がたがたと、揺れる車体に揺らされながらルーデルは不機嫌な顔になる。

アーデルハイド「随分と不機嫌そうですね大尉」

ルーデル「不機嫌にもなるぞアーデルハイド」

運転席で運転しているアーデルハイドの言葉にルーデルが不機嫌そうに答える。そう返ってきた言葉にアーデルハイドも苦笑いを浮かべる。

アーデルハイド「まあまあ・・・それにしても今月で婚約の申し込みが十件とは・・・なんといえばいいのやら」

ルーデル「ふん、所詮私の地位に目がくらんだ連中だ。それに上の連中は私にさっさと地上勤務に移って欲しいらしいからな」

アーデルハイドの言葉に、ルーデルがそう答える。そう、ルーデルは今月に入り十件の婚約の申し込みをされたのだ。その申し込み相手もほとんどが財政界
の御曹司だったりと・・・普通だったらすぐにでも飛びついてもおかしくない条件にも関わらず、ルーデルはそれらを断っているのだ。

ルーデル「それに私はまだ戦える。なのになぜわざわざ地上に降りなければいけない。そうは思わないかアーデルハイド」

アーデルハイド「まあ、そうですね。私も空を飛び続けられる間は降りたくはありませんな」

ルーデル「そうだ。とにかく私は戦いたい・・・だから、私はまだ空から降りんぞ」

わかっております。とアーデルハイドが答える。そして、ふと気づいたように質問する。

アーデルハイド「大尉。今日はどうします?宿舎に直行しますか?」

ルーデル「・・・いや、少し散歩したいから適当なところでおろしてくれ」

ルーデルはそう答え、アーデルハイドは了解しました。と答えその後二人は他愛のない会話をした後、ルーデルは車から降りて散歩でもしようと歩き始めた。



~~しばらくして~~

ルーデル「(はあ・・・本当にどいつもこいつも・・・)」

ルーデルは歩きながら今日会った相手を思い出す。どこかの御曹司のようで好青年といった風貌の男だったと思うが・・・やたらと甘い言葉を吐き、
さらには明らかにルーデルの地位や財産にしか目が向いていない・・・おまけに仕舞には

『僕はあなたが傷つくのをこれ以上見たくない。だから地上で訓練官として働かないか?』

と言い放った。これを聞いてルーデルは完全に興味をなくし、すぐに席を立ちその場から去った。その際に男がなにか言っていたが耳には入っていない。

「(何があなたが傷つくのを見たくないだ。正直に『これ以上抱くときに萎えるような傷を増やすな』と言えばいいものを・・・)」

カサリと、鼻の傷を撫でる。随分前に着いたこの傷は今は痕となって残っている。もちろんルーデルはこんな傷まったくもって気にしていないため
どうと言う事ではないのだが・・・相手にとってはそうではないらしい。大抵ルーデルとあった相手はこの顔の傷を見て顔を顰めるか、同情の目を向けるかのどちらかだけである。
そのことを思い出したのか、ルーデルはチッと軽く舌打ちをして懐からタバコを出そうとしたとき・・・

ルーデル「・・・ん?」

チラリと、前方を向く。そこには建物があり中から明かりが漏れていた。

ルーデル「(あそこはハンガーだな・・・誰かが消し忘れたのか?)」

やれやれ、と思いながらルーデルは口に咥えかけたタバコを元に戻しハンガーへと向かう。




~~ハンガー~~

ガタ、カタ、カラン、シュシュ

ルーデルがハンガーに入ると、なにやら金属を布で拭くようなそんな音がしていた。ほかにもなにやら金属音のようなものもして、最初は泥棒かとも思ったが、
ここは軍事施設でそうそう入れるところではないと思い、候補からはずす。

ルーデル「(なら・・・整備師の誰かか?)」

そう思うルーデル。いつもなら残った仕事をしているのだろうと思い、すぐに出るのだが、なぜか知らないが誰がいるのかが気になったルーデルは試しに音のするほうへと向かうと、

?「・・・」

一人の男がそこにいた。その男は座っているため背丈はわからないが、体つきはガッチリとしており鍛えているのがわかる。顔はまあ中位で良くもないし悪くもない。
その男はルーデルの存在が気づかないほど集中しているのか、真剣な目で手に持ったスパナなどを布で拭いて汚れを落としている。

ルーデル「(誰だ?黒髪のところをみるとどうも扶桑人のようにも見えるが・・・)」

しかし、ルーデルの記憶には扶桑人の整備士はいなかったはずだ・・・そんなことを考えていると、男はぐぐ、と伸びをして時計を見る。

?『ふわぁ・・・もうこげん時間か。もう少ししたら寝るとしもんそ』

方言なのか、ルーデルは今までに幾度か扶桑のウィッチと会話したことがあり、大体の扶桑語は話したりできるのだが、これは訛りが強くかろうじて聞き取れる
くらいだ。男はまた布を手に取り今度は螺子を拭き始める・・・ルーデルはついに気になって声をかけてしまった。

