第二話『BBA! テメーの明日は裸エプロンだ!』





――基地内 ハンガー



結局、俺一家はミーナの見解によりストライクウィッチーズに保護されることとなった。
未来からの来訪者、ましてやこの世界について右も左も分からない人間を放り出す訳にはいかないという判断からだ。
他にも様々な思いがあったものの、それが第一の理由がある辺り、軍人としては失格である。


ミーナ「まさか、二人とも魔法力を持っているなんてね。それも私さんは固有魔法まで……」

坂本「だが、私の方は身体の問題で戦えないぞ。しかし、それを補って余り張るほど俺の能力は高い。本当に、何者なんだ……?」

ミーナ「体力は成人男性の数倍、射撃能力は私達以上の命中精度、この世界の知識や歴史についても異常なほど呑み込みが早い」

坂本「言葉にしただけでもトンデモないが、実際に目の当りにすると存在自体が冗談にしか思えんよ」

ミーナ「元の世界では普通の学生だった、と言っていたけれど、普通の学生が銃の扱いなんて知っているものかしら?」

坂本「さてな、どんな世界であったかは聞いていないし、話そうともしない。得られた情報が少ないんだ、判断はできんよ」


ミーナ「ところで、訓練はやっているの? 性格的に真面目にやりそうにないのだけど……」

坂本「それがな、意外にも真面目にやっているよ。まあ、現状は俺が一家の大黒柱になるからな、家族を養う為には労は厭わんようだ」

ミーナ「家族に対しては誠実、という点は信用してもいいのかしらね」

坂本「だが、それだけだ。それだけなんだよなぁ……」


そこまで言って、はあと大きなため息を吐く。


俺「……と、さり気に持ち上げられてからディスられた訳ですが、どう思う?」

私「おい、10メートルも離れた場所に居る人間の話を拾うのは止めろ」

俺「聞こえるもんはしかたねーよ、俺は悪くない。というか、お前も聞いてんじゃねーか」ハッ

私「それを黙って見過ごしてやるのも優しさだ。私達も善意で彼女達に協力しているわけじゃない」

俺「まー、俺は金銭目的100%でやってるんですけどね?」

私「お前は他人に対して思いやりを憶えるべきだ」

俺「残念。なけなしの思いやりはお前とマミーにのみ向けているので、品切れです」

私「兄弟として、友として、喜ぶべきか悲しむべきか、判断に困るところだな」ヤレヤレ


俺「しっかしまあ、便利なもんだな固有魔法ってのは」

私「私自身驚きだ。こんな力、以前は持ち合わせていなかったが……」


俺と話しながらストライカーユニットの整備を行っていた私の周囲には、レンチなどの工具やネジなどのパーツが重力から解放されたように浮かんでいた。
彼の固有魔法に敢えて名前をつけるのならば、『金属操作』といった所か。恐らく念動系に分類される魔法だろう。


