――1942年 夏 北アフリカ――


稲垣「そういえば、近々扶桑からの増援が到着するらしいですよ」


 自分のテントで真美と話し込んでいると、思い出したようにそんなことを言ってきた。
 唐突な話に少しばかり驚いたが、興味深い話だったので詳しく聞いてみる。


加東「へぇー、本国からの増援ねぇ。ウィッチ隊でも派遣してくれるのかしら?」

稲垣「それがどうやら、新型爆撃機の砂漠環境下での運用試験、という噂です」


 あら、増援とは名ばかりの自国兵器の実地試験とはね。
 それもストライカーですらないのか。
 増援と聞いて喜んでしまった自分が間抜けだ。


加東「はぁ、それは増援とは言えないわね」


 『増援』の実情を知ってしまった私は、溜息を隠さずに落胆する。
 少しでもアフリカ戦線を楽にしてくれたら、とは思ったが、どうやらそれは期待できなさそうだ。


 ――まったく。……来るのが俺中佐だったら話は別なんだけど。


稲垣「俺中佐ですか?」


 えっ、と思って真美を見やる。やばっ、無意識のうちに口に出していたみたい。
 今更誤魔化すのも無理そうだし、大人しく質問に答えるしかないか。


加東「そうよ。俺中佐だったら一人でも十分に『増援』足り得るんだけどね」

稲垣「一人でも、ですか……」


 以前から中佐の武勇伝を何回か聞かせてきたが、一人でも、というところは信じられないらしい。
 真美はそのことに疑念の表情を隠そうともせず、確認するような調子で口を開いた。


稲垣「中佐って、ウィッチではないんですよね。
   それでいて、扶桑海事変ではネウロイを何機も撃墜したんですよね」


 扶桑海事変のことか。
 撃墜自体は中佐以外にも何人か達成したらしいが、5機以上、しかも被撃墜ゼロというのは彼のみだろう。

 それにしても、扶桑海事変のことならもう何度も話してあげたっていうのに……。
 しょうがない、それならお望み通り、また中佐の武勇伝を聞かせてあげるか。


加東「ええ。本人は謙遜してるけど、中佐は明らかに凄腕の操縦士よ」


 ある時は率先して自分が突っ込んでネウロイを撹乱し、ウィッチが攻撃しやすいように支援。
 またある時はネウロイを格闘戦に持ち込んで、結果撃墜にまで至ったり。

 このあたりは以前にも真美には聞かせたはず。
 他の面白そうなエピソードというと……


加東「そうね……。急降下しながらネウロイを引きつけて、地上スレスレで一気に急上昇。
   その機動についていけなかったネウロイを地上にぶつけたり。……なんてのもあったっけ」


 唖然とする真美。
 それもそうだろう、いくら技術が優れていても、一歩間違えれば自分が死ぬような曲技機動を平然と実戦で行っているんだもの。


 ――それを意識しちゃったのか、戦勝記念式典で曲技飛行を行って墜落した私なんだけどね。


 その後、意識を取り戻して入院している時に、中佐がわざわざ見舞いに来てくれたのが懐かしい。
 自分の隊の後始末だってあるだろうに、ありがたいことだ。
 その時にいろいろ……、いや、ちょっとばかしあったのだが、まぁこれは今は秘密ということでいいだろう。

 っと、どこまで話したっけ。
 中佐の曲技機動?あぁ、そうだった。


加東「アレには私も驚いたわねー。ま、私よりも舞鶴の子たちの方が驚いてたけど」


 当時の彼女たちはウィッチといえどまだ幼かったし、余程あの機動が衝撃的だったのかしばらく固まってたっけ。
 意味は違うだろうけど、『開いた口がふさがらない』って状態だったわね、まさしく。


加東「ともかく、中佐は本当に規格外なのよ」


 ネウロイ相手にシールド無しの空戦からしてどうなってるの、って言いたいわよ。
 ……ああ、そういえばスオムスでもシールドを使わずに軽々と空戦をやってのけるウィッチがいるって噂だけど、ほんとかしら。


加東「『当たらなければどうということはない』って言ってたけど、
   そもそもその『当たらない』ってのを実践できる人なんてアレ以外にいるのかしらね。
   いくら九七戦の旋回性能が高くても、アレは異常よ、異常」


