—1ヶ月後—


俺「ここに…戻って来られるなんてな」

一時期は沈静化を見せていたネウロイの活動が全世界各地で再開し、ここ第501統合戦闘航空団前線基地にも攻めこんできた。
カールスラント本国からの勅令により今日付けでこの小隊に参入することとなった俺は、滑走路に降りたお怒りな様子で睨みつける怪力彼女と満面の笑みで腕に抱きつく無邪気な金髪少女に辟易しながらも、この一ヶ月のことを思い出す。





カールスラント奪還から二週間後…と言ってもそこまでの記憶はない、後から聞いた話。

目が覚めてまず目に入ったのは真っ白な天井だった。
どうやら病院らしい。しかしこれはどうだろうか、体中に張り付いている電極みたいなのは…まるで実験やら改造やらをされている途中みたいじゃないか。


看護師「あ、目が覚めましたか!少々お待ち下さいね」

機器のチェックをしていたらしい女性がこちらに気づくと急ぎ足で部屋を出ていく。意識自体ははっきりしているのだが、妙に身体が重い…俺はどのくらい寝てたんだ?

とりあえず最後の記憶としては奪還戦でネウロイから撃墜されたってことぐらい…あぁ、俺負けたんだよなぁ…。そして今いる場所を俺は知らない。
ここはどこだ?カールスラントはどうなった?ネウロイは?トゥルーデ達は…?

色々なことが頭に浮かんでは消え浮かんでは消え…と考えがまとまらない。

30分ぐらい経った頃に先程の看護師と大柄の男性…ってこの人は!!


俺「ア、アルベルト空軍大将!?」

アルベルト「ハッハッハ、今は空軍元帥だがね。久しぶりだ、俺少佐」

俺「そ、それは失礼致しました!それで…どうして閣下がここへ?」

アルベルト「まぁ楽にして聞いてくれ。君も気になるだろ?自分の状況が」



アルベルト元帥から聞かされたことは俺にとって驚くことばかりだった。
撤退戦の結末、ネウロイの進行拡大、ロマーニャでのオペレーションマルス、そして二週間前にあったカールスラント奪還戦に現れた人型ネウロイ、そして俺自身のこと。

記憶の最後からは既に数年が経過していて俺は戦時中行方不明扱いとなっていたが、トゥルーデ、エーリカ、マルセイユの三人が人型ネウロイを討滅すると内部から俺が現れたこと。


また現在いるここはただの軍の病院ではなく、一研究機関としての役割が主らしい。

死んだと思われていた過去の軍人、ましてネウロイとなっていた人間となれば洗脳や身体的異常がないと考えられる方がおかしい。
検査も含めてここへと運ばれたようだ。

俺が眠っていた二週間の間に検査自体は済んでいた。結果は全くの異常無し…ではあるが今後の経過がどうなるかは異常を発見出来なかっただけで完全にはわからないと。

んー…聞けば聞くほどに訳がわからない。


アルベルト「さて…君の今後の処遇だが…君はどうしたい?」

俺「と、言いますと?」

アルベルト「そのままの意味だよ。君は今じゃカールスラントどころか世界中に名が広まった英雄のウィッチの一人だ。
      その功績にはカールスラントの民全てが感謝している、無論私も。そこで…上層部は君に異常が見られない場合、所属を自由に決める許可を出すことにした」

俺「つまりは戦わない道を選ぶことも可能だが、監視のために軍内部にはいなければならないってことですね」

アルベルト「表向きは先に私が述べたとおりだが実際はその通りだ。君ならわかってくれるだろう…仕方無い状況であることも」

俺「ええ…」


話を聞く限りじゃ彼女は今でも戦場に立ってるのか。それも最前線……。
それに俺が救出された内容も聞いてしまった以上、軍としては当然の処置でもあると理解できた。


俺「でしたら私の行く先は決まっています」


そうさ、いつだって俺は…俺の戦う理由は決まってる。彼女が戦場に立っているなら、そこが俺の居場所だ。


俺「トゥルーデの…ゲルトルート・バルクホルンのいる部隊への入隊をお願いします」

アルベルト「……いいだろう。彼女はよくやってくれている、君がいなくなってからも最前線で戦い続け軍のトップエースにまで上り詰めた」

俺「彼女ならいずれそうなっているだろうと思ってましたよ…でも、昔っから案外脆い奴なんです。それに約束しましたからね、あの時」

アルベルト「…そうか。あぁそれと、ウルスラ曹長に礼を言っとくといい。君が救出された報せを聞いてすぐにストライカー製造の許可を申請してたからね。もう開発もだいぶ進んでいるはずだ」

