数日後

談話室に歌声とピアノの音が響く

ミーナ中佐の歌と、サーニャの伴奏…リリーマルレーンだ

キューブ型ネウロイを倒して基地に戻ってきた思ったら、突然これだ

いや、いい歌だぞ?ただ、どういう風の吹き回しなのかな、と

歌が終わり、今度は拍手が鳴り響く

俺(歌なんて何年ぶりだろう。友の奴はたまにロックとか聴いてたけど)

今度ロンドンに行ったら、レコードでも買ってみようかな

宮藤「とっても素敵な歌でした!」

ミーナ「ありがとう」フフッ

エイラ「サーニャのピアノはどうしター?サーニャのー?」グイグイ

宮藤「へ、ほっへもふてきれひたぁ」

エイラ「え~い、もっと褒めロー」グイグイ

俺「エイラ、それくらいにしてやれよ」

エイラ「い~や、まだまだダー」

宮藤「いは、いはいでふよ、エイラひゃ~ん!」

爆笑する一同。その中で中佐は、何かを押し殺すように笑っていた


 第三話 Encounter and Messenger.


その夜、俺は一人中佐の部屋に向かっていた。借りていた資料を返すためだ

俺「今日撃墜したキューブ型についての資料も欲しいな」

中佐の部屋の前まで来て、ドアをノックしようとした時、中から声が聞こえた。思わず手を引っ込める

ミーナ「…こんな思いをするくらいなら、好きになんてならなければ良かった…てね。でも…そうじゃなかった」

俺(誰と話してるんだ?)

ミーナ「でも、失うのは今でも恐ろしいわ。それなら…失わない努力をすべきなの!」スチャ

坂本「…ずいぶんと物騒だな」

俺(少佐?)