 こんな芸当、世界を見渡してもアレ以外にいないんじゃないかしらね。
 途中から中佐を「アレ」呼ばわりにしていたりするのだが、真美はそんなことには気づかずに中佐の武勇伝に感心しっ放し。
 ここまで話して、中佐が一人でも増援だと言えるということに納得したのか、大きく二度頷くと、


稲垣「新型機の操縦士、中佐だと良いですね」


 何やら若干含みを持たせた笑みでそう言ってきた。
 私は別に気にするほどでもないその笑みをスルーして、適当に流しておく。


加東「ま、望み薄だけどねぇ。期待せずに待ってましょ……って、もうこんな時間か」


 思いのほか長い間話し込んでいたせいか、気がつけば真美と話し始めてから既に1時間も経っていた。
 それも大部分が俺中佐の武勇伝だった気がするが……、まあいい。
 それよりも、今日はまだ司令部に一度も行ってない。
 今日の出撃予定はないが、現状確認のためにも一度くらいは行っておいた方が良いだろう。


加東「ちょっと司令部に顔を出しに――」


 行ってくるわね、と続けようとしたその時、基地中にけたたましい警報が鳴り響く。


『ブロークンアロー受信!ブロークンアロー受信!
 ハルファヤ峠にネウロイが侵攻!各部隊はただちに――』


加東「っと、寄り道してる暇もないみたいね。真美、すぐに出撃するわよ!」

稲垣「はい、了解です!」


 束の間の平和は過ぎ去った。これからは地獄の戦場に向かって飛んでいかなければならない。
 真美と共に急いでストライカーのもとに向かう。

 出撃準備を整えている間に聞いた話だと、どうやらマルセイユは既に戦場へ向かっているらしい。
 形勢が不利であるバッハ少佐の隊へ急行中とのこと。
 彼女の素早い行動と判断に感謝。

 さて、自分も統合戦闘飛行隊の隊長として、一秒でも早く空に上がって指揮を取らなければ。





――同時刻 トブルク 格納庫――


俺「ここがアフリカか……」


 思った以上に暑いな、と呟きながら乗機から降りる。
 地上に降り立ったところで、扶桑からここまで護衛として付き添ってくれたウィッチがこちらに駆け寄ってくるのが見える。
 俺の傍まで来たところで、模範的な海軍式の敬礼。
 それに陸軍式で答礼し、ここまでの護衛に感謝の意を伝える。


俺「すまんな竹井、わざわざ扶桑からここまで付き合わせてしまって」

竹井「いえ、陸軍所属の俺中佐に無理を言って海軍の新型機の試験を任せたのですから、この程度のことは当然です」


 ――それに、せっかく中佐のお供をさせていただける絶好の機会ですし。


 等と小声で付け足していたが、護衛なんてそんなに良いものか?
 俺はそうは思わんが……、まぁいい。

 とにかく、竹井の話にもあったように、俺が今回アフリカまでやってきた目的は海軍の新型機の実地試験にある。

 扶桑海事変にて俺がネウロイを数機撃墜したことが発端かはわからないが、陸に比べてウィッチの出撃が限定されている海軍では、
 「通常兵器によるウィッチの支援の強化」を目標に掲げ、日夜新兵器を開発している。

 その一環として航空戦力の増強が挙げられるのだが、海上での対空戦闘支援として戦闘機が開発されている他、
 「機動能力を有する空母艦隊で以って、沿岸部を中心に臨機応変に各地上部隊の支援をする」という理由で、艦載爆撃機の開発も進めているらしい。

 そして新型機を開発していくわけだが、発動機や最高速度性能の試験は適当な操縦士で済むのに対し、戦闘機動等の急制動試験は操縦士の実力が伴っている方が良い。
 そこで、扶桑海事変で非ウィッチの中では随一の戦果を上げた俺に白羽の矢が立った。


竹井「それにしても、本当に大丈夫でしょうか……」

俺「この新型機のことか?まぁ、多少整備に難はあるが、今のところ問題は出ていない」


 空母天城に乗ってジブラルタルを経由しつつトリポリまで輸送してもらい、そこからベンガジ、トブルクと慣熟飛行も兼ねて飛んできた。
 トリポリにてカールスラント空軍から受領した防塵装置も正常に機能している。
 このままいけば、試験も成功裏に終わるだろう。

