――「ストライクウィッチーズ」ロマーニャ基地、滑走路――
11人の少女と1人の青年を合わせた12人のウィッチは所謂組み体操に近い体系をとっていた。
今から遥か上空に存在するネウロイのコアを叩く作戦を決行する。
宮藤とサーニャの両名を33333mまで上昇させるため、三段構えの打ち上げ体制をとり各員がロケットブースターをストライカーに備えカウントまで待機している。
俺「……」
正直、俺はこの作戦に参加することに対して迷いがあった。
以前のような禁断症状とも言える行動を再度起こしてしまう可能性がある。そうなった場合、今回はウィッチの純潔に抵触するだけでは済まされない。
命さえも奪う結果になるだろう。
しかし何故この場にいることが出来るのか、自分でも理解できない。
サーニャに手を出そうとした一件はミーナに全て打ち明けた。自ら女性ウィッチが存在しない部隊への配属換えをも頼み込んだ。
だが、彼女は俺の頼みに応じようとはしたものの結局そうはならず、ここ501に残れと決断を下した。
配属換えが許可されなかったのは、逆らえない上層部直々の推薦によって俺がこの基地に配属された為なのだろう。
そして前回の事件から二週間以上経過しても禁断症状は現れず、前例が夜の時間帯のみなので、この昼間の作戦への召集が下った。
しかし、自分の身体は自分が一番良く知っているつもりだ。
悪い予感しかしない。
いや、違う、その予感はまやかしだ。あの記憶を失くした症状など慢性的なものではなく突発的なものだ。
治ったんだ。俺はもう元の俺に戻ったんだ。本国の期待を裏切るわけにはいかない。今は作戦に集中し
ミーナ「10!」
不安と迷いに抵抗している最中にカウントは始まった。
坂本「9」
バルクホルン「8」
ハルトマン「6!」
ルッキーニ「ごー!」
リーネ「4」
ペリーヌ「3…!」
エイラ「……」
その時、俺の隣で肩を並べているエイラの顔を一瞬見てしまった。
不機嫌そうに目を下に据えている。
そういえば彼女はリトヴャク中尉と口論になったと聞いたな。
この作戦の件について互いの意見の食い違いがあったようだ。
何か支障が無ければ良いのだが。
俺「…0!」
それより今は自分の役割を果たすことに集中しよう。
第一打上班はロケットブースターに点火する。
耳を突き抜けるような激しい轟音が周囲に響き渡った。
――上空、高度10000m――
限界高度に達した坂本ら第一打上班は離脱に取り掛かる。
坂本「我々第一班の離脱後、第二班は至急ロケットブースターの点火を行え。みんな、頼んだぞ」
そう言葉を残し、第一班は離脱した。
坂本は更に上昇してゆくサーニャ達の進行方向に誤差が無いかを確認するため、眼帯を外して魔眼を発動させた。
坂本「……!?」
だが進行方向に誤りは無いものの、予期せぬ問題が起きていることを彼女は気付く。
坂本「こっ…これは!」
バルクホルン「少佐?」
ミーナ「少佐、何があったの?」
坂本の目には、一つではなく二つの赤い光が映った。
坂本「コアの数が、二つに増えている…成層圏に移動形のネウロイを発見!」
バルクホルン「どういうことだ!?」
初発見時以来、高高度にて魔眼を使うことは無かった。空軍の調査は完璧だと踏んでいた為でもある。
なのでネウロイの数が増えていると予想出来ている筈も無い。
エーリカ「それじゃあ、宮藤達はネウロイを2回もやっつけなくちゃいけないってコト?」
シャーリー「ただでさえ危険なのに、片方のネウロイは動いてるのか…!」
ミーナ「……」
バルクホルン「くっ…どうするんだミーナ!」
ミーナは突如発生した異常事態に対し、指揮官として冷静に判断する。
ミーナ「…今回の作戦は中止します。あまりにも危険過ぎる…。後が無いわけではないわ、作戦を練り直しましょう」
坂本「……了解した」
精鋭である501部隊として作戦を中止することに悔いはあるが、部下の命には代えられない。