俺「磁力による単純な操作じゃないよな、これ」

私「金属に分類されるならあらゆるものが操作可能のようだな。それに金属を使った物なら魔法力を通して構造の把握もできるな」

俺「はー、これじゃあ銃弾も当たらないんじゃないか?」

私「恐らくは可能だろう。それに金属を常温のまま液化させたり 形を変えたりできるみたいだな」

俺「なにそれ怖い。分子とかにまで作用してんのかね」

私「基本、念動力とは物体に対して作用するらしい。それを特定の物にのみ作用させることで能力の強化を図ったのかもしれないな」

俺「何だこれ、本当にチートじゃねーか。空に上がったらストライカー履いてるウィッチは誰も敵わなねーぞ。おい、お前のことはこれからマグニートーと呼ぶわ」

私「気が付いたら、私はブラザーフットのリーダーか!」

俺「ということは、俺の能力はプロフェッサーXか。うは、夢がひろがりんぐ!」

私「お前はそもそも固有魔法を持っているか分かっていないだろうが! 仮にお前がそんな能力を持ったら世界中の人間が精神崩壊を起こすわ!」

俺「だな、俺もお前と敵対すんのは嫌だし」

私「せめて私は世界中の人間が精神崩壊を起こす方に反応してほしかったがなぁ!」



シャーリー「おー、今日も飽きずにボケとツッコミしてるなー」

私「好きでやってるんじゃない!」

俺「悔しい! でも、反応しちゃう……! だろ?」ビクンビクン

私「身体をくねらせるな! 気色悪いんだよぉぉッ!!」

シャーリー「ははは、相変わらず仲良いな、ほんと」

俺「たりめーだろ。ただの兄弟じゃねーんだぞ。穴兄弟だぞ、穴兄弟」

私「ふざけるなぁぁぁぁ! 戸籍上の只の兄弟だ、この下ネタマイスターがぁぁぁ!!」


俺「んで? 何の用だ、おっぱい」

私「くそ! 人の話を全く聞いちゃいない!」

シャーリー「いや、いい加減、私の名前覚えろよ」

俺「うるせぇ。お前の存在価値はおっぱいだけだ(俺の中では)」

シャーリー「ひでぇ。確かにスタイルには自信あるけどさ。ていうか、それならリーネもそう呼びなよ」

俺「それは無理だわ。サーニャんとかリーネにお前等と同じ調子で接してたら、流石に泣かれる」

シャーリー「あ、俺でも泣かれるのは嫌なんだ」

私「おい、騙されるな。コイツの場合はただ面倒なだけだ。本人のことを考えてる訳じゃない」


シャーリー「まー、それは兎も角として、私に相談があるんだけどさ」

私「何かね? 出来る範囲でならば聞いておこう」

シャーリー「他の仲間に聞いてるかもしれないけど、私の夢は音速を超えることなんだ」

私「ああ、確かルッキーニ辺りが、そんなことを漏らしていたのを聞いた気がしたな」

シャーリー「前に一度だけ超えたことはあるんだけど、色んな偶然が重なっただけで公式の記録じゃないんだよ」

私「……ふむ」

シャーリー「だからここは一つ、未来の技術と私の腕を借りたいなーと思ってさ」

私「音速を超えることが出来るかは別として、確かに一番の近道であるかもしれないな」

シャーリー「だろ! だから……」

私「断る」


取りつく島もない拒絶の言葉に、シャーリーの笑顔が凍りついた。


シャーリー「な、なんでだよ!」

私「確かに、私の固有魔法で部品の強度を上げ、エネルギーの効率化や私の持つ知識と未来の発想を使えば、音速を超えることは不可能ではないだろう」

シャーリー「………………」

私「が、それはあくまで私の成果であって、君とこの時代の人間による成果ではない。もっと分かり易く言えば、君でなくても音速を超えることは出来るということだ」

俺「そらそうだ」

私「そんなこの時代に生きる人間としての誇りも矜持もない、ただのスピード狂に協力する気はないよ」

シャーリー「…………はぁ、そこまで言われちゃ、私も協力して貰うわけにもいかないな。分かった、素直に諦める」

私「懸命な判断、感謝する。私は幸いだ、誇りある人間に出会えたのだからね」ニコッ

シャーリー「……あ、ああ」ポッ

俺(忘れてた。コイツ、ハーレム系主人公みたいな奴だった。八方美人、ニコポ持ちですよニコポ持ち)


私「……何を黙って考えているんだ、お前は?」

俺「あー、いや、こっちの話ですよ?」

私「何故、疑問系なんだ」ハァ……


俺「あ、でもコイツの手伝ってくれる方法あるよ。オッパイ揉ませてくれれば手伝ってくれるって」

私「そんなこと一言も言ってない!」

俺「え? だって前、『あー、なんでブラジャーとかあるんだ。整備員じゃなくて女の胸を両手で支える仕事に就きたかった』って言ってたじゃんか」

私「言ってNEEEEEEEEッッッ!!!!」

シャーリー「お、何? 私も興味あるんだ。へー、真面目そうに見えて案外ムッツリだな」ニヤニヤ

私「イェーガー! お前は分かっていながらノッているな! 私の心臓と胃を少しは労わってくれ! あと、そんなものに興味はない!」

俺「マジで!? お前、ホモだったのか! 俺の尻穴のピンチですか!?」

私「そんな意味な訳があるかぁぁぁぁぁッ!!」

シャーリー「それはマズいな。ほらほら、触ってみる? ん?」バイン♪バイン♪

私「ツッコミきれねぇぇッ!! はぅあ!? 洒落じゃなく心臓が痛くなってきた……」ズキィッ!


俺「え、マジで触っていいの? じゃあ遠慮なく」ムニィ♪

私「」

シャーリー「」



シャーリー「な、ななな、なに本当に触ってんだよ、お前!////」バッ!

