前回までのあらすじ!
資料室を整理中に見つかった一冊のノート。それは私の"お母さん"、エレン・チューリング女史の書き残したものだった。
ノートの暗号を解くのに必死になる私を心配した
シャーリーは、私の気分をリフレッシュさせようと遊びに誘うが……。
シャーリー「……もしかして、その格好で行くのか?」
私「だって、これしか持ってないし」
――道路――
ブロロロロ…
シャーリー「……やっぱ原付か。スピードが出ないな」
私「丁度いいんじゃない? あんたのスピード狂に付きあってると感覚器官が壊れそうだしね」
シャーリー「……ま、2人も乗ってるしなぁ」
私「……なんだって前に居るのがアンタなのかしらね」
シャーリー「なんだよ、お前バイク運転できるのか?」
私「やり方さえ覚えれば、ね」
シャーリー「ああ、一回見たら忘れないんだっけ」
私「……ええ。絶対に、ね」
ファサァァッ……
『……赤毛じゃなくって、金髪が良かったな……そうしたら、お揃いだったのにね』
私「…………ねぇ」
シャーリー「ん?」
私「……髪、長いのね」
シャーリー「? なんだ、今更……」
私「……いや、別に」
ブロロロロ…
――ローマ市内――
ブロロロロ…キキッ!
シャーリー「さて……まずはここだ」
私「服屋? 服なんて頼まれてたっけ?」
シャーリー「いや、分からない」
私「……じゃあ何で」
シャーリー「お前の服を買うためだよ」
私「わ、私の?」
シャーリー「考えてみたら、私っていっつもそのセーターに白衣でさ。他の服着てるの、見たことないし……で、聞いてみたら」
私「一着も他のは持ってないって話だから、買ってあげようって?」
シャーリー「そうそう。さ、そうと決まれば、レッツゴー」
私「……いいわよ、別に。大体、替えなら何着かきちんとあるし……」
シャーリー「でも、全部そのセーターとズボンなんだろ?」
私「……ま、そりゃそうだけど」
シャーリー「だろ? お前だって一応は女なんだからさ、色々お洒落とかした方が絶対楽しいって!
せっかく顔もスタイルもいいんだし、身長だって高いんだから」
私「でもねぇ……まるで必要性を感じないし」
シャーリー「……お洒落だと、モテるぞ?」
私「……誰に?」
シャーリー「男と――あ、女にも」
私「……女の子だけでいいわ」
シャーリー「どっちにしろ必要さ。それにホラ、いつもとは違うカッコすると、こう……パーッとスッキリするぞ?」
私「んなこと言われても……大体、中佐から頼まれた買い物だってまだ終わってないんだし。ほら、この封筒にだって――
――え?」
<買ってくる物:シャーリーさんと私教授の欲しい物。――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ>
私「…………」ポカン
シャーリー「……ふふん。ほら、中佐だってこう言ってるぞ?」ニヤニヤ
私(あんにゃろう……一杯食わされたわ……)
シャーリー「さ! そうと決まればまずは服! ほら、行くぞ!」グイッ
私「ちょ、ちょっとちょっと! 私、服なんて分かんないわよ!?」
シャーリー「大丈夫大丈夫。あたしが選んでやるからさ」
私「えー……大丈夫なの? アンタのセンスで」
シャーリー「怒らせて止めさせようったって、そうは行かないぞー? 今日は機嫌がいいんだ」ニコニコ
私「……ハァ」(……しょうがない、適当に付き合ってやるか)
――服屋の中――
シャーリー「私! どうだ、このスカート!」
私「は、花柄ァ!? しかも紫って……」
シャーリー「ほら、セール中で安いし。これにしないか? 似合うと思うぞ?」
私「勘弁してよ……苦手なのよ」
シャーリー「花柄が?」
私「いや、違う」
シャーリー「ああ、色か? でもなぁ、安いのこれしか……」
私「そうじゃなくって! スカートがよ!」
シャーリー「えぇ……? 何でだよ?」
私「――ッ! そ、それは……その、できればあんまり……素肌は……。
と、とにかく! スカートじゃなかったら何でもいいわよ! 長ズボンとか……」
シャーリー「長ズボン? えーっと……あ、じゃああそこのヘビ柄のとかどうだ? なんか鎖とかいっぱい付いてカッコ良さそうだぞ」
私「……やっぱセンス無いわね、アンタ」
シャーリー「あ、私。半袖も持っといた方がいいんじゃないか? ほら、コレとか」
私「……いいわよ。別に暑くないし」
シャーリー「夏だってのにずっとタートルネックのセーターってのは、さすがに健康に悪いんじゃないか?
