視界に広がるは、青空
空を駆ける魔女、千切れる雲
紅の光線、蒼の天空
神々しく光る魔力光、禍々しい呻き声を上げる怪異<ネウロイ>
時折舞い落ちる白銀の欠片、絶えず落ち続ける薬莢
……俺は今、戦場を翔けていた
視界の中には黒の怪異、そしてその周りをぴゅんぴゅんと小さな影が二つ
俺「……ふッ!」ガガガガガッ!
すれ違い様に機銃の引き金を引き、大型の怪異に銃弾を叩き込む
負けじとネウロイはその体表から紅の光線を撃ち出してくるが――――当然、シールドを出すまでもなく、ソレを難なく避ける
動体視力には自信があるのだ
俺「……」
10数機存在した小型機と、一機の中型は全て雪片と化し、残すは哀れな大型1機のみ
……その大型も、今の俺の掃射でようやく彼らの弱点たる『核』をむき出しにしてくれた
あとはあのクリスタルに――――銃弾をブチ込むだけッ!!!!
俺「ルチアナァァァァッ!!やれぇぇえええっ!!!!!!」
俺は、叫ぶ
自らの上空を舞う少女――――ルチアナ・マッツェイに向かって!
そして
ルチアナ「……!!」
可憐な少女にして赤ズボン隊の誇る魔女、ルチアナの返答は――――
ルチアナ「ボラーレ・ヴィーア……ッ!(飛んで行け!)」
ひとつの轟音となって、帰ってきた――――!!
………………。
俺「……ベネッ!(良し!)」
ガオン!……と、ルチアナの対戦車ライフルによる『返答』が、正確無比に黒き異形の怪異を撃ち抜く
数瞬後、大型ネウロイはガラスが割れたかの様な音と共に白片へと化した
今まで屠って来た、小型共と同じ様に……
ルチアナ「……ふぅ」
俺の横に降下し、一息付くルチアナ
戦闘終了、ミッションコンプリートだ
俺「ん?」
ちらと周りを見ると、二つの影がこちらへと近づいて来た
「お疲れ様、いい一撃だったわよ?ルチアナ」
「うんうん、ボクも思わず見とれちゃったよー♪」
飛んで来たのはルチアナと同じ赤ズボン隊の隊員、フェルナンディア・マルヴェッツィとマルチナ・クレスピ
この2人もルチアナの様に、輝く才能を持っている
パンタローニ・ロッシの名は伊達じゃないと言う訳だ
俺「二人もお疲れさん、あ、それとフェルも小型機相手の立ち回り、凄かったぜ」
俺「マルチナも、相変わらずお前のトリッキー過ぎる航空技術には脱帽するよ本当に」
フェル「当たり前よ!私を誰だと思っているの?」
俺「ロマーニャの誇る赤ズボン隊、パンタローニ・ロッシだろ?知ってるさそのぐらい」
フェル「そう!その通りよ!」
どんなもんですか!と胸を張るフェル
マルチナ「トリッキーな機動って言われてもなーボクのは自然に身についちゃっただけだし、大したことないよ!」
イヤイヤイヤイヤイヤ
あの変態機動、真似できる奴がいたら見てみたい
マルチナ「それよりさー今日の奴(やっこ)さんなんだったんだろ?」
今日の奴さん……?
俺「ひょっとして、あの中型のことか?」
マルチナ「うん、そーそー!」
ルチアナ「えっと……あの分裂したタイプですよね?」
ビッ!と手を上げるルチアナと疑問の顔を浮かべるマルチ……ええい!紛らわしい!
ここに来て三週間が経つが、未だに間違えてしまう
……ごほん
手を上げるマルチナと、疑問の顔を浮かべるルチアナ
ルチアナ「分裂タイプは何度か話には出てたんですけど……戦ったのは始めてでしたね」
フェル「まっ!この私達の敵ではなかったけどね!」
マルチナ「でもさ!ちょっとカッコ良かったよね!ガシャーンて分裂してびゅーんて突っ込んでくるの!問答無用でぶっ潰したけど!」
小さな体全体を使ってボディーランゲージを行うマルチナ、小動物と言う言葉がこれ程似合う少女などそうそういない
さらっとぶっ潰したとか言っているが……
……でもまぁ、敵ながらあの分離は痺れた。分離と合体は男のロマンだ、うん
ルチアナ「あ、あはは……」
苦笑いを浮かべるルチアナ
フェル「そうねー、ネウロイにしては随分とうぶなコトをしてくれて――――――じゃなくて、やぼなコト……は違うし……鯛なコトでもなくて……鯖な事……」
俺「味な事か?」
取り敢えず言いたそうにしていることを指摘する
フェル「し、知ってるわよそれぐらいッ!国語の先生なの!?アンタはッ!」
……逆ギレされた!
