想像力は俺に逃げ道を作らせた。
ライトノベル、アニメーション、漫画、映画、ラジオ、インターネット…
彼女達は、受身側でしかない俺に何を与えてくれたのだろうか。
それは仮想と虚無の「愛」「感動」「興奮」「居場所」…そして何より本当の「依存」だった。
しかし、現実から逃げた先の先で、会える筈の無い本当の彼女に会えた時、
……俺に与えられたものは――
――
――深夜、自宅――
身体が動かない。
今日も良い調子だ。床に着いて30秒もしない内に金縛り状態になれた。
これでこそオナ禁の甲斐があったというものだ。万が一夢精したとしても、パンツの一枚や二枚関係無い。
いや、夢精するような「離脱」こそ至高であろう。
後は身体を少しずつ揺さぶり、次第に身体を宙に浮かすことを意識すれば完璧だ。
すぐさま俺はこの居心地の悪い世界からストライクウィッチーズの世界にワープすることが出来る。
俺『心が落ち着いている、心が落ち着いている…よし…』
自己暗示による体外離脱。
人間の脳の働きを利用したレム睡眠時の遊び。簡単に言うのなら、リアリティに溢れる夢を自分の意思で観ること。
俺はその幻覚を今夜も味わおうとしている。
――長所、特技、性格、何一つとして飛び抜けたことのない平均以下な自己であった俺にある日転機が訪れた。
約2年前、夜中、突然全身が攣ったように硬直し不気味な音が部屋に響き始め、俺はパニックに陥った。
初めて金縛りを味わった時だ。
足元から近づいてくる気味の悪い耳鳴りから逃れるため、ベッドの上で必死にもがいた。
するとどうだろう、次第に硬直は解け、身体が宙に浮き始め、まるで幽霊のように壁を突き抜け、
空を駆け巡ったのだ。
何が起こったのか、言葉の展開通り理解できない。
一瞬にして小さな部屋が広大な夜空に変わった。周りには雲さえも見える。
あまりにもリアル過ぎる、目に映る大空、吹き抜ける風の感覚。
幽霊により天に召されたのか、精神病に侵されたのか、それとも夢なのか。
俺「なんか…ストパンのウィッチになったみたいだ』
混乱により咄嗟にそう呟いた瞬間、脚が急激に重くなった。
違和感を感じ俯いて確認してみると、そこには鉄の足枷、所謂「ストライカーユニット」が装着されている。
俺「…マジかよ』
しかもプロペラが動いており、縦横無尽に自分の望む方向へと移動が可能になっているではないか。
俺「は…はは…ははっ!…最高』
よく分からないが、これはもう楽しむしかない。
望んでいたものが実現した瞬間だった。身体が揚々と動く。俺は思い切って空を自由に飛び回った。
恐怖が薄れ、本当にストパンの世界に入れたのかと興奮した。これがウィッチになった気分か、絶大だ。
宙返りも急上昇も何でも出来る。俺は今まで口から出したことの無い笑い声を高々に上げ空を駆け回った。
大きく両腕を広げ、高速で雲を貫き4次元の世界を体感する。
髪が波打ち、風が頭から手の指先まで吹き抜け、それによって体温が下がってゆく。痛みさえも感じられる。
だがそれさえも快感になり、次から次へと起こる新たな体験に心は踊る。
声が広大な空間に響渡り、ストライカーから発せられるプロペラ音や軋む音が胸の高鳴りを止めさせようとはしなかった。
俺「イヤッホオオオオオオオオオオオ!!』
夢中だった。
しばらく旋回した後、疲れさえも感じた俺は一息ついて停止し、もう一度足下の機種名が分からないストライカーを目で確認する。
月の光が金属面を反射させ、テカっている独特なフォルムに目は釘付け。新しい玩具を買って貰った子供の頃の感覚に近い。
あまりの興奮により前屈して匂いも嗅いでみる。鉄とオイルの臭い。
目をつぶって音を聞いてみる。紛れもなく本物のプロペラ音だった。
俺「すげぇ…………?………あれ?』
しかし何かが違う。プロペラ音が重なっている。
