――ハンガー



私「虫型のネウロイが侵入して、上空からネウロイが迫ってくる?」

エーリカ「そうそう! 虫の方はさっき追い詰めたんだけどさー、逃げられちゃった」

バルクホルン「全く、お前があの時仕留めていれば、こんな後手に回ることなんてなかったんだぞ!」

エーリカ「しょうがないじゃん。あの時はただの虫だと思ってたんだからさぁ」ブーブー!

私「しかし、警報も連絡も来ていないが? 整備班も仕事を終わらせて此処にはいないぞ……」

バルクホルン「いや、間違いない。サーニャの魔導針が反応しているし、小型の方はどうやら電気系統を麻痺させる能力を持っているようだ」

私「成程、虫の方は潜入、後方攪乱が目的といったところか、まるで特殊部隊だな。……了解した。整備班には悪いが、ストライカーの準備は私がしよう」

バルクホルン「すまない、助かる!」


私は固有魔法で、ストライカーの最終点検を行う。
オイルからエンジンまで全てがオールグリーン。流石に、一流の部隊の整備員もまた一流である。私も舌を巻くほどの仕事ぶりだ。


宮藤「バルクホルンさん! ハルトマンさん!」

バルクホルン「む、来たか!」

エーリカ「さぁて、どうなるかな、っと」


宮藤「坂本少佐から伝令です。上空のネウロイにコアは確認できないが、このまま放置はできない。二人には早急に迎撃してもらいたいとのこと」

二人「「了解!」」

宮藤「なお、基地内には電気系統を麻痺させる飛行物体が存在します。十分注意されたし、とのことです!」

エーリカ「あのズボンに入ってくる虫のことかぁ」

バルクホルン「それには対策を…………」バッ

私「……ん? こっちの点検は終わったぞ。ストライカーに問題点はない。すぐにでも飛び立てる。というか、何故私を見る?」

バルクホルン「い、いや、そ、それはだ、な……///」

私「何かは知らんが、対策があるんだろう?」

バルクホルン「う、うぅ、ぅぅぅぅぅぅぅぅッ!////」

私「どうしたんだ、バルクホルンは?」

宮藤「さ、さあ……?」


エーリカ「にしし、どうしたのトゥルーデ?」ニヤニヤ

バルクホルン「う、ううう、うるさい! おま、お前は恥ずかしくないのか!?///」

エーリカ「べっつにー。私はそういう対象じゃないし、そもそも仲間だから恥ずかしがることないじゃん」

私「ますます分からん。何を言っているんだ、お前達は?」


エーリカ「ほらほら、早くしないとネウロイが来ちゃうぞー」

バルクホルン「だ、だったら、お前が先にやれ!」

エーリカ「私はトゥルーデのあーと。だって、先行するのはトゥルーデだもーん!」

バルクホルン「く、く、ぐぬぬ、くぅぅぅぅぅぅッッ!!///」

私「お、おい、何かは知らんが、そんなに嫌なら別の方法を――――」

バルクホルン「う、うがぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」ズル、パサ


気合一喝。バルクホルンの口から獣染みた咆哮が迸る。しかし、気合と共に行った行為は、何とも間抜けな“ズボンを脱ぐ”というものだった。


宮藤「うぇぇぇぇぇぇッ!?!?」

私「」

エーリカ「トゥルーデいったーッ! じゃあ私も、っとぉ」

宮藤「ええええええええええええッ!?!?!?」


バルクホルンの後にエーリカもまたズボンを脱ぐ。

確かに、ズボンの中に潜り込む虫が邪魔になるのなら、そもそもズボンを履かなければいい、という発想も頷けるが、如何せん実行しているのがうら若き乙女である。
百人の人間がいれば、百人の人間が『いや、お前等それは女としてどうなんだ』とツッコまずにはいられない行為だ。


バルクホルン「く、くそぅ。こんな辱めを受けるのも、あのネウロイの所為だ! 裁きの鉄槌をくれてやるぅぅぅぅッッ!!/////」ブロロロロッッ!!

エーリカ「あ、待ってよー、トゥルーデー」ブロロロロッッ!!