フェル「……ごほん!……ま、まぁいいわ……もーお腹減ったし、早く帰ってランチにしましょう?」
マルチナ「おーっ♪」
ルチアナ「はいっ!」
俺「ああ!」
さぁ、帰るか……
俺達の基地に!
異世界滞在三週間と
一日目、こうして今日もまた、怪異との戦闘は終了した……
………………
…………
……
ランチタイムの時間だ
マルチナ「もぐもぐもぐもぐ……」
フェル「…………」
ルチアナ「…………」カチャカチャ
舌鼓を打つ俺
子供の様に箸を進めるマルチナ
優雅に食後のティーを嗜んでいるフェル
上品な手つきで料理を口に運ぶルチアナ
そこにいる誰もが、食事を楽しんでいた
テーブルに並んでいるのはルチアナとフェルの両名が手をかけた、本場イタリア……いや、ロマーニャ料理だ
これがまた凄ぶる旨い!
娘に食べさせてやりたいぐらいだ!
俺「……」
そんな中……
フェル「ところで」
カチャリ、とティーカップ―随分と高価そうな―を置いたフェルが、何か話を切り出し始めた
フェル「菜食主義ってあるじゃない?」
俺「菜食主義?……ベジタリアンのことか?」
フェル「そう、それよ。……あれってチーズとかは食べてもいいワケ?」
俺「そりゃダメだろ、牛乳関係とか卵は牛、ニワトリが原料だからな」
俺「あんた達の好きなクリームとか使ってるケーキもきっとダメだろうな」
マルチナ「えええ~っ!!ケーキもダメなの!?」
ガタッと立ち上がり驚きの声を上げるマルチナ
いや、そんなに驚かなくても……
ルチアナ「でもその方が体の調子がよくなるんでしょうか?」
マルチナとは打って変わって、菜食主義の利点を考えるルチアナ
本当、二人は対照的と言うか、そう、まるで姉妹の様だ
……どちらが姉かは、言わなくてもわかるだろう?
俺「……俺は別に菜食って訳じゃないからそこらへんは知らないな。美味い料理が食えないのは嫌だし」
フェル「……じゃあ靴とかハンドバッグはどうなるのかしら?アレ革製よ?」
俺「そりゃ当然動物がカワイソーって言うんだからスニーカー履いてリュックとか背負ってんだろ」
マルチナ「うへぇー、そりゃケッコー気合入ってるねッ!オバチャンになってもバスケ選手みたいなカッコするんでしょ?」
フェル「ふふっ、きっとレストランとか入れてくれないでしょうね」
俺「……嫌な話だ」
そう言えば、肉食で知られるピラニアにも草食はいるらしい。何処かで聞いたことがある
………………。
「「「「ご馳走様でした!」」」」
食への感謝をする俺達四人
……ところでいただきますとご馳走様はイタリア語で何と言うのだろうか?
どうやら俺の耳に入り込む言語は、どう言う仕組みか全て日本語――――この世界で言えば扶桑語に変換されて聞こえてくるのだ
フェデリカは俺の固有魔法では無いかと聞かれたが、真偽の程は定かでは無い
魔力を使っている感覚も無いしな
……まぁ、あまり深く考えない様にしよう
ルチアナ「それじゃあ、食後のお茶の準備をしてきます」
ルチアナが席を立ち、何処かへと歩いてゆく
マルチナ「はーっ、お腹いっぱいーっ」
気持ち良さそうにお腹をさするマルチナ、確かにこの娘は気持ちいいぐらいによく食べていた
俺「あんなに元気良く食って……太っても知らないぞ?」
マルチナ「いーのいーの!その分体を動かしてるから!」
フェル「俺?いくらマルチナでもレディにそんなこと言うのは失礼よ?」
俺「それは、失礼」
まぁ、たっぷりと食べておいたほうがこのちんちくりんな少女―まるで少年のような―にはいいのかもしれない
………………。
俺「それであんた達は『三変人』なんて呼ばれてる訳か」
フェル「ええ、そうよ……全く、心外ったらありゃしないわ」
マルチナ「ま、ボクはあんまり気にしてないけどねっ」
フェル「それに最近じゃあ他の部隊から四変人なんて呼ばれてるわ……アンタが加わってね」
俺「はぁ?」
何故俺まで?