ミーナ「約束して。もう二度とストライカーを履かないって」

坂本「それは命令か?そんな格好で言われても、説得力がないぞ」

ミーナ「私は本気よ!」

盗み聞きの趣味なんてないが、この場から動けなかった。当初の目的なんて忘れて、ドアの向こうのドラマに耳を傾ける

坂本「私はまだ、飛ばねばならないんだ…」

少佐がドアに方に向かってくる。ドアを開けたときに死角になる位置に移動する

運よく、少佐は俺と別方向に向かって廊下を歩き出した。おもわずため息をつく

俺は少しためらったが、ドアをノックし、中に入る

俺「夜分に失礼します、資料を返しに…!」

中佐はまだあの赤のドレス姿だった。月明かりに照らされ、どこか官能的な雰囲気をかもし出している

だが、その手にはワルサーPPKが握られており、俺はなぜかスパイ映画の女殺し屋を思い浮かべた

ミーナ「…もう読み終わったの?」

俺の姿を視認すると中佐はそそくさと銃をしまい、何事もなかったかのように振舞う

俺「…ええ、役に立ちました」

中佐に資料を手渡しし、一礼してから部屋をあとにしようとする

ドアのところで立ち止まり、意を決して言葉を発する

俺「…今日、いえ、過去に何があったのかは聞きません。あなたが何を失ったのかも」

ミーナ「!」

俺「ただ、自分の経験からひとつだけ言わせてください。過去に縛られ、死者を想っていては、生きていけません。軍人ならなおのこと」

ミーナ「あなたに…あなたに何がわかるって言うの!?」

普段の落ち着いた性格からは想像できないような声を上げる

俺「これは遠まわしの忠告ですよ中佐。あなたは何もわかっちゃいない」

ドアノブに手を掛け、部屋を出ようとする

ミーナ「…あなたも…昔誰かを失ったの…?」

先ほどとは打って変わって、今度は泣きそうな声で問いかけてくる。今まで話した事がなかったけど、中佐にならいいかな

俺「…基地が敵の襲撃にあい、部下や上司ら、50人以上が死んだ。女子供も入れてだ」

ミーナ「…」

俺「おやすみなさい」


―抵抗軍スカイネットセントラルサウスゲート前前線基地 通称「南基地」

機械軍の南部進行に睨みを利かせる基地として、抵抗軍にとっては重宝され、機械軍には目障りだった場所

俺が十五歳のとき、南基地は機械軍の襲撃を受けた。敵の戦力は、T-800一体だけだったらしい

らしいというのも、俺は当時偵察任務でその場に居なかったからだ

そのT-800は人工細胞で金属骨格を隠し、人間に擬態していた。そのせいで侵入に気づけず、基地を丸ごと爆破された

家族は物心ついたときには居なかったし、恋人や親しい友人が死んだってわけじゃないから、あまりショックではなかったが…

「何で俺だけ生き残っちまったかな…」それだけである

悩んだり、気分が晴れないときは射撃訓練をする。これは向こうの世界に居た頃からの習慣だ

今日は結構銃の種類が豊富だ。整備兵に譲ってもらったSAA、正式入隊時に支給されたPPK、なぜか倉庫にあったウェンチェスターM1887

SAAとPPKの二丁撃ちから始まり、スピンコックでウェンチェスター乱射したり。ただ無心に引き金を引いているだけで、自然といやなことを忘れられる

俺(逃げてるだけなんだろうな…)ダァン!ダァン!

持ってきた最後の弾を打ち切り、射撃訓練場をあとにする


小腹が空いたので食堂に行ったらエイラが居た

俺「もう起きたのか。何食べてんだ?」

エイラ「サルミアッキ、お前も食うカ?」

俺「いただこう」

黒い飴だろうか?臭いはちょっと変わっているが、気にせず口に放り込む

俺「ん、なかなかうまいじゃないか」カラコロ

エイラ「オー、俺は話がわかるナァ。ナーンカ皆まずいって言うんダ」

俺「へー、結構うまいのに」バリバリ

まぁ、向こうに居た頃はゴキブリとかネズミとか食ってたから、味覚がちょっとおかしいのかもな

エイラはこれからユニットの調整をするというのでお供することにした


 ハンガー

エイラ「そういえば、お前のストライカーなんで灰色一色ナンダ?」

俺「ん?ああ、なんかそこらへんで拾ってきたらしい。面倒だからこのマンマ」

正確にはどっかに輸出される予定だったものをせしめたらしい

エイラ「灰色のメルス、か」

ああ、スオムスじゃBf-109のことをメルスというのか

俺「ところでさ、宮藤とペリーヌのユニットは何処へ?」

エイラ「そういえばないナ。ペイント銃はあるし…何しにいったんダ?」

訓練は午前中にやったはずだし、午後は飛行訓練の予定はなかったはず…

俺「発進装置のラックの中に銃がない…まさか…」

<ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

エイラ「警報!?」

俺「行くぞエイラ!」


 上空

坂本「じゃあ、宮藤は一人で向かったんだな!?」ブゥン

ペリーヌ「すみません、元はといえばわたくしが…」ブゥン

坂本「その件はネウロイを落としてからだ」

坂本(余計な気を起こすなよ、宮藤…)

いろいろあったが、状況を説明する。ネウロイが出現し、それを受け宮藤が単機先行、俺たちはあとを追っている

俺「エイラ、夜間哨戒明けなのに平気か?」ブゥン

エイラ「平気ダヨ。お前は自分の心配してロ」ブゥン

俺「何かあったら言うんだぞ?」

エイラ「お前は私の保護者かよ…」

エーリカ「というより彼女を気遣う彼氏だね」ブゥン

エイラ「!?///」

俺「ハルトマン中尉」ギロッ

エーリカ「その赤目で睨まないでよ…」

ミーナ『宮藤さんが、ネウロイと接触したのは間違いないわ。でも、そこから先はサーニャさんにもわからないって』

エイラ「あいつ、まさか捕まったんじゃ?」

俺「縁起でもないこと言うなよ」

坂本「離れるようには言えないのか!?」

ミーナ『それが、ネウロイが何か、ジャミングのようなものを仕掛けているのかも』

俺「厄介だな…」

バルクホルン「とにかく急ぐぞ!」


ネウ子「」コアクパァ

宮藤「は…わ…」


坂本「まだ追いつかないのか、ミーナ!?」ブゥン!

ミーナ『それが、ネウロイはガリア方面に引き返しているわ。巣に戻るつもりじゃ…』

俺「…くそっ」フラッ

エイラ「お、おい!」

赤目を通した視界にノイズが入る。俺の頭にもジャミングが効いてるのか?

俺「…!? 少佐!あそこ!」

ノイズの先に、小さな人影が映る

坂本「!?」キュイーン

少佐が眼帯を外し、魔眼を発現させる

坂本「…宮藤のほかに、ウィッチがもう一人居る…いや、コアが見える。あれはネウロイだ!」


宮藤「あ…」スッ

ネウ子「」コアキラキラ

坂本『何をしている!?宮藤!』

宮藤「あ!坂本さん!」

坂本『撃て!撃つんだ宮藤!惑わされるな!そいつは人じゃない!』

宮藤「違うんです!このネウロイは…」バッ

坂本「撃たぬなら退け!」ガチャッ

ネウ子「」キィィン!

