操縦俺「整備俺さん、やっぱり幹部なんですね…」
扶桑の新聞をめくりながら、操縦俺が呟いた。
整備俺「どういうことですか?」
操縦俺「俺なんか未だにパニクってますよ。大学出の幹部は違うなーって思いました」
整備俺「俺も一杯一杯ですよ。ただ、人間、大惨事に遭うと逆に冷静になるもんじゃないですか。
それに、後輩?部下?と一緒にいるから、余計にテンパれないですしねえ」
整備俺は、わざとのんきそうに言った。そして、操縦俺はにやりと笑った。
操縦俺「やっぱり、整備俺さんは整備俺さんだ」
操縦俺に連られて、整備俺も唇を歪めた。
そして、ひとしきり笑ったあと、俺達は真顔に戻った。
整備俺「で、操縦俺さんはこれからどうするつもりですか?」
操縦俺「俺ですか。うーん……。軍人、続けるしかないと思いますよ。
高校出たあと陸自で1年ヘータイやって、航学で2年。それからウイング取ってORパイロットになるまで3年。
今更、軍人以外で食ってく自信ないですよ」
整備俺「ああ。それ聞いて安心しました。俺も同じつもりでしたからね。
この世界では、俺達にはバックボーンが何もない。
欧州に残るにしても、日本に戻るにしても、シャバで生きていけるとは思いませんよ。
だけど、このまま上手く軍にもぐりこめれば、最初から士官で
スタート出来るんだ。
だったら、今までのステータスをそのまま引き継げる方向で行きましょう」
操縦俺「わかりました。とりあえず、現状はその方向で行きましょう」
その、安易な消去法による選択が、
後になって死ぬほどの後悔を生むことになるが、それはまた別のお話。
さて。
扶桑史の教科書を読破し、続いて世界史の教科書も読破した。
扶桑地理の教科書は、地名や各地方の風土等、
(歴史的な要素を除けば)
戦前までの日本とほとんど変わらなかったため、流し読み程度で軽く済ませた。
扶桑を国際社会のなかで列強国たらしめているのは、“南洋島”が重要みたいだ。
この世界では、中世に、アジア大陸のほとんどがネウロイに滅ぼされたため、
日本のように中国大陸に利権(主に資源や市場)を得ることができなかった。
しかし、その代わりに、扶桑は南洋島という存在を得ていた。
南洋島には、扶桑各地の戦国大名が入植しているという歴史があるため、
中国大陸と違ってその利権は扶桑が公然と独占できる。
近代日本が関わった戦争は、中国利権を巡る争いが1つの要因となっていたが、
この世界ではその要因自体が存在しないため、
扶桑と他の列強諸国との関係は、そう悪いものではないようである。
整備俺「少し暑くなってきたな…」
そういえば、芳佳が、今は8月だと言っていたのを思い出した。
8月で冬服を着ていれば、それは暑いに決まっている。
整備俺が上衣を脱し、操縦俺もそれに倣った。
整備俺「…………」
操縦俺「…………」
大の男が2人も揃えて学校の教科書を黙々と読み進めるのは、
端から見ればなかなかシュールな光景であると思う。
…が、それ以上にシュールな光景が出現した。
小柄な、たぶん女の子が、
辞書のような分厚い本を山のように積み上げて図書館に入ってきた。
整備俺「」
操縦俺「」
バランスが悪いのか、ふらふらと左右に揺れているので、見ていて非常に危なっかしい。
と云うか、絶対、前、見えてないだろ!?
操縦俺「何なんだ…?」
整備俺「突っ込んだら負けというやつじゃないですかね」
操縦俺「貴男みたいですね」
整備俺「なんだそれ…」
小柄な女の子の背中を見送る。
この子も、さもあたりまえように下半身はパンツ丸出しである。
相変わらず目のやり場に困るが、いい加減突っ込む気もなくなってきた。
そして、その子が羽織っている上着は、というと。
操縦俺「ルフトバッフェのフリーガヤッケじゃないか。あれ、俺も持ってたよ…」
整備俺「ドイツ人、いや、カールスラントの人もいるのか…」
操縦俺「しかも中尉ですよ、あの階級章」
整備俺「俺より階級上なのか…。まじかよ」
黙々と教科書を読みふけっていたら、さっき女の子が戻ってきた。
金髪ショートカットの、男の子みたいな小柄な女の子だ。
背格好は芳佳とは同じぐらいだろうか。
そんなことを考えているうちに、俺達と目が合った。
女の子は、“何か面白いものみつけた”
――そんな、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、俺達のほうに歩み寄ってきた。
女の子「あれー? 男の人がこんなところに来てもいいの?」
整備俺「…さあ?」
女の子「まっ、悪い人じゃないみたいだからいいや」
操縦俺「中尉は…、ドイツ、じゃなくて、カールスラントの人なんですか?」
エーリカ「エーリカ・ハルトマン。カールスラント空軍の中尉だよ」
ところで、お2人は記者さんなの? そっちの人はパイロット?」
整備俺「扶桑の百里基地から取材でやってきました。整備俺少尉です」
操縦俺「同じく、操縦俺候補生です。本職は輸送機のパイロットです」
エーリカ「わたしのことはエーリカでいいよ。ねえねえ、何の取材?」
整備俺「扶桑のウィッチのことですよ」
エーリカ「ミヤフジと坂本少佐のことだね」
整備俺「そうです。故郷から遠く離れた最前線で戦うウィッチの活躍を取材してこい、と」
エーリカ「なるほどね。で、2人は図書館で何してたの?」
操縦俺「まあ、取材の打ち合わせというか、そんな感じです」
整備俺「一応、取材は昼からの予定なので」
エーリカ「それは、扶桑の学校の教科書?」
整備俺「ウィッチって、ほとんどみんな10代の女の子でしょう。
本当なら学校に通ってるはずなのに、勉強はどうしてるのかな、って。
俺、本当は学校の先生になりたかったから、余計に気になったんですよ」
ほとんど出任せだったが、全くの嘘というわけではなかった。
整備俺は、大学時代に中学と高校の地歴公民の免許を一通り取得している。
エーリカ「あはは。考えたこともなかったよ。
わたしは、将来はお医者さんになりたいから、個人的に勉強してるんだけどね」
整備俺「カールスラントの医療技術は最先端らしいですからね。頑張ってくださいよ」
エーリカ「うん。わたしはこれで戻るね。
あと、男の人が歩き回ってると、うるさい人がいるから、見つからないようにね。
まっ、わたしはあんまり気にしないけどね~」
エーリカは、何冊かの分厚い本――医学書か何か――を何冊か持ち、図書館を後にした。
操縦俺「エーリカ、マジ、天使」
整備俺「EMT」
操縦俺「EMT」
俺達が、お互い顔を見合わせて呆然としているうちに、昼飯の時間になったらしい。
芳佳が、俺達を呼びに来ていた。
芳佳「整備俺さん、操縦俺さん。お昼ごはんの準備ができましたよ」
最終更新:2013年03月30日 01:56