キ84 第四話「かたい、はやい、ものすご~い」前編
~ロマーニャ、501JFW基地ハンガー内部~
ハンガー内にローリング・ロイズ社製マーリンV66をリベリオンでライセンス生産したV-1650-7エンジンが液冷特有の低い重厚な回転音を響かせる。
整備エリア中央に位置するストライカーユニット用クレイドルで、
シャーリーが愛機ノースリベリオンP-51Dマスタングのエンジンを回しているところだ。
シャーリー「よーしよし、今日も絶好調だなぁ、私のマーリンエンジンは!」
ゲルト「シャーロット・イェーガー大尉!」
シャーリー「んぁ?」
ゲルト「そんな格好で何をやっている!」
シャーリー「何って・・・エンジンテストだけど?」
ゲルト「そうじゃない!
今は戦闘待機中だぞ、ネウロイが来たらどうするつもりだ!」
シャーリー「だってぇ、ハンガーの中でエンジン回すとあっついじゃん。
ほら、アッチでも」
ルッキーニ「うじぇ~あちぃ~」
ゲルト「全く、お前たちはいつもいつも・・・」
シャーリー「へぇ~、カールスラント人は規則に厳しいってかぁ?
どうなんだ、ハルトマン?」
エーリカ「あつぅ~」
ふらりとどこからとも無く現れたエーリカも私服姿であった。
ゲルト「~ッ!ハ、ハルトマン!お前まで!
つぅ~、それでもカールスラント軍人か!」
エーリカ「え、そうだけど・・・」
シャーリー「あっはははははは!」
ゲルト「くぅー!!」
俺「まぁまぁ勘弁して下さいよ、大尉。
実際こんな中でエンジンテストやってたら熱中症で倒れちゃいますよ」
ゲルト「俺中尉、いたのか」
俺「いましたよ、ヒドイですね」
シャーリー「そっちの調子はどうだ、俺?」
俺「んー・・・まずまず、ってとこでしょうか。
この暑さで吸気温度が上がってやや出力が落ちてますね」
シャーリー「そっか、俺のエンジンは空冷だったなー
吸気温度の影響が大きいのか」
そんな話をしていると、ミーナと坂本がハンガーに入ってきた。
二人ともハンガーの隅に搬入されていた見慣れないストライカーの前で足をとめる。
坂本「ほぉー、これがカールスラントの最新型か」
ミーナ「正確には試作機ね。
Me262V1、ジェットストライカーよ」
エーリカ「ジェットぉ?」
ミーナ「ハルトマン中尉?」
坂本「どうしたんだ、その格好は?」
ゲルト「こら!ハルトマン、服を着ろ、服を!
・・・・?なんだこれは?」
エーリカ「ジェットストライカーだって」
ゲルト「ジェット?研究中だったあれか?」
ミーナ「今朝、ノイエカールスラントから届いたの。
エンジン出力はレシプロストライカーの数倍。
最高速度は時速950km/h以上、とあるわ」
シャーリー「950!スゴイじゃないか!」
ミーナ「レシプロストライカーに取って代わる新世代の技術ね」
坂本「シャーリー、お前もなんて格好だ」
ゲルト「・・・ん?これは?」
バルクホルンが目を止めたのは同時に搬入されていた巨大な火砲。
ミーナ「ジェットストライカー専用に開発された武装よ。
50mmカノン砲一門、他に30mm機関砲四門・・・」
ゲルト「凄い!」
坂本「そんなに持って本当に飛べるのか?」
俺「・・・中佐、こっちは?」
同じく搬入されていた謎の機械を指して聞いた。
数基のタンクに幾本かのチューブが付いている。
ミーナ「そちらは俺さん用の新装備ね、GM-2パワーブースター。
カールスラントで航空機型Bf109E用に開発されたGM-1を汎用化したものよ。
液状化した亜酸化窒素を過給器の吸気に噴射することにより、吸気温度を強制的に下げて特に高高度での出力を強化できるそうよ。
最大で250馬力を越える効果を望めるそうね」
俺「250馬力ですか。それは凄いですね・・・」
250馬力違えば空力にも依るが空戦で有効な速度増加が見込める。
その時、それまでジェットストライカーに見惚れていたシャーリーが立ち上がった。
シャーリー「なぁなぁ、これ私に履かせてくれよ!」
ゲルト「いいや、私が履こう!」
シャーリー「なんだよ、おまえんじゃないだろ」
ゲルト「何を言っている!