坂本「おのれ!」ダダダダダ

ネウ子「キュイィィン!」バシュンバシュン!

まずい…!

坂本「ぐっ!…がぁぁっ!」ドグァーン!

俺・エ「!?」

ペリーヌ「少佐!?」

宮藤「坂本さん!!」ブゥン

少佐の足からユニットが抜け落ち、海に向かって落ちていく。ペリーヌと宮藤が落下の途中でキャッチする

ミーナ『どうしたの!?何が起きたの!?』

俺「少佐が撃たれた!繰り返す、少佐が撃たれた!救助チームを要請する!グリッド南東第25地区だ!」

バルクホルン「シールドは張ったのに…まさか!?」

ミーナ『バルクホルン大尉…ネウロイを追いなさい、命令よ!』

泣き叫ぶように中佐が言う。インカムからはわずかに嗚咽が聞こえる

俺「くそっ!」テュンテュン!!

編隊に前に飛び出て人型ネウロイにプラズマライフルを撃つ

人型ネウロイはウィッチのように回避機動を取り光弾をかわす。両手をこちらに突き出し、ビームを発射する

エイラ「俺!避けろ!」

俺「言われなくても!」ブォォン!

なぜか調子の悪い赤目を使ってギリギリのところでビームを回避する

敵未来位置予測で人型ネウロイの予測先を見切り、光弾を撃ち込む

ネウ子「キュゥイィン!」

ウィッチで言うユニットの部分に着弾するが、さほどダメージを与えられない

もう一度攻撃しようと銃口を向けるが、なぜか人型ネウロイは動こうとしない

俺「?」

ネウ子「キュイン」ブィン

不審に思っていると、ネウロイが近寄ってきた

エイラ「俺!」

俺「待て、撃つんじゃない!」

銃を下ろし、人型と向き合い、静止する。こいつは自身の身が危ないとき以外は攻撃してこないのか?

人型がさらに近づいてくる。顔と顔の間が50cmもない

人型はしばらく俺を眺め、不意に手を俺の額に向ける

その手の先が青く光ったかと思ったら、俺の脳に電流が走った

俺「グガァァァァッ!!」ガクビク

エイラ「俺!?」

バルクホルン「何だ、何が起きてる!?」

体が電気ショックを与えられたかのように痙攣し、ライフルが手から離れ、ユニットが抜け落ちた

エーリカ「まさか、洗脳…?」

視界が赤くなったり青くなったり、何か英語が表示されたと思ったら、象形文字のようなものが表示される。これはネウロイの言語?

俺「うぐぁっ!がぁぅっ!」ピー!ピー!