ルーデル「おいそこのお前」

?「うお!?」

急に呼び掛けられたのに驚いたのか、男は変な声をあげ肩を竦める。ルーデルはその姿が可笑しかったのかククッと小さく笑ってしまった。

ルーデル「いきなり声を掛けられたからといってそんなに驚くな」

?「あ?ええ、すいません集中しているといつもこうでして・・・」

アタフタと、男は立ち上がり頭を下げる。そこで初めて身長がわかったが・・・大体170センチぐらいでそこそこに高い。顔も横から見たとおり中位だ。

ルーデル「(・・・先ほどあってきた男と比べたら天と地ほどの差があるな)」

すぐに帰ってきたが、先ほどあった青年は確かに美青年といったところだ。だが目の前にいる男は街中のどこにでもいるような感じの男・・・まさに天と地。
だが、なぜか知らないがルーデルはこの男に興味を引いた。

ルーデル「まあいい・・・それで?お前はここでいったい何をしていたのだ?」

ルーデルは気になっていたことを率直に聞く。機体の整備ならとっくに終わってるはずだし普通ならもう寝ている時間だ。だが、男は寝ずにスパナやネジと言った
工具を磨いているのみ・・・そこが気になったのだろう。男ははははっと笑い、

?「ははは・・・まあなんといいますか。やはりウィッチの皆さんのストライカーをしっかり整備するには腕もそうですが、最高の部品や整備道具も必要ですからね
      • 錆びたり汚れすぎたりしないように拭いていたんです」

ルーデル「・・・ここにある工具全部をか・・・?」

ルーデルは驚いたように男を見る。普段なら冗談だろうと笑って流せるのだが、男の周りにはすでに磨かれて光を反射している工具などが多数ある
しかも全部が全部汚れ一つないように磨かれているのだ。男はええ、まあと答える。

?「まあ、もちろん全部を全部と言うのは無理でしょう・・・ですが、それでも私にできることはできるだけしたいのですよ」

ルーデル「・・・」

ルーデルは、目の前にいる男をジッと見つめる。本当に変哲もない男だ。顔はニコニコと笑っている・・・それを見ているとなにやら落ち着くのをルーデルは
感じていた。

?「あの・・・何か私の顔に付いているでしょうか?」

男は困惑したように聞く。どうやらルーデルがいきなりジーと顔を見ていたのに気になって聞いてきたのだろう。ルーデルははっと気づき、

ルーデル「い、いや、なんでもない!!そ、そういえばまだ名乗っていなかったな。私はカールスラント空軍第二急降下爆撃航空団第十飛行中隊のハンナ・U・ルーデル。階級は大尉だ」

?「ああ、そういえばそうでしたね・・・私は三日前より扶桑から派遣された整備師で俺軍曹といいます。以後お見知りおきを」

ルーデルの言葉にすみませんと答え自分のことを名乗る。俺軍曹か・・・と呟き、うむと頷く。男・・・俺と名乗った男は先ほどと同じニコニコとした顔でいる。

俺「そうだ、ルーデル大尉。どうせですから何か飲んでいきますか?休憩室にそれなりに飲み物をそろえていますけど・・・」

ルーデル「そうか?なら悪いが頼むか・・・コーヒーはあるか?」

俺「軍用のくそ不味いインスタントなら」

あっけらかんに言う俺に、ルーデルは頂こうと微笑みながら答える。俺は置いてあった工具を片しルーデルと共にハンガーの休憩室へと向かった。




~~休憩室~~

俺「どうぞ、コーヒーです」

ルーデル「ありがとう」

椅子に腰掛けているルーデルに俺は淹れたてのコーヒーを手渡す。ルーデルはずずっと啜り、

ルーデル「・・・確かに不味いな」

眉を顰めながらそう答えた。あははと俺は笑いながら答える。

俺「まあ眠気覚ましにはちょうどいい・・・っと今の時間じゃ不味かったですかね?」

すでに十二時を過ぎているため、今から寝るとしたら大変だろう。

ルーデル「いや、かまわんよ。どうせ今夜はまともに寝れる自信がなかったからな」

ここに来る前にあった青年のことをまた思い出してしまい、若干苛立つルーデル。俺はそんなルーデルを見て、

俺「・・・私でよければ相談に乗りますよ?まあ聞くことしかできないでしょうが・・・」

といった。おそらく、これがほかの男性隊員なら鼻で笑って心配ないというのだが・・・なぜかルーデルはコイツになら話してもいいかもしれないと
思い、

ルーデル「実はな・・・」

話しはじめた。今日の見合いのこと、今までのこと・・・ルーデルは今までにアーデルハイドぐらいにしか言わなかったことをまるで何年も共にいる
友人に話すように話し始めた。俺は俺でこういう聞き役になれているのか、相槌を打ちながらルーデルの話しを聞いていた。