身悶えするほどの恥ずかしさから逃げるようにバルクホルンは空へと上がり、エリーカも後を追う。
恐らくは――いや、間違いなく、バルクホルンは私以外の前において、あそこまで羞恥を感じることはなかっただろう。それはある事柄が関係している。

この世界のウィッチに共通している認識がある。“男とは、なんて頼りない生き物なのだろう”という認識。
男はネウロイとは戦えない。身体能力もウィッチに劣る。その歴然たる事実が、持つ者、恵まれた者の傲慢を許している。

だが、俺と私はジェットストライカーの一見以来、その認識を粉々に打ち砕いた。
俺は理不尽なまでに圧倒的な強さを以って。私は死すら凌駕し得る精神と身を削る献身を以って。

殊更、自身の無茶のせいで死にかけたにも拘らず、恨み言一つ言わず、背中を押してくれた私に関しての思いは一塩だ。
おかげでバルクホルンは、頼りない生き物であった筈の私(おとこ)を異性として見てしまっている。

それが彼女の醜態の真相だ。
しかし、それを私や宮藤が知る由もなく、唯一理解しているであろうエーリカもまた“何となく”の領域を出ていなかった。


宮藤「行っちゃった…………あ」ファサ…

私「」ファサ……


出撃の余波で舞い上がったエーリカのズボンが宮藤の手に、固まったままの私の頭にバルクホルンのズボンが落ちる。


宮藤「あ、あの、私さん? だ、大丈夫ですか?」

私「」

宮藤「ちょ、ちょっと!? おーい、私さーーーん!!」グイグイ!

私「……」スル

宮藤「うわぁ!? きゅ、急に動かないで下さいよ!? というか、バルクホルンさんのズボンを握って何を!?」アゼン

私「…………して」プルプル

宮藤「え?」

私「……どうして、お前達には、引き算の発想しかないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

宮藤「ひぃッ!?」ビクッ!


私渾身のツッコみが、ハンガー内部に響き渡る。そして、私は手にしたズボンを目にし――


私「…………………ぐふッ、」バターン

宮藤「わ、私さん!? 私さーーーーーーーーん!?!?」


血を吐いたような、くぐもった声と共に倒れ伏す私。ありえざる現実と極度の混乱を前に、私の心臓は冗談抜きに一時停止した。
だが、安心して欲しい。しょせん死ぬ死ぬ詐欺である。










――風呂場



俺「おお! 空だ! 海だ! 露天風呂だぁぁぁぁぁぁぁッ!」ヒャッハー!


海に近い温泉宿にでも、これほどの絶景がお目に掛かれるのは稀であろう。
天と海との境が分からなくなりそうな綺麗な青。それを眺めながら入る風呂は、さぞ心身を癒してくれるに違いない。