視界が真っ黒になり、中央に『SYSTEMS HACKED』の文字が表示される

その文字が消えると同時に、俺の意識は吹っ飛んだ


俺「…がぁ…あぐ…」ガクッ

俺の体から力が抜け、四肢がダランと垂れ下がる。赤目は消え、元の黒目に戻っているが、ハイライトが入っていない

エイラ「あぁ…」ガクブル

ネウロイに捕まった親友を前にして、私は何もできなかった

バルクホルン「おのれ…」ガチャ

エーリカ「トゥルーデ待って!俺に当たっちゃう!」

バルクホルン「しかし…!」

俺<<私の…を…で>>

一同「!?」

俺<<私の…>>

私は耳を疑った。俺の口が動いている。しかし、俺の声ではなかった。機械的な無機質さを持った女性的な声

バルクホルン「洗脳、されたのか…?」

俺<<私の、邪魔を、しないで…>>

それを最後にネウロイは瞬間移動し、ネウロイのパワーか何かで支えられていた俺の体が宙に放り出される

エイラ「俺!」ブゥゥン

ああ、前にもこんなことがあったナ、立場は逆だけど。などと思いながら、俺の腕をつかんで体を引き寄せる

エイラ「俺?しっかりしろ!俺!」

俺の体にはいまだ力がなく、まぶたは閉じられている

エイラ「俺…」グスッ

何の反応もなくて、このまま目を覚まさないんじゃないかって思えてきて…涙を抑えられなかった

エーリカ「エイラ…」

ハルトマン中尉が背中をさすってくれた。大粒の涙が、俺のジャケットの上に落ちる

バルクホルン「…こちらバルクホルン。ネウロイを取り逃がした。少佐と、俺が負傷。これより帰還する…」



 基地 医務室前廊下

宮藤「坂本さん!しっかりしてください!坂本さん!」

ペリーヌ「少佐!返事をしてください!」

宮藤が治癒魔法を掛け、必死に治療を施す。しかし、目を覚ます気配はない

エイラ「…俺」

その隣のストレッチャーには、同じく意識のない俺が寝かされていた

男性医師と看護師が駆けつけ、二人を医務室の中に連れて行く

宮藤「あ…」フラッ

バルクホルン「宮藤!?」

魔法力の使いすぎで、宮藤がふらつく

リーネ「芳佳ちゃん?大丈夫?芳佳ちゃん!」

エイラ「…」

私は、目に涙を浮かべ、立っていることしかできなかった


 夕方

坂本少佐は何とか一命を取り留めた。しかし、まだ予断を許さない

少佐の寝るベッドの脇のいすには、ペリーヌが座っていた

ペリーヌの後ろには、俺が寝ているベッド。こちらのそばにはエイラが座っていた

エイラ(俺…)

失いかけて始めて気づいた。私にとって俺は、とっても大切な存在になっていた

冗談を言い合ったり、戦闘でペアを組むだけじゃない。もっと大切な…それこそ、恋人みたいな

サーニャ『エイラは、俺さんのことが好きなの?』

以前サーニャに言われたことを思い出す

エイラ(私は…)

心電図の機械音だけが鳴り響く医務室。入り口のドアを開け、二人の少女が入ってきた。宮藤とリーネだ

ペリーヌ「っ!」

宮藤の姿を確認したペリーヌはイスから走るように立ち上がり、宮藤の顔にビンタを浴びせる

パン!と音がし、私は視線を宮藤たちに向ける

ペリーヌ「あなたのせいよ…何か言いなさいよ!今までのうのうと寝ていたんでしょう!」

リーネ「芳佳ちゃんは、魔法力を使い果たして、」

ペリーヌ「あなたは黙ってなさい!」

リーネ「黙りません!」

宮藤「…」タッタッタ

リーネ「芳佳ちゃん!?」

宮藤は少佐に駆け寄り、再び治癒魔法をかける。集中しているのか、運ばれたときとは違って無言だ

エイラ「…」

ポーチからタロットカードを一枚取り出す。出たカードは、死神の正位置

俺「…縁起でもないな」ムクッ

今まで寝ていた俺が体を起こし、小声で言う

エイラ「俺!?起きて大丈夫なのか?」

さっきまで全然起きる気配がなかったのに…でも、よかった

ナ、泣いてなんかいないんダカンナ!///

俺「俺の精神力なめんなよ」

口ではそういっているが、俺の黒目は虚ろだ

俺は宮藤たちのほうへ視線を向ける

エイラ「…私たちにできることは?」

俺「ないな。ただ黙ってみてるだけだ…」

ダイヤのエースも、灰色のメルス乗りも、こんなときには非力である


 翌朝 医務室

それから、一晩に及ぶ宮藤の治療の甲斐あり、少佐は無事目を覚ました

俺もかなり回復し、いざとなれば出撃できる。しかし、一日は安静にしてるようにとの事

宮藤「ん?あ…ああ!さk」

坂本「シー」

少佐はイスで寝ているリーネとペリーヌ、俺と俺のベッドに突っ伏すように寝ているエイラたちを指差した。静かにしろってことだ

宮藤「よかった…」

坂本「宮藤…ありがとう」

ありがとうといわれ、宮藤が少し顔を赤らめる。少佐は窓の向こう、空に眼をやる

坂本「宮藤、なぜ撃たなかった。あのとき、お前はなぜネウロイを撃たなかった」

宮藤「…撃てなかったんです」

少佐は宮藤の手をつかみ、引き寄せる

坂本「人の形をしているからか?あれはお前を誘い込む罠だ」

宮藤「でも、私あの時、何か感じたんです」

坂本「ネウロイは、敵だ」

宮藤「…もし私が撃っていたら、坂本さんも俺さんも、こんなことにならずに済んだんですか…?」

俺「そういう話をしてるんじゃないだろう?」

いつの間にか起き上がっていた俺が、横で寝ているエイラの頭を撫でながら言った

俺「過程や規則はどうあれ、俺と少佐は生きて帰ってきた。それで十分だ」

宮藤「でも…」

俺「あんたはミスをしたかもしれない。でも少佐を助けた。それでいいんだよ。
  もし、自信が持てないなら、自分の行いが、その感じた何かが正しかったかどうか、その目で確かめればいい」

宮藤「…」

俺「少なくとも、俺の世界じゃそうした」

宮藤はどこか納得していないようだったが、中佐に呼ばれて医務室を出て行った


 基地浴場

シャーリー「宮藤~自室禁固だって?それで済んでよかったなぁ!」ガシッ

宮藤「はわっ!はわわ」オッパ!