俺「ウルスラが…でありますか?」

ウーシュか…技術部の方へ転属したことは覚えていたがうまくやっているようで何より。


アルベルト「少佐が戦場に戻ることを彼女はわかっていたんだろうな。ひとまず、今日伝えるべきことは全て伝えた。501への配属は手配しておこう。
      ストライカーの調整やテスト、少佐自身のリハビリが全て済み次第になるがいいかね?」

俺「はい、感謝します元帥。………あ、もう一つだけよろしいでしょうか?私が目覚めたこと、彼女達はまだ知りませんよね」

アルベルト「ああ…私も急いで来たからな。目覚めた場合には私に直接ラインを繋ぐようにしていたから」

俺「それならば501に配属の際に誰が行くなどの情報を全て伏せたままにしておいてもらえないでしょうか?」

アルベルト「構わないが…何故だ?」

俺「ちょっとしたイタズラです。久しぶりに彼女の驚く顔が見たくって」


そう言って少々子供っぽい笑みを見せた俺に元帥は大声で笑いながら部屋を出ていったのであった。

さーってと…脳内時間じゃそこまで時間が経ってるわけじゃないが、早くトゥルーデに会いたいし早めに復帰しないと。
























必要な検査も残り少なかったので一週間程で早速退院することが出来た。

手配されていた宿舎に着くと入り口には軍服やらなんやらのセット一式。
以前に使用していたものは流石に処分してしまったらしい。当然と言えば当然だな。

着られる服が軍服だけっていうのも味気ないが…文句は言えないか。

ひとまず軍服に身を包みトレーニングルームへ。体力・身体能力は落ちていないようだが訛っているのは致し方ない…ずっとベットの上だったわけで。






身体を動かし始めて二時間ほど経った頃、重い鉄扉の開く音がした。

その先にいたのは小柄でメガネをかけた金髪の少女。軍服の所々が煤けているからおそらく作業場から直接来たんだろう。

俺「ウーシュか。久しぶりだな」

ウルスラ「俺さん…お久しぶりです。見つかったと聞いた時は驚きましたよ。よくご無事で…」

俺「ありがと。まぁ誰でも簡単には信じられないよ…人がネウロイの中から出てきたなんてさ。……それより、元帥が言っていた件かな?」

ウルスラ「はい。俺さんのストライカーユニットの基本構想資料は一度制作していた分が残っていましたのでそれほど時間はかかりませんでした。
     形にはしたので後は俺さんに履いてもらってテストと調整・改良を繰り返すだけです」

俺「相変わらず仕事が早いな、ウーシュは。姉と全然性格が違うのもあの頃のままだ」

ウルスラ「お姉様は何といいますか……天才肌ですから」

俺「……言いたいことはわかるけどね」



以前エーリカの部屋を訪れた時はすごかった。ただでさえ狭い部屋がうず高く積み上がったゴミやら服やらよくわからない物で大部分を占めていたのをよく覚えている。
その中で蠢くシーツに包まった真っ裸n…あの後トゥルーデに怒られたっけ。



ウルスラ「それでいつからテスト始めますか?俺さんのストライカーはワンオフ機なのでいくら元の理論書があってもテスト要項はかなりあります。
     技術部の皆さんも最新鋭機の新規開発だって頑張って仕上げてくれましたけど、内部規格の決定やサブユニットの設計に二週間、閣下から連絡を受けて一週間で開発・組立て…
     全部でまだ三週間そこらです、腕を疑うわけじゃありませんけれど不具合も出てくるかもしれませんし…」

俺「か、かなり苦労をかけたみたいだね…。テストはー…早速明日から可能かい?」

ウルスラ「現段階でも可能なステップはいくつかありますが…体は大丈夫なんですか?」

俺「異常がなさすぎて不思議なくらいだ。何も問題はないよ」

ウルスラ「…無理はしないでくださいね、事故なんか起こしたらお姉様も悲しみます」

俺「はいはい」

ウルスラ「それでは明日第二格納庫にいらしてください。上層部の方へは私が報告しておきますので」

俺「ありがとう、ウーシュ」

ウルスラ「いえ…」














―翌日―


昨日ウーシュに言われていた通りに第二格納庫へとやってきた。
本来多くのストライカーユニットが入り、整備されているはずのそこにはたった一機のユニットしかなかった。
整備兵だけでなく理論面での話もあるからか作業服の他にも白衣がちらほら見える。

…なんでこう、学者とか研究者は白衣を好むのか。何かこだわりでもあるのだろうか。


床一面には野太いケーブルが張り巡らされ、ありとあらゆる機器は全て奥に鎮座するストライカーユニットへとつながっていた。
近づいて見てみると黒を基調とした本体に赤と白のラインが交わるように入っている。
他のストライカーとは違う最大の点、脚裏に付けられた10機のサブユニット。見たところ形状は変わっていないようだが…



