俺たちが会敵点に近づくと、アホネン大尉率いる第1中隊が敵の上空で旋回していた。
どうやら、攻めあぐねているようだ。
俺「こちら俺少尉。アホネン大尉、どうしました?」
アホネン「いつもと敵の様子が違うみたい……あんな巨大なのは見たことがないわ」
キャサリン「俺、あれのことかねー?」
キャサリンの言葉に、視線を第1中隊から、その下の機影へと移す。
周りをラロスに囲まれているそのネウロイは、圧倒的存在感だった。
ケファラスの2倍、いや3倍はあろうかという巨大な図体は、俺も一度だけ見たことがある。
オストマルクで俺の部隊を壊滅させた、忌々しいディオミディアだ。
俺は、あれを当時の隊長ごと、7.5cm砲で撃ちぬいた。
俺「……ディオミディア」
ビューリング「俺、知ってるのか?」
俺「あぁ、この前話したやつだよ」
ビューリング「あいつが……」
ウルスラ「……大きい」
ハッキネン「雪女より機械化航空歩兵隊へ。接近しつつある敵巨大爆撃兵器は、新型のディオミディアと判明!
カールスラントで航空隊を苦しめている化物です!ハリネズミのように機銃を装備しているため、不用意な接近は危険です!」
俺「了解、雪女」
エルマ「あ、あんなのと戦ったんですか、俺さん…?
」
俺「大苦戦でしたよ、奴の弱点は側面の真ん中あたりなんですが…そこに近づくにはあの大量の機銃座を潰さないといけない」
第1中隊は、降下しては機銃に撃たれて追い返されるといったことを
繰り返していた。
4発によって牽引されるその姿は、まさに空飛ぶ要塞と言っても過言ではない。
とにかく、不用意に近づけばあっという間にミートパテにされてしまうのだ。
俺「慎重に近づかないと……」
そこまで言うと、突然、先行していた智子がディオミディアに接近し始めた。
エルマ「あ、穴吹少尉!危険です!近づかないで!」
キャサリン「トモコ!行っちゃダメね!あいつまずいね!」
ハルカ「少尉!やめてください!落ち着いて!」
俺「ビューリング、智子少尉の支援に行くぞ!」
ビューリング「分かった」
俺とビューリングは、智子の後方につき、無線機に喋りかける。
俺「智子少尉、一人じゃ無理だ!おとされるぞ!」
智子「カールスラントで航空隊を苦しめてるですって……?
」
智子は考えた。あれを撃墜すれば、カールスラントにいる武子よりも強いと証明される。
それは、勲章よりも喜ばしいことだった。
さっきから無線機がうるさいが、今は眼前の敵に集中しよう。
正直、ディオミディアの存在感には恐怖を覚えた。しかし、私はこいつを落とさなければいけないのだ。
智子「武子、見てらっしゃい」
智子とディオミディアとの距離は200をきった。
防御機銃から幾筋もの火線が伸び、智子の体を掠めていく。
この程度なら、問題ない。智子はその火線の間を縫うように飛び、7.7mm機銃の照準いっぱいにその姿を捉える。
機銃が火を吹き、ディオミディアに全弾命中する…が、表面に火花が散るだけで、到底ダメージを与えられているとは思わない。
どうやらディオミディアは防弾装甲を施しているらしい。
智子「落ちてよー――――!」
智子は尚も接近を続け、距離は100mを切った。
機銃の雨は益々濃密になり、ついに智子の愛機に被弾する。
智子「あッ!」
戦闘脚が煙を吹き、急激に速度が落ちる。
智子の身はいまだに機銃の射程内だ。
腕に被弾し、続いて足にも被弾する。
俺「バカ野郎め!」
俺が速度を上げ、智子の前に出ようとした瞬間、ビューリングが速度をあげて俺より早くに、智子とディオミディアの間に割って入る。
智子「ビューリング!」
ビューリングは、智子の盾になり、自身の体を銃撃の雨に晒す。
シールドを張っているが、この中ではあと30秒持てば良い方だ。
智子「何をしているの!離れて!」
ビューリングのシールドはあっという間に破られ、機銃弾が体にめりこむ鈍い音がする。
智子「あなた!死にたいの!?」
それでもビューリングは離れず、智子を抱えながらよろよろと射程外に逃れようと飛ぶ。
これでは、いい的だ……私に構うな、と言おうとした瞬間、不意に銃撃が止む。
智子が不思議に思い、後ろを向くと、俺がシールドを張って、2人への攻撃を防いでいた。
俺「ビューリング、早く逃げろ!俺ももう持たない!」
ビューリング「分かってる、さ……」
この時の俺の顔を、智子は当分忘れることができなかった。
自らも銃弾を受けながらも、私たちを守ってくれる彼の顔は、憎悪と憤怒と、そして必死さが入り混じった表情だった。
智子は不覚にも、かっこいいかもしれないと、そんな事を考えながら気を失った。
どうにかして射程圏外に脱した俺は、気絶した智子を抱えるビューリングの身体から力が抜けていくのを感じた。
彼女は、ふらっと崩れ、智子と一緒に地面へと落ちていく。
俺「無茶しすぎだ!」
銃弾が頭を掠ったときに出てきた血を拭いながら、急降下で二人に追いつこうとする。
幸いにも、二人は自由落下をしているだけなので、ストライカーの出力の助力を得た俺は、すぐに追いつけた。
何とか二人の腹から背中に手を回し、抱え込むようにしながら急制動をかける。
気づくと、地面まで100mも無かった。本当に危なかった。
俺「あと少し遅れてたら、ひき肉になっちまうところだったぜ……」
上空を見ると、エルマ中尉達が大慌てでこっちに向かってきていた。
エルマ「だ、大丈夫ですか…って、大怪我じゃないですか!」
キャサリン「俺もやばいけど、二人はもっとやばい状態ね……」
ハルカ「わあああ!少尉ー!」
俺「とにかく、この2人を急いで基地まで運んで治療してやってくれ」
エルマ「わ、分かりました……」
キャサリン「俺はどこ行くね?