ルッキーニ「シャーリーなんて、五回も禁固刑喰らってるもんねぇ!」

シャーリー「馬鹿言え!四回だ四回!」

エーリカ「私、六回!にゃはは~!」

皆の笑い声が浴場に響く。でも、私の気分は少し晴れなかった

サーニャ「エイラ?」ワシャワシャ

エイラ「あ、ゴメン。痛かったカ?」

サーニャ「ううん。でもエイラ、元気ない」

エイラ「…俺がさ、話しかけても、どこか上の空で。ちょっと心配ナンダ」

窓の外の空を見つめ、何かを考えているような俺の顔。今まで見せたことのない顔をしていた

サーニャ「きっと疲れてるだけよ」

エイラ「そうだと良いんだけど…サーニャは、私と俺のこと、どう思ってるんダ?」

サーニャ「…エイラのことを応援してるわ。親友として」

エイラ「ソッカ…後であいつのところに行ってみるよ」

サーニャ「それがいいわ」

リンゴでも持っていこうかな


 基地宿舎

バルクホルン「いいな、宮藤軍曹。必要なとき以外は外出禁止だ」

自室の扉には鍵をかけられ、私はベッドにうずくまっていた

宮藤(どうして、誰も信じてくれないの?あれは間違い?…ううん、きっと違う…私、どうしたら良いんだろう)

ベッドに倒れるように横になり、目を瞑る

俺『もし、自信が持てないなら、自分の行いが、その感じた何かが正しかったかどうか、その目で確かめればいい』

医務室で言われた言葉を思い出し、今度ははねるように起き上がる

宮藤(やっぱり、確かめたい)