さらに耳を澄ませてみると一方は足下の方向、もう片方は背後から聞こえた。
片方の音が段々と傍に近づいている感じがする。
?「…ぁ…」
俺「?』
?「あの…」
俺「え』
機械の音だけではない、これは少女の声もだ。振り返るとそこには、
サーニャ「あの…あなたは誰ですか?」
何万回とモニターの向こうで見たことのある、武器を持つ少女が俺に話しかけていた。
俺「さ…ささささ…サーニャ…え!?』
サーニャ「…何で、泣いているんですか?」
俺「えっ……はっ?』
彼女に言われて気が付いた。俺の眼からは何故か涙が流れていた。手首にその一滴が垂れる。
俺「え…えっ?……う…嬉しい…から…?』
突然の遭遇、しかし意外な一言を言われた俺は、戸惑いつつ返答した。冷や汗さえも流した。
理由は不可解だが、ストライカーを手に入れ、目の前にはずっと会うことを願っていた彼女がいるんだ。喜びや興奮は抑えられないはず、だから「嬉しい」と言って当然だ。
俺「はっははは………』
サーニャ「………?」
だけど自分でも分かっている、その返答は嘘だと。
俺「…ごめん』
本当は、
サーニャ「えっ…」
俺「…違う…ちがう…本当は、辛いから…なんだ』
辛くて堪らないから。
サーニャ「………」
俺の涙が止まらなくなっていた。
俺「どうすればいいんだ……たすけてくれ…たすけて……助けてっ…』
サーニャ「……」
俺「たすけて…っ…うぅ…サーニャぁ…』
サーニャ「……はい』
そこで、俺の目が覚める――
――
あの日の衝撃が、今の俺に至るまでの切欠だ。
体験を基に「体外離脱」「幽体離脱」という言葉を知り、惹かれ、それに多くの時間を注ぎ始めた。
俺は偶然体外離脱をしたから、男のウィッチになって彼女に会えたのだ。なら、これはもう体外離脱をしまくるべきだ。
しかし、ただ単に体外離脱をすれば彼女に会えるということは無かった。自分の脳内にイメージを埋め込まなければ夢は実現しない。
なのでイメージを強める為、俺は「俺ストSS」を今まで以上にひたすら書き綴った。そして日々の訓練の結果、自分の書いたSSを夢の中で再現することが可能なまでに成長する。
今は時間設定が夜のSSしか体験できないが、いずれ昼夜問わず、どの時間の彼女達とも会えるようになってみせるさ。
会えたら勿論、ウィッチ達との恋を実現させ、彼女達への愛を持って俺のやりたい放題にする。
会話、接触、恋愛、抱擁、接吻、生殖、人間が可能な限界まで。
文章や動画や絵ではない、彼女達との関わりをよりリアルに求める、
SS内の俺と、俺を一致させる瞬間。
それが現実の俺にとっての最高の才能、体外離脱。俺の生きがい。
そして、辛い現実からの脱出。
俺『…今だ』
身体が浮き始める。
金縛りから解かれ、俺は瞬く間に夢の世界へと飛び立った。
――夜、ロマーニャ上空――
少女は魔導針を発生させ、哨戒をしながらもラジオ電波を受信して異国の音楽に耳を澄ます。
サーニャ「ふわぁぁ…」
しかしラジオを聞いていても眠気は訪れた。日中に訓練があったため、哨戒に慣れている彼女であっても今日は辛いのだろう。
クルクルと回りながら飛行して、何としても寝ないようにし始めた。
サーニャ「……?」
すると、魔導針が何かを感知した。
一旦停止して周りを見渡す。
サーニャ「これは…もしかして俺さんの…」
覚えのある感覚。そう、これは俺のストライカーの音だ。
自分が飛び立ったロマーニャ本土の基地が在る方角へと振り返ってみる。
サーニャ「…あっ」
俺「おーい、サーニャ!』
そこにはウィッチであり、扶桑の軍服を身にまとった「俺」がいた。
プロペラの音が近づいていく。二人の距離が短くなるほど、サーニャの頬は次第に赤くなっていった。
俺「はぁー追いついた』
サーニャ「俺さん…なんでここに?」
俺「夜間飛行させてくれってミーナ中佐に頼んだら許可を貰えてね。それに今日はサーニャが訓練で疲れてそうだったから』