ルーデル「・・・俺軍曹。少し聞きたいのだが・・・」

俺「はい?なんでしょうか?」

ルーデルはふと思ったことを聞こうと思った。俺は俺で何を聞かれるのか?と聞く体制に入っていた。ルーデルは最初少し口篭るも、

ルーデル「・・・俺軍曹は、顔に傷がある女をどう思う?」

そう言い放つ。今まで、どのような男に会ってきてもこのように対面して話しをするときに、先ほども言った通り大体の男は二つの反応しかしない。顔の傷を見て顔を顰めるか、
同情するかだ。だが最初まともに対面した俺はそのような反応は一切なかった。ゆえに気になったのだろう・・・対する聞かれた俺はう~むと考え、

俺「う~んまあ・・・ついた傷によりますが・・・基本はまったく持って気にしませんね」

きっぱりと言い放った。

ルーデル「・・・は?」

あまりにもあっさりと答えた俺に、ルーデルは多少呆けたように目を開きながら見る。俺は手に持ったコーヒーを啜りながら答える。

俺「まあ私個人の意見を言ってしまえば、別に女を顔で選んでいる訳ではないですからね。まあさすがに自虐でつけた傷、っと言うのは嫌悪感を持ってしまいますが、
  戦闘でついた傷、というのであれば私は一切気にしませんよ?・・・にしても本当に不味いですねこのコーヒー。やはり豆から作ればよかったかな・・・」

コーヒーに酷評をいいながら俺はさらさらとルーデルの質問を答える。ルーデルはコーヒーのことはどうでもいいといった感じで俺に話しを聞く。

ルーデル「なぜだ?男はやはり美しい女と一緒にいたいと思うものではないのか?」

俺「あ~・・・ほかの人の意見はよくわかりませんがね、先ほども言った様に私はあまり気にしてないんですよ。だってそうでしょ?顔に傷があるからって理由で
  相手を捨てるような奴は糞ですよ。本当にその女性が好きならたとえ顔に傷があろうとなんだろうと愛せるはずですよ」

ルーデル「・・・」

ルーデルは目の前にいる俺のことを凝視する。今までにない反応・・・ルーデルはそれに思わず驚いているのだ。

ルーデル「(こんなこと言う男は初めて見た・・・)」

そして改めて、俺の顔をジッと見る。何の変哲もない顔・・・俺はそんなルーデルの視線に気づいたのか、ニコッと笑う。だがその顔を見た瞬間、ルーデルの胸の内が熱くなっているのを感じた。

ルーデル「~~~!!(な、なんだ!?この胸の内側から湧き上がるような感覚は・・・!?)」

過去に、数多くの男から微笑まれたことがあるルーデル・・・だが、いま感じるこの感覚は、どのような男の笑顔を受けたときよりもはるかに心を打った。

俺「?ルーデル大尉どうしたんですか?急に顔を紅くして・・・」

ルーデル「い、いやなんでもない!!も、もうこんな時間だな。よしすまないが私はこれで失礼するとしよう。コーヒーうまかったぞ!!それではな!!」 

急に顔を紅くしたルーデルに俺は大丈夫かと聞く。だが、ルーデルはその俺の心配してくれている顔にすら嬉しさがこみ上げてきたため、このままでは可笑しく
なってしまうのではないか?と思い、お礼をそこそこに休憩室から飛び出し自室へと走って帰っていってしまった。取り残された俺はそれをぽかんとした顔で見送り、

俺「なんだか・・・思っていた以上に面白い人だったなぁ」

とクスリと笑いながら飲み終わったコーヒーカップを片し始めた。


~~ルーデル自室~~

さて、先ほど休憩室から飛び出したルーデルはというと・・・

ルーデル「~~~~!!」

自室のベッドの上でなにやらぶつぶつと顔を紅くしながら呟いていた。

ルーデル「うう・・・いったいなんだというのだこの気持ちは・・・」

とても不思議に感じる思いを感じながら、ルーデルは先ほどの俺の笑みを思い出し、

ルーデル「~~~~ッ」

また顔を紅くして、ベッドの上でゴロゴロと転がり始めた。しばらくしてぴたりと止まり、

ルーデル「俺・・・か」

俺の名前をボソリと呟き、あの顔を思い出す。決して作ってるわけではないニコニコとした周りを安心させる笑み・・・あの笑みを浮かべながら、ルーデルは
カサリと自分の鼻の傷を撫でる。

ルーデル「私でも・・・いいのだろうか?」

ボソリと呟き、すぐに自分がとんでもないことを言ったと気づき、

ルーデル「わ、私はいったい何を考えて・・・!?」

ボンと顔を真っ赤にしながらまた枕に頭を押さえつける。




その後、ルーデルは朝まで似たようなことを行い続け寝坊してしまい、シュツーカ隊員たちが驚いたとか・・・それはまた別の話しであり、この数日後に
俺がルーデルの専属整備師として働くように指令が動くのもまた別の話しである。
最終更新:2013年02月15日 12:57