私「」


俺(私の思考が停止している。これは……!)キラン


シャーリー「何とか言えよぉ!////」

俺「あ? だって触っていいって言ったじゃん。言質はとったぞ、おい」ワキワキ

シャーリー「む、無表情で手を動かしながら、近づいてくんな!」ジリ

俺「ハ! 遅いんだよ、バカが! 最速の女の名が泣くぜぇぇ!!」ダッ!

シャーリー「う、うわわ、うわぁぁぁぁぁぁッ!」


俺は逃げようとするシャーリーの背後を取るや、欲望の赴くままに両手で豊かすぎる双丘を鷲掴みにする。


シャーリー「や……ダメ、んんッ!」マッカッカ

俺「うぉ、寄せて上げてをしねぇでこれかよ。感度も良好ですなー」モミモミ!

シャーリー「お、おい! くぅッ……ミー、ナッ、中佐、ん、く、見てる、ぞぉ!」ジタバタ

俺「――で?」スゥ

シャーリー「あッ……、股の内、側、撫でんなぁ……ッ。も、やめ……」ウルウル

俺「ま、ここらが引き際ですかねー、っと。泣かれんのは寝覚めが悪りーや」パッ


シャーリー「あ、………………うぅ////」ヘタ

俺「おやおや? シャーリー? 何やら残念そうな溜息が聞こえてきたような……?」

シャーリー「うぅぅ、うるさい! このバカ! 変態!/////」

俺「はっはー! 残念、美人からの罵倒は我々の業界ではご褒美です!」

シャーリー「あたしの想像以上の変態だった!」

俺「まあまあ、そんな変態に、悔しい! でも感じちゃう! 状態だったシャーリーちゃんも、結構な変態さんですよ?」

シャーリー「感じてない! 感じてないし!」アタフタ

俺「ほほう、ではもう一回……!」ヌッ

シャーリー「や、やめ――――――あ」

俺「ふ、そんな後ろに誰かいる的なヒッカケは通用しな……ん?」


坂本「何をしているんだ、俺?」チャキ

ミーナ「私達の仲間に手を出して、無事でいられると思ったのかしら」ゴゴゴゴゴゴゴッ


振り返れば、仁王の如く烈風丸を抜いた坂本と阿修羅の如き威圧を備え、暗黒微笑を浮かべるミーナが居た。
が、俺は全く意に反さず、やれやれとばかりに肩を竦め、首を降る。


俺「いやだって、揉んでいいって言ったし」ケロッ

坂本「冗談で言ったに決まっているだろうが!」

俺「え? 冗談だったの!? 裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな! 父さんと同じに僕を裏切ったんだ!!」

ミーナ「俺さん? あなたは父親はいないでしょう? 母さんはご結婚されていないと聞いているわよ?」ゴゴゴゴゴ

俺「んー、違う違う。マミー結婚してるよ。ただ、パピーがある日突然、マカオでチ●コちょんぎってオカマバー開くって出てったから離婚したんだ」

坂本「」

ミーナ「」

シャーリー「」

俺「ははッ! ウチのパピー、アナーキだから! そんなこと恥ずかしくて人には言えねーよな!」


突然のカミングアウトに思考停止する三人。
そんな人生の伴侶、嫌である。誰だって嫌だ、三人だって嫌だ。


私「下らない嘘で誤魔化そうとするなぁぁぁぁッッッ!!!」ブォォッ!!

シャーりー「嘘かよ!?」

俺「嘘だよ!! それはそれとして…………復ッ! 活ッ! 私、復活ッ! 私、復活ッッ!! 私、復活ッッッ!!」

私「刃牙風の勢いで全てを誤魔化せると思ったら大間違いだぞ、貴様ァァァァァッッ!!」ヒュゴッ!

俺「おお! ドラム缶がフィンファンネルの如く! 成程、レベルを上げて物理で殴ればいいってこ――――どっふぁぁッ!!」ドグシャァァァッッッ!!!