 だが、竹井が心配しているのはどうやら別のことらしい。


竹井「そうではなくて、試験地がアフリカだということです」


 ああ、そっちか。

 アフリカは「出現するネウロイが他の戦域よりも2倍から3倍程度強い」と言われているほどの激戦区。
 どうやら竹井は、「新型機の試験程度なら、わざわざ激戦区で行わなくとももっと他の試験地があるだろう」と言いたいらしい。


俺「仕方ないのさ。アフリカの戦力不足は以前から言われているが、どの戦線も援軍を出せるほどの余剰戦力はない。
  だが、現場の援軍要請をずっと無視し続けるわけにもいかない。
  『我が国はアフリカを見捨てない』という姿勢を見せるための、増援という名の実地試験というやつだ」

竹井「それでも、わざわざ中佐自ら試験操縦士を務めるなんて……」

俺「案ずるな、陸軍と海軍の航空機の違いにはもう慣れた。操縦に不安は無い。
  それに、今やこの機体を一番わかっているのは俺を置いて他にいない。性能を見るには俺が最も適任だろうよ」


 ――仮に俺が戦死したとしても、本国では英霊として祭り上げて俺の死後も宣伝材料にするつもりだろうが。
 そう続けようとしたが、根が優しい竹井にこんな暗いことをわざわざ話すのも気が引けた。


俺「さて、この話はこれで終わりだ」

竹井「で、でも……」


 なおも食い下がる竹井。
 まったく、貴様にそんな暗い顔は似合わんというのに。


俺「何、こいつの試験終了まで竹井も俺に付き合ってくれるのだろう?俺が危機に陥ったら貴様が助けてくれれば良い」

竹井「えっ……」


 面喰ったような表情の竹井。
 ああ、やはり貴様は暗い表情なんてものより、驚いたり笑っていたりする方が「らしい」な。


俺「頼りにしているぞ、竹井醇子中尉『殿』?」

竹井「あ、は、はいっ!お任せください!」


 うむ、すっかりいつもの調子を取り戻したようでなにより。

 さて、飛行後の休憩もこの程度で良いだろう。


俺「では、そろそろ司令部へ挨拶に――」


 瞬間、警報が鳴り響く。


『ブロークンアロー受信!ブロークンアロー受信!
 ハルファヤ峠にネウロイが侵攻!各部隊はただちに――』


 到着早々戦闘か。
 これは、ここは話に聞いた以上に激戦区のようだ。


竹井「中佐!」


 途端に真剣な顔つきになる竹井。
 流石に、十代半ばとはいえ、よくここまで軍人をやってきただけはある。
 昔とは随分と変わったな、などと少し感傷に浸ってしまったが、すぐに気を取り直す。


俺「どうやら、司令部に挨拶する暇はないらしい。竹井、我々も出撃するぞ」

竹井「はいっ!」

俺「貴様はストライカーにて出撃。
  ……今回、俺の後席は無人だ。周辺の警戒はよろしく頼んだぞ」

竹井「お任せください!」


 この新型機は艦上爆撃機として設計されており、本来であれば二人乗り。
 しかし、今回派遣されているのは俺と竹井の二人のみ。
 上は「現地で必要に応じて後席を乗せ、性能を評価せよ」と言っていたが、果たしてどうなることやら。
 適当な人員が見つからなかったら、竹井でも乗せてみるか?と考えつつも、今はそんなことよりも一刻も早く救援に向かうべきだとして思考を切り換える。
 竹井と別れ、既に出撃準備を終えて腹の中に500kg爆弾を抱えた新型爆撃機『彗星』に駆け寄る。


俺「……さて、よろしく頼むぞ」


 本国で散々飛んで海軍機の癖に慣れ、爆撃についてもよく修得できたとはいえ、爆撃機で実戦に参加するのはこれが初めてだ。
 アフリカのネウロイが精強だというのも気になるが、今回はとにかく竹井を信じて飛ぶしかない。
 覚悟を決めて空に上がると、そこには既に竹井が上空で待機していた。
 合流し、高度6000mまで上昇。進路を南東に取って司令部に通信を入れる。


俺「HQ、こちら扶桑皇国第1混成航空隊の俺中佐だ。
  これより、ハルファヤ峠へ急行する」

司令部「了解。どうやら大型陸戦ネウロイもいるらしい。その腹の中に抱えてるでっかいイチモツで吹き飛ばしてやってくれ!
    我々は君たちを歓迎する。着任後は盛大に歓迎会を開いてやるから、一度も顔を合わせないまま撃墜されるなよ!」

