カウハバ基地が襲撃された翌日――――
まだ靄のかかる基地の格納庫に、俺を含めたいらん子中隊の面々は集まっていた。
いつ出撃命令が下されてもいいように、全員の足にはストライカーユニットが装着されていた。
俺のJu88、キャサリンのバッファロー、ビューリングのハリケーン、ハルカの十二試艦戦、ウルスラのHe112。
そして智子のキ27。
ストライカーユニットの魔導エンジンは既に暖機が完了し、いつでも飛び立てる準備をしている。
智子が格納庫内の椅子に腰掛けて軍刀を構えて目を瞑り、精神統一をはかっていた。
その姿を少し離れたところで見ていた俺は、つぶやいた。
俺「穴拭少尉の姿、まるで扶桑のシムラみたいだな。」
キャサリン「俺、それを言うならサムライねー。」
ビューリング「殺気がすごいわ。」
それぞれが感想を述べていると、エルマが寂しそうに口を開く。
エルマ「穴拭少尉が昨日言ったこと、本当なんでしょうか……?」
ハルカ「多分、本当だと思います……。一度決めたことは曲げない性格ですから……。」
俺「やっぱり扶桑人が頑固っていうのは、本当だね。少尉の部屋に行って話をしたけど、俺の意見は聞き入れてもらえなかったよ。」
ハルカ「そうかもしれません……って、俺少尉!智子少尉の部屋に行ったんですか!?」
俺「あ、あぁ行ったよ?」
ハルカ「何しに行ったんですか!?」
キャサリン「きっとナニしにいったねー。」
キャサリンがニヤニヤ笑いながら言う。
ハルカ「そんなうらやま……けしかりませんですよ!」
ビューリング「言葉遣いが変だぞ、ハルカ。」
ハルカ「俺少尉、ナニしたんですかー!」
俺「いやだから、戦闘指揮をする身として今後の事について話し合っておこうと……。
そんなやましいことはしてないから安心しろ、迫水兵曹みたいな事はしないよ。」
ハルカ「な、なんだ……。って、なんで私なんですか!」
俺「1週間ぐらい前だったかな?穴拭少尉の部屋で――――。」
ハルカ「わー!わー!どうして知ってるんですか!」
俺「そりゃあ俺の部屋は隣だし、壁が薄いから聞こえてくるんだよ。」
キャサリン「なになに?気になるのねー。」
ビューリング「私もだ。」
俺「いや、この間ハルカ兵曹が……。」
ハルカ「お、俺少尉!それ以上言わないでください!なんでも言うこと聞きますから!」
俺「へぇ……?」
ハルカ「あ、いや……出来る範囲でだったらですよ!」
俺「分かってる、でも今はやめとくよ。」
ハルカ「そうですか……。」
そんな会話をしていると、不意に基地中のサイレンが鳴り響き、スピーカーからスオムス語とブリタニア語の放送が流れてくる。
「空襲警報発令。空襲警報発令。ネウロイの爆撃機三個中隊規模約60機が当基地に向かって接近中。
待機中の機械化航空歩兵は全機出撃し、これを迎撃されたし。」
智子はいち早くこの放送に反応し、格納庫を飛び出していく。
俺たちも椅子から立ち上がり、武器を担いで、滑走路へと向かう。
エルマは気合を入れるためか、自分の顔をパシンと叩く。
滑走路に出た俺は、BMW801魔導エンジンを全開にして滑走を始める。
俺の目線の先には既に空に上がった智子の姿があった。
智子は基地内で一番早くに飛び立った。
旧式のキ27ではあるが、軽やかに上昇していく。
チラリと下を見ると、アホネン大尉率いる第1中隊が統率された動きで空へと上がってくる。
さすがは正規軍で、昨日私たちを救ってくれただけの事はある。
新型の機体メルスを履いた彼女たちの実力は伊達ではないのだろう。
彼女たちは綺麗に編隊を組んで、グングンと上昇し、あっという間に智子を追い抜いていく。
アホネン「お先に失礼。」
