22:00、消灯ラッパともに、基地の住人は眠りに就く。
といっても、それで基地全体が寝静まってしまうわけではなく、その後も機能を続けている部署もいくつかある。
501JFW“ストライクウィッチーズ”隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の執務室が、その代表格であった。
その、隊長室の扉を、誰かがノックした。
「ミーナ、入るぞ」
隊長室に相応しい、重厚な木製の扉が開いた。
坂本だった。
「こんな時間にどうしたの、美緒」
ミーナは、書類から顔を上げた。
「扶桑から、私と宮藤に客人が来ていてな」
「客?」
「ああ。正確には、扶桑ではないのだが、何と云ったらいいのか…」
珍しく歯切れの悪い坂本。
「何があったの、美緒?」
「…全て、洗いざらい話すしかないか。聞いてくれ、ミーナ」
坂本は、ミーナの目を見据えた。
「昨晩の話だ。滑走路脇の池の近くで人が倒れていたのを、サーニャが保護したらしい。
2人の若い男だったんだが、
その2人を、宮藤とリーネが世話していた」
「男の人…?」
なお、この基地には、『ウィッチは、必要以上に異性と接触してはならない』という服務規則が存在していた。
(もっとも、現時点での俺達には、知る由もないことだったのだが)
「他に接触したウィッチは?」
「あとはエーリカ、ペリーヌ、それにバルクホルンとも接触している。
これは未確認だが、シャーロットとルッキーニとも接触したようだ」
「すでに隊のほとんどと接触している訳ね…」
ミーナは溜息をついた。
「問題は、その2人が、この世界のこの時代の人間ではないということだ。
2011年とか言ってたな。日本という、扶桑によく似た国の出身らしい。
1人は輸送機のパイロットで、もう1人は整備士官とか言ってたな」
ミーナは、坂本の言葉を黙って坂本の言葉を聞いている。
「2人は、この世界でも軍人を続けたいと希望していた。
それで、ミーナさえよければ、しばらくこの部隊で面倒を見たい。
この基地は、ウィッチ以外の士官の数が極端に足りていないしな」
「美緒……」
「それに、異世界の人間とはいえ、同郷人が困ってるんだ。放ってはおけんさ」
沈黙。
ミーナは、ただ黙って考えていた。
坂本も、また、黙ってミーナの目を見据えていた。
やがて、ミーナは、重い口を開いた。
「輸送機のパイロットに整備士官。たしかに、うちに欲しい人材ではあるわね」
「ミーナ…!」
現在、部隊の維持運営に必要な補給物資は、カールスラント本国の輸送航空団の支援を受けている。
とはいえ、現在、軍上層部とウィッチーズの関係は決して良好であるとはいえない。
自前の航空輸送手段を持っておくことは、保険として必要なのではないか。
――というのが、隊長としてのミーナの考えであった。
輸送航空団は、現在、機種を新型のJu252へと更新を進めており、
旧式となったJu52は、予備機や練習機に回される機体も出ている。
パイロットの確保さえ出来れば、1機ぐらいは確保できるだろうというのが、ミーナの認識であった。
そして、整備士官の職域は、航空機に関わることなら全てといっていいほど非常に広範囲である。
航空機の維持管理、整備員の管理監督、施設設備等の維持管理、運用側との折衝、
時には補給業務、航空気象、航空救難任務、エトセトラ、エトセトラ。
整備士官は、施設士官や補給士官、人事士官等の仕事にもある程度対応できるが、
整備の仕事ができるのは整備士官だけである。
そのため、部隊指揮官にとってすれば、非常に使い勝手の良い人材だといえる。
歩兵出身の輸送機パイロットと、大卒で、教員免許も持っている整備士官というのは、
坂本の言うとおり、今までこの部隊に足りなかった人材であった。
であるならば、この2人を子飼いにしてしまうのは、ミーナにとって非常に魅力的なプランであった。
「その2人というのは、美緒から見てどういう人だったの?」
「2人とも、悪い人間じゃなさそうだ。
ペリーヌとバルクホルンとはあれだが、それ以外とは仲良くなったようだ。
あと、整備のほうは、大卒で教員免許も持っているらしいな。
パイロットのほうは、陸軍で1年ぐらい歩兵の経験があるそうだ。
どちらも、なかなか良い人材だと思うぞ」
「わかりました。明日、私が面接して最終決定しますが、
今のところ、ここで預かる方向で行きたいわね」
「すまんな、恩に着る。それじゃあ、私はこれで帰るぞ。
ミーナ、あまり遅くならないようにな」
「ええ、おやすみ。美緒」
坂本、退室。
「ああもう、何なのよ、この大変な時に…!」
閉じられたドアに向かって、ミーナは嘆いた。
しかし、それも一瞬。
次の瞬間には、1個の部隊を預かる隊長の顔になっていた。
ミーナが、部隊指揮官として、何を考え、どのように結論を下そうとしているのか。
それは、ミーナ自身にしかわからないことであった。
最終更新:2013年03月30日 01:58