俺「了解した」


 どうやら、アフリカでは割と砕けた感じの雰囲気らしい。
 自由な気質のロマーニャ人もいる影響か?
 俺自身はそんな雰囲気にはあまり慣れていないが、兵の士気を考えればこういった方が良いのかもしれないな。
 それにしても、扶桑周辺では小型ばかりだったからか、大型と言われてもどの程度なのかが想像できん。


 ――まぁいい、それも含めての実地試験だ。その大型に効果があろうがなかろうが、俺のやることは変わらない。


 難しいことは考えず、気を取り直して竹井との通信を開く。


俺「竹井、聞いての通りだ。我々はこれよりハルファヤ峠へ急行、奴らが陸上部隊に気を取られている隙を突いて攻撃する。
  俺は爆撃後、ただちに空域を離脱する。貴様には爆撃までの護衛を頼む。
  以後は現地の指揮官に従い、戦闘を継続しろ」

竹井「了解!」


 右後方に竹井を従え、最高速度で戦場を目指す。
 戦場に到着するまでの間、アフリカについて思いを巡らせる。

 ――そういえば、今は加東もアフリカにいるんだったか。

 懐かしい顔を見れるかもな、と考えつつ、二機はハルファヤ峠へ向かって飛んでいく。





――ハルファヤ峠――



兵「ネウロイ多数接近!」

兵「援軍はまだ来ないのか!もうこれ以上持たないぞ!」


 前線からは悲痛な通信が間断なく入ってくる。
 戦闘開始からまだ1時間と経っていないのに、早くも部隊は壊滅寸前。

バッハ「ウィッチは!?」

通信兵「まだです!他戦域でも激しい攻防が続いている模様!」


 援軍は期待できず、部隊は全滅まで秒読み状態。
 このまま何も無ければ、我が部隊は10分と持たないだろう。


バッハ「……もはや、これまでか……!」


 最後のアハトアハトも射撃不能になり、もはや打つ手はないかに見えた。


副官「……ッ!先生!8時上空に友軍ウィッチ!」

バッハ「何!?」

副官「間違いありません!『アフリカの星』マルセイユ中尉です!」


 その言葉を受けて上空を確認してみたが、そこには確かに「黄の14」がいた。
 戦闘空域に到着したかと思えば、またたく間に3機、いや4機の小型ネウロイを屠る。


マルセイユ「こちらマルセイユ、これより制空任務に就く」


 そしてその直後には、ブリタニアの陸戦ウィッチ中隊も到着。


マイルズ「ブリタニア王国陸軍第4戦車旅団C中隊、マイルズ少佐以下12両!到着です!」


 両援軍の到着を受け、一気に湧きかえる兵士たち。
 この機を逃すわけにはいかない。


バッハ「心強い援軍が来てくれたぞ!……諸君、反撃開始だ!」

兵「「オオーーーッッ!!」」


 空はマルセイユ中尉が、陸は陸戦ウィッチ中隊がどんどんネウロイ共を押しこんでいく。
 それを支援するため、援護射撃を展開する兵士たち。
 このままいけるかと思ったその矢先――


兵「大型陸戦ネウロイ、接近ーーッッ!!」


 これまで屠ってきたネウロイよりも、二回りほど大きいネウロイが出現。


マイルズ「うわぁ……」

陸戦魔女「大物ですね……」

マイルズ「……攻撃開始!火力を集中させて!」


 小型を粗方掃討したマルセイユも上空から援護するが、
 大型ネウロイの装甲はほとんど攻撃を通さない。


陸戦魔女「マイルズ少佐、徹甲弾残量僅少!」

マイルズ「構うな、叩きこめ!」


 陸戦ウィッチも徹甲弾の残量を気にせずに撃ち込む。
 あと少しでコアが露出するかと思われたが――


マルセイユ「ッ!黄の14、全弾消耗!」

マイルズ「弾切れッ!?そんな!」


 ウィッチ隊、全弾消耗。
 兵たちも、ウィッチ達の弾切れを知ると同時に、絶望の表情を浮かべる。


 ――やられる……!