無線機に入ってきたアホネン大尉の声を聞き、智子は軽くバンクを振って答える。
ハッキネン「観測機からの連絡では、敵爆撃編隊は基地南東を高度4000メートルで進撃中。
接触予定は全速で6分後。」
智子は第1中隊の後ろを着いていくように飛行する。
その頃になって俺たちが追いついてきたが、智子に遠慮しているのか、一定の距離を保っている。
智子はそれを気にした様子もなく、目前に迫る敵へと集中する。
俺はエルマ達の先頭を飛行し、高度計を見る。
高度計はきっかり4000の数字を刻んでいた。
この高度になると、地上の寒さとは段違いになってくる。
魔法によってある程度は防ぐことはできるが、それでも冷たい空気が身に染みる。
俺「接敵まであと2分ほどだ。今回が俺たち中隊の初戦になるから、皆頑張ろう!」
キャサリン「わかったねー。ネウロイをばんばん落としてやるのね!」
エルマ「う、うぅ…緊張してきました……。」
ビューリングとウルスラとハルカは無言だ。やはり皆緊張しているのだろう。
そのうち、遠くの空にぽつぽつと、黒点が見えてきた。ネウロイの編隊だ。
すると、前方を飛んでいた第1中隊が高度をあげた。
雲の中から敵編隊にかぶって襲いかかり、敵編隊を寸断しようという考えなのだろう。
数に勝っている敵を相手にとるなら、セオリー通りの戦い方だ。
この時代、レーダーが無いため、ウィッチとネウロイは互いに自らの目視で戦わないといけないからだ。
俺達も第1中隊を援護しようと上昇したが、智子だけはネウロイに臆する事なく、真正面から近づいていった。
智子の装備するキ27の速度と急降下性能では、第1中隊の使用するメルスのような一撃離脱戦法は行えない。
そもそも、智子には一撃離脱で敵を倒すつもりはさらさら無かった。
互いの距離が近づくにつれ、敵編隊の構成が分かってきた。
でっぷりとした胴体に小さな翼が生えたハエのような機体のラロスと、低空を飛ぶ細長い機体ケファラスが約30機ずつ飛んでいた。
先日、俺たちを執拗に追いかけ回したのはラロスだろう。そして、スラッセンの街を破壊したケファラス併せて60機ほどの敵だ。
対してこちらは第1中隊の12機と、義勇独立飛行中隊の7機。数の上では不利だが、手も足もでないというわけでは無い。
第1中隊はアホネンを先頭に、雲の中から敵爆撃機編隊に向けて急降下を開始した。
エーテルのプロペラが空気を切り裂く音と共に、第1中隊が爆撃機編隊に向けて20mm機関砲を撃つ。
突然の襲撃に虚をつかれたケファラスの何機かが、火をあげながらスオムスの雪原の上に墜ちていく。
エルマ「わぁ…アホネン大尉達すごいです。」
ハルカ「名前はアホなのに。」
俺「確かにすごい。的確に爆撃機だけを狙ってる。」
キャサリン「私たちも負けてられないねー。ラロスを落としに行くね!」
ビューリング「そうだな。」
ウルスラ「……。」コクン
俺「じゃあ、穴拭少尉がラロスを引きつけてる間に後ろに回りこんで奴らを落とそう。
ハルカ兵曹とキャサリン少尉、俺に着いてきてくれ。ビューリング少尉とエルマ中尉、それからウルスラ曹長はバックアップを頼む。」
全員が了解と頷き、ラロスの群れに向けて降下しようとしたその時…
智子「来ないで!手は出さなくていいわ!」
第1中隊を追い回していたラロスの4機編隊に食らいついている智子から通信が入る。
見ると、智子は無理な機動をしたせいで速度の落ちた1機目のラロスを八九式7.7mm機銃で尾翼を吹き飛ばし、そのまま上体を捻って2機目のエンジンに弾丸を撃ち込んだところだった。
攻撃を受けた2機のラロスは、煙を吹いて徐々に高度を落としながら編隊を離れた。
残った2機はそこで智子の存在に気づき、回避行動に移る。しかし、接近戦で智子のキ27から逃れることはほとんど不可能だった。