俺「でも、なんで其処にBBAがいるだぁぁぁぁぁぁッ!!」

ミーナ「」


だが、残念ながら先客が居た。
タオルで股間を隠した状態であったのが唯一の幸いだったろう。そうでもなければ、ミーナが卒倒していたのではないだろうか。


ミーナ「……な、なな、ななななななななッ!!/////」

俺「へぇ、あんたもNANAって言うんだ」

ミーナ「そんなワケないでしょぉぉぉぉッ!!!/////」


俺「………………」ハァ

ミーナ「溜息ついたッ!?」

俺「で? アンタ、仕事をほっぽりだして、なんで風呂入ってんだ?」

ミーナ「そ、それはこっちの台詞よ! 脱衣所で私の服を見なかったの!?」

俺「ああ、なんか電気が付かなくてなぁ。まあ、そもそも誰も入ってないと思ってたから確認してなかった。分かり易く目印くらい残しとけよ」

ミーナ「……くッ! た、確かにその点は此方に非があるのは認めます! でも、早く出て行ってちょうだい!!」


それだけ言うと、ミーナは俺に背を向けた。
股間が隠れているとは言え、男の裸を見るのは掛け値なしに初めてである。初心な乙女に直視できる代物ではない。


俺「………………」ザブゥッ

ミーナ「」クル

俺「いっい湯っだなぁ、アハハン♪ いっい湯っだなぁ、アハハン♪」アー、ビバノンノン♪

ミーナ「出てって言ったのに、何で入ってくるのよぉぉぉぉぉッッ!!」

俺「服を脱いだのに風呂に入れないと、何とも言えない気分にならない?」

ミーナ「気持ちは分からないでもないけど、場の空気を読みなさいよ!?」


俺「入っちまったもんは仕方ない。あんまりぴーぴー喚くなよ、みっともない」

ミーナ「この状況で、喚くなですって!? 無茶言わないで!!」

俺「安心しろよ。アンタ達にゃ、手を出さない。アンタとの契約内容にもあったし、個人的にも約束した。必ず守るさ」

ミーナ「普段の貴方の態度から信じろというのが無理な話よ!」

俺「酷いな、少なくとも俺は相手の合意もなしに女を手籠めにするようなクズじゃないぞ。それとも、俺をそういう対象として見ているのか?」クク

ミーナ「な、何を言うのよ!!///」

俺「まー、そんなワケねーわな。どうでもいいが」


どうでもいい、と言われてしまうと、それはそれで傷つくのも複雑な乙女心である。
これ以上、何を言っても無駄と悟ったミーナは、身体が暖まったら、すぐにでも出てしまおうと誓い、無言となる。


俺「しかし、俺はいざ知らず、どうしてこんな昼間から風呂に?」

ミーナ「………………言いたくないわ。理由を聞いたら、また馬鹿にするもの」

俺「これだよ。…………分かった分かった。今この場では、アンタをBBA呼ばわりするのを止める。約束するよ」

ミーナ「………………りが、」

俺「は? 何? 聞こえない」

ミーナ「書類整理で、肩こりと疲労が酷いのよ! さあ、笑いなさいよ! これじゃあ本当にババアだなって、笑いなさいよぉっ!!」


俺「………………」ウワァ…

ミーナ「……何? 何を考えてるの? 何を言うつもりなの?」

俺「あ、いや、素でドン引きしてたわ。何もかも忘れるくらい引いてた」

ミーナ「それはそれでイヤァァァァァッッ!!」

俺「そこを嫌がられると、もう俺なにも言えなくね?」

ミーナ「もう、いいわよ。どうせ私はミーナさんじゅうきゅう歳よ。句読点も打たないわ。これで満足でしょう!」グスン

俺「重傷だな、こりゃあ」


やれやれだ、と溜息をつくと俺は立ち上がってミーナの方へと近づいていく。
ミーナはブツブツと何やら呟いていたが、俺の行動を目にすると青褪めた。


ミーナ「や、やめて……近寄らないで! 私に乱暴する気でしょう!? 官能小説みたいに!」

俺「うん、最後はエロ同人みたいに! にして欲しかったな、ネタ的に」バシャバシャ

ミーナ「し、知らないわよ、そんなの!?」

俺「ふふふ、よいではないか! よいではないかぁ!!」バシャァァァァ!!

ミーナ「きゃああああああああああッッッ!!」


基地まで届くのでは、という悲鳴がミーナの口から迸る。
タオルの上から両腕で身体を抱き、きつく瞼を閉じる…………が、いつまで立っても身体を触られる気配すらない。
恐る恐る目を開けてみると、何故か俺の姿はなかった。


俺「おい、どっち見てんだ。こっちこっち」

ミーナ「ひゃあ!? う、後ろ!? 何をする気?!」

俺「何って、マッサージだよ。お疲れみたいですからねー。シャッチョーサン! オサワリモ、デキルヨー!」

ミーナ「私は社長じゃないし、マッサージするなら触るのは貴方の方でしょう!?」

俺「ソウデスネー。で、マッサージくらいしてやるが、どうだ?」

ミーナ「……………………」


己に向けられる訝しんだ視線を、相変わらずの無表情で受け入れる。
ミーナはどうしたものか、と思い悩むも、邪な感情は伝わってこない。


ミーナ「ほ、本当に、マッサージ以外に何もしないわね?」

俺「しねーよ。最低限、自分の言った言葉にくらい責任を持たにゃ、マミーも私もとっくの昔に俺を見捨てているさ」

ミーナ「じゃあ、…………お願い、するわ」

俺「りょーかーい、っと」


俺「うわ、ホントにこってんな。どんだけ机に向かってんだ、アンタ」

ミーナ「正確な時間を測ったことはないわね。最近は、ネウロイと戦うよりも上層部と喧嘩していることの方が多いし……」

俺「へー、何処の世界も上の連中は変わらんか」

ミーナ「そんなものかしら?」

俺「そんなもんですよ。上の連中の頭ん中にあるのは利益と保身だけ。中には高潔な奴等もいるが、邪魔になって周りが潰すしな。偉い連中は、腐っていくのはどこも同じってね」