カールスラント製の機体は私が履くべきだ!」
シャーリー「国なんか関係ないだろ。
950km/hだぞ、超音速の世界を知ってる私が履くべきだ」
ゲルト「お前の頭の中はスピードのことしか無いのか!」
ミーナ「また始まったわ・・・」
坂本「しょうがない奴らだ」
俺「なんかあのお二人っていつもあんな感じなんですね・・・」
ルッキーニ「いっちばーん!!」
ヒューン、スポッ!
それまでハンガーの梁で寝ていたルッキーニが見事なダイブを決めてジェットストライカーにすっぽり収まった。
シャーリー「あ!」
ゲルト「おい!」
シャーリー「ずるいぞ、ルッキーニ!」
ルッキーニ「にへー!早い者勝ちだもーん!」
コォォォォォォォォ
圧縮エーテル水で駆動されたハインツェルHes011Aエンジンが大量の酸素を吸気し、推進用護符という形で魔力を発現させる。
ルッキーニ「ひにゃぁー!」
楽しそうに嬌声を上げたルッキーニ。
だが直後に一転した。
バリバリバリ!
ルッキーニ「んにゃ?」
急に稲妻のような青い閃光が走り、ルッキーニの使い魔のしっぽが逆立つ。
ルッキーニ「うじゅぁー!うじゃじゃじゃじゃじゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!」
突然猫のような、というか猫そのものの悲鳴を上げて飛び上がるルッキーニ。
勢いそのままにハンガーの隅まで駆けていってしまった。
シャーリー「ルッキーニ!」
ゲルト「ん?」
シャーリー「ルッキーニ・・・どうしたんだよ?」
ルッキーニ「なんかビビビってきたぁ~!」
シャーリー「ビビビ?」
ルッキーニ「アレ嫌い・・・
シャーリー・・・履かないで・・・」
シャーリー「ん・・・
やっぱ私はパスするよ!」
ゲルト「何?」
シャーリー「考えてみたらまだレシプロでやり残したことがあるしなぁ。
ジェットを履くのはそれからでも遅くはないさ」
ゲルト「ふ、怖気付いたな!
まぁ見ていろ、私が履く!」
言うが早いがMe262を装着するバルクホルン。
先ほどと同じようにエンジンが始動し始めたが、今度は安定したアイドリングだ。
ゲルト「凄い・・・!」
ルッキーニ「うぇ~・・・」
ゲルト「どうだ、今までのレシプロストライカーでこいつに勝てると思うか?」
シャーリー「何だと?!」
シャーリーに突っかかるバルクホルン。
そんな中、ハンガーに呑気な声が響いた。
宮藤「みなさーん、こんな所にいたんですかー」
リーネ「朝御飯の支度ができましたよー」
宮藤「あれ?」
俺「宮藤軍曹にビショップ曹長、おはようございます」
宮藤「どうしたんですか、シャーリーさんとバルクホルンさん」
俺「新しく届いたジェットストライカーをどっちが履くかで一悶着あって・・・」
シャーリー「いい年してはしゃぐなよ。
新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいだぞ」
ゲルト「負け惜しみか、みっともないぞ」
シャーリー「気が変わっただけだ、私はこれでいいんだよ」
ゲルト「勝手気ままなリベリアンめ!」
シャーリー「なんだと!この堅物軍人バカ!」
宮藤「もぉー、またやってる・・・」
ゲルト「そこまで言うんだったらそのP-51でこのMe262に勝てるんだろうな?」
シャーリー「勝つとか負けるとかそういう問題じゃないんだよ!」
ゲルト「やっぱり怖気付いたか!」
シャーリー「あのなぁ・・・
いいよ、そっちがその気ならあたしのP-51の性能を見せてやるよ!」
宮藤「もうっ、誰か止めてくださいよ・・・」
俺「・・・バルクホルン大尉、イェーガー大尉、それ自分も混ぜてもらえますか?」
シャーリー「え、、ああ、別に構わないよな、バルクホルン?」
バルクホルン「いいだろう。しかし何故だ?」
俺「自分も新装備のGM-2を受領したんです。性能は把握しておきたいと思いましてね。
今から装着しちゃいますから宮藤軍曹達が用意してくれた朝御飯でも食べて待っててくださいよ」
ゲルト「ん・・・分かった、そうしよう」
◇ ◇ ◇
~数時間後~
整備班と協力してGM-2をエンジンに組み込む作業が終了した。
俺「さて、と・・・準備が出来ました」
ゲルト「随分と掛かったな」
俺「これでも急いでやったんですよ」
ゲルト「まぁいい。最初は上昇力勝負だ。
それでいいな?」
シャーリー「オッケー!」
俺「分かりました、健闘を」
ゲルト「あ、ああ・・・」
そう言うと俺は疾風の操縦席に乗り込んだ。
ハーネスを締め各種操舵の動作を確認する。
次に計器類の動作チェック、―――良し。
燃料混合比を「通常」にセット。
機内から手動ポンプでガシガシとエンジンに燃料を送り込む。
俺「回せー!」
整備員達がプロペラを回してエンジンを始動させ、四式戦が目覚める。
シャーリー「先に行ってるぞ、俺!