これなんてほら、首元がこんなに開いて涼しそうだぞ?」
私「……それが嫌なのよ」
シャーリー「……?」
――数十分後――
シャーリー「……無いな、なかなか。長袖も長ズボンも、今の季節は入荷してないし……」
私「ね、だからいいって、別に。私はこの格好で十分……」
シャーリー「……あ、上着とかどうだ? 上着だったら薄い長袖のが何着かあるし。あ、ほら、コレとかさ」
私「……何これ、ヤシの木?」
シャーリー「ハワイが発祥の柄だってさ。ほら、まずは着てみろって」スッ
私「あ、ちょっと! 私の白衣……ったく」
シャーリー「……うーん、まぁ……合わない事も無い、かな」
私「どう考えても合わないわよ、このセーターにこの柄は……」
シャーリー「そうか……それにしてもさ、この白衣……」
私「え?」
シャーリー「けっこう古いよな。どれくらい前から使ってるんだ?」ゴソゴソ
私「そうね、もう10――って、ちょっと! なに勝手に着てるのよ!?」
シャーリー「いや、どんな感じかなーって。……よし。どうだ? インテリっぽく見えるかな?」キリッ
私「――!!」
『どう、私? おニューよ、この白衣! もちろん、私の分もちゃーんと……』
私「…………」
シャーリー「……? 私?」
私「――! あ、ええ……あ、そう……ね。あ、ほら、早く返してよ」
シャーリー「? ああ……はい」スッ
私「……ったく……いらないわよ、上着も。結局、この格好が一番落ち着くわ」
シャーリー「……そっか」シュン
私「……ほら、もう用は済んだでしょ。じゃ、さっさと……」
シャーリー「あ、ちょっと待っててくれよ。あたしも見たいのがあるんだ」
私「……いいけど、私に似合うかどうか聞かれても分かんないわよ?」
シャーリー「いや、すぐに終わるよ。何だったら、表で待っててくれてもいい」
私「……そう。じゃ、そうさせてもらうわね。それじゃ」スタスタ
ガチャッ アリガトーゴザイマシター
シャーリー「…………」
――私は足早に服屋を出て行った。まるで、この場にいるのがいたたまれないように。なんだか、言葉も妙にそっけなかった。
……どうしよう。せっかく中佐の力添えで一緒に外出して、私の気晴らしをしてやれると思ったのに。
知らないうちに、機嫌を損ねてしまったのだろうか……。
シャーリー「……これで、機嫌直してくれるといいんだけど」
――おそらく無理だろうなとは思いつつ、一縷の望みを掛けずにはいられない。
スカートも半袖も嫌だ。辛うじて着れる長袖や長ズボンは無い。
……なら、これだ。そう思いつつ、目の前にある"それ"を見つめる。
シャーリー「あ、すいません。これっていくらで――」
――店の外――
私「…………」
『お洒落? あはは、できるならしたいけどね……でも、この格好が一番似合うと思わない?』
私(……なんだって)
私(……顔を見る度に、ちらつくのかしらね)
私(……お母さん)
~~♪ ~~♪
私「……? あれ……?」
ガチャッ アリガトーゴザイマシター
シャーリー「ふー……」
――買いたい物は、意外にも安かった。ま、こういうのは値段じゃない、気持ちだよ気持ち。
さて、次はどうしようか。昼飯は基地で食ってきたし……。
あ、そうだ。確か近くに映画館があったから、そこに行ってみよう。私の奴、映画好きらしいし。
しかし、買い物ときて、次は映画館か。これじゃあ、まるで本物の……。
シャーリー「……デート、ねぇ……」
――もう少しロマンチックなイベントがありさえすれば、そう思いかけて赤面する所なんだけど。
いや、決してそういうイベントを欲しているわけじゃないぞ。
……でも、考えてみれば不思議だ。基地で整備兵に『まるでデートだ』とからかわれた時は、あんなに狼狽したのに。
シャーリー「…………」
――いざ実際に出かけてみれば……私という人間は、あまりにも儚く、そして寂しげに見えた。
普段からは想像も出来ない、哀しげな影がちらついていた。
そしてその影は、どういうわけか……あいつがあたしの顔を見る度に、現れているらしかった。
――心の中に、切ないような、愛しいような……。そんな不思議な気持ちが現れては消え、そしてまた少し顔を覗かせる。
――これが、恋という奴だろうか。……似たようなものかもしれないし、まったく違うものかもしれない。
シャーリー「……あ、そうだ。私の奴……あれ? いない……」