超高速で射出さえたドラム缶(中身入り)は、寸分違わず俺のボディに突き刺さり、そのまま壁に上半身を埋め込ませた。


私「ぜぇ……! ぜぇ……!」

坂本「…………さ、流石に、やりすぎじゃないか? 同情する気には全くなれんが」

シャーリー「おおおお、俺ぇ!? 大丈夫か、これぇぇぇぇ!?!?」

ミーナ「い、いえ、魔法力も持ってるし、シールドがあるから大丈夫じゃないかしら……多分」ヒヤアセ

坂本「……………………非常に言い難いんだが、シールド、張ってなかったぞ」

シャーリー&ミーナ「ちょ……!?」

私「あのバカが! この程度で! 死ぬくらいだったら! 私はここまで苦労していない……!! くぁ、あ、心臓がぁぁぁ」ガク

坂本「元からこんな苛烈な真似をしてるのか、お前たち一家は!?」


俺「あー、いってぇ。流石に、これはやり過ぎっしょ」ガラガラ、ドゴン!

シャーリー「普通に立ち上がってきた!? 大丈夫なのか!?」

俺「や、大丈夫じゃねーよ、いてーよ、泣きそうだよ」

ミーナ「だったら、少しは表情を変えたらどうなのかしら……」ハァァ

俺「やだね。それが俺、鎮西八郎・ルーデル・ヘイヘ・ロンメル・船坂弘の生きる道よ」

坂本「お前は、まだそれを言ってるんだな……」

俺「舐めんな。お前ら、最終話まで各話に一回は挟むからな。覚悟しとけよ」ドヤァ


俺「それはそれとして、アレだ。シャーリー、お前は冗談でも自分を安売りすんのは止めた方がいいぜ」

シャーリー「あ、あれは……」

俺「まあ、人の話は最後まで聞けよ。自分を安売りするとロクなことがないぜー。何せ、その後の人生が全部台無しになるからな。ツマんない人生になっから。俺が言うんだから間違いねーよ」

私「………………」ギリッ

シャーリー「……お前が言っても全然説得力がないんだが」

俺「こいつは手厳しい。ま、俺はこのオマケみたいな人生をちっとは楽しめればそれでいいんですけどね? だから私も元気出せよー」

私「はぁ、私は元気だよ。お前と母さんが大人しくしてくれればもっと元気だがね」


坂本(……オマケみたいな人生か。随分と世捨て人のようなことを言う)


俺「んで? シャーリーの次はあんた等が何の用だ? 今日の訓練は終わったはずだけど?」

坂本「あ、ああ。お前は使い魔もなく飛行が可能なようだからな。ここらで一つ模擬戦でもと思ってな」

俺「はあ、模擬戦? やだよ、めんどくせぇ」

坂本「そう言うな。ミーナが直々に相手をしてくれるそうだぞ?」


ミーナ(ふふふ、ここでBBA呼ばわりさわれた鬱憤を……!)ゴゴゴゴゴ


俺「や、別に嬉しくねーし。……だがまあ、そうだな。勝った方が負けた方の言う事を一つ聞くって条件をつけないか? その方がやる気も出るしよ」

坂本(なんだか、とても……)

ミーナ(……嫌な予感がするわね)

俺「いいよな、私?」

私「私に聞くな。が、無茶をするなよ?」

俺「俺にそれを言うのか。無意味にもほどがあると思うがな」

私「だろうな。ミーナ隊長も、くれぐれも手を抜かないように。きつい灸を据えてやるくらいのつもりでお願いします」

ミーナ「ええ! これまでのうっぷ――もとい、新隊員に戦い方を教えてあげるわ!」









――上空



坂本「ルールは単純。武装は自由、シールドの展開は身に危険が迫った場合をのぞき禁止。ペイント弾を一発でも当てた方を勝ちとする。同高度ですれ違った時点で模擬戦開始だ」

ミーナ「了解よ」

俺「うーっす」


遥か遠方に位置する俺の姿に、ミーナはすっと目を細めた。
映る姿は自身と同じBf-109を履いており、両手に二丁のMG42を握っている。奇しくもバルクホルンと同じ装備だった。

通常、あれだけの重い装備を纏ったまま戦えば、大きく身体能力強化に回している魔法力が尽きて墜落の憂き目にあうだろう。
バルクホルンがそれを可能としているのは“怪力”と呼ばれる固有魔法によって、魔法力を体内で循環させることで消費を抑える必要がある。
だが、それを元々の高い身体能力と底すら見えない膨大な量の魔法力で俺はカバーしていた。


ミーナ(全く、改めて見ても元々の人としての素質が違うわね。魔法力の貯蔵量から言って長期戦は不利。技術面で上回っている以上、即座に後ろを取って一息で終わらせる……!)