ミーナ「はあ、現場の苦労も少しは……はぁー、そこ、そこをもっと」

俺「ま、環境が変われば、考え方も変わるだろ。上手いとこ、落としどころ見つけにゃならん中間管理職には、好き好んでなるもんじゃねぇな」

ミーナ「んん……も、もっと強く」

俺「へーい」


丁寧に、丹念に、疲れそのものをほぐすような手つきで肩を揉む。
何か、余計な真似をするような気配は一切ない。どうやら、俺にしては珍しく、ミーナのことを気遣っての行動であったようだ。

時間にして30分ほど世間話を交えながら、俺は出来うる限りのマッサージを施した。


ミーナ「か、肩が軽い……! 首も頭も痛くないわ! 凄い、これがお風呂の効果!」

俺「うん。ナチュラルに俺のマッサージをガン無視したな。まあ、いいけど」

ミーナ「その、凄く楽になったわ。こういうのは凄く癪だけど、……あ、ありがとう」

俺「どういたしまして。でも、それ礼になってねーから。寧ろ馬鹿にしてるから」

ミーナ「そんなことないわよ? とても、とっても、心の底から海より深く感謝してる。でも、BBA呼ばわりは許したことは一度たりともないわね」ニコニコ

俺「あらやだ奥さん! すっかり嫌味が板についてきちゃって、上層部にもその調子で食って掛かったらいかがぁ?」

ミーナ「嫌味を言ったのは此方だけど、なんで近所の奥さん風に返すのかしら?」イラ

俺「そんなのミーナさんじゅうきゅう歳をイライラさせる為に決まってるじゃないの! おーっほっほ!」

ミーナ「……ぐッ!」イライラ

俺「ふ。この程度、馬鹿にされたくらいでイラつくなんてまだまだよ! マミーと私を見ろ! アイツ等、マジもの凄い制裁を加えてくるからな!」

ミーナ「私にあのレベルになれって言うの!?」

俺「俺にツッコみたければな!」


ミーナ「…………はあ。もういいわ、せっかく取れた疲れがまた溜まりそうよ」

俺「ああ、俺も後で書類整理手伝いに行くから」

ミーナ「もう、もう貴方の前じゃ寝ないわよ」

俺「お前、どんだけ素敵クラウザーさんメイクがトラウマになってんだ?」

ミーナ「トラウマにもなるわ! そして整備班からもアレ以来、避けられてるわよ!」

俺「ふーん。残念だったね」

ミーナ「残念なのは、貴方の頭でしょう!?」


俺「ソウダネ。その残念な頭で手助けしてやっから、安心しろ」

ミーナ「安心できないから、こう言ってるんじゃない!」

俺「それもそうだな。寝ている最中にやる悪戯は、今後控えるか。あの後、私にわりと本気で怒られたし」

ミーナ「そこで、私の受けたショックではないというのが、貴方らしいわ」

俺「無論、それが俺、鎮西八郎・ルーデル・ヘイヘ・ロンメル・船坂弘の選んだ王道だ」

ミーナ「久し振りに聞いたわよ、それ。あと、王道でもなんでもないから」

俺「俺は悪くない。筆者が完全に素で忘れてやがったんだよ」

ミーナ「メタ発言は止めて!」


俺「ま、とにかく手伝うから、部屋で首を長くして待ってろ。俺はもう少し、この露天風呂を楽しんでいく」


それだけ言って、風呂に肩まで浸かって、あ゛ーと気持ちよさそうな声を出した。


ミーナ(全く……! 手伝ってくれるのはありがたいけれど、気紛れで先の行動が読めないのは、本当に困りものね)ザバァ

俺「………………」ジー

ミーナ「…………な、何?」ビク


立ち上がり、風呂を出ようとした後ろ姿を無言で眺める俺に、ミーナは反射的に片手で自分の臀部を隠した。


俺「いやぁ……アンタ、よくよく見えると、俺好みのいい身体してるな。尻とか尻とか尻とか」

ミーナ「せ、セクハラよッ! と言うより、他に褒めるところはないの!!////」

俺「あん? そうだな、胸も大きすぎず小さすぎず、手から僅かにこぼれそうでいいな」

ミーナ「…………ッ!///」

俺「ウエストから脚にかけてのラインも悪くない。多少の脂肪がついていながら、腰の骨が少し浮いて出ている。実に男好きする身体だよ、綺麗なもんだ」


ミーナ「こ、ここ、このぉ、へんたぁぁぁぁぁぁいッッ!!」バチコーンッ☆


強烈な平手打ちを喰らわせる。それは怒りによるものか、羞恥によるものか。あるいは照れ隠しであったのか。その胸の内は、彼女にしか分からなかった。
が、それを露わにせず、すたすたと風呂を出ると脱衣所に行ってしまった。