――あの白衣が店の入り口近くにいないのに気が付いて、慌てて辺りを見回してみる。
……ったく、店の外で待ってろ、って言ったのに。
シャーリー「! あ、いたいた。よかっ――?」
~~♪ ~~♪
私「…………」
――小さな雑貨屋に置かれた、古びた蓄音機。その前で、私は立ち尽くしていた。
あの時資料室で見せた、ここではない、どこか遠くを見つめているような、虚ろな目で……。
シャーリー「……私。おい、私!」
私「!! あ、しゃ、シャーリー……」
シャーリー「どうしたんだよ、こんな所で……」
私「……いや、ちょっとね」
『There is a flower within my heart~♪ Daisy~, Daisy~♪』
――蓄音機から、男性の軽やかな歌声が聞こえてくる。
この曲なら、あたしも知ってる。20年くらい前にヒットしたポピュラーソングだ。
確か、曲名は……。
シャーリー「『デイジー・ベル?』」
私「え? 知ってるの?」
シャーリー「え? あ、ああ。そりゃ、有名だし。でも、この曲がどうかしたのか?」
私「……ええ。私も知ってたから、この曲」
シャーリー「へぇ……お前も音楽とか聞くんだな。てっきり、研究とペロペロ以外に趣味なんてないと思ってたけど」
私「そんな、趣味ってほどじゃないわよ。……ただ、昔この歌を教わっただけ」
シャーリー「ふぅん……誰に?」
私「……お母さん」
――しばらくの、沈黙。道行く人たちの足音が、時々聞こえる車のクラクションが、どんどんフェードアウトしていくように感じられた。
それなのに、蓄音機から流れ出るこの陽気な歌は、あたしの耳から次々に体の中へ入り、何度も何度も反響する。
『Daisy~, Daisy~♪ Give me your answer, do~♪』
シャーリー「……映画」
ようやく絞り出せたのは、この一言だけだった。
私「え?」
シャーリー「……見に行かないか、よかったら。近くに、けっこう新しい映画館があるんだ」
『I'm half crazy~♪ All for the love of you~♪』
私「……そうね。いいんじゃない?」
シャーリー「……行こう。こっちだ」
デイジー・ベルを背中で受けながら、2人で横に並び、映画館へと歩いていく。
私「……"狂いそうなほど君が好き"か」
シャーリー「え?」
私「……なんでもないわ」
――映画館・売店――
シャーリー「ジュースは何にする?」
私「いや、いいわ。喉乾いてないし」
シャーリー「いいのか? ポップコーンとかも?」
私「……ったく、映画ってのはもっと敬虔な気分で見るもんじゃない? 何かをしながら映画を見るようじゃ、まだまだよ」
シャーリー「はいはい。……じゃ、あたしだけ買っとくよ。えーっと、コーラと……」
私「…………」スッ コロコロ…
シャーリー「……あ、またその黒い飴食ってんのか」
私「ま、正確には飴じゃないんだけどね」
シャーリー「薬、だったっけ? ……でも、よく食えるよなあ、そんな不味いの……エイラのサルミアッキがマシに思えるよ」
私「……こっちだって、舐めたくて舐めてるわけじゃないわ」
シャーリー「……そう、か……」
私「……あ、ほら。買うんじゃないの? コーラとポップコーン」
シャーリー「っとと、そうだった……あ、すいません、ポップコーンと……」
――シアター内――
シャーリー「よっこらせ、っと……」ドサッ
私「まぁまぁの席ね。近すぎず、遠すぎず」
シャーリー「昔の映画のリバイバル上映だからな。見る人はそこまで多くないみたいだし、いい席がとれてよかったよ」
私「……そう言えば、何見るんだっけ?」
シャーリー「『ピノキオ』」
私「……なんでアニメーション?」
シャーリー「いいじゃないか、お前の部屋で絵本見て、この映画のこと思い出したんだよ。
……あ、もしかして嫌だったか……?」
私「いや、別に……ま、いいけど」
ジリリリリリリリ…
シャーリー「お、始まるぞ……」
私「…………」
≪予告編!!≫
≪「スオムスぅ? なんでわたしがスオムスなのよ!」≫
≪世界中を虜にした『扶桑会の閃光』から8年……巴御前は帰ってきた!≫
≪第507統合戦闘航空団の全面協力により、穴拭智子少尉のもう一つの戦い、奇跡の映画化!≫
≪「やったぁ! これでスオムスも安泰だわ!」≫
≪1939年…氷河と樹氷の国・スオムスで幕を開けた、美しき魔女達の、烈しき戦い!≫
≪「氷と湖! わぁ! 綺麗ですね~!」≫