坂本「こちら坂本。第二打上班、聞こえるか?」
作戦を中止せよとの声が、更に遥か上空で上昇を続ける彼女達の耳にインカムを通して伝わった。
――上空、高度20000m手前――
ペリーヌ「ちゅ…中止ですって?」
ルッキーニ「え~!?ここまできたのにぃー?」
リーネ「ネウロイがもう一体増えてたんだよ?仕方ないよ…」
俺「あぁ、ここは少佐の指示に従うしかない」
宮藤「そんな…」
そうだ、この判断は正しい。幾ら防御力や攻撃力が高い彼女達とはいえ、荷が重過ぎる。
此処で作戦を続行するという思い切った行動をすれば
予想以上の被害を
被る可
能
せ――
俺「な」
首が、かくんと傾いた。
――上空、高度20000m――
俺「…』
リーネ「あ…あの、俺さん?」
俺「……!!』
ストライカーを履いて空を飛び、ロケットブースターの轟音が響いている。
足元から伝わる尋常じゃ無いほどの振動、頭と肩に押し寄せる風圧、吹き飛ばされそうなスピード感。
そして何より、いつもより濃い青空。
俺「よしっ…よし!…俺も協力するよ。3人でネウロイを倒そう』
宮藤「えっ!?」
ペリーヌ「なっ何を言い出しますの!作戦は中止と、坂本少佐がおっしゃっていたではありませんか!」
俺「ん、中止?まぁ大丈夫だよ?3人なら絶対に倒せるって』
俺中尉らしからぬ発言だと、サーニャを除くその場の全員が目を丸くさせた。
よし、成功だ、やった。見事に離脱した。
二期6話の展開を味わうことが出来るなんて最高すぎるだろ。
久しぶりのこの世界、本当に待ち遠しかった。
催眠薬やθ波BGM、適度なオナ禁を取り入れた訓練が遂に実ったんだ。
ルッキーニ「えっ?俺も倒しに行くの?」
俺「あぁ、ってかルッキーニじゃんか!お…おまいホントにかわええなぁ』
俺はルッキーニの頭を慣れない手付きで撫で回した。
ルッキーニ「にゃにゃ?んんんっ?」
試行錯誤の結果、夜間や朝方だけでなく昼間でも『俺』はストライクウィッチーズの世界へ体外離脱することが可能となっていた。
祖父母に見つからぬよう財布から金をくすねて病院へ行き、事前に調べた不眠症の症状をぺらぺらと語り、そして誤診によって睡眠薬を処方され手に入れる。
後はそれを飲み込み、θ波をスピーカーから垂れ流し、展開のみに正確さを求める為に台詞を除いた地の文のみで構成された体外離脱用再現SSを読みながら、
深夜ではなく昼間に体外離脱を行う。
たったそれだけで、夢の世界はまた広がった。
今回はサーニャだけではない、エイラも宮藤もリーネもペリーヌもルッキーニも周りにいる、今すぐ全員を抱きしめたい。
俺「よし、いってくるよ…』
だが、その前にもっと良い雰囲気にしよう。そう、このまま33333mまで俺とエイラーニャの3人で上昇し、ネウロイを倒すんだ。
そしてそいつを倒し終わった後、ウラル山脈を見ながら俺達3人は肩を寄せ合って一緒に帰還する。やばい想像しただけで、にやけてしまう。
俺「もう一人いたら安心するだろ、サーニャ?』
サーニャ「は、はい…俺さん」
サーニャはこくんと頷く。これはもう同行してもよろしいと言っているようなものだろう。
俺「3人なら確実だ。絶対に勝てる』
ペリーヌ「俺さん、一体何を!!」
宮藤「サーニャちゃんと俺さんが行くなら、やっぱり私も行く!」
ペリーヌ「なっ、宮藤さんも!命令違反ですのよ!?」
俺「ウィッチに不可能は無い!』
サーニャ「……』
俺「いくぞ、サーニャ、宮藤!俺の魔力はまだある、ロケットブースター全開!』
俺とサーニャと宮藤の3人は腕を組み、ロケットブースターに点火する。
弾道飛行に移る前の高度30000mまで、再上昇を試み始めた。
ペリーヌ「ちょっと、あなたたちー!!」
ペリーヌ達との距離が離れてゆく。
俺はサーニャの顔を伺った。どうやら離脱したウィッチ達の方向が気になるようだ。
おっし、そろそろ来る頃だろ?