俺「褒めたつもりだったが……普通に考えてセクハラだな。別に俺が嫌な気持ちになる訳じゃないからいいけどー」


真っ赤な紅葉を右頬に張り付けた俺は、さして気にすることなく久し振りの湯あみを楽しむ。
彼としては本気で褒めたつもりだったのだろうが、オブラートに包まない言葉では、確かにセクハラにしかならないだろう。


俺「さて、シャーリー達は虫を捕まえられたかどうか。ま、警報もならないということは、ネウロイじゃなかったってことかねぇ」


残念ながら彼の予想は見事に的中していた。
ミーナを除くウィッチーズ全員が躍起になって基地内部に侵入した虫型ネウロイを追い、上空から迫るネウロイをバルクホルンとエーリカの二人が迎撃に向かっている。
しかし、警報装置すら麻痺した状態で、それを俺に知らせる術などなく、彼はこうして意気揚々と風呂を楽しむことが出来ているのだ。


『きゃあああああああああああああッッッ!!』

俺「…………はあ、人が楽しんでいたらこれだよ。全く、人生は難儀なもん、だッ!」ザバアッ!


脱衣所から聞こえてきたミーナの悲鳴に、気だるげな溜息を吐きながらも即座に露天風呂から立ち上がると、凄まじい速度で脱衣所へと向かっていく。
だが、脱衣所に入る直前、中から発せられる複数人の気配に足を止め、中の様子を窺う。

覗き込めば、バルクホルンとエーリカを除いたウィッチーズ全員の姿があった。


坂本「見事だ、ミーナ!」

宮藤「やったー!」

ペリーヌ「さ、流石ですわ」

ルッキーニ「あーーーー、あだじのむじぃぃぃーーーーー!!!」ビェェェェェッッ!!


俺(なにやってんだ、あいつ等……)


顔を真っ赤に染めたミーナと彼女を褒め称える仲間達、そして何故か一人泣きわめくルッキーニ。
冷静な目で見れば、異様な光景である。なにせ、そうやっている場所が脱衣所で、褒める対象が服を着かけているミーナであることがまた奇怪だ。


俺(よく分からんが、隊長さんが虫でも潰したのか? それであの喜びようって、どんだけ嫌われてるんだよ、あの虫)


得ている情報が少ない俺では正解を導き出すことなぞ到底できなかったが、ミーナの無事は確認できた。それだけでも充分すぎる収穫だろう。


俺(さて、このまま出て行くのも後々メンドいし、もう一風呂浴びますか)

俺(何事もなくて結構結構、レイプや輪姦なんて男として駄目ですよーっと。男として、せめてコスプレかSMくらいにしときなさい!)


心底どうでもいい独白をしながら、基地を襲った危機を気に掛けることもなく、俺は露天風呂に戻っていくのであった。









――後日 ミーティングルーム



俺「いやー、虫型ネウロイは強敵でしたね」

私「お前は何もしてないだろうが!」

俺「そうだねー。このネウロイに俺が本気で絡んだら、即効解決したからな」

坂本「だったら、何故本気を出さないんだ、お前は」

俺「え? メンドイからヤダ。つーかお前等、揃いも揃って文字通りの虫ケラに遊ばれてんじゃねーよ」


歯に布着せぬ俺の言葉であったが、今回ばかりは誰も反論できなかった。


俺「それはそれとして、カールスラントの馬鹿さ加減って、お国柄?」

バルクホルン「き、貴様! 言うに事欠いて……!」

俺「だって、なあ……?」

私「すまん、バルクホルン。こればっかりは俺に同意だ」

バルクホルン「な、なんだとぉ!?」


何をもって、そのような悪罵を口にするかと言えば、今回の件でミーナが達成したネウロイ200機撃墜を讃えて送られた勲章に問題があった。
送られてきた勲章は、柏葉剣付騎士鉄十字章。カールスラント軍人として、比類なき栄誉である。ただし、それがズボン型でさえなければ。