 全員がそう諦めかけた時、一つの通信が入った。


俺「――これより、大型ネウロイを爆撃する。
  周囲に展開する部隊は注意されたし」


 突然の通信に困惑する彼らだが、空を見上げると、
 そこには太陽を背に急降下してくる一つの機影があった。






――数分前 ハルファヤ峠上空西数マイル――


俺「竹井、状況報告」


 戦闘空域に近づくにつれ、ネウロイのビームが陣地を吹き飛ばす光景と、
 それに対して応戦している味方がはっきりと見えるようになってきた。


竹井「はい。どうやら、上空の小型ネウロイ、
   及び中型の陸戦型ネウロイは全て撃破されたようです。
   残りは大型が一体のみです」


 それを聞いて戦場をもう一度見やる。
 なるほど、確かに残りの一体を取り囲むように部隊が展開している。


俺「彼らが撃破できればそれに越したことはないが、念のため俺たちも攻撃位置につく。
  ……太陽を背に急降下爆撃を試みる。俺の後ろにつけ」


 そう言うと、太陽を背にするために戦場への突入進路を調整する。


 ――今は、14時頃といったところか。西から侵入すれば、最高の攻撃位置だな。


 後ろに竹井が付いてきていることを確認し、ネウロイの上空西側に到着。
 そして現地部隊の通信を傍受。
 ……どうやら、ウィッチは全員弾切れらしい。


俺「竹井、俺が爆撃で奴の装甲を剥がす。コアは任せた」

竹井「了解です」


 では予定通り、奴を爆撃してやるとしよう。
 散っていった仲間の分まで、奴にはお礼をしてやらねばな。


俺「それにしても、大型ネウロイか……」


 話に聞いた限りでは、どうも扶桑周辺の奴らとは大きさが違いすぎるらしい。
 急降下爆撃の訓練は一応修了したとはいえ、初の実戦がこれとは。


俺「竹井、奴との距離感が掴めん。高度をカウントしてくれ。
  ――投弾高度は500mだ」

竹井「わかりました。3000mからカウントします」

俺「それで頼む」


 ……さて、行くとしようか。

 機首を下げ、ネウロイに対して60°の角度で急降下を開始すると同時に、
 ダイブブレーキを作動させ、周辺の部隊に対して通信を入れる。


俺「――これより、大型ネウロイを爆撃する。
  周囲に展開する部隊は注意されたし」


 上空6000mから見れば、大型ネウロイといえども粒にしか見えない。
 「大型」の実感がないまま、高度を落としていく。


竹井「カウント、開始します」


 高度3000mを切ったところから竹井の通信が入る。
 3000mの時点で、ようやく実感する。


俺「……大きいな、これがアフリカのネウロイか」

竹井「3000――2500――2000――1500――」

 ――なに、やっと1500m……?

俺「……奴め、大型にも程があるぞ」


 想像以上に視界を埋め尽くしていくネウロイの姿。
 もう500mを切っているのでは、と一瞬考えるが、今は竹井を信じるのみ。
 ただただひたすら、一心不乱に照準を合わせる。


竹井「――1000――投弾、今!」


 その声と同時に500kg爆弾を投下。
 途端に、機体が一気に軽くなる。

 しかし、一気に機首を引き起こすことはしない。
 緩やかに機首を引き起こす。
 地面が迫ってきても、焦らずに舐めるような機動を取る。

 そして地上近くで水平飛行に移ったところで、後ろで盛大な爆発音。
 硬いモノが砕かれたかのような音、ということは命中か。


俺「……ッ!竹井ィッ!」

竹井「はあぁぁぁっっっ!!」


 竹井の銃撃。

 そして、コアの破壊に成功したのか、
 大型ネウロイはガラスが砕けるかのようにしてその姿を失っていった。

 それを確認した俺は、高度を少しずつ上げ、戦果の確認を行う。

 ――大型の他には残存ネウロイは無し。

 全敵戦力の撃破を認め、司令部に通信を繋げる。


俺「……HQ、こちら俺中佐。全ネウロイの撃破確認、これより基地に帰還する」

司令部「よくやってくれた!お前らは間違いなく我々の救世主だよ!
    基地に帰還したら盛大に歓迎会を開いてやるから、必ず来い!」

俺「そうだな、帰還したら是非とも出席させてもらおう」


 通信を切り、戦果を確認するようにして緩やかに周回飛行に移行。
 ネウロイに止めを刺した竹井も、緩々と二番機の位置に戻る。


竹井「中佐、お見事でした」

俺「何、貴様の補助のおかげだ。……竹井、よくやった」


 はい、と満面の笑顔で答える竹井を一瞥し、機首をトブルクに向ける。
 地上ではネウロイの撃退に成功したことで、歓喜の渦ができあがっていた。
 そして、ウィッチたちもその渦に巻き込まれていく。