エイラ「あっ…イヤだっ!」
エイラの抑えていた感情があふれ出る。
エイラ「私が…私がっ…サーニャをまもるっ!」
再点火したブースターで無茶も承知のように俺達を追いかける。
エイラ「私が…サーニャを守るんだー!!」
だがその手は届かない。しかし、引き返した宮藤は手を差し伸べ引き上げる。
宮藤「いきましょう、エイラさん!」
そして宮藤はエイラをサーニャと俺のところへ導く。
うん、予想通りの展開で安心した。
――上空、高度33333m、成層圏――
宮藤が離脱した後、エイラとサーニャが笑顔で向き合っている様子を見た俺は、思わず顔の全筋肉が緩みきってしまうのだった。
そして今、成層圏に達し、弾道飛行に移った俺達3人はサーニャを中心に手を繋いでいる。
俺「』
「浮いてる…すごい景色だ」と呟いた筈だが、空気が薄いので当然小さな声は聞こえない。
その時ふとサーニャと目が合い、口をぱくぱくさせていた俺に微笑んだ。
サーニャ「」
俺「…』
俺は少し照れて、後頭部を手で掻いて誤魔化す。
エイラ「!」
だがうかうかしている暇は無い。俺達の目には先端のみが赤く光る細長く黒い物体が映り込んだ。
当然、あちらも俺達のことを確認しただろう。
ネウロイ「」
コアが見えた。しかしその部分にエネルギーを集中させ、ネウロイは瞬時にビームを撃つ体勢に変化する。
ネウロイ「――」
数秒後、3人の目の前を大きな赤い光が包み込んだ――
俺「!?』
想像以上の恐怖に俺はたじろく。正直、シールドの出し方なんて分からない。
エイラ「!!!」
しかしエイラは初のシールドを張ってビームを弾き、赤い光を多方向へ分散させた。
安堵した俺はその時「何かしなくては」という発想が浮かんだが、戦闘に関しては何も出来ない。
よく考えたら、33333mまで行って俺にやることなんて何にも無いじゃんか、エイラーニャでネウロイ倒しちゃうし。
そんじゃ俺お払い箱?いや、俺はイチャイチャすることが仕事だから別に良いか。
あ、それよりも、なんでさっきペリーヌは作戦は中止だとか言ってたんだ。
うーん、そんな作戦中止とかの展開は本編にねぇしSSにかいてねぇしなぁ。まぁ俺の夢だからいっか。
まだ俺は自分の書いた離脱用SSを完全に再現できてないのかもな。
ビームが止み終わり、エイラから手を離したサーニャはフリーガーハマーを放つ。
連続した眩い明るい光がネウロイへ向けて飛んでゆき、その光はコアを砕けさせた。
サーニャ「!」
コアの破壊が成功し、輝く爆風が押し寄せ本編同様サーニャは吹き飛びそうになったが、
俺「』
俺が彼女の離れた手を掴んだ。
しかし当然シールドを張っているエイラも手を伸ばしている。なので俺はもう片方の手でエイラの手を掴んで、サーニャの手を寄せて繋ぎ合わせた。
ここはエイラを優先すべき。宮藤と同様の気配りと言ったところだ。
エイラの少し火照った顔が俺を見つめ、その可愛らしさに耐えられず思わず目線を逸らした。
エイラ「」
爆風が止み、シールドが解かれ、エイラとサーニャは身体を寄せ合った。
やっぱりいいなぁ、エイラーニャは。まぁ俺はそんなにレズビアン、いや百合に興味はないけどこれだけは萌えざるを得ない。
さて俺も混ざろう。そして最高の瞬間を味わおう。
頭を寄せ合わせて髪を交え、骨伝道か何かで会話するんだ。
身体を軽く捻りながら二人に近づいていき、それに気が付いたサーニャが手を差し伸べてくれた。
それを掴むため、俺も手を伸ばす。
エイラ「!!」
だが――
俺「!!!!?』
何かが俺の腹部あたりを通り過ぎた。そして身体が強引に仰け反ってゆく。
伸ばした手がスローモーションの様にサーニャの手と離れてゆき、親指と人差し指の間から彼女の青ざめた表情が見えた。
え?
と、思った後
激痛が脇腹を貫いた。
俺「――――――!!!!!!!!!!』
叫びたかった、いや叫んでいた。聞こえていないだけだ。
痛みが感じる部分を手で押さえたが、余計痛くなって喚く。
サーニャ「!!――!」
その口の動きから推測するに、彼女も叫んでいただろう。しかしそれよりも俺は自らのことで精一杯だった。
現状に理解できずパニックに陥り、もがき苦しんだ。痛みで何も考えられない。
血は止め処無く溢れ出し、それは腸までに達しているほどの重症だった。
エイラ「!!!――」
エイラとサーニャが無理矢理俺を引き寄せてシールドを張った。
涙で視界がぼやけている中、黒い角張った物体が遠くで動いていることだけは分かった。
そうか、あれはネウロイ、ネウロイに撃たれたのか。ネウロイ?なんでまだいるんだ?さっき倒しただろ!?
それより痛い、痛い、痛いし寒いし辛いし苦しい。これは夢だろ!?なんでこんな痛いんだよ、もう許してくれよ。
ネウロイとかもうどうでもいい、痛い、痛い、痛い、やめろ、死ぬ、覚めろ、もう夢から覚めてくれ。
痛みも感じる体外離脱なんて、リアルにも程があり過ぎる。
俺「!―!―!―!―!』
まるで発作を起こした病人のように震えていた。
痛みから逃れようとしている人間の本能なのか、手が勝手に閉じたり開いたりする。
助けて、助けて、たす
サーニャ「落ち着いて、俺さん」
俺「……さっ…サーニャぁ…?』
気付けば、俺の頬にはサーニャの頬が当たっていた。
サーニャ「これから、ロケットブースターを使ってあのネウロイから逃げます」
俺「い…や…いっいかないで!置いていかないでくれぇっ!!』
サーニャ「大丈夫です…一緒に帰りましょう」
暖かく優しいサーニャの声が、俺の頭の奥にまで響いた。
彼女の服や手には、血がべっとりと付いていた。白い肌が俺の血で汚されている。
それでも彼女は錯乱した俺の手を握り締め、頬を撫でてくれていた。
サーニャ「安心してください…私がいますから」
俺「あ……あぁっ』
サーニャ「泣かないで、俺さん」
俺「なんで…だ?』
サーニャ「…?」
なんで俺みたいな人間でも優しくしてくれるんだ?
