーかと思ったが……、紅茶か」
青年「お茶受けはないがね。それとも、コーヒーの方が良かったかい?」
女性「いや、これで構わないさ」
青年「そいつは結構」
青年がガレージに運び入れた車の後輪にタイヤ止めを挟む。
女性「……ところで、昨年
ガリアが解放されたのは知っているかな?」
青年「当然。当時は大騒ぎだったからな」
女性「それについて、ある噂を耳にしてね」
青年「噂?」
ジャッキの準備をしていた俺の顔が、女性の方へと向けられる。
女性「ああ、ガリア解放に貢献した第501統合戦闘航空団は11人のウィッチで構成されているが、実は12人居た、というね」
青年「……へぇ、初耳だ」
女性「そして、その12人目は世にも珍しい男のウィッチだったという」
青年「……ふーん」
ジャッキアップ。
女性「彼の実態は経歴に捏造に捏造を重ねた『存在しないウィッチ』であり、」
女性「ガリア解放時に行方不明になっている事から、軍の広報新聞にも写真が載せられることがなかった、とも言われている」
青年「えらく具体的だな……っと」
青年は、車の高さが適当になったところでウマをかける。
青年「で、まさかとは思うがそんな与太話信じてるのか?」
女性「……与太話か」
青年「そりゃそうさ、馬鹿馬鹿しいにも程がある。第一、関係者に話でも聞けば分かることだろうが」
女性「先日会ったときにはそれを失念していてね、……惜しい事をした」
青年「? アンタ記者か何かか?」
女性「さて、どうだろうね。――まぁ、代わりに面白いものを手に入れた」
訝しむ青年を余所に、女性は側に置いていたバッグから数冊の手帳、そしてスクラップブックを取り出す。
女性「関係者の手記、及び関係書類だ。内1冊は件の12人目の物だ」
青年「そんなもんどこで手に入れた!?」
女性「お菓子1年分と引き返さ。今にして思えば安い物だった」
青年「なんだそりゃ……」
女性「まあ細かい所は気にするな――さて、件の12人目の手記だが、」
女性の細い指が、手帳をめくる。
女性「一番古い日付は1944年8月20日。……ガリア解放の1ヶ月程前か」
最終更新:2013年02月07日 14:10