≪「習ってない」≫
≪「……私は、このスオムスに死にに来たんだ」≫
≪女達の思いを巻きこみ、運命はどこへと向かうのか――≫
≪「すきなんですッ! わたし、智子少尉が好きなんです!」≫
≪世界映画会の鬼才、ノーボル・ヤマグッチ監督の送る、
バトル、タクティクス、そしてロマンス! すべての詰まった、血沸き肉踊るウィッチ・ドラマの決定版!≫
≪「飛べるんじゃないの。……飛ぶのよ」≫
≪『扶桑海の閃光2 ~スオムスいらん子中隊がんばる~』 来春公開!≫
≪前売り券を買うと、もれなくいらん子中隊ミニ扶桑人形(全6種・限定版)がついてくるぞ!≫
シャーリー「……なんだこれ?」
私「……前売り券商法……いい商売ね」
――予告が終わると、いよいよ本命の映画が始まった。
シャーリー「…………」モグモグ
私「…………」
――映画の内容は……正直、あまり覚えていない。
いや、つまらなかったわけじゃない。映画の内容よりも、もっと気になる事があったからだ。
シャーリー「…………」
――ポップコーンをコーラで流し込みつつ、ときどき隣に座った私の顔を見る。
私の眼は、スクリーンをただじっと見続けていた。
主人公がどんな哀しい目に遭っても、表情一つ変えず、ただ静かに。
スクリーンから反射した光は、まるでビー玉のように澄んだ私の眼の中へと入って、儚げな輝きを放っていた。
シャーリー「……ふーっ……」
――邪魔にならない程度に溜息をつき、あたしも正面へと向き直る。
ぼーっとスクリーンを眺めている内に、今日一日、そしてここ数日のことがゆっくりと思いだされた。
――ノートを見つけた私が、血相を変えて部屋に閉じこもったこと。
4日も姿を見せない私を外出に誘おうとして、口げんかになったこと。
中佐の協力で、一緒に外出できたこと。
私が、服屋で頑として半袖やスカートを身につけようとしなかったこと。
――そうだ、どうして私は、あんなに素肌を晒すのを嫌がるんだろう。
手だって、いつも手袋で覆っているし……それに、私が風呂に入っている所なんて、一度も見たことが無い。
……何か、見せたくない何かが……?
『AIのプログラミングに不備があって、それが原因になって起こった事故だ』
『……そして、あの事故で、私も……』
『正確にはアメじゃないわ。…薬よ。痛み止めの』
『……こっちだって、舐めたくて舐めてるわけじゃないわ』
シャーリー「……!!!」
――そうだ。
そうだ……もしかしたら。お母さんが亡くなったっていう、その事故で……。
――私も、とてつもない外傷を負ったのかもしれない。
――薬を今でも採り続けなければならないほど、深い傷を。
素肌を絶対に晒せないほど、全身に、ひどい傷を。
シャーリー「…………」
――震えが分からないようにゆっくりと、隣に座っている私の方を向く。
私「…………」
――私は、相変わらず無表情のまま、物憂げな眼差しでスクリーンを見つめていた。
微動だにしない。まるで……魂を映画に吸い取られてしまったみたいに。
――もう、映画の内容なんて頭に入ってこなかった。
そして、気が付けば……映画は終わっていた。
――映画館の外――
私「…………」
シャーリー「…………」
――映画が終わってから、あたし達は映画館を出た。
「行こう」という言葉と「ええ」という返答、それ以外は何も発さずに。
シャーリー「……あ、あの……その」
私「……?」
シャーリー「お、面白かったか? 映画」
――無言のままでは間が持たないから、とりあえず感想を聞いてみることにした。
私「……ええ。面白かった」
シャーリー「……そっか、よかった」
――よかった。とりあえず、楽しんではくれたみたいだ。
「つまらなかった」なんて言われたらどうしようと気が気じゃなかったが、この一言でずいぶん安心できた。
私「…………」
シャーリー「…………」
――そして再び沈黙。……駄目だ、会話が広がらない。どうしよう……。
シャーリー「……あー、えーと……」
――赤みを帯びてきた空を眺めながら、次の話題を必死に考える。
私「……? まだ何かあるの?」
シャーリー「あーっと……あ、も、もう日が傾いてきたな」
私「? あ、ああ……そうね」
――ああ違う……だから何だって言うんだよ……。こんなんじゃなくって……ほら、もっと……。
……あ、そうだ、さっき服屋で買った“アレ”……アレも渡さなきゃ……でも、どこで……?
