アメリー「ううっ……ひっく……えぐっ……」

俺「……よし、絆創膏貼ったぞ。どうだ、もう痛くないか?」

アメリー「は、はい……えっぐ……うぇぇぇん……」

俺「本当に?」

アメリー「はい……うぁあぁん……ひぐっ……」

俺「……よっぽど痛かったんだな」

アメリー「ぐすっ……ちが……そうじゃ……うぇえん……」

俺「?」

アメリー「さっき……ぐすっ、自転車で……えっぐ、走ってて……」

俺「ああ」

アメリー「転んで……そ、その時に……ううっ……! 花壇に……」

俺「ぶつかっちゃったのか」

アメリー「はい……そ、それで……! ぺ、ペリーヌさんの育ててた、お花を……わたし……!!」

アメリー「うぇえええええええええん……!!!」

俺「……わざとじゃないんだろ?」

アメリー「はっ……はい……うぁあああああん……!」

俺「あー、分かった分かった。ほら、もう泣くな。な」ナデナデ

アメリー「ぐすっ……えぐっ……」

俺「俺も一緒に謝るから。な? わざとじゃないなら、ペリーヌもきっと分かってくれるさ。
  だからな、早く泣き止んで、ペリーヌのところに行こう。いいね?」

アメリー「……」コクッ

俺「よーし、いい子だ。ほら、これ食べな。美味いぞ」

アメリー「…………」モグモグ

俺「そのピーナッツ食べ終わったら、一緒に行こうな」

アメリー「……ありがとう……俺さん……」



――ペリーヌの部屋――

ペリーヌ「なんだ……いきなり真っ青な顔して部屋に来たと思えば、そういうことだったのね」

アメリー「ごめんなさい……ペリーヌさん……」

俺(ペリーヌ……今日も犯罪級なまでに清楚で可憐だ……)

ペリーヌ「アメリー、怪我は?」

アメリー「えっ……ち、ちょっと……足を擦りむいて」

俺(優雅な眼差し……透き通ったブロンド……知的な面持ち……鈴の鳴るような声……)

ペリーヌ「まだ痛むかしら?」

アメリー「い、いえ……もう大丈夫です……」

俺(ガリア奪還に命を掛ける覚悟を持った凛々しい横顔、アメリーら他のウィッチとの触れ合いの中で時折見せる、それとは対照的な温かい笑顔……。
  廊下ですれ違う度に心を奪われる……立っていられないほどに魂を揺さぶられる……)

ペリーヌ「……そう、良かったわ。僚機の貴女が大怪我なんてことになったら、花どころの騒ぎじゃないもの」

アメリー「え……」

ペリーヌ「よく正直に言ってくれたわ。偉い子ね、アメリー。
      気にしなくていいのよ。お花はまた植えればいい。それよりも、あなたが無事で何よりだわ」

アメリー「ぺ、ペリーヌさぁん……」ウルウル

ペリーヌ「ちょ、ちょっと……怒ってるわけじゃないのよ?」

俺(ああ……できることならこの時間が永遠に続いてほしい……ペリーヌをただただずっと、このまま見つめ続けていたい……)

ペリーヌ「だから……ほら、私は何も怒ってないから、もうお戻りなさいな」

アメリー「で、でも……私……」

ペリーヌ「あ、それなら……また今度、ハーブティーの淹れ方を教えて? この前のカモミールティー、すごく美味しかったから」

アメリー「は……はい! わ、私なんかのでよければ……!」

俺(自分の故郷が征服され、家族とも生き別れてしまったというのに……この優しさは何なのだろう? この溢れ出る愛は何なのだろう?
  やはり彼女は女神なのか? 人の形をとって現れた天の住人なのか? それならばこの光り輝くような美しさも説明できる…。
  ああ、彼女こそ俺の目の前に現れた女神<ヴィーナス>であり最高神<ゼウス>なのだ……美という名の稲妻で俺の心臓を麻痺させる、光の御子だ……。
  そうだ、俺は彼女に会った瞬間から死んでいたのだ。彼女を一目見たときから、俺の精神は肉体を離れ、そしてより高貴な次元へと――)

アメリー「――れさん、俺さん?」

俺「ぅわっ!?」

アメリー「どうしたんですか、ぼーっとしちゃって……」

俺「い、いや……何でもない、何でもないんだ……」

俺(マズった……ついトリップしすぎてしまった……このままでは俺はペリーヌに『人の部屋に来て恍惚の人になる駄目な上官』扱いされてしまう!
  彼女の、ペリーヌの反応は……!?)