 再び医務室

俺「…少佐は、ずいぶん飛ぶことに執着しているんですね」

ここ数日感じたことを、二人きりという状況を利用して聞いてみる

坂本「知っていたのか…」

俺「中佐と話しているのが聞こえてしまって。すいません」

坂本「謝らなくて良い…私は、まだ飛ばねばならないんだ」

俺「宮藤のことですか…でも、もうあなたは――」

坂本「お前は、何のために飛んでいる?」

俺の言葉をさえぎり少佐が質問を投げてくる

答えようかどうか迷った。でも、いい加減認めるべきだと思い、思っていることを口にする

俺「…好きな人のそばに、居るためですかね」

言った後、ものすごく恥ずかしくなった

坂本「エイラか。お前らお似合いだと思うぞ」

俺「///」

しばしの沈黙のあと、少佐が自分の質問に自分で答える

坂本「…私にとって、戦うことは生き甲斐だった」

俺「侍か…向こうの世界では、戦うことと生きることは同じ。ただ生きるために戦う。理由なんてない。そういう世界でした」

理由のない戦争。戦うこと、生き延びることが生活の一部になった世界

坂本「恐ろしいな…」

俺「ええ、とっても。でもこっちに来てから、戦うことに意味を見出せた。生きるためでなく、誰かのために戦う」

坂本「その誰かが…」

俺「エイラです。彼女は、俺がこの世界にいる理由そのものです」

坂本「向こうに未練はないのか?」

俺「戻らなきゃって義務感はありますけど、もし戻っても、またこっちに来ますよ」

エイラに会えなくなるのはいやだから

坂本「そうか…おっと、噂をすればだ」

エイラ「俺ー!」バァン

少佐の言葉通り、ドアをぶち破ってエイラが入ってきた

俺「医務室だぞ、静かにしろ」

エイラ「あぅ、ご、ごめん…そ、それより、お腹空いてないカ?リンゴ持ってきたんダ」

俺「ありがとう、いただくよ」

坂本「私にもひとつ頼む」

エイラ「リョーカーイ」

エイラはイスに座り、ナイフでリンゴの皮をむき始める。剥いたリンゴを何等分かに切り分け、楊枝を刺す

切り分けたひとつを手に取り、俺の顔に向けてから一言

エイラ「ホレ、アーン」

俺「…ナンノジョウダンカナ?」

エイラ「一回やってみたかったんダ」ニコッ

いや、そんな笑顔で言われても…男のプライドが…だいいち少佐もいるし

坂本「お、うまいなこのリンゴ」モシャモシャ

何事もなかったかのように丸かじりしてる…

エイラ「ホーラ」

俺「ん…///」

観念して差し出されたリンゴを口にする。やっぱはずかしい

エイラ「ウマイカ?」

俺「…うん///」

何か話題を…

俺「そ、そういえばエイラ、俺のユニットや武器はどうなったんだ?」ムシャムシャゴクン

二つとも海に落っことした覚えがある

エイラ「回収して、全部ハンガーにあるゾ。ホレもう一個」スッ

俺「アム…」

坂本「見てきたらどうだ?無事がどうか気になるだろ」

俺「そうですね、見てきますか」スクッ

二個目のリンゴを飲み込み、ベッドから立ち上がる

エイラ「立って平気なのカ?」

俺「少しは体動かさないと。行こうエイラ」

エイラ「ウン!」ニコッ

最高の笑顔で手を握ってきた。驚いたけど、何かあったかい

坂本「ごゆっくり~」ボソ

…何も聞こえなかったよ?


 ハンガー前廊下

俺「宮藤は自室禁固か。それで済んでよかったな」

エイラ「ホントだよ。でもまぁ、あれで命令違反とか減ればいいけど」

俺「おいおいひどいなぁ…」

抵抗軍じゃ、単純化された上下関係があるだけで、命令違反など規則や罰則はあまりない

そもそも、罰則を与える前に死んでたりするのもある

ハンガーの入り口の扉を開け、中に入る。発進装置の一つに灰色のメルスがセットされ、ラックにはプラズマライフルが収まっていた

手にとって一通り動作を確認する。特に問題はない

エイラ「よかったナ」

俺「ああ…ん?」

エイラ「どうしタ?」

俺「…なぁ、宮藤は自室禁固中だって言ったよな?」

エイラ「そうだけど?」

俺「…宮藤のユニットがない!」

11と書かれた発進装置には、本来あるはずの宮藤の零式艦上戦闘脚がなかった

エイラ「え!…まさか、脱走!?」

アワアワとエイラがうろたえる「少佐に連絡…いや中佐にカ?」などといってる

俺はベルトの右腰にSAA、後ろ腰にPPKを挿し、ポーチに予備の弾薬が入っていることを確認し、自分のメルスを装着する

エイラ「お、おい?何してるんダ?」

俺「宮藤を追う。あいつはきっと人型ネウロイに会うつもりだ。俺も行く」

エイラ「行ってどうするんダヨ!?あのネウロイは俺を洗脳して――」

俺「人型ネウロイは俺を使って何かを伝えようとした!それを確かめに行くんだ!」

エイラ「ダメだ!そんなことしたら、今度こそ俺は…」

声が震えている。目にも涙が浮かんでいる。また俺が倒れると思っているようだ

俺「エイラ、信用しろ」

エイラ「でも…俺が…死んじゃ…」グスッ

俺「俺を誰だと思ってるんだ?灰色のメルス乗りだぞ?簡単に死んだりしない」

エイラがうつむいたまま黙ってしまう。広いハンガーの中で二人きり、メルスのエンジン音だけが鳴り響く

エイラ「…皆にはなんて伝えればいい」

エンジン音にかき消されそうな、か細い声だった

俺「…I'll be back」

俺の言葉に顔を上げたエイラの目をしっかりと見る。その目には涙が浮かんでいた

それでもエイラは笑顔を作る。俺も微笑み返す。今の俺たちに、言葉は要らなかった

滑走を始めた俺は、やがて雨の降る暗闇に消えていった



  ―次回予告

 俺「は?撃墜命令?」ブゥゥン


 エイラ『…あ、あのな俺!その、この任務が終わったら―ザー―に…を――ザー―』


 俺「全員動くな!武器を捨てろ!」スチャ


 宮藤(違う…このネウロイは、敵なんだ!)


 エイラ「俺!手を伸ばせ!――」


 俺「…ああ、人間でもない」


 エイラ(私たちの物語は、まだ始まったばかりナンダナ)
最終更新:2013年02月15日 12:42