高度3000で待ってるからな」
シャーリーがバルクホルンと連なって滑走路に向かいながら俺に声を掛けた。
俺「高度3000、了解!」
計器類を再度チェック。
アイドリングは安定、過給器、油圧、プロペラ、全て良し。
俺「出るぞ!前払え!」
整備兵達が退避したのを確認して、滑走路へと動き出した。
カウルフラップ及びオイルクーラーシャッターを全開に。
無線機のチェック、酸素供給も確認。
滑走路端で管制塔とコンタクト、離陸許可を貰う。
いよいよ離陸に入る。
プロペラピッチを2900rpmへ、フラップを15度にダウン。
いよいよスロットルを開ける、滑らかに400mmまでオープン。
バ バ バ バ バ バ バ バババババババ
徐々に機首のハ45が回転数を上げる。
機体が滑り出し、体が操縦席の背もたれに押し付けられる。
体にかかる僅かなGが心地良く、エンジンの鼓動が伝わってくる。
エンジントルクを相殺するために、右足のラダーペダルを踏み込む。
速度計をチェック、150km/hを超えた。
ゆっくりと右手に力を入れ、操縦桿を引き寄せる。
ふわっ、と機体が浮き上がりそれまで感じていた不快な地面の振動が消える。
すぐには機首を上げずに速度が250km/hになるまで待つ。
速度計の針が250を指し、俺は操縦桿を引いた。
同時に左手でスロットルを撫でる。
クンッ
素早く疾風が反応して上昇を始める。
上を見やれば既に二人のウィッチが地上の束縛から解き放たれ、蒼空に輪を描いてる。
早く自分もあそこに加わりたい―――そう思っても機体はすぐには飛び上がれない。
徐々に増速しているのを確認して、離陸時の勢いのままに空転を続ける車輪にブレーキを掛けた。
計器盤のスイッチを上げて接地脚を引き上げる。
これでようやく機体は自由になった。
俺「行くぞ、疾風」
フラップアップ。
愛機に声を掛けスロットルをハーフオープンまで押しこむ。
ゴォォ―――
吸気音が大きくなり、ハ45が機体を引っ張り上げる。
眼下のアドリア海が次第に遠のき、空に近づく。
1500、1800、2100―――3000。
高度計が所定の高度を指した。
俺《こちら士魂一番、所定高度に到達》
シャーリー《随分掛かったじゃないか》
俺《そりゃストライカーユニットみたいには行きませんからね》
ゲルト《いいだろう、それでは始めるぞ。
3つのカウントで同時に上昇開始、より高くまで登った方が勝ちだ》
俺《了解》
シャーリー《よーし、それじゃ・・・》
水平飛行に移った俺の横にシャーリーとバルクホルンが並ぶ。
ゴァァァァァァ
ブァァァァァァ
ヒュゥゥゥゥゥ
水冷、空冷、ジェットが咬み合わない三重奏を奏でる。
シャーリー《3、2、1、Go!》
ギュゥゥゥゥゥン
Me262が一気に上昇を始める。
対してP-51と四式戦は少しずつスロットルを開けて徐々に昇ってゆく。
エンジンが気持よく回り、主翼が風を裂く。
重力の地縛から逃れる。
―――高度5,000m、問題なし。
ゲルト《付いてこられるか!》
シャーリー《まだまだ余裕余裕!》
―――高度7,000m、異常なし。
シャーリー《私のマーリンに付いてくるなんて、やっぱり2,200馬力は伊達じゃないな!》
俺《こんなの序の口ですよ!》
―――高度10,000m
この高度まで上がってくると相当酸素が薄い。
内燃機関であるエンジンは酸素が不足すると十分な爆発力を得られず、出力を発揮できない。
シャーリー《くっ・・・そろそろキツイな・・・》
ゲルト《ふふん、私はまだ行けるぞ!》
疾風のハ45の三段過給器がフル回転して喘ぐエンジンに酸素を送り込む。
強制的に酸素を供給することで、高高度でも性能を確保できるのが多段過給器の利点だ。
―――高度11,000m
バン、ブスンブスン!