」
俺「なぁに、ちょっとあいつを追い返してやるだけさ」
ウルスラ「……」
ウルスラが、俺の袖を掴んで、俺の顔を見つめる。
行ってほしくないと、訴えているようだ。
俺「大丈夫、死にはしないさ。帰ってきたら、ロケット弾の話を続けよう」
ウルスラ「でも……」
エルマ「わ、私からもお願いします…俺さん、行っちゃダメです!」
俺「あいつを追い払わないと、基地がやられちまう。第1中隊と行動するから、心配するな」
キャサリン「アホネン大尉なら、大丈夫ね。早く追い払って、戻ってくるね」
俺「ああ、もちろんさ。聞こえましたか?アホネン大尉」
アホネン「俺少尉って、バカなのね……」
俺「はは、すいませんね」
アホネン「はぁ……イーグルより雪女、これより俺少尉を一時的に第1中隊に編成します」
ハッキネン「了解、イーグル」
俺「感謝します、アホネン大尉」
アホネン「さっさと追い払うわよ!」
俺は、アホネン達の第1中隊の編隊へと加わる。
アホネンを「お姉さま」呼ばわりしている他の隊員が、怪訝そうな顔でこちらを見るが、今は非常時だからしかたがない。
編隊の下には、ディオミディアが侵攻を続けている。
俺「アホネン大尉。奴を追い払うには、とにかく機体中央に火力を集中させる必要があります
そこを攻撃すれば、撃墜できなくとも、撤退に追い込む事はできる」
アホネン「聞いたわね、皆?
俺少尉の前にシールドを2人ではって、彼の合図で攻撃なさい」
隊員達「いやですわ、お姉さま!私たちはお姉さまだけについて行くと決めたんですもの!」
アホネン「俺少尉を守ったら、朝まで絶頂を見せてあげるわ」
隊員達「はい、お姉さま!」
俺「なんだここ」
俺は、7.5cm徹甲榴弾の信管を叩く。
これであいつに叩きつければ、それなりに削れるだろう。
1発しか持ってきてないから、チャンスはこれきりだがな。
俺「それじゃあ、頼みます!」
俺は、半身を捻ってディオミディアに向けて急降下をする。
俺の前には、2人の隊員がシールドを張りながら急降下している。
いい尻だ。
隊員1「うわ、もう射撃が!」
隊員2「まだですわよ、俺少尉の指示があるまで!」
2人分のシールドなら、耐えられるだろう。ディオミディアまであと200メートル
弾幕が密度を増す。
隊員1「くっ、きついですわね……!」
隊員2「俺少尉、まだですの!?
」
俺「あと少しだ、頑張ってくれ!」
相対距離は100メートルを切り、ついに50メートルを切った。
もう彼女たちのシールドは限界だ。
俺「今だ!離れろ!」
俺がそう叫ぶと、彼女たちは左右にロールし、ディオミディアから逃げる。
俺は機銃弾を受けながらも、右手を振りかぶる。
俺「このっ……くらえ!」
俺の手から離れた徹甲榴弾は、ディオミディアに向けて、落下し、見事に機銃座に当たった。
炸薬が爆発し、胴体中央部に穴を開けた。
アホネン「すごい…あれだけの攻撃力があるなんて……」
ディオミディアは落ちずに、飛行を続けている。
しかし、やはり深手だったのだろう、ディオミディアは旋回を始め、元来た方へと戻っていく。
アホネン「イーグルより雪女、敵は撤退していきます。我々の装備では追撃は不可能と判断、帰投します」
ハッキネン「了解イーグル、お手柄だわ」
アホネン「いいえ、今回は私たちではなく、俺少尉の活躍です」
ハッキネン「そうですか。ありがとう、俺少尉」
俺「当然のことをしたまでですよ。帰投します」
俺達は、編隊を組み直して基地へと戻る。
しかしこの中隊、全員がアホネン大尉にべたべたしすぎだろう……。
最終更新:2013年03月30日 01:45