暑い、暑くてたまらんわ。まったく、今世界は大騒ぎだっちゅうんに太陽さんは知らん顔してハンガーの温度をぐんぐん上げとる。腹立つ。
頭に巻いたタオルは汗でぐちょぐちょ。
こんなんなら、前の非番の時にでも髪を切りに行くんやった。
肩まで伸ばした自慢の黒髪が今はめっちゃうらめしい。ウェーブがかかってる分余計に熱を溜め込んでる気がするわ。
ウチ「あっついわ……。なんでこんなだだっ広いとこをウチ一人で掃除しなきゃあかんの……」
ウチは今、501.JFWっちゅう航空団の基地のハンガーでモップ片手に一人黙々と床を拭いている。
ウチは別に掃除専門の係やない。掃除大好き人間でもない。そんな人おったらハルトマン中尉の悪名高い部屋の掃除したってや。
ウチは普通のどこにでもいる整備士や。
そんなウチがなんで一人でハンガーを掃除しているか、まったく不思議でたまらんやろ?
まあ理由はわかってんねや。別に不思議でも何でもないわ。
今朝ウチが床に積んであったオイル缶タワーを蹴っ飛ばしたんが悪いんやわ。
漂う油の臭いが普段の三倍になってるのも床がやったらテカテカしてるんも全部ウチが悪いねんな。
ぶちまけた勢いで頭からオイル被ってしもてみんなから
「油の妖精だ!」
とか
「夜中に油が切れた機械に油をさしてまわるありがたい妖精に違いない!」
なんてアホなこと言われたのもみんなウチの自業自得なんや。
シャーリー「おーい、ウッチー。掃除終わったかー?」
入り口から呼ぶ声。お気楽極楽リベリアンのシャーリーや。ちなみにウチの担当するユニットの履き主でもある。
でも、コイツはウチがユニットをいじってもすぐに自分でいじり変えてしまうから実に整備のしがいのないウィッチやんな。
ウチ「なんやねん乳デケーガー。また人の調整したったエンジンいじり倒しに来たんか?」
シャーリー「なんだよー、隊長にも許可もらってんだし良いだろー」
ウチ「良いわけあらへんわ。ほんで最終的な微調整は全部ウチ任せなんやろ?なんなんアンタなんなん?アンタもオイル掃除させたろか?」
言い終わったところで、シャーリーが後ろ手に持ってたバケツとぼろ布に気がついた。
ウチ「あっ、それ……もしかして?」
それを指さすと、シャーリーは笑いながら、
シャーリー「一人より、二人のほうが早いだろ?」
なんて言う。コイツは、この娘はこういう事が平気に自然に出来ちゃうんよ。ほんまに、ずるいわ。
ウチ「はーあ。ホンマに、アンタにはかなわんな」
シャーリー「ん?何がだ?」
ウチ「なんもあらへん。そしたら、そこの机とか椅子のテカってるとこ拭いてってくれへん?」
シャーリー「おっけー。とっとと終わらせて、マーリンいじるぞー。あっ、もちろんウッチーも手伝ってくれるよな?」
そんな事を言いながら、机の脚にかかった油を拭き取り始める。階級も、立場も下の、ただ担当
整備士ってだけの繋がりしかないヤツの為に無償で手伝ってくれる。
それがどんだけ凄いんかコイツは知らんのやろな。ウチなんか、一生かかっても勝てへんわ。
ウチ「ホンマ、アンタには、よー敵わんなぁ……」
今のあの子の、フランチェスカのパートナーに相応しいのはウチやない。コイツなんや。
苛立ちと悔しさを胸の奥に押し殺して、それでも漏れた気持ちがモップを握る手に伝わる。
納得しろ自分。認めるんや自分。
心の中で呟きながら、ウチはひたすらモップを固く握る腕を動かした。
1時間ほどして、床の不自然なテカリは無くなった。
シャーリー「ふう、こんなもんか。そっちはどうだー?」
ウチ「完璧や。フランシーが歩く道をウチが適当に掃除するわけないやろ」
念には念を入れて二重三重に磨いたった。むしろ前より綺麗になっとるように思える。
黒くなったボロ布をバケツに投げ入れながらシャーリーが笑う。
シャーリー「ははは、ウッチーは相変わらずルッキーニが好きなんだなー」
ウチ「そらそうやろ。なんったってウチはフランシーのために軍に入ったんやからな」
シャーリー「ははっ、ルッキーニは幸せもんだなー」
ウチ「あんなかわいい子が幸せになれへん世界なんかウチが消滅させたるわ」
シャーリー「おいおい怖いなあ。ウッチーはルッキーニのことになると見境なくなるよな」