坂本「油断するなよ、ミーナ。アレは掛け値なしの化物だからな」

ミーナ「貴方に、そこまで言わせるなんてね」

坂本「贔屓目のつもりはない。ここ数週間、共に訓練をしてきたがアレはもう人というよりも、人の形をした、ただ強い生き物とでも思っていた方がいい」

ミーナ「………………」


俺「あー、めんどくせ」ゴキゴキ

私「おい、真面目にやれよ」

俺「あー、私、通信機なんてもってたっけ?」

私「イェーガーに借りたんだ。全く、模擬戦なのにフリーガーハマーを持ち出そうとした時は本気で殺意が芽生えたぞ」

俺「いや、めんどうじゃん。あーゆう楽に勝てる装備は必要だよね、うん。スパローとかサイドワインダーとかみたいなの欲しい。火力が力だ!」

私「ムチャクチャ言うな。だが、実際のところ、技術面では大きく劣っているのは事実だぞ」

俺「ハ、どうせ辻褄合わせの展開になる。それが俺の人生が台無したる理由だろうが」

私「……ッ」

俺「別にかまわねぇよ。どうせ俺の選んだ道ですし? 後悔も未練もあるが、それでも十分すぎるお釣りは貰ったしな」
                ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
私「一つだけ言っておく。手を抜いてやれよ」

俺「へーへー、俺が本気だろうが、手を抜こうが、結果は変わらねぇと思うがな。ああ、いや、もしかしたら、この世界じゃ……」

私「その可能性も否定できない。否定できないだけだがね」

俺「そいつはいい。少しだけやる気が出てきた」


あまりにも不遜なやり取りである。
彼らとて、ここ数週間の生活でストライクウィッチーズの勇名は聞き及んでいる。
勿論、それはミーナの強さのみではないものの、それを束ねるエースが弱いという理由にはならない。

射撃や身体能力が勝っていようが、事は空戦。何よりもストライカーユニットの操作技術が要求される筈だ。
勝利の天秤は実力によってミーナの側に傾くは必然。もしそれを覆せる要素があるとするならば、後は時の運だけである。


坂本「では、準備は、……と、その前に。俺、上着を預かっておくか? そんな格好で戦うのか?」

俺「ん? なんかマントみたいでカッコよくない?」

坂本「いや、袖を首で結んだだけの状態だから、近所のガキ大将がふざけて遊んでいるようにしか見えない」

俺「マジか。……ま、そりゃそうだわな」

坂本「上着を失くす羽目になるぞ」

俺「だいじょぶだいじょぶ、ちょっと難しい結び方にしてるから」

ミーナ「厨二病とか言って、人を馬鹿にしたのは何処の誰だったかしら?」フフフ

俺「ははは。問題ねー、人を馬鹿にするのも楽しいし、一緒に馬鹿になるのも楽しいからな。厨二病ってのはそういうもんだ。もっとも数年後に悶絶しても責任とれねーけど」

坂本(本当に、この性格さえなければなぁ……)ハァ


坂本「まあ、本人がそれでいいと言うのなら、構わんがな」

俺「私は一向に構わんッッ!!」クワッ!

坂本「ああ、もういい。お前に真面目に付き合っているとこっちまで馬鹿になりそうだ。――では、始め!」


坂本の合図に従い、二人が飛翔する。
真っ直ぐに飛翔する彼我の距離は一瞬にして無に返り、軌道が交わることで模擬戦が開始された。

ミーナは即座に上昇を開始し、頂点に来た時点で背面姿勢をロールさせて水平飛行へと移行する。
縦方向のUターン、俗にイルメンマンターンと呼ばれる空戦機動。それも恐らくは、世界最高レベルにまで洗礼された無駄のない見事なターンであった。


ミーナ「……は?」


自身でもこれ以上はないと言える機動に反して、目に飛び込んできたのは余りに予想外の光景であった。

事もあろうに、俺はすれ違った瞬間からただ真っ直ぐ飛んでいるだけなのだ。
少なくともミーナの予想では、何らかの行動をしている筈であったが、後方を確認している素振りを見せてはいるが、軌道を変える様子はない。

何か策でもあるのか、と考えもしたが、それも雑念と振り払う。一対一のドッグファイトにおいて、後ろを取れる以上、取らない手はないだろう。
ミーナはMG42の射程内に標的を滑り込ませると、即座に引き金を引こうとした。

俺はまるで撃つ瞬間が分かっていたとばかりに、軌道を変える。
背後に喰らいつく敵を引き離そうとしているのか、それとも最後の悪足掻きとばかりに闇雲に回避行動に出ているのか。ミーナには後者にしか思えなかった。


俺「さーて、風向きよーし、相対位置確認よーし。では、いきます! …………クロスアウッ!!」バッ!