フェル「鏡でも見て来なさい、この親馬鹿」
俺「……」
それ程俺の親バカっぷりは噂になっているのか…………だが、しかし
俺「俺が親馬鹿?……ありがとう、最高の褒め言葉だ」
親馬鹿?溺愛?娘の話をさせるな?
それがどうした!
我が生きる証にして大天使、スイートどーたー娘を前にすれば、『こう』なってしまうのも自明の理だ!はっはっはっ!
「「……」」
あきれ返る二人
……いかん
やっぱり俺は娘の事となるとかなり『ハイ!』ってヤツになるな
ルチアナ「お待たせしましたー」
俺「ん?」
そんな雑談を三人で続けていると、ルチアナが帰ってきた
手に持ったトレイの上に何かを載せている
マルチナ「おっ、来た来たっ♪」
マルチナが喜び、ルチアナは丸テーブルの上にそれら――――要するにケーキと紅茶、それにコーヒーを置いてゆく
フェル「……あら?」
フェル「このケーキの数……」
テーブルの上に置かれている美味しそうなケーキ達を指差す
数は、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ
……五つ?
俺「……ひとつ多くないか?」
ルチアナ「あっ、それはですね」
マルチナ「僕が頼んだんだ、僕のぶんにもうひとつ多く作ってねってさ」
成る程
俺「食い意地が張っててよろしいことで……やっぱり甘いものは別腹って奴か?」
マルチナ「そそっ♪」
俺「……」
……でもまぁ、何となくだが
ケーキは5つで良かった。そんな気がする
フェル「ほらルチアナも突っ立ってないで、早く食べましょう?」
ルチアナ「は、はいっ!」
…………。
俺「ああ、そうだ、フェル、ルチアナ」
フェル「?」
ルチアナ「は、はいっ、何でしょう?」
俺「あー……もし良かったらの話なんだがな」
俺「俺に、イタリ……ロマーニャ料理を教えてくれないか?」
ルチアナ「え?あ、はいっ僕でよければ、いくらでも」
ケーキを食べ終え、ずずず、とコーヒーを飲みつつ、俺は二人にそんなことを訪ねた
フェル「別に私は構わないけど、急にどうし――――――ああ、娘さんね」
俺「その通りだ」
元の世界に帰るまでに彼女たちに教わり、娘に振舞ってやるのだ
料理スキルも多少は自信あるし、問題は無いだろう
マルチナ「本当に俺は娘さん思いなんだねー僕のパパみたい」
俺「む、ならお前の父親とはいい酒が飲めそうだ、はっはっはっ!」
笑い飛ばし、手に持つカップのコーヒーをすする……旨い
俺「……ふぅ」
ルチアナの淹れるロマーニャ・コーヒー……いわゆるエスプレッソはこの世界に来た俺にとっては格別の楽しみだ
コールタールの様に真っ黒で、これを砂糖と1:1の割合で入れて飲む
これをダブルで飲むと怪異共との戦いの疲れが全部吹っ飛んで、魔法の様に元気が体の芯から湧いてくる
信じられんぐらいに素晴らしい香りで、『まだまだ頑張れる』、『さらに先に進もう、もっと強くなろう』と言う気持ちになる
まさに高貴な魔女と母なる大地が生み出した恵みだ
俺「……旨い」
ルチアナ「あ、ありがとうございます!」
俺にもう少し語彙力があれば、この感動をうまく表現できたんだがな……残念だ
……いや、本当に――――美味い
俺「毎朝こんなに美味いコーヒーが飲めたら、どれほど素晴らしいか……」
ルチアナ「ま、毎朝!?」
マルチナ「わおっ」
フェル「……あら、大胆ね」
……ん?
俺「ああ……いや、―俺の勘違いだったら悪いが―そういう意味で言ったんじゃない。ただあんまりにも旨いもんだったから、な」
ルチアナ「……で、でもっ僕でよければ毎日お淹れしますよ?」
俺「ははは、お気遣いは有難いがそれじゃあお前に悪いよ。でもたまになら淹れてもらえるか?」
ルチアナ「はいっ!喜んで!」
こうして、麗らかなロマーニャのお昼時は過ぎてゆく――――
最終更新:2013年03月30日 23:09