俺達は、基幹隊員に道を尋ねながら、輸送航空団の司令部庁舎に着いた。
そこで、先任将校である
シャーリーが指揮を執り、申告を行うことになった。
シャーリー「第501統合戦闘航空団、イェーガー大尉他3名は、機体の受領に参りました」
俺達は、シャーリーの号令に合わせて挙手の敬礼をした。
(欧州式の、脱帽のまま挙手の敬礼をするというのは、けっこう違和感がある)
幕僚「機体はこちらで用意しておくので、昼飯後に第1格納庫まで来てくれ」
シャーリー「了解しました、サー」
申告を済ませた俺達は、そのまま昼食に向かうことにした。
シャーリー「食堂は…、ここだな」
基地内の案内図を見ながら、シャーリーは士官食堂を指した。
シャーリーと整備俺は士官食堂に向かおうとしたが、操縦俺だけは気乗りしない様子だった。
整備俺「? どうしたんですか」
操縦俺「俺は士官食堂じゃなくて、一般兵用の食堂でいいですよ」
操縦俺は幹部候補生という身分でありながら、百里ではいつも隊員食堂に行っていた。
陸士上がりの操縦俺のスタンスなのか、単なるコンプレックスか。――あるいは、その両方か。
(なお、操縦俺は、地上勤務に回された時点で幹部候補生という指定を外されることになっていた)
整備俺も、曹士隊員と近い立ち位置に居たいということで、隊員食堂を利用していたが、
「メシ食うときも幹部らしくしてください」という部下からの要望があり、それからは幹部食堂を利用するようにしていた。
ちなみに、本日の昼メシは、何の変哲もないミートスパゲッティとレタスのサラダだった。
シャーリー「普通に美味いんだけど、やっぱり宮藤の料理と比べちまうとなー」
操縦俺「まあ…、確かに」
その返事は、どこか上の空だったのは、
整備俺「(正直、心当たりがありすぎる)」
―
――
――――
シャーリー「あたしは別件で、リベリオンの補給科に行ってくるよ。フライトプラン作るの、お前らだけで大丈夫か?」
操縦俺「大丈夫ですよ。そのために昨日ずっと資料作ってたんですから」
シャーリー「わかった。それじゃ、1格で合流しよう」
整備俺「了解です」
シャーリーと分かれた後、操縦俺は地図や各種資料と格闘しながらフライトプランを組み上げていた。
整備俺は新聞や雑誌を読みながら、時折操縦俺を手伝っていた。
フライトプランの決済が下りたのは時間ぎりぎりであったが、俺達は第1格納庫に向かうことにした。
1格の前の列線地区で俺達を待っていたのは、Ju52型輸送機。
機首と両翼に合計3発のエンジンを搭載するm3型だったが、この奇妙なレイアウトのクラシカルな小型輸送機が、
この世界における俺達の“カメラード(戦友)”となったのであった。
整備員から機体のレクチャーを受ける操縦俺に、整備俺は呟いた。
整備俺「操縦俺さん、やっぱりパイロットなんですね」
操縦俺「阿呆なこと言ってないで外周点検手伝って下さいよ、メンテナンス・オフィサー?」
整備俺「へいへい。俺はレフトフォワードから反時計回りで見ますよ」
操縦俺「お願いします」
整備俺「あ、そこの整備員の人、ワークカード貸してくんない?」
整備俺は、整備員から借用したワークカードのうち、
「飛行前点検(PR)」の「外周点検」の項目を探し、それを参考にしながら機体の点検を行った。
機体自体は飛行時間相応の経年劣化はあるものの、手入れは良さそうな印象だった。
機体の点検を進めているうちに、シャーリーも荷物を抱えながら合流した。
シャーリー「待たせたか? 悪いな」
整備俺「その貨物は?」
シャーリー「ああ。こいつが私の新しい相棒だ。P-51“ムスタング”、マーリンエンジン搭載のD型だよ。
前と同じストライカーだけど、ドノーマルからやりなおしだ。早速明日からカスタムするよ」
操縦俺「それじゃそいつも積み込みましょう。参ったな、重量重心の計算やり直しだ」
俺達は、Ju52に搭乗し、フライト・プランについて最終打ち合わせを行っていた。
…と云うより、操縦俺の説明に、整備俺はただ頷いているだけだったが……。
整備俺「と云うか、何で俺がコ・パイ席に座ってるんですか…」
操縦俺「大型機は1人じゃ飛ばせませんからね。とりあえずアサインしときました」
整備俺「まじすか…」
操縦俺「離着陸前後のパイロットのワーク・ロードってすごく多いんですよ。
プリタクとか、必要な点検だけでもやってくれると助かります」
整備俺「F-15のプリタクはBMOでやったことあるけど…、それすらほとんど覚えてないですよ」