俺「ん、航空歩兵が一人いたと思ったが……既に帰還したのか?」


 気がつけば、小型を一人で屠っていたウィッチの姿はもう見えない。
 噂のアフリカの星について少し聞きたいことがあったが……まぁいい。


俺「さて。……竹井、帰還するぞ」

竹井「はい!」


 慌ただしかったが、今回の到着早々の初戦闘はこれにて終了。
 それにしても、こいつの初陣を華々しく飾ることができるとは、少々出来過ぎか?
 共同撃破と言えど、アフリカの大型を初見で撃破するなんてな。

 ……まぁ、そんなことはどうでもいいか。今この命がある、それだけで十分だ。


 ――帰還したら、加東のことでも聞いてみるか。


 まだアフリカにいるらしい元教え子(のようなもの)のことを考えつつ、二機は基地へ向かって飛んでいく。





――トブルク――


 無事、何事もなく基地まで帰還し、基地の兵士たちに盛大に歓迎してもらった後、
 俺は竹井と共に歓迎会を抜け出して司令部まで足を運んでいた。

 アフリカには指揮官が何人かいるとの話だったが、生憎と今はそれらしき姿は一人しか見えない。
 カールスラント陸軍の将校……ロンメル中将か。


俺「扶桑皇国第1混成航空隊、隊長の俺陸軍中佐です。
  しばらくの間、遊撃部隊としてアフリカ戦線に参加させていただきます」

竹井「竹井海軍中尉です」

ロンメル「ふむ、君たちが噂の『増援』かね。
     歓迎しよう、私がカールスラント陸軍、ロンメル中将だ」

俺「はっ、……増援とは名ばかりの実地試験部隊、と言った方がよろしいかもしれませんが」


 たかだか二名の戦力を増援とは呼べまい。
 その点に関しては申し訳ない気持ちはあったが、将軍はそうとは思っていないようだった。


ロンメル「そんなことはないだろう。『扶桑の荒鷲』と『リバウの貴婦人』。
     二人だけとはいえど、これほど心強い援軍はあるまい」

俺「恐縮です。……しかし、竹井中尉はともかく、自分は今では爆撃機のテストパイロットですが」

ロンメル「爆撃機であろうが、君が極めて優秀なパイロットであることには変わりは無い。
     ……先ほどの戦闘でもそれをよく証明している」

俺「いえ、あれは地上部隊が注意を引きつけてくれたおかげです」


 ハルファヤ峠での戦闘の詳細を聞いたのか、将軍は本気でそう思っているらしい。
 ……隣で竹井が誇らしげに頷いているが、とりあえず置いておく。


ロンメル「ところで、先ほどしばらくの間と言っていたが、出向期間は決まっているのかね?」

俺「機体の性能データが十分に取れるまで、としか自分には伝えられておりません。
  ここでの戦闘経過にもよりますが、それほど長期間ではないかと」


 初戦でいきなり最上級の戦果をあげてしまうという予想外のこともあり、
 もしかするとすぐにでも本国から帰還命令が出るかもしれない。

 まぁ、まだ後席関連の試験もあるため、今しばらくはここにいることになるだろうが。


ロンメル「ふむ、それは残念だね。君たちがいればそれだけ戦況は有利になると思うのだが」

俺「申し訳ありません」

ロンメル「何、君が謝る必要はないよ。
     ……さて、君たちも到着早々の戦闘で疲れたろう、次の出撃まで休むと良い」

俺「はっ。それでは失礼します」


 そうして竹井と共に司令部から退出し、自分たちに割り振られた天幕に向かう。
 だが……


俺「……これは、どういうことだ……」


 向かった先には、天幕は一つしかなかった。
 適当に捕まえた兵に聞いてみると、どうやら増援の二名が男女だということが知らされていなかったらしい。
 そのため、用意された天幕は一つのみ。