自分から3人で戦おうだなんて偉そうに言い出して、いざとなったら何も出来ず、結局攻撃くらって足手まとい。
痛みに我慢できなくて、泣き出して、狂って、カッコ悪くて気持ち悪いのに。
それは当然、実在しない夢だからなのか?
俺「痛い…痛いぃぃ…』
エイラ「まったく、男のくせに情けないぞ?」
エイラも頬を当て俺に声を掛ける。
サーニャ「…私が、必ず俺さんを連れて帰ります」
ネウロイ「――」
エイラ・サーニャ「「させないっ!!」」
そして更に追い討ちをかける二撃目の赤い光線。俺を抱きかかえている少女二人は瞬時にシールドを張った。
俺「さ…さーにゃ…えいら…ぁ』
サーニャ「大丈夫ですよ、俺さん」
痛みで顔を歪ませる俺に対して、シールドを張りながら優しく微笑んでくれるサーニャ。
今までの人生において、他の人間からこれほど自分を想ってくれたことがあるだろうか。
ない、彼女達だけだ。
俺「…さ……に…ぁ――』
その優しさと安心感に身を任せながら、俺は意識を失った――
――
――夕方、俺の部屋――
俺『はぁっ…はぁああっ…はぁ…』
体外離脱が終わり、夢から覚めた。汗にまみれた両腕が小刻みに震えている。
俺『終わったんだ…終わった、なんだよ今日の夢はっ…』
感じたことも無い激痛。ストパン世界を正確に再現しているとはいえ、度を越えている。それに何故、別のネウロイが登場する展開が起こったんだ。
ビームを喰らった恐怖が身体に染み付き、二度寝しないようにと直ぐに布団から半身を起こした。
俺『いっ…たぁああっ!』
しかし痛みが残っている、夢は終わったはずなのに。
夢の中だけで感じた激痛なのだが、現実においても脇腹を貫いた。
上着を上げ、無い筈の傷の場所を確認する。
そこは蚯蚓腫れになっていて、形として現れていた。
俺『は、はぁ…?夢のはずだろ…?痛っ…』
信じられない。離脱し過ぎたってことなのか、いやそんなことがあるわけない、でもこれは。
ふざけんな。こんな夢望んで無いんだ。何で俺が傷なんて負わなくちゃならないんだ。
もう一匹ネウロイがいなきゃ完璧だった。俺はサーニャ達とイチャイチャできりゃいいんだ!なんだあの夢。
俺『なんで…腫れてんだよ…あああああああああ!!!』
痛みの恐怖と現実に引き戻されたとで、俺は夢の中で与えられた彼女の優しさを忘れた。
突然暴れ出して、本棚を倒した。
どさどさと本が崩れ落ち、散らかった部屋が更に汚くなっていく。
あんな化け物と戦えるか、もう痛みなんて感じたくない、怖い、怖い、怖い。
そうだ、俺は戦う必要なんて無い。だって、あれは俺の夢なんだぞ。
好き勝手やって良い。なんで躊躇してたんだ、俺は馬鹿か。
俺『はぁっ…もうっ…ネウロイと戦うとか、演出とか考えねぇ…』
床が見えなくなった部屋の中央に立って呟く。
俺『ひたすらっ…イチャイチャだけでいい……雰囲気とかどうでも良い、辛い思いはしたくない…』
恋人らしくなればいい、抱き合ったりキスしたりセックスするだけでいい、そういうSSの展開を書いて最後まで完璧に再現出来れば良い。
SSを書く本来の目的はそれなのだから。
彼女達は、俺がどんなに醜くとも汚くとも、優しく微笑んでくれるのだから――
痛みを誤魔化し、解消し損ねた性欲を満たす為、パソコンをつけた後、俺は精子臭いパンツをずり下ろした。
そして、それは次に書く体外離脱用SSの情報収集の為でもある。
―つづく―
純潔を失った少女はウィッチではなくなる。
しかしそれは同時に、少女を戦場に行かせることを止めることが出来る。
…都合が良いかもしれないが、なら俺は、彼女を戦わせないために、死なせないために…
…生きて、俺と寄り添って欲しいために…
だが、それは本当に少女の為なのか。
最終更新:2013年02月15日 13:32