ミーナ「……え? きゃあッ!?!?!」


彼が両腕を広げるや否や、首に巻きつけられていた学ランの結び目が解け、空へと舞った。
その行動の意図も分からないまま、ミーナは呟きを漏らすと、視界が漆黒に包まれる。


ミーナ(……ありえない!)


確かに、人類が初期に行った空戦では搭乗員が弾切れの際や実験と称して、飛行機の搭乗物を敵機に投げる行為が試みられた。
しかし、蓋を開ければ結果は暗澹たるもの。命中率は絶望的なまでに低く、実戦で行う行為ではない。

上着が命中したことか、或いはそれを成功させた俺に対してか。ミーナのありえないという思考は、どちらに向けられていたのかは定かではない。


ミーナ「……くッ!」


それでも即座に混乱から立ち直った彼女の精神は驚嘆に値する。
が、上着を投げ捨て回復した視界には、当然のように俺の姿はない。


俺「BBA、一つだけ教えておいてやる。俺はな、戦うのが好きでも、勝つのが好きな訳でもねぇ」

ミーナ「またBBAって言った! また言ったぁぁッ!!」


取り戻した筈の精神の平静を俺の心無い言葉に再び乱されながらも後方を確認したのは、ウィッチとしての性であり、軍人として培われた経験故だろう。
言うまでもなく、そこには一瞬の隙に乗じて背後を取った俺の姿があった。


俺「俺が好きなのはなぁ、敵をひたすらボコボコにして、泣いて許しを請うても欠片も許さず、一方的にぶちのめすのが大好きなんだよぉぉぉぉぉッッッ!!!!」ヒャッハー!!

ミーナ「最低よ、貴方はぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」ヒーン


私「全くだ。あの戯け、弱者だの強者だの一切関係なく、敵は殲滅至上主義だからな」

シャーリー「…………うわぁ」


地上からインカムで伝わってくる私とシャーリーの溜息も聞こえているかどうか。
ミーナが初めて見た俺の笑顔は、悪魔も裸足で逃げ出すような凶悪な笑みであった。

もう、俺の言葉と笑みにほぼ涙目になりながらも、何とか喰らいつく俺を引き離そうとする。だが、精彩さを欠いた精神でまともな飛行など出来る筈もない。
彼女の負けも時間の問題かと思われたその時――


ミーナ(く、このままじゃ――って、嘘でしょう!?)ボスン!

俺「――――あん?」


突如、エンジンが悲鳴を上げ、黒い煙を吐き出した。

今日、何度目になるか分からない驚愕がミーナを襲う。ありえない、と再び思う。
エンジントラブルなどここ数年――いや、少なくともストライクウィッチーズの隊長に任命された頃から一度もない。
整備班が優秀であることは当然として、出撃の際にも時間が許す限り、自機のチェックを行っていた。無論、この模擬戦の前も。

だからこそ、ありえない。整備班と自分が見逃すような重大な不備がありえる筈がない……!


坂本「マズい……!」


急速に落下していく自身と、猛烈な勢いで失われていく魔法力に数秒先に待ち受ける死を想う。だが、それを断ち切る救いの主が手を掴んだ。


俺「何やってんだ。よっ、ほい、っと」

ミーナ「……………………」ポカーン

俺「やれやれだ。呆けやがって、礼の一つでも言ったらぁ?」


唖然とするミーナはようやく俺にお姫様抱っこの形で抱えられていることに気が付いた。


ミーナ「いや、は、離しなさいッ!///」

俺「いや、この状況分かって言ってんの?」

ミーナ「ど、どうせそんなことを言って、シャーリーさんにしたみたいに、いやらしいことをする気でしょう!!////」

俺「この状況でエロに走る奴は、流石の俺でも引くわ」

ミーナ「と言うより、銃は何処へ!? どうしてこんな状況に!?」

俺「銃は捨てた。ストライカーも脱げて落ちた。あとで回収班でも回した方がいいんじゃない?」

ミーナ「…………くッ」

俺「もっとも、不備が見つけるとは思えねーがな」ボソッ

ミーナ「え? 何を……?」

俺「別に。なんでもねーよ。しっかし、礼の一つも言われねーとは俺も驚きだわ」

呆れたような視線を向ける俺に、少なからず怒りを覚えるも、助けられたことは事実である。
加えて言えば、普段の言動や自分に対して発せられた暴言の数々もなりを広めていた。
だからか、ミーナはこの意図不明、快楽至上主義、ノーブレーキ暴走野郎の馬鹿な男に、ほんの、ほんの少し、ほんッッッッッッの僅かに好意を抱きそうになっていた。