限界高度が近い。
シャーリーのV-1650-7も俺のハ45-42も咳き込み始める。
―――高度12,000m
ブスブスブス、ブスン!
酸素不足で不完全燃焼を起こし始めたレシプロ組が黒煙を吐き始めた。
十分な爆発力を得られなくなったエンジンは、その上昇を停止した。
シャーリー《・・・この辺が限界か》
サーニャ《俺さん、シャーリーさん、12,000mで上昇が止まりました》
俺《いいや、まだだ》
無線機のマイクにそう呟くと、俺は新しくダッシュボードに取り付けたダイアルを回す。
チキチキチキ
白い針を『100g/sec』の表示に合わせる。
俺「さぁ、お手並み拝見だ」
俺はスロットルレバーに増設された赤いトリガーを引いた。
グワッ
それまで息も絶え絶えだったエンジンに活力が戻る。
-90℃で液状化された亜酸化窒素が過給器手前のインテークマニホールドに噴霧され、吸気の温度を劇的に下げる。
それに伴い空気の体積が収縮、より大量の酸素を獲得した混合吸気はさらなる爆発力を気筒内にもたらした。
数字にして約250馬力もの増加になる。
再び体が操縦席に沈む。
俺「おおっ!」
それまでシャーリーと平行線だった機首がグイと自らを持ち上げる。
サーニャ《・・・!
俺さん、再び上昇を開始しました》
俺「凄いぞ・・・こいつ!」
ゴォォォォ―――
再び上昇を始めた疾風。
シャーリー「うおっ、すっげぇー」
先を行くバルクホルンに食いつく。
ゲルト「なっ・・・」
俺「昇れ!昇れ!」
だが、それもそう長くは続かなかった。
ブスン、ブスブスブス―――
またエンジンが咳き込み始めた。
俺「っ・・・」
サーニャ《俺さん、高度13,500mでまた上昇が止まりました。
バルクホルンさんはまだ昇ってます、すごい・・・》
エイラ「ホェ~」
◇ ◇ ◇
~数十分後、ハンガー~
午前のテストを終えた三人ももどってきて、昼食にしている。
シャーリー「―――っと」
ゲルト「あっ!くぅー・・・」
シャーリー「あっはっはぁ、勝った勝ったぁ~」
芋の取り合いに精を出す大尉達。
ゲルト「ふんっ、負けた腹いせか?みっともないぞ、大尉」
シャーリー「あー、うめー!」
ルッキーニ「シャーリー、次は頑張ってね!」
シャーリー「おう、任せとけってぇ」
俺「モグモグ・・・
しかしジェットストライカーってのは凄いもんですねぇ・・・」
ゲルト「ああ、あれの可能性は計り知れない。
これからの戦場の在り方を一変させるかもしれない」
俺「戦場の在り方、ですか・・・」
シャーリー「それよりあたしは俺のフランクにビックリだよ!
ただガスを吹くだけであそこまで変わるもんなんだなぁ」
俺「それについては自分も驚きました。
確かに理論的には分かるんですけど、実際の効果は眼を見張るものがありますね」
シャーリー「なぁなぁ、あれって普通のエンジンにも付けられるんだよな?」
俺「・・・?
ええ、内燃機関なら大丈夫だと思いますけど?」
シャーリー「ふふーん・・・な、る、ほ、ど・・・」
ニヤリと不穏な笑を浮かべるシャーリー。
俺「あの、大尉、何を考えて―――」
シャーリー「いやー別に~。
今度トラックに付けてみようとかそんなこと全然考えてないぞー(棒」
俺「ト、トラック・・・ですか・・・」
突拍子も無い考えに半ば呆れ返って、俺は目の前の芋に集中することにした。
俺(あのGM-2ブースターの効果は大きい。
上手く使えば巴戦で相当なアドバンテージを生み出せる。
だがMe262―――ジェットストライカー・・・あれはとんでもない代物だ。
あんなものが実用されれば俺達パイロットは・・・
いや、戦況が良くなるのは素直に喜ぶべきなんだろうが・・・)
なんとも複雑な気分になって、口に運ぶ芋の速度も落ちる。
ふと気がついたら、既に目の前のボウルは空になっていた。
俺(待て待て、俺まだ一つしか食ってねぇぞ。
皆食うの早すぎないか・・・)
最終更新:2013年01月28日 12:55