ウルスラ「俺少佐…もういらしてましたか」

俺「やぁ」

整備兵に指示を飛ばしたり次々と渡されるデータの処理に忙しそうだったので黙っていたが気づかれたらしい。あと呼び名は公私で別けているのか。
彼女の一言で他の作業していた面々も一斉にこちらを向いた。注目を浴びるのは好きじゃない…なんか怖いし、男ばっかりだし。


整備長「ぜ、全員気をつけ!!敬礼!!!!」


若干慌てた男の号令で誰もが作業を止め、ビシィッっと音が聞こえてきそうな敬礼をした。

俺「あぁいや、崩してくれていいよ。感謝するのは俺の方だから」
と言ったもののいつまで経っても姿勢を崩さない。一体どうしたものか。


整備長の側にいるウーシュに目配せをしたところ、理解してくれたようだ。


ウルスラ「これからテストの説明と仕様について少佐に説明をしますので、皆さんは引き続き作業をお願いします」

整備長「了解しました、ハルトマン主任!」


整備長が動き出したのに釣られて他の人達もそそくさと持ち場へと戻っていった。


ウルスラ「俺さん、これがあのストライカーユニット『BS-R1』のスペック一覧です。以前使用していたもののスペックも載せていますから参考にしてください」

受け取った四枚綴りの冊子に目を通していくと昔では考えられないような進歩を遂げていた。確かに基本構造は変わらないが出力の違いや魔法力の変換効率・伝導率等では比べ物にならない。
戦時中が最も急速に技術発展が進むというのも確かに納得出来る。


ただ、ここまで全体的な向上となるといささか制御できるか不安だ。
なんにせよ一度動かして見ないと詳しいことまではわからない。


俺「それじゃ、調整が済み次第始めようか」



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それから数日、連日行われた起動実験も遂に終わった。

実験中発覚したいくつかの問題もスタッフの尽力のおかげで当初予定されていた高機動をほぼそのままにしてクリア。無事『BS-R1』はロールアウトすることになった。


現在は輸送飛行艇にユニットや銃火器の積み込みも終了し、翌日の出発を待つだけとなったところである。

撤退戦から一ヶ月足らず、俺にとっては三週間ぐらいの期間であったがまさに怒涛の勢い。
それでも彼女の元に早く行くためには無理を通すしかなかった。


俺「皆には感謝しないとな……」

はっきり言って全て俺個人のわがままだ。ウーシュはもちろん整備の皆にも結構な負担をさせてしまっていたと思う。
ネウロイを倒すことが目的じゃない…というよりも、彼女を守るために戦ってその結果としてネウロイを討つことになる。

家族や友人がネウロイの被害にあったこと等がきっかけでここにいる人たちには申し訳ない気もしてしまう。


ウルスラ「負担だなんて…誰も思っていませんよ」


…エーリカにもこんな感じのスキルがあったような。
ハルトマン姉妹は心でも読めるのか?それとも――――


ウルスラ「はい」

俺「え!?」

ウルスラ「冗談です。ですが本当に、私達の誰一人として負担とは思っていません。あなたはそれだけのことを過去にしてくれています」

俺「あれだって…あくまで自分のためだよ」

ウルスラ「どう思っていても結果、私達は生き延びることが出来ました」

俺「そんなもんかなぁ…」

ウルスラ「そんなもんです」

















俺「明日、行くよ」

ウルスラ「はい、お気をつけて」













―翌日―

背後の飛行船は既に発射準備を終えていて、タラップを下ろして俺が乗り込むのを待っていた。
見送りに来てくれた『BS-R1』の開発スタッフ全員に敬礼。

俺「諸君等全員に感謝する」

それに合わせたように一斉に返す。

一列で綺麗に揃っている…のだけ見れば壮観だが、一仕事やり終えたという清々しいまでの笑顔で見送られてはどうにも格好がつかない。
ウーシュの言った内容とは別の意味、主に技術屋の面であっていたようだ。

整備長「我らも俺少佐のストライカーユニットの開発に関われたことを誇りに思います!501でのご活躍を祈っております!!」

俺「うん、ありがとう」


別れを告げて飛行艇に乗り込んだ。彼らの尽力のおかげで俺はまた飛べる、戦える。

突然会いに行ったら彼女はどんな顔をするだろう。やっぱり…怒られるだろうなぁ…。
カールスラントからそこまで遠くない第501統合戦闘航空団前線基地に到着するまでの間、久しぶりに会う旧友達の顔を浮かべながら過ごしていた。
最終更新:2013年02月15日 13:30