俺「なあ、これを送るのって誰?」

エーリカ「えーっと、皇帝陛下のフリードリヒ4世だね」

俺「分かった。ソイツ、馬鹿だ。比類なき馬鹿だ。あくなき馬鹿だ。こんなもん送りつけてくるとか、頭おかしいよ、キモい」

バルクホルン「ききき、貴様は、私の前で――」

俺「じゃあ聞くけどさ。こんなもの送られて嬉しいか? 普通の鉄十字章でいいだろ。人のこと馬鹿にするのも大概にしとけって思うだろ」

バルクホルン「………………そんなのことはない!」キョロキョロ

俺「おい、その微妙な間はなんだ。目が泳ぎまくってるぞ。つーか、恋人関係でもない女に下着、もといズボン送るってどうなんだ?」

リーネ「え、えーっと、そんな習慣ない、ですよ?」

俺「だろぉ。それに俺がお前等にズボンをプレゼントしたら引くだろ。絶対履かないだろ。価値のあるものでも、ズボンの形してちゃ飾りもできないだろぉ」

シャーリー「で、でもさ。鉄十字章に変わりないわけだし……」

俺「これ、もしかしたらデザインも皇帝が考えたんじゃねーの? ああ、ミーナ中佐にはどんなのがいいだろう、よしこれだ! なんて。キモいわ馬鹿がッッ!!」


全員(物凄い説得力だ―――――z________ッッ!!)


俺「普通のでいいのによ。それですら微妙に喜んでいいのか分からんねーし。なあ、隊長さん?」

ミーナ「………………」ズーン


俺「軍も言えねーよなぁ、ケツでネウロイ潰したとか。徒手空拳でネウロイ撃破とかボカして、ノイエカールスラントじゃ、“ミーナ中佐に続け”とかスローガンが広まってるんだって?」

ミーナ「………………」

俺「事実を知った国民はなんて思うだろうな。ホント、国の情報操作て怖いよね。俺達も誰かの掌の上で踊り狂わされないように気を付けないと」

ミーナ「……思う存分、笑うといいわ。……笑いなさいよ」

俺「やべぇ、BBAが暗黒面に落ちかけとる。しまいにゃ、もうパーフェクトもハーモニーもないのよ、と言い出すぞ」

私「全く関係ないだろうが!?」

俺「このままじゃ、ウィッチーズの誰かを道連れにして地獄姉妹になるぞ! キックホッパーじゃなくてヒップホッパーになっちゃう!」

私「それは仮面ライダーじゃなくて、もはやただの歌手だ!!」

俺「あれ、本当だ。ケリをシリに変えただけなのにな」

私「酷い改変だよ!!」


俺「俺の改変が酷いっつーか、俺が何もしなくても酷い話だろ。誰が、何が、とは言わないけどさ」チラ、チラ

エーリカ「今の視線と今までの会話の流れで、もう全部バレちゃってるから。確かに、ボカさなきゃ、人には言えないけどさぁ」

坂本「もうちょっとこう、手心というか……なあ?」

俺「痛くせねば覚えませぬ」

ミーナ「ええ! 痛いわ! 胃と心に穴が開きそうよ!!」


俺「このミーナさん凄いよぉ! 流石はウィッチーズの隊長さん! 俺がアンタと同じ目にあったら、どの面下げて表を歩いていいか分からねぇ」

ミーナ「私だって分からないわよ、そんなことぉ! でも、仕事だもの! ウィッチの使命だもの!」

俺「流石はBBA! 俺達に出来ないことを平然とやってのける! そこにシビれる! あこがれるぅ!! ……いや、やっぱそうでもねぇかな?」

ミーナ「そこまで言っておいて、急に自信をなくさないで!!」

俺「いや、だってなぁ?」

ミーナ「憐みの! 憐みの視線を向けないで!」ウワァァァァァン!!


ペリーヌ「毎度のこととはいえ……」

リーネ「ミーナ中佐、かわいそう……」

サーニャ「……もっと真面目なら、優しい人なのに」

エイラ「サーニャ、それ騙されてル!」

ルッキーニ「うじゅー! あたしも俺に変なもの捕まえてくるなって怒られたー!」

シャーリー「仕方がない。あたしも、保護者気取ってるなら、保護対象が何を捕まえてきたか把握しとけって言われたからなぁ」

坂本「アレはアレで、いいコンビ……なのか?」

私「ええ、俺に愛想も尽かせず、いつまでもツッコんでくれる所を見れば、いいコンビですよ。……ミーナ隊長の胃へのダメージを鑑みなければ、だけど」


私の一言に、皆が心の中でミーナに合掌したのは、言うまでもなかった。
最終更新:2013年03月30日 01:20