サーニャ「え?」
俺「一人より二人のほうが安心するだろ?』
サーニャ「…はい」
周りには誰もいない、自分達だけの特別な空間。
俺「501に配属されてもう一ヶ月か。サーニャと一緒に夜間哨戒をするのは…三回目だっけ?』
サーニャ「はい。今と、以前今みたいに飛んできてくれたのと…」
俺「初めて会った時、だったよな?あの時は驚いたな、夜中なのに振り向いたら女の子がいるんだもん』
サーニャ「私も驚いた…男の人がウィッチなんて噂だけだと思ってたから」
俺「俺だってまさか自分に魔法力があるなんて信じられなかったよ…でも、そのおかげでサーニャにも会えて本当によかった』
サーニャ「…えっ」
俺「まだ501に来て一ヶ月しか経ってないけど、此処はとても良い…俺が前にいた場所より何倍も安心できる』
サーニャ「……俺さん……」
俺「…なぁサーニャ、手…繋いでいい?』
サーニャ「………」
恥ずかしがりながら俯く彼女はそのまま黙っていると思いきや、俺にどう返答するかを悩んでいた。
サーニャ「…はい…」
俺「…ありがとう』
俺は優しくサーニャの手を取って、彼女の体温を感じる。
感触、形、温度、何にしても本物としか言えない小さな手。
俺「これで少しは眠気を抑えられるね』
サーニャ「ううん…私は安心するから眠くなる」
俺「……そっか』
この時間が永遠に続けばいい。心の底からそう思った。
俺「なぁサーニャ、俺と
――次の瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。
――明け方、自宅――
俺『あっ…』
突如、天井から蛍光灯がぶら下がっている光景へと変わる。目が覚めた。
…そうか、今日もまた夢が終わってしまったのか。
俺『っ…畜生…もう終わりかよ』
再現出来たのは序盤のみ、全体の四分の一といったところだ。
俺『んだよ…この後はもっとサーニャといろんなことができたのに…』
俺もまだまだ訓練が足りないんだな。だが書いたSS内の「俺」や「サーニャ」の台詞が夢の内容と多少違っても方向性は同じだ。
しっかりイメージは出来ている。
現に俺は彼女と手を繋げた。この後は本当なら抱きついてキスまでいく予定だったんだがな。
取り合えずまた寝るか。その前に自律訓練法だな。んで起きたら一発抜くか。オナ禁も逆にそろそろ解禁するべきだろう。
そんなことを考えながら、俺はもう一度床に着く。
俺『身体が重い…心が落ち着いている…身体が重い…心が落ち着いている…』
そして呪文を唱えるように、俺は完全再現に向けて訓練を開始させる。
今日は平日だが、そんなことは関係ないんだ。ずっとこうしていよう。
俺『身体が重い…心が落ち着いている…――』
――
――早朝、ロマーニャ基地付近――
二つのプロペラの音が明け方のアドリア海上空に響いていた。
サーニャ「俺さん、そろそろ基地に到着します」
俺「…何でだ?」
サーニャ「はい?どうしたんですか」
俺「いや、記憶が無いんだ。何で俺は夜間哨戒なんてしてたんだ?訓練や急な出撃のために魔力を温存しなくてはならないのに…」
サーニャ「?」
俺「最近何かがおかしい…いきなり目の前が暗くなる。そして俺は見たことのない部屋の中にいるんだ…目が覚めたと思ったら君が」
サーニャ「きっと…疲れてるからだと思いますよ?」
俺「そうか?そうだと良いが…」
1945年、春。
第501統合戦闘航空団ロマーニャ基地に配属となった俺中尉は立て続けに奇妙な体験をしていた。
しかも、それは夜間に限ったことである。
―つづく―
『俺』の安心は、「俺」の不安へと反比例する。
そして二つの世界に生まれた繋がりが「俺』を生み出してゆく。
この世界は妄想か、夢か、それとも実在するものか。
最終更新:2013年02月15日 13:31