智子は
その2機もほとんど同時に血祭りにあげた。第1中隊は爆撃機編隊に再度攻撃を加えるために上昇していく。
智子の働きによって、アホネン達はケファラスを撃墜することに集中できるのだ。
智子「アホネン大尉!護衛のラロスは気にしなくていいわ!」
アホネン「あ、ありがとう。」
アホネンは少し戸惑いながら答える。
智子「これで昨日の借りはチャラね。」
そう呟いて後ろを見ると、新たに6機のラロスが新たな脅威である智子に向かってきていた。
智子は下唇を軽く嘗めた後、その6機に向かって行った。
一方、智子から怒鳴られた俺たちは仕方なく他の目標を探していた。
散らばっている残りのラロスの数を詳しく把握することは難しいが、約1000メートルほど先にはラロスに3機編隊が居た。
こちらにはまだ気づいていないようだ。あるいは、気づいていてもさほど脅威ではないと思っているのか。
ともかく、機首はこちらに向いていない。
俺「敵編隊発見、数は3、距離1000。あいつらを狙おう。」
無線機でキャサリン達に指示し、他にもいるかも知れないから慎重に近づこう、と言おうと思った矢先。
キャサリン「きゃっほー!やってやるねー!」
ハルカ「智子少尉のお役にたてるなら!」
キャサリンがバッファローのエンジンを全開にし、敵編隊へと近づいていく。
ハルカもそれに続き、編隊に突撃していく。
俺「二人共!不用意に近づくな!」
エルマ「て、敵が後ろに!」
俺がそう叫んだ矢先、エルマが二人の後ろの雲間から2機のラロスが飛び出してくるのを見つけた。
俺たちが前方の編隊に近づくのを待っていたのだろうか。
キャサリン「わああ!撃ってきたねー!」
ハルカ「きゃあっ!ひえっ!」
エルマの叫びに気づいて2人は咄嗟に回避行動を取った。
すぐ傍をラロスの機銃弾が掠めていく。
俺「俺とエルマ中尉であの2機を落とす!ビューリング少尉とウルスラ曹長は2人の援護に向かうんだ!」
エルマ「え、えぇっ!?私と俺少尉で行くんですか!?」
ビューリング「了解した。ウルスラ、行こう。」
ウルスラ「分かった……。」
ビューリングとウルスラは実戦経験があるからか、比較的落ち着いて俺の指示を聞き、ハルカ達の援護に向かうために速度をあげる。
しかし、実戦を一度も経験していないエルマは泣きそうな顔になりながら俺の横を飛んでいた。
俺「大丈夫ですよ、中尉。ラロスは足も鈍くて愚鈍なネウロイです。落ち着いて狙えば、すぐ落とせますよ。」
エルマ「で、でも……そうですよね、逃げてばっかりじゃいられないんです……!」
俺「その意気だ、中尉。よし、着いてきてください!」
俺は体を捻りこんでロールしながら高度を落とし、ラロスの後ろへと付く。
前方の2人に夢中なのか、こちらに気づく様子はない。
そこで俺はラロスの1機に近づいて、エンジンの吸気口を探す。
吸気口を機体の下部に見つけた俺は、そこにMG17の1連射を加える。
充分な吸気を受けられなくなったラロスは出力が落ち、降下していく。
あの分だとおそらくエンジンも止まったのだろう。
戦果を確認した俺は、隣のエルマ中尉もとっくに落としたと思い、横を向いた。
すると、奇襲をかけたエルマが何故か追いかけられていた。
エルマ「お、俺少尉ー!助けてくださぁーい!」
無線機から必死の声が聞こえてくる。
奇襲をかけたとき、エルマも俺と同じようにラロスの後ろについてブレダSAFFT12.7ミリ機関銃を撃ったのだが、手が震えているせいか、ほとんど当たらなかったのだ。
それに気づいたラロスは旋回したのだが、エルマはそれを追撃せずにさっさと後ろを向いて逃げ出したのだった。