ペリーヌ「……? どうしたんですか、俺大尉? ご気分でも……」

俺(よし…ッ! よしよしよしッ! セーフだ、怪しまれてはいない! 依然として俺は『部下の失態を一緒に謝る部下思いの上官』だッ!
  ここだ、ここしかない! 今日こそ言うぞ! 今日こそ言うんだ、あの一言を!)

俺「い、いえ……大丈夫ですよ、ペリーヌ中尉……そ、それよりですね……」

ペリーヌ「? はい」

俺(日頃の練習の成果を見せろ、俺!
  誘え……誘うんだ……『今夜食事でもいかがですか』と! 紳士的かつ文化的に、滲み出るような男らしさを込めて!)

俺「こっ、こ、ここここ今夜……い、いいいっしょにしょしょしょしょくぶっ!!!!」ブチッ

アメリー「!?」

ペリーヌ「!?」

俺(うっぐおおおああああああああああ舌がああああああああ)

アメリー「だ、大丈夫ですか、俺さん!?」

ペリーヌ「ど、どうなさいましたの!?」(植物…?)

俺「らんれもらい……らんれもらいれふから……! れ、れもやっはひ……ひ、ひふれいひまふ……!!」ボタボタ

アメリー「あっ! ちょ、どこ行くんですか俺さぁん!」

ペリーヌ「な……何だったの……?」

俺(ちくしょおおおおおおおまた言えなかったああああああああああ!!!!)



――俺の部屋――

アメリー「……舌、まだ痛みますか?」

俺「いや……」

アメリー「……また、言えなかったんですね」

俺「……ああ……」

アメリー「どうしてなんでしょうね……毎日、練習もしてるのに」

俺「……相手がお前だからかなぁ……」

アメリー「どういう意味ですか、それ!」

俺「いや……遠慮なく喋れるからさ……」

アメリー「……ペリーヌさんとだって、世間話は、普通にできるのに」

俺「世間話っつったって、続けられるのは2分が限界だ……すぐに上がっちまって、何を言っていいか……」

アメリー「あ、手紙とかどうですか? 『食事に行きましょう』って書いて、ペリーヌさんに渡すんですよ」

俺「ラブレターならまだしも、単なる食事の誘いだぞ? 『なんで口頭で言わずにわざわざ手紙で言うんだ』ってなるだろ……。
  『コミュニケーション障害者の駄目な上官』扱いされかねん……」

アメリー「……そ、そうですね……」

俺「……あーあ……カッコ悪い所見られたなぁ……『人の部屋に来て舌を噛む上官』だぞ? 駄目だ……絶対嫌われたよ……。
  絶対これから廊下で会う度に『あ、舌の人だ』とか思われるよ……」

アメリー「……ねえ、俺さん」

俺「……?」

アメリー「俺さん、いつからペリーヌさんのことが……?」

俺「……分からない」

アメリー「……分からなくなるほど、前から?」

俺「ああ。……どういうわけか……気が付けば、頭の中が彼女で一杯になっていた。
  心臓発作と同じさ。自覚症状なんて何一つ無く……ある日突然、襲ってくるんだ。『恋は病』……よく言ったもんだよ」

アメリー「…………」

俺「……まあ、いいさ。次がある。また誘えばいい。俺も彼女も、同じ基地に住んでるんだ。チャンスなんて、あと何百回もあるさ」

アメリー「……そう、ですね」

俺「……ありがとうな、アメリー。いっつも相談に乗ってくれて」

アメリー「いえ。……私も、いっつも俺さんにお世話になってますから。そのお礼です」

俺「全く、いい部下を持ったよ、俺も。これで泣き虫さえ治ったらなぁ……。
  『うぇーん、俺さぁーん! お腹が痛いですぅー!』」

アメリー「もっ、もう! やめてください! 似てませんよ! それに、そんなことで泣きませんから!」

俺「冗談だ、冗談」



――別の日、俺の部屋――

俺「ペリーヌ中尉、今夜、俺と食事に行きませんか」

アメリー「じゃあ、この写真を見ながら……」

俺(……写真になっても美しい……さすがはペリーヌだ……我がガリアの至宝……永久文化財、世界遺産……!)