操縦俺「それは…、操縦指令の、このページを見ながらやってください」
整備俺「まじか…」
操縦俺「飛んでる間は座ってるだけでいいですよ。あとは俺だけで何とかします」
整備俺「無免許で飛行機動かすなんて、夢にも思わなかったぜ…」
操縦俺「大丈夫ですよ。流れさえ覚えればクルマより簡単ですから」
整備俺「…………」
操縦俺「コールサインは“ストライクウィッチーズ・ツー・ワン”か」
茶封筒を豪快に破いて開封した操縦俺は、その命令書を見て指を鳴らした。
整備俺「…仕方ねえ。出発5分前だ。やろうか」
操縦俺「OK」
整備俺「チーフクルー、コックピット。エンジン
スタート・クリア?」
地上の整備員が、大きく親指を立てるのを確認し、整備俺はエンジンを始動した。
整備俺「クランキング、4セカンズ。…スロットル・アイドル・クリアー」
整備俺がチェックリストに則ってプリタクシー・チェックを進めていくなか、
操縦俺も、プリタクと平行して、出発手順について管制と無線交信を進めていた。
統制班「ストライク21、クリアランス、クリヤード・トゥ・501エアベース、
ヴァイア・ドーバー2デパーチャ、フライト・プランド・ルート。
メインテイン・フライト・レベル130、スコーク1308。リードバック」
操縦俺「オペラ、ストライク21。クリアランス、クリヤード・トゥ・501エアベース、
ヴァイア・ドーバー2デパーチャ、フライト・プランド・ルート。
メインテイン・フライト・レベル130、スコーク1308」
そして、運行統制班からの指示により、
操縦俺は無線のチャンネルを切り替え、地上指揮所と交信した。
操縦俺「ハロー、ダックスフォード・グラウンド。ディス・イズ・ストライクウィッチーズ21。
クリヤード・フォー・デパーチャ、リクエストタクシー」
指揮所「ストライクウィッチーズ21、ダックスフォード・グラウンド。
タクシー・トゥ・ランウェイ24ライト、フォロー、ジュリエット・ユニフォーム・ファイブ・ツー」
操縦俺は、主操縦席から周囲を見回した。
隣の列線から、今まさに鉄十字の国籍章のジュリエット・ユニフォーム52――
つまり、同型のJu52型機がタキシーアウトしていったところだった。
整備俺「要は、あれについてけ、ってことだな。
さて、次はこれか。フライト・コントロール・チェック、クリアー?」
再び、地上の整備員が親指を立てる。
整備俺「フォワード・バック・レフト・ライト。ラダー、レフト・ライト・レフト・ライト。
トリムチェック、フォワード・バック・レフト・ライト」
次いで、油温が常用域に入ったことを確認たうえでエンジン出力を上げ、
エンジンとプロペラの点検を行ったのち、スロットルをアイドルに戻した。
燃料流量計と燃量計の残燃料の数値が正常であることを確認し、
最後に、ブレーキのチェックを行い、機体はいつでも出発できる状態となった。
指揮所「ストライク21、グランド。コンタクト・タワー、ch.18。コピー?」
操縦俺「コピー」
操縦俺は、再び無線機を操作し、指定されたチャンネルにセットした。
ランウェイ進入の許可を得たので、ランウェイエンドまで機体を移動させ、待機する。
その一方で整備俺は、先に離陸滑走を開始した先行機を見て、「うへぇ」と情けない声を上げた。
操縦俺「どうしました?」
整備俺「RWY-24Rって、未舗装のほうじゃないですか…。大丈夫か?」
操縦俺「大丈夫だ問題ない。この時代の機体は軽い割りに堅牢だからどうにでもなりますよ」
管制塔「ストライク21、ウインド2-2-0アット5。クリアードフォーテイクオフRWY-24R。ボン・ボヤージュ」
操縦俺「サンキュー。ストライク21ラジャー。クリアード・フォー・テイクオフ、RWY-24R」
操縦俺は、スロットルを何度か操作してエンジンの吹け上がりを確かめ、定格出力に入れた。
操縦俺「ブレーキ・リリース、ナウ!」
ブレーキを解除されたJu52が、未整地のランウェイ上で離陸滑走を開始する。
操縦俺「V1、V2、VR…。ストライク21、エアボーン」
整備俺「エアボーン!」
操縦俺「――帰ってきたんだ、俺は。この空に」
ひどくありきたりな台詞を吐いた自分自身に対し、操縦俺は内心で苦笑した。だけど、
操縦俺「(俺もまだ、腐ってないということか)」
かすかに歪んだ口元を誤魔化すように、操縦俺は舵輪状の操縦桿を握り直した。
最終更新:2013年03月30日 02:01