俺「と、とりあえずあいつらから引き離せたのは狙い通りだけど…予想外すぎるだろ!」
俺は左旋回をし、エルマを追いかけ回すラロスを前方に捉える。
エルマはファロットG50の比較的優れた旋回性のおかげで、ラロスの追撃をギリギリで避けているが、飛び方が危なっかしすぎる。
そう思った俺は、急いでラロスの後ろにつき、MG17でその主翼と水平尾翼を穴あきチーズにする。
バランスを失ったラロスは火を吹きながら勢い良く回転して、スオムスの雪原へと落ちた。
俺「大丈夫ですか、中尉!」
エルマ「た、助かりました、俺少尉……。ごめんなさい……。」
俺「何、
初めての実戦ならああいうことは珍しくありませんよ。
そんなに気負うことはない、気にせずに次行きましょう!」
エルマ「そ、そうですよね……分かりました!」
エルマは俺の言葉で、元気を取り戻したようだ。
俺はそれに頷き、第1中隊の方を見る。
彼女達はケファラスの爆撃編隊に取り付いて攻撃を行っていた。
智子が相当数のラロスを落としたのだろう、ケファラスの周りに護衛のラロスは見えず、ただの的と成り果てたケファラスが次々と落とされていく。
ケファラスはその腹に搭載した爆弾をスオムスの森の奥深くに投棄していた。
俺「そろそろ終わりかな……。」
エルマ「え?」
俺「いえ、なんでも。それより早くビューリング少尉達と合流しましょう。」
俺たちはビューリング達と合流すべく、旋回して速度を上げていった。
キャサリンとハルカを追っていた2機のラロスが、俺たちの方に向かったのを確認したビューリングは、キャサリン達の前を飛ぶ編隊に目を向けた。
さすがにこちらの存在に気づいたらしく、旋回してこちらに向かってくる。
……ところが、ラロスはまたしても旋回し、ビューリング達から遠ざかるように去ってしまう。
ビューリング「どうしたんだ…?」
キャサリン「ふぅ、死ぬかと思ったね。」
ハルカ「うぅ……」
ウルスラ「敵が居なくなってる。」
ウルスラの言葉に3人があたりを見回すと、その空域一帯に1機のネウロイの姿も認めることはできなかった。
ハッキネン「機械化航空歩兵部隊の皆さん、ご苦労様。敵は爆撃を断念しました。迎撃は成功です。」
ハッキネンの声が、耳に響いた。
俺たちが基地に戻ると、一番始めに降りた智子を、整備兵や基地要員、果ては先に帰投した第1中隊の面々が歓声をあげて取り囲んでいた。
初出撃で、エースだと認められる5機以上撃墜という条件をダブルスコアでいとも簡単にクリアした智子は、一気に注目の的になったのだ。
智子はその歓声に手を振って答えた。そこに、第1中隊の隊長、ミカ・アホネン大尉が駆け寄ってきて、智子を抱きしめた。
アホネン「あなたを落ちこぼれなんていって悪かったわ。おかげでラロスを気にせずに攻撃に専念できた。
感謝するわ。」
そう言われ、智子は誇らしげに頷いた。
そんな様子を、俺たちは遠くから見ていた。
戦果に寄与しなかったエルマやハルカ達が、智子の様子をぼんやり眺めていた。
俺「さすが、エースだけあるね。」
キャサリン「そうねー。それに引き換えミーは全然ダメだったね……。」
ハルカ「智子少尉にも手出しするなって言われましたし……。」
俺「そんなに気にすることじゃないさ。次の出撃でその反省点を生かせばいい。」
ビューリングはばつの悪そうに頬をかき、エルマはおろおろとした様子で近くを行ったり来たりしていた。
俺「中尉、どうしたんです?」
エルマ「いや、穴拭少尉におめでとうをいいたいんですけど…今言ったら邪魔かなって……。」
キャサリン「中尉はほんと、いい人ね。」
キャサリンがぽつりとつぶやいた。
最終更新:2013年03月30日 01:44