俺「ところで読者の諸君。これでヒロインにフラグが立つと思ったか?」

ミーナ「え? え? 急に第四の壁を破って何をする気!?」

俺「だが、その程度のチョロインなど、俺が絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛!!!」

私「おい。おい、この馬鹿。まさか、…………おいぃぃぃッ!!!」

俺「いいぜ、この程度でフラグが立ったと思うなら……まずはそのふざけた幻想(フラグ)をぶち殺す!! ってな訳でぽぽぽぽーん」ポイッ!


シャーリー&坂本「」

私「やりやがった! あのバカやりやがったぁぁぁぁ!!」


ミーナ「え? 嘘? きゃあああああああああああッ!?!?!?」


俺は立ちかけたフラグを折るために、よりによって空中へミーナを投げ出したのであった。


坂本「何をやってるんだ貴様はぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

俺「いやだって、離せって言うから……」シレッ

シャーリー「最悪だ! 最ッ悪だな、お前はぁぁぁぁ!!」

俺「最悪はな、最高なんだよ」フフン

私「そんな分かりにくいライダーネタやってないで早く助けに行け、この戯けぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

俺「へーへー、わーったよ。助けりゃいいんだろ、助けりゃ」









――再び、ハンガー



俺「……前が見えねぇ」ボコボコ

三人「「「お前が黙ってろッッ!!!」」」

ミーナ「死ぬかと、本当に死ぬかと思ったわ……」ゲンナリ


難なく落下しているミーナを再救助した俺は、ハンガーに戻るや否や、三人に袋叩きにされたのは言うまでもない。
そして、ジャガイモにように腫れ上がった顔のまま、地面に正座させられている。


坂本「全く! 貴様は思いつきや面白半分に行動するのは止めろ!」

俺「うん、それ無理」

シャーリー「不安だ。こんな奴に背中預けて戦うなんて不安過ぎる……」ゾワワ

俺「あー。まあ、そこんとこは弁えてるから安心しれ。流石に戦闘中はあんな真似しねーよ。助けられると確信してやっただけだから」

私「それでもやっていいことと悪いことがあるわ! ほら、ミーナ隊長に謝れ!」

俺「いやー、悪ふざけが過ぎたわ。メンゴメンゴ」

私「少しは反省しろぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!」ガシッ!

俺「今度は地面さんとの熱烈なキッスッッ!?」ドグシャァ!!


ミーナ「も、もういいわよ。最初に助けてくれたのは事実なんだから……」

坂本「まあ、ミーナがそういうなら構わんが…………なあ私、コイツの性格を矯正できなかったのか?」

私「ここ数年で、私は随分諦めがよくなった、とだけ言っておく」

シャーリー「諦めちゃったのかよ?!」

私「無理だ無理。何を言おうが右から左、何をやらせようが平気の平左で熟してくるからな、コイツ」

シャーリー「性質悪ッ!」

私「半端じゃなく性質が悪いぞ。なまじ性能が高いだけにな。我が道をゆくってのはコイツの為にある言葉と言っても過言じゃない」

ミーナ「ともかく、私は執務室に戻るわ。何だかとっても嫌な予感が…………え?」ガシッ!


ミーナが見た物は、地面とキスをかましながらも、己の腕を掴む俺であった。


俺「おい、何処へ行こうって言うんだコラァ。後、鼻とか顔のパーツ付いてる? 感覚が全くねぇんだが」

ミーナ「え、ええ、血塗れだけど、付いてるわよ。あとで、宮藤さんに看てもらった方がいいんじゃないかしら」ダラダラ

俺「ああ。そのつもりだ。だが、一つ何か忘れてるんじゃないですかねぇ、たーいちょーさーんんッ?」

ミーナ「な、なんのことかしら、皆目見当もつかないわ? さ、さあ、私は仕事があるから手を放してくれないかしら?」

俺「おいおい、忘れたは通らねぇぜ。きっちりと払っていってもらおうか。負けた方が勝った方の言う事を聞くお・ね・が・い♪」

ミーナ「む、無表情なのに台詞に音符をつけないで、怖いわ!」アワワワワ


ミーナは俺の腕を振り払って逃げ出した! だが、回り込まれてしまった!