ウチ「ウチは普通のことしか言うてへんつもりやねんけどなー」
あんな子一人くらいも救われへん世界なんかいらん。無くなってまえって思うのはそんなにおかしいんかな。
まあ、世界がいくらダメになろうと、フランシーだけはウチが幸せにしたるけどな。
シャーリーは自分で拭き終えたばかりのイスに座る。丸いテーブルを挟んでウチも向かい側に座った。
整備の合間なんかに、こうしてシャーリーとどうでもいい話や新しいエンジンの話なんかをダラダラと喋ったりするんが日課になりつつある。
あくまでウィッチと担当整備士の相談やー、なんて言い訳してひどい時には三時間近く喋りっぱなしの時もあったりするから我ながらタチ悪いなあ。
シャーリー「それにしても、その訛りはいつまでたっても治んないな。時々何言ってるかわからない時もあるよ」
ウチ「言うてもなー。ウチ別にブリタニア語圏の生まれやないし」
基地にはいろんな国の人がおるけど、ブリタニア語圏外の人もたくさんおる。
そんな人たちとの会話は自然とブリタニア語になんねんけど、どうしても自分の国特有の発音のクセみたいなもんが出てしまうもんや。
とはいえそれも個人差があるんやけどね。
シャーリー「ロマーニャ出身のルッキーニは全然訛ってないじゃないか」
ウチ「そらあの子は耳も頭も良い子やからな!」
シャーリー「それ自分が耳も頭も悪いって言ってるようなもんだぞ……」
ウチ「うるっさいわ。シチリア生まれのただの整備士に細かい要求したらあかん」
シャーリー「シチリアかー。いいなー、私も一度行ってみたいよ」
ウチ「来るんやったら案内したるで?あんたみたいな小娘が一人で歩いとったらすぐにナンパ野郎共に囲まれてまうし」
シャーリー「おっ、嬉しいこと言ってくれるな―。そーかそーか、私はナンパされちゃうかー」
ウチ「いや、正直若い女ならとりあえず行っとけって感じやな」
シャーリー「それはまた……。まあロマーニャの男って感じがするけどなー」
ウチ「そうや。ロマーニャの男は頼り無くてヘニャヘニャしたやつばっかや。その癖かっこつけたがりで、本気にしたらこっちが馬鹿を見るんや」
シャーリー「うーん、リベリオンもかっこつけは多い気がするけど、やる時はやるって感じかな」
ウチ「ええことや。まあそんなわけで、ロマーニャの女は男に騙されんように泣かされんようにと強くなってったっちゅー話や」
シャーリー「あはは、面白いなー」
バルクホルン「ほう、そんなに面白い話なのか、シャーリー?」
おっと、カタブツ大尉のお出ましや。普段から緩みのまったくないような大尉やけど、今日はまた一段と表情が堅い。
ウチは怒らせた心当たり無いし、こら雲行きが悪なる前に逃げとこ。
シャーリー「おっ、ようバルクホルン。今な、ロマーニャの女が強くなった理由を……って、なんでそんな変な顔してんだ?」
バルクホルン「シャーリー、今日は私と
模擬戦をするはずだったんじゃなかったか?それとも、それを忘れるくらいその話は面白かったのか?」
シャーリー「い、いやあ、ハハハー……」
バルクホルン「 シ ャ ー ロ ッ ト ・ E ・ イ ェ ー ガ ー 大 尉 い い い ! ? 」
シャーリー「待て待て固有魔法は反則だー!」
二人の大尉の絶叫を後ろに聞きながら、ウチはそそくさとハンガーを後にした。
さて、デカ乳がバルクホルンに怒られてる間にルッキーニのお世話してこよーっと。
続く―――
ウチ「キャァァァァ!!フランシーってばむっちゃかわええやんかー!!どないしたんこのお洋服殺人的なかわいさやなー」
ルッキーニ「にへへー、いーでしょいーでしょ?昨日ねー、シャーリーと街で買ってきたの!」
ウチ「チッ、あんのシャーロット乳デケーガーめ」
ルッキーニ「うにゃ?」
ウチ「あー、ちゃうねんちゃうねん、何でもないねんてなー。ほな、次回予告しよなー」
ルッキーニ「りょっおかーい!次回、整備士、ウチ。第2話!」
ウチ「血濡れのスパナと血染めの巨乳」
ルッキーニ「ふきゃ!?」
ウチ「嘘や嘘。シチリアンジョークや。次回、『あの子の隣におった頃』。次も見たってやー」
ルッキーニ「ふじゅ……。ウッチーの目、出撃前みたいな目だった……」
最終更新:2013年03月30日 02:05