私「……あら?」
シャーリー「ん?」
私「いや、ほら、あの大聖堂」
――そう言われて、私の指差す方向にある荘厳な建物を見る。
――あの大聖堂なら覚えがある。たしか1ヶ月ぐらい前、買い出しに行ったときにネウロイが襲って来て……。
シャーリー「ああ、そうそう。ルッキーニがあそこから飛び降りて来たんだよなぁ」
私「へぇ、そうなの? 無茶するわねー、よく怪我しなかったわよ……」
――怪我、か。
シャーリー「…………」
私「……? どしたの、そんなに見て」
シャーリー「あ、いや……あ、そう言えばさ、あの時お前、
アイス売ってたっけ。とんでもない値段設定でさ」
私「へぇ、覚えてたの?」
シャーリー「そりゃそうだよ。……そう言えば、お前も一緒に出かけたの、あれが最初だったよな」
私「……大変だったわね、あの日は。あの大聖堂のテラスにも行ったっけ……」
テラス――あ。そうだ!
シャーリー「なぁ私、最後にあの大聖堂行ってみないか?」
私「え?」
シャーリー「ほら、もうそろそろ夕暮れだし、あのテラスから夕陽見たら絶対綺麗だって!」
――それで、夕陽見ながらなんとなくいい雰囲気になったところで、あのプレゼントを……。
――まぁ、別にいい雰囲気にしないと渡せないってわけでもないけど。
私「夕陽ぃ? そんなの基地でも見られるじゃない、一年中、いくらでも……」
シャーリー「……あたしはな、今日の夕陽を、あの大聖堂で、お前と一緒に見たいんだよ」
私「……えっ?」
――我ながら、クサすぎる台詞だと思った。そして、妙に意味深な言葉でもあると。
シャーリー「……あっ! い、いやその、そういう意味じゃ……そ、その……なんだ……つまり……」アタフタ
私「…………フフッ」
シャーリー「……え?」
私「あーっはっはっはっはっは!!! ちょっと……真顔で言わないでよ……んなこっ恥ずかしいセリフ……! っくくく……!」ゲラゲラ
シャーリー「……」カァァァッ
――顔が見る見るうちに火照っていくのが、自分でも分かる。
――なんだこれ……今すぐ顔を覆って泣きたい。
私「っくっくっく……っははは……!」ゲラゲラ
シャーリー「わ、笑い過ぎだっ!」
私「ご、ごめ……でも……っははは……!」
シャーリー「ったく……」
私「あー落ち着いてきた……でもさ、相変わらずクッサい台詞が得意ねー、アンタは」
シャーリー「う、うるさいっ!」
――結局、いつものように冗談で済まされてしまうのか。……あーあ。
私「……いいわよ」
――え?
シャーリー「え?」
私「わがままに付き合ってあげるのも優しさだしね。……それに下手に断って中佐に泣きつかれちゃ堪んないし」
シャーリー「そ、それじゃ……」
私「……ほら、夕陽見るんでしょ? 日が暮れちゃうわよ」
――どこか恥ずかしそうに笑いながら、私が言う。
空の赤さはだんだんと増してきた。さっきまで薄いオレンジだったのに、今は鮮やかなサーモンピンクへと変わっている。
――ああ、そうだった。
こいつは……私は、こういう奴だったんだ。
シャーリー「……ああ、よーし、行くぞ私!」
私「はいはい、っと」
――気持ち早足で、2人で大聖堂に向かって歩いていく。
大聖堂は夕陽を受けて、じんわりとぼやけた光を放っていた。
私(……あんな真っ直ぐな目見て……断れるわけないじゃない)
私(あんなに……青くて、優しくて……懐かしい……)
最終更新:2013年02月07日 14:27