アメリー「……俺さん?」

俺「! あ、ああ……ぺ、ペリーヌ中尉……こ、今夜……俺と……俺とっ……!」

アメリー「がんばって、俺さん!」

俺「こっ! 今夜俺と、食事に行きませんかっ!!」

アメリー「や……やったぁ! 言えました! 言えましたよ、俺さん!」

俺「は……ハハハ……汗が……凄いぞ……」

アメリー「写真に言えたんなら、本物のペリーヌさんに言うのなんてカンタンですよ!」

俺「そ、そうかな……」

アメリー「はい、きっと!」

俺「そうか……そうか! ハハハ……そうか……!」

アメリー(……羨ましいなあ、ペリーヌさん……俺さんに、あんなに好かれて……)

俺「今夜、食事に行きませんか、ペリーヌ中尉! ――どうです、今夜食事でも……ペリーヌ中尉?」

アメリー「……俺さん」

俺「ペリ――ん?」

アメリー「……そ、その……変な質問かもしれないんですけど……」

俺「どうした?」

アメリー「やっぱり、辛い……ですか? 片思い、って……」

俺「…………」

俺「……そうだな。少し……辛いかもしれない。『なんで気持ちが伝わらないんだ』って……思う事もしょっちゅうある」

アメリー「…………」

俺「……ホント、冷静に考えると……分かんないよな。何で……好きになったら、辛いんだろう。
  何で……辛いのに、好きでいられるんだろう……」

アメリー「…………そうですよね……」

アメリー「……ほんと……何でなんでしょう……」


    「――おい、知ってるか? クロステルマン中尉の話」

    「ああ、聞いた聞いた。中尉、あの坂本って少佐に着いていって――」


俺「……?」

アメリー(? 廊下から……なんだろ? ペリーヌさん……?)


    「――出て行くんだってな、この基地」


俺「 」

アメリー「 」



――数日後、俺の部屋――

アメリー「俺さーん」コンコン

  「……開いてる……」

アメリー「……失礼します」ガチャッ

俺「……よう……アメリー……」

アメリー「……出発、明日だそうですよ」

俺「……そっか…………」

アメリー「…………いいんですか?」

俺「…………」

アメリー「このまま、ずっとペリーヌさんに伝えないままで……」

俺「……俺の口下手、知ってて言ってるのかよ」

アメリー「明日を逃したら……もしかしたら、もう一生ペリーヌさんに会えないかもしれないんですよ?」

俺「…………」

アメリー「私だって……ペっ、ペリーヌさんとお別れするのは……ぐすっ……さ……寂しい、ですよ……!」

アメリー「でっ、でも……えぐっ……! このままじゃ……俺さんが……かわいそうで……!!」

俺「…………」

アメリー「あんなに毎日……ひっぐ、ペリーヌさんとお話しするために……れ、練習して……!
     それなのに……っ! ぐすっ……こ、こんなの……あんまりですよぉ……! だ、だから……」

俺「わ、分かった分かった! だから、泣くな。な?」ナデナデ

アメリー「……ひぐっ……ぐすっ……」

俺「――ああ、そうだな。確かにこのままじゃあ……あんまりだ。
  お前……毎日手伝ってくれたんだもんな。このまま終わらせちゃ……お前に失礼だよな」

アメリー「! じゃ、じゃあ……!」

俺「……言うよ。明日……見送りの時に。『ずっとあなたが好きでした』って。
  ちゃんと言えるかどうか、分かんないけどさ」

アメリー「……!!」

俺「よーし、そうと決まれば善は急げだ! 花屋で花束買ってこなくちゃな! 
  小洒落たメッセージカードなんかも載せて……」

アメリー(……よかった、俺さん……元気になってくれた)

アメリー(…………でも……)

俺「文面は何がいいかなあ……シンプルかつ奥深い、エスプリに富んだ一言を……」

アメリー(……やっぱり…………悔しいなぁ……)

俺「なあアメリー、お前はどう―― ?」

アメリー「…………」モグモグ

俺「……? どうした?」

アメリー「……別に……」モグモグ

俺「食べ過ぎない方がいいぞ。そのピーナッツ、ちょっと古いみたいだからな」

アメリー「…………」モグモグ

俺(……また何かマズい事言っちゃったか……?)

アメリー(……何やってるんだろ……意地になったって、俺さんがこっちを向くわけないのに……)

俺「な、なあ、アメリー……」

アメリー(……あーあ……)

アメリー(……片思いって……辛いなぁ……)