俺「竹井、俺は――」

竹井「私なら構いません!」


 軍人とはいえ、男女七歳にして席を同じゅうせずとも言うし、ここは竹井に譲ろうとしたが、
 竹井は遮るようにして言い放った。
 何が構わないのかと竹井を見ると、若干頬を赤らめせて更に言い募ってきた。


竹井「中佐と同じ天幕でも、私は構いま――」

「そこまでよ!」


 と、ここで横槍が。
 誰かと思い、声がした方を見やると、そこには懐かしの顔があった。
 陸軍の航空歩兵の証とも言える巫女装束に砂漠用のマフラー、茶色っぽい猫っ毛、
 そしてゴーグルを額にかけてこちらに歩み寄ってくるのは、間違いなく俺の旧知の戦友、加東圭子。


俺「おお、加東か!……久しいな、一年ぶりといったところか」

加東「お久しぶりです俺中佐。まさか、中佐が今回の増援だとは思いませんでした」

俺「増援と言えるほど大層なものではないがな」


 アフリカに加東がいるということで、後で訪ねようと思っていたが、思いがけなく向こうからの訪問。
 再会を喜び、お互い軽く握手をする。
 ……何やら竹井が加東を恨みがましく睨んでいるが、とりあえず無視。


俺「それにしても、貴様、今では統合戦闘飛行隊の隊長をやっているんだったか?
  元々は指導教官として派遣されたものだと記憶しているが」

加東「成り行きで隊を結成することになり、その際に隊長を任されてしまいまして……。
   中佐は、新型機の試験ですか?」

俺「そうだ。実地試験として、援軍が叫ばれているアフリカに、な。
  あまり長くはいないだろうが、しばらくはこちらに厄介になるぞ」


 等とお互いの近況を軽く話し合う。
 だが、唐突に竹井が俺と加東の間に割り込んでくる。


竹井「加東大尉、お話し中申し訳ありませんが、中佐は長旅と戦闘でお疲れです。
   なので、このあたりでお引き取り願いたいのですが」

加東「あら、それなら男女一緒よりも、二人別々の方が気も休まるわよね?
   ウチの方に空いてる天幕があったと思うから、中佐は是非ともこちらに――」

竹井「それには及びません。ここは中佐にとって慣れない環境ですし、
   誰ともわからない人の近くにいるよりも、扶桑から付き従っている私と一緒の方が――」

加東「それを言うなら、同じ陸軍の私と一緒の方が良いと思うけど?
   私と中佐はそれこそ長年の付き合いだし――」

竹井「いえいえ、これからは陸海協同の時代です。そのためにも、できるだけ私と……じゃなくて、
   陸海の垣根を越えて共に過ごすことが大事かと――」


 このあたりで加東の視線が鋭くなる。
 竹井は微笑んだまま。……だが、目は笑っていない。


加東「……アンタ、しばらく見ないうちに随分とイイ性格になったわね」

竹井「久しぶりの再会に託けて、自分のところへ引き込もうとする大尉殿ほどではありませんよ」


 ……なんだか、途端に雲行きが怪しくなってきたな。
 理由はわからんが、とにかく喧嘩に発展させるのはよろしくない。
 要は俺が今夜どこで寝るか、だ。


俺「二人ともそこまで」


 睨みあっている二人を半ば強引に引き離す。
 まったく、同じ国の軍人が初日からこんなに険悪な雰囲気では、先が思いやられるな。


俺「この天幕は竹井が使え。今夜は俺は彗星の操縦席で寝る」

竹井「ちゅ、中佐!」

俺「加東、明日あたりにでも天幕を調達してもらえると助かる」

加東「わかりました」


 この二言で、竹井は落ち込み、加東は満足そうな表情になる。


俺「とにかく、これで決定とする」


 そうして解散。
 竹井は残念そうな表情を見せつつも、諦めたようにして天幕へ。
 加東は笑顔で「また明日」と言い残して、自分の隊の方へ。

 ……ところで、竹井は何故落ち込んでいるのだ?
 上官を劣悪な環境に置かせまいとするその気持ちは嬉しいが、
 寝床は別々の方がお互いにとって良いと思うのだが……。


俺(ふむ。……よくわからん)


 こうして、俺は眠りにつくのであった。
最終更新:2013年03月30日 23:18