ミーナ「ひぃッ!!」

俺「……知らなかったのか? 主人公(だいまおう)からは逃げられない……!!!」


坂本「速い!? あのダメージでなんであんなに速く動けるんだ!?」

シャーリー「いや、少佐、ツッコむところはそこじゃない。私、何とかならないのか?」

私「無理だ。最悪、殴ってでも止める。その必要はないと思うがね。仮に殴るとしても我々に迷惑を掛けた方が理由だ」

シャーリー「……?」


ミーナ「…………でも、そうね。内容も聞かずに模擬戦を挑んだのは私の落ち度ね」

俺「ああ、こっちからふっかけておいてなんだが、何をするか決めておかない、聞いておかない方にも問題があるなぁ」

ミーナ「ええ。だから、受けるわ! ストライクィッチーズの隊長として、女として」キリリッ!


シャーリー「ミーナ隊長、上手く丸め込まれすぎだろ」

坂本「いや、あの口だけとは言え約束を守ろうとする態度、上に立つものとして好ましい!」グッ!

私「いや、アレじゃないか。さっきまで死にそうだったから、アドレナリンでハイになってるんじゃ……」


ミーナ(見ていてちょうだい、美緒! 私、やり遂げてみせるわ!)


俺「律義なもんだが、甘ぇよ。…………が、その甘さ、嫌いじゃあないぜ」

ミーナ「さあ、受けて立つわ!」


俺「よーし。……………………BBA! テメーの明日は裸エプロンだ!」


ミーナ「」

三人「「「ブーッ!!」」」


最早、俺の発言に答える余裕は彼女にはなく、それでもなお自らの甘さと最悪の現状を打破する為に、思考は高速で回転する。


ミーナ「お、俺さん? 一つ、提案があります」オソルオソル

俺「断る」

ミーナ「きょ、今日の模擬戦、み、見事でした。特別報酬として、私のポケットマネーから……」フルフル

俺「嫌だ」

ミーナ「お、お金が全てという訳じゃないけれど、あれば家族の助けにもなるし!」ブルブル

俺「もう遅い」

ミーナ「か、勘弁してくれない……い、いえ、勘弁してください。わ、私が悪かったです」ナミダメ

俺「そう、俺は悪くない」ニヤァ


もう涙を流しそうなほど弱りきり、敬語で話しかけてくるミーナに、俺は悪魔のような笑みを浮かべるだけだった。


俺「さあ、早くしろ! 新婚ホヤホヤの新妻の如く! 自ずから服を脱ぎ! エプロンを身につけろ!」

ミーナ「………………うぅ、もう嫌」ホロリ

俺「但し! 軍帽とニーハイソックスの着用だけは認めよう! ニーハイの色は何色でも可だ! さあ、ハリーアップ! ハリー! ハリー! ハリーハリーハリーハリーハリィィィッ!!!!」


ミーナの心を完全に折り、自分の趣味全開の恰好をさせようとする俺。どう見ても完全に変質者です。ありがとうございます。


俺「……が、まあ、今回は勘弁しておこう」

ミーナ「…………え? ほ、本当に!?」

俺「本当。あの勝ち方は実戦では死亡、試合でも不戦勝として扱われるだろうが、俺の基準で勝ちじゃない」

私「お前なら、そこに落ち着くと思ったよ。勝負ごとに関しては手段はどうあれ、誠実で厳格なのが本質だ」

シャーリー「だったら、なんであんなこと要求したんだよ?」


俺「…………………気の強い女を泣かすのって、最高に楽しいよね!!」ニコ! グッ!


坂本「お前が見せた表情で最高の笑顔だが、最低の発言だな」

俺「ありがとう。最高の褒め言葉だ」

私「それはともかくとして、…………さんざん我々に迷惑をかけた罰だ。最後にコレを喰らえぇぇぇぇ!!」グ゙チャァッ!

俺「ひーざさんと、かーおさんが、ごっつんこぉぉッ!?!?」ドサァッ!
最終更新:2013年03月30日 01:17