アメリー「……っ……」ポロポロ

俺「!? ちょっ……お、おい! そこまでか……そこまでの事言っちゃったか!?
  わ、悪かった、アメリー! なぁ!」

アメリー「……ぐすっ……えぐっ…………」



――翌日、アメリーの部屋――

ウィッチ1「アメリー、準備できた? ペリーヌ中尉、そろそろ出発するよ?」

アメリー「…………う、うん……」

ウィッチ2「ちょっと……あんた、大丈夫? 凄い汗よ……?」

アメリー「……だ、大丈夫……ちょっと、お腹が……」

ウィッチ1「え、お腹痛いの!?」

アメリー「うん……だ、だから……ちょっと休んでから……すぐに行くから……」

ウィッチ1「そ、そう? じゃあ……先に行っとくよ?」

ウィッチ2「ペリーヌ中尉に説明しとこうか?」

アメリー「だ……大丈夫だよ……船の時間もあるし……! それに、そこまで……遅くはならないから……!」

ウィッチ1「わ、分かった……気をつけてね」

ウィッチ2「それじゃあ、向こうで待ってるわね」

アメリー「う、うん……いってらっしゃい……」

アメリー「ううっ……はぁ……っ……はぁっ……」



――廊下――

俺「『ずっと貴女が好きでした』……『ずっと貴女が好きでした』……」

俺「よし、言える! 言えるぞ……」

俺「服も、花束も、カードも、そして練習も……完璧だ! これで――ん?」

ウィッチ1「……大丈夫かなぁ、アメリー」

ウィッチ2「先生呼んだほうがいいかしら……」

俺「アメリーがどうかしたのか?」

ウィッチ1「あ、俺大尉。……実は……」



――アメリーの部屋――

アメリー「……っ……はぁっ、はぁっ……痛っ……!」

アメリー(……やっぱり……昨日のピーナッツ……?)

ドタドタドタ…

アメリー(……もう……行っちゃったかな、ペリーヌさん……)

アメリー(……俺さん……ペリーヌさんに言えたかな……)

  「こっちです! 先生、早く!」

  「分かった分かった! それで、症状は?」

アメリー「……?」

  「アメリー! おい、大丈夫か!? アメリー!」

アメリー(……誰……? 誰かが……手を……)

アメリー(ダメ……よく……見えな……)

  「しっかりしろ……大丈夫だ! 大丈夫だからな、アメリー!」

アメリー(…………この声……まさか……!)

  「俺大尉、タオルを!」

  「はい! ……アメリー、大丈夫だ、先生が来てくれたからな、もう大丈夫だ……!」

アメリー(…………なんで……)


アメリー(……なん……で――)



――基地入口――

兵士「お疲れ様でした、クロステルマン中尉!」

ウィッチ1「501でのご武運、お祈りしています!」

ペリーヌ「皆さん……ありがとう」

ペリーヌ(……アメリー、来てないわね……それから、俺大尉も……)

ペリーヌ(…………俺大尉、か)

ペリーヌ(……最後まで、よく分からない人だったわ……)



――数時間後、アメリーの部屋――

アメリー「……ぅ、ん……」

俺「アメリー! 気がついたか!」

アメリー「お……俺さん……」

俺「よかった……お前が腹痛だって聞いて、心配で心配で……。
  先生はただの食あたりだって言ってたけど……」

アメリー「ず……ずっと……側に……?」

俺「タオルを取り替える奴が要るだろ? 先生は忙しいから、ずっと付き添ってもらうのも悪いしな」

アメリー「ぺ……ペリーヌさんには……!? 花束は……」

俺「――そうだな。どうしようか、あれ。捨てるのは忍びないし……部屋にでも飾ろ――」

アメリー「なんで……っ!」

俺「…………」

アメリー「なんで……なんでっ! 好きだったんでしょう!? 大好きだったんでしょう!?
     なのに……なら……! わ、私は……! なんで……!」

俺「……ああ、好きさ。大好きだよ。……でもさ、なにせ俺は、お前の上官だ」

俺「大事な部下が病気だってのに……放っといて愛の告白に行くなんてさ。
  なんつうか……カッコ悪いだろ」

アメリー「…………!」

俺「……それに、何も生き別れたわけじゃないんだ。考えてみりゃ、手紙だって出せる。501に宛てればいいんだろうしさ。
  そうだ、お前も書こうぜ。2人で、ペリーヌに対する色褪せぬ愛をつらつらと――」

ギュッ…

俺「……!?」

アメリー「ううっ……えぐっ……ぐすっ……! うぇぇぇぇぇん……!!」

俺「お、おい……アメリー……? どうした、また痛く――」

アメリー「ひっぐ……ち、ちがい…ますぅ……! うぁあああぁああん……!」

俺「わ、分かった分かった! ほら、よしよし……な、大丈夫だ、だからもう泣くな……」ナデナデ

アメリー「…………ぐすっ……ねぇ、俺さん……」

俺「うん、どうした?」

ギューッ…

俺「!」

アメリー「……もう少し……このまま……」

俺「あ――」

俺「あ、ああ……」





おわり




ご意見、ご感想等ありましたら
  • 何か心にジーンとくる物があるな… (2012-06-06 22:03:06)
  • おれの中の防衛線が一瞬にして突破された (2012-06-06 22:26:14)
  • やべぇ・・・何かジーンときた (2012-06-06 23:45:44)
  • これ完璧に最後はアメリー大勝利の流れだー!?面白かった実に美味しいです (2012-06-08 12:08:01)
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最